アーティファクトって何?   作:小人3

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人生で一番長い放課後の始まり

(考えろ!考え続けろ!私は『オーバーロード』に選ばれたんだ。世界の王として、この強大な力を預けられる相手として、選ばれたんだ。その私が諦めてはいけない。これがどんなに絶望的な状況だったとしても!!)

 

 霞花は気力を強く、振り絞って自分を強く鼓舞した。『災厄の魔女』が原作世界の記憶持ちで生きている。原作知識を有する霞花にはコレが如何(いか)に絶望的で、どうしようもない状況なのか十分に分かっていた。

 

 しかしそれでも思考し続ける事だけは止める訳にいかなかった。この最悪の状況を把握しているのは霞花だけなのだ。

 彼女が諦める事はそれすなわち、この世界の終わりを意味しているのだから。

 

(まず昨日の夜に戻って『魔眼のユーザー』を助ける事は不可能。『災厄の魔女』はおそらく成瀬先生の体を操っている。破損した『世界の眼』を取り込ませれば、アーティファクトの修復は可能!この方法なら()()()()()()()もケアできる。同調率が何割であれ、弱点のない化け物を相手に私一人で勝てる訳がないっ!!)

 

 霞花は原作世界でたった2割の力で暴れまくった『災厄の魔女』を思い出していた。

 

 どうしようもない現実に、心が折れそうになるのを必死に耐えて頭を回す。そして霞花は一つの希望に行き着き『オーバーロード』を即座に発動した。

 しかしその希望はすぐに打ち砕かれた。

 

(ちくしょうっ!ゲートを閉じるのも無理か!)

 

 異世界へのゲートが開いたのは『世界の眼』の破損に伴う異常動作が原因である。

 だから『世界の眼』が修復されるまでは『オーバーロード』でも閉じる事ができない。

 

 しかし『世界の眼』が修復されているであろう今なら強制的に閉じる事ができるのでは?と、霞花は考え実行したがすぐに失敗した。

 

(多分『災厄の魔女』が自分と成瀬先生、合わせて二つの『世界の眼』で抵抗してる……。|『オーバーロード』が『世界の眼』の完全上位互換とは言え、一対ニしかも相手の方がAFユーザーとしての力量も技量も遥かに上ではどうしようもない…………)

 

 『災厄の魔女』は客観的に言って、霞花より遥かに格上のAFユーザーである。

 そもそもこの世界の人間とアーティファクトを生み出した異世界人との間では、魂の力の強さに大きな差がある。

 

 そして『災厄の魔女』はそんな強力な力を持った異世界人達の中でも更に突出した強さを持った存在である。霞花と『災厄の魔女』の間には天と地ほどの力量差があるのだ。

 

(いっその事、街の外へ逃げるか?!)

 

 霞花は逃亡を真剣に考え始めた。『災厄の魔女』は間違いなく、この街のAFユーザーを皆殺しにするだろう。その余波だけでどれだけの人間が死ぬのか、想像もできなかった。

 

(あいつなら翔先輩たちへの嫌がらせの為だけに、目の前でこの街の人間を皆殺しにするくらいは絶対にやる!)

 

 だからもし逃げるのなら、翔たちを置いては行けないと霞花は判断した。残しておけばどんな目に遭うのか分からないし、『災厄の魔女』への僅かな勝機も失ってしまう。

 

(でもどうやって先輩たちを説得する!?まだAFユーザーじゃない人だっているのに!?)

 

「おーい、カカちゃん?聞いてる?」

 

 霞花は天の声で思考の海から海面へと引き上げられた。

 

「ごめん…………聞いてなかった何の話?」

 

 帰りのホームルームはいつの間にか終わっていたらしい。天が話しかけてきたにも関わらず、霞花はその事に気付いていなかった。

 

(多分これが天ちゃんと話せる最後の時間だろう……。今日中に『オーバーロード』でやり直しをする必要がある)

 

「だから、にいやんが私と一緒に帰りたいって言ってるんだけど、折角だし3人で帰らない?ほら石化事件があったでしょ。そのせいでなんか心配してるみたい」

 

 その言葉は霞花にとってまさに天から伸びる救いの糸だった。

 

(翔先輩!もうこうなったら恥も外聞もない。全部話して頼ろう。先輩はアーティファクトの天才だ!原作にもない『オーバーロード』の使い方を思いつくかもしれない!!)

 

 霞花は天の肩を掴んで叫んだ。

 

「今すぐ!今すぐ!3人で帰ろう!」

 

 霞花が三人で帰る事を急かすと、天は霞花の明らかに異常な様子に怪訝な顔した。

 

「カカちゃん?急にどうしたの?なんか顔が怖いんだけど……」

 

 霞花は天の反応で、自分の感情が表に出ている事を自覚した。そして自分が、『災厄の魔女』にこの瞬間も監視されている可能性が高い事を、今更ながら思い出した。

 

「スーーーーー、はぁーーーーー、スーーーー、はぁーーーーー」

 

 霞花は意識して呼吸を行った。でなければ、あまりの恐怖と絶望に酸欠になりそうだった。突然大きく呼吸を繰り返す霞花を見て、天はただ事では無いと判断した。

 

「…………………カカちゃん、保健室に行こう。大丈夫?息できる?」

 

 クラスメイトの内、目敏い何名かが霞花の状態に気づいて不安そうに見守っていた。霞花は取り敢えず、自分を椅子に座らせようとする天の手を息を切らしながら、押し返して言った。

 

「大丈夫っ、大丈夫だからっ、、今すぐ三人で帰ろう、、、」

 

 明らかに大丈夫では無いのにも関わらず、霞花は天に三人で帰る事を再び急かした。天は様子がおかしい霞花の言う事を、素直に聞く訳にはいかなかった。

 

「いやいやいや、全然大丈夫そうに見えないからっ……にいにに、会いたいなら()()でも平気だからね?取り敢えず、私と一緒に保健室行こうよ」

 

(明日?明日なんて、迎えられる訳がないでしょ!!)

