アーティファクトって何?   作:小人3

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不快感防止の為、本編の前にあらすじの注意事項をお読み頂く事を推奨いたします。
内容を簡潔に要約すると①主人公の口が汚い②原作のネタバレ有となります。


4月17日(日曜日)
目と目が合ったらインストール


 どこまでも、どこまでも続く茶色の大地、そこに一人の少女が佇んでいる。そこにはたくさんの樹がまだらに生えていた。

 

 さながら森の様だが、森ではない。森と呼ぶには樹の数が少な過ぎる。適度な間隔で離れて生える樹々を見て、少女は庭園の様だと感じていた。

 

 しかしその庭園という少女の感想は、正確とは言えなかった。ただ単に、少女から見える樹が、()()()()()だからだ。一定の距離以上は、不自然に霧がかかっている様に見えていた。

 

 少女はその不思議な光景を、『オープンワールド・ゲームの境界壁みたい』だと思った。つまり、世界の端にある壁だと感じたのである。

 

 少女はその壁に興味持ったのか、世界の端へ向かって歩き始めた。程なくして少女は世界の壁に到達する。少女の視界は真っ白で何も見えない。

 

 少女は霧を壁と認識したが、実際には壁ではない。

 

 故に少女が、このまま進む事を遮る物は、何も無かった。だが、少女は立ち止まっていた。

 何故なら、もし進めば迷子になって二度と帰って来られないという、()()()()()()()を覚えていたからだ。

 

 少女は茫然と眼の前の真っ白な空間を、眺め続けた。

 

(何か見えないかな……)

 

 霧の先へ目を凝らす。少女はなぜかこの霧の先に何かあると直感していた。

 地球に生きる人々は、自分が立っている大地に果てがない事を自分の目で確認しなくても、直感的に理解している。

 

 少女も同じだった。何も見えない霧の向こうにも、世界がどこまでも続いていると、直感的に理解していたのだ。

 

 眺め始めて、どれだけの時間が経過したのか分からないが、かなり長い時間が経過した時だった。

 薄っすらと霧の先の光景が少女に見えてきた。

 

 霧の先には、一本の樹らしき物と男か女かも不明な人影がいた。

 

 その人影は庭師の様で、色々な道具を使って樹を手入れしていた。具体的にどんな道具を使って、どんな事をしているのかは分からない。

 少女にはただ影しか見えていなかった。

 

 霧に隠れた朧げな光景でも、ハッキリと分かる事が一つだけある。

 それは人影の仕草は洗練されていて、とても丁寧な事だ。

 その仕草は脆いガラス細工の工芸品から、ホコリを払うかの如く繊細に、親が子供の髪を家で散髪するかの如く大胆だった。

 

矛盾する二つの所作を感じさせながら、人影は樹を手入れしているのだ。

 

 少女にはとても興味深い光景だった。彼女は飽きずに、ずっとその光景を眺めていた。幾許かの時の後、人影が手入れを終えて、樹の前から去ろうとした時に、その邂逅(かいこう)は起こった。

 

 人影と少女の眼が一瞬だが、()()()()()()()()()

 

 少女は知る由も無かったが、人影は刹那にも満たない一瞬で、相手の全てを理解していた。

 そして少女に必要な情報を渡す為、その力を躊躇(ためら)いなく振るった。

 

>>【記憶をインストールする】

 

「…………………ッ!」

 

 瞬間的に脳を襲う凄まじい頭痛に、僅かな呻き声を上げて、少女は現実へと覚醒した。

 彼女の眼の前には、知らない白い天井が広がっていた。むくりと起き上がってみると、そこは病室のベットだった。

 

霞花(かか)!?大丈夫?急に起き上がちゃ駄目よ」

 

 ベッドの横にある丸椅子へ座っていた妙齢の女性が、急に起き上がった少女に驚いた。

 女性は少女の肩を掴んで無理矢理寝かせようとする。少女はか細い両腕でその手を掴んで言った。

 

「平気だよ。母さん……」

 

 女性を母と呼ぶ十代の少女、大葉霞花(かか)は淡々と状況を確認し始めた。

 

「ねぇ、今日はいつ?」

 

 親の心配など露も知らず、マイペースにそんな事を聞いてくる娘に、母親の大葉莉花(りか)は僅かに心配した様子で答えた。

 

「四月十七日、日曜日よ。まさか倒れた時の事、覚えていないの……?」

 

 莉花は病院に担ぎ込まれた原因に関する質問をした。『記憶障害でも起きたのか』と心配している様だった。

 霞花は身を案じる母親の問いを無慈悲に、無視しながら辺りを見回した。

 

 周囲には彼女が寝ているのと同じベッドが、カーテンで仕切られ何台か置いてある。ベッド以外は脈拍等を計測する装置だけが、置かれている簡素な大部屋だった。

 

 周囲の状況を確認すると、霞花はスッと無言で左手を莉花に差し出した。

 

「この手は何?」

 

 莉花は当然の質問を娘に投げかけた。霞花が若干、苛立ち気に答えた。

 

「スマホ」

 

 意識を取り戻して、すぐにスマホを要求する現代っ子な娘に、母親は呆れて答えた。

 

「無いわ。家よ」

 

 霞花が自宅で倒れた後、彼女の父親は119へと電話した。心配して霞花と共に救急車へ乗り込んだ莉花は、娘の保険証と財布の他には、自分のスマホしか持っていなかった。

 

「じゃあ母さんの」

 

 そう言って霞花は手をクイクイさせて、莉花を急かした。とても行儀が悪い仕草である。

 莉花はそんな娘を叱りもせずに、自分のスマホを渡した。どうやらいつもの事らしい。

 

 霞花は全体的に線が細く、肌は少し色白だ。顔は年相応に童顔ではあるが、美人とは呼べない。

 

 彼女自身に言わせれば『一生、顔面偏差値四十台』という評価の顔付きだった。細い体からパッと見の雰囲気は、病弱な深窓の令嬢に見えなくもない。

 

 しかし、整っていない容姿以上に、行儀の悪さで全てを台無しにしていた。

 

 霞花がスマホの電源を入れて、時間を確認する。時刻は『17:11』と表示されていた。彼女は時刻を確認するとスマホをそのまま自分のポケットに仕舞い、手についていた計測機器を外してからベットを降りた。そして一言。

 

「今すぐ帰る」

 

 霞花は借りたスマホを母親に返そうともしない。その態度を見て、莉花が丸椅子の上でため息を吐きながら、愚痴を吐いた。

 

「一体、どこで教育を間違えたのやら…………」

 

 霞花は自分を(なじ)る母親に怒るわけでも、恥じるわけでも無く、むしろ堂々と答えた。

 

「教育じゃ無くて、ただの遺伝でしょ」

 

 彼女は自分に言われた愚痴への嫌味では無く、ただの事実を告げるつもりで、自信満々に答えていた。

 莉花はその有様を見て、更に愚痴を吐いた。

 

「ホント、あんたは私の子じゃ無くて、父さんの子よね」

 

 母親の発言に、霞花は心の底から呆れて言った。

 

「父さんって……ちゃんと自分の股からひり出した癖に何を言っているんだが…………」

 

 とても年頃の娘とは思えない言葉遣いに、莉花が遂に怒った。

 

「そういう言い方はやめなさいっ」

 

 怒気を含んだ母親の言葉に、霞花が急に動揺して言い訳をし始めた。

 

「いや……別に……母さんをバカにしたわけじゃ…………。ほら自分自身の事だし、ちょっとした自虐だよ」

 

 母親を怒らせまいとして霞花は早口でそう言った。

 しかし論点のズレた発言が、莉花の怒りを(なだ)める事は無かった。

 

「それ以前に、言葉が下品なの」

 

 莉花に発言が下品と言われて、霞花が狼狽した。

 

「えっ、嘘どこが?!」

「全部!」

 

 面と向かって下品と言われて、ショックを受け霞花が口をパクパクさせ始めた。

 

「うっそ……事実を言ってるだけなのになんで…………ひり出したがアウトで生み出したがセーフ?………………ダメだ、理解できない……」

 

 大きなショックを受けて真剣に悩み始めるも未だ論点が、微妙にズレている霞花に莉花が注意をした。

 

「そもそも股云々が駄目なのよ。直しなさい」

「えぇーーそこからなの!?」

 

 霞花は自分の発言が下品という事に衝撃を受けて、更に悩み始める。

 莉花は受付で急患の診察料を払った後、悩み続けている霞花を連れて病院を後にした。

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