 

 霞花は反射的にそう叫んだが、過呼吸寸前の体調により声になる事はなかった。皮肉な事にパニックが霞花がこの期に及んで、致命的なミスを犯す事を防いでいた。

 

 霞花は必死に息を整えて、言葉を口にした。それは文章にはなっていなかった。

 

「お願、い、、お願い、、お願いだ、から、、、」

 

 過呼吸に陥りながらも、自分に懇願する霞花を見て天が折れた。

 

「分かったよ、にいに呼ぶから、今日は三人で帰ろう……でもその前に、保健室だよ?いい?」

 

 霞花はコクコクと頷いた。それを確認すると、天は霞花を椅子に座らせた。今度は抵抗しなかった。その様子見ていた周囲のクラスメイトが天に話しかけた。

 

「天ちゃん、とにかく安心させる言葉をかけて、ゆっくりと呼吸をさせてあげて」

 

 状況を注視していた女生徒の一人が、天に話しかけてきた。どうやら、過呼吸への応急処置を把握している様だった。

 

「分かった。ミユミちゃんは先生を呼んできてくれる?」

 

 天は霞花の状態を見て、すぐに外部の手助けが必要と判断した。

 そして、話しかけて来たクラスメイトに先生を呼ぶ様に頼んだ。しかし意外な事にクラスメイトはそれを断った。

 

「今すぐ、呼ぶのはダメ。大事にすると逆効果になっちゃう。皆んなも落ち着いて普段通り過ごして、それが一番大事だから」

 

 天にミユミと呼ばれた女生徒は、騒々しくなり始めているクラスメイト達に向けて、普段通り過ごす様にお願いした。

 

 しかし反応は良くなかった。クラスの女子が急に容体を悪化させた事に多くの生徒は動揺していたし、何か手伝える事はないかとソワソワしている心優しい男子も少なくなかった。

 

 ミユミはそれ以上クラスメイトを言葉で落ち着けさせるのは難しいと判断して、霞花への応急処置を始める事にした。教室の椅子を向かい合わせに並べ始めた。

 

 ミユミの行動の意図に気づいた聡い男子生徒が無言で、椅子を並べる事に協力し始めた。程なくして椅子で作ったベットが完成した。

 

「霞花さん、自分の足で立てる?」

 

 霞花は過呼吸で返事が出来なかったので、頷く事で返事をした。霞花は天とミユミに支えられながら、自分の足で歩き椅子で作ったベットに横になった。

 

「カカちゃん、大丈夫、大丈夫だからね。私ここにいるから」

 

 天はミユミに言われた通り、霞花を安心させる言葉を掛け続けた。その甲斐あってか約十分程で、過呼吸発作は収まり始めた。ミユミはその様子を見て、もう人を呼んでも平気と判断して学校の保険医を呼んだ。

 

「霞花さん、手足に痺れとかはある?」

 

 保険医は霞花に重篤な症状が出ていないか、口頭で確認した。息こそ荒いが落ち着きを取り戻した霞花は横になったまま少し手足を動かして、違和感がないか確認した。

 

「大丈夫です、、すみません、少し、パニックになったみたいです……」

 

 保険医はその答えと、澱みなく喋れる様子を見て、心配はあまり要らないと客観的に判断した。

 

「謝る事はないわ。あなたくらいの歳なら珍しい事ではないのよ」

 

 そんな保険医の言葉に霞花は笑った。

 

「知ってます、まさか、自分がなるとは、思いませんでしたけど……」

 

 周囲には説明のしようがないが、霞花は自分がなぜ過呼吸を起こしたのか、すでに客観的な分析ができていた。

 

(油断した……希望が見えた瞬間に、死の恐怖が襲ってきて、訳がわからなくなっちゃった…………)

 

 絶望的な状況に追いやられた霞花は、天から垂らされた新海翔という救いの糸に縋りついた。

 そしてその瞬間に『災厄の魔女』によって喉元にナイフを突き立てられてしまった。

 

 緊張、緩み、再び緊張という揺さぶりは十代の少女をパニックに陥らせるには充分すぎた。霞花が過呼吸に陥ったのも無理ない話だった。

 

「担任の先生と親御さんには私から説明する事になるけど、良いかしら」

 

 女性の保険医は霞花へ両親に学校で、過呼吸を起こした事を説明する事を伝えた。霞花は両親を心配させたくなかった事ので、保険医に言った。

 

「両親には私が全然平気だと、言っていたと伝えてください。私はいつも通り、過ごします約束があるので……」

 

 霞花が言う約束とは新海兄妹(きょうだい)と3人で、下校する事を指していた。それを側で聞いていた天が言った。

 

「カカちゃん……約束はしたけど、無理する必要は全く無いからね?バカ兄貴なんて、()()()()()()()()

 

 天が霞花に優しく言ってきた。その優しい言葉に霞花は感謝しつつも、心の中だけで反論した。

 

(今しか、今しかない。明日になれば、この街の人間が()()()()()()()()()かもわからない……。最悪、先輩たち以外は全滅する可能性もあり得る…………)

 

 朝、眼が覚めたら自分以外の家族と街の人々が石像になっていて、パニックを起こすヴァルハラ・ソサイエティのメンバーと、それを見て愉悦する『災厄の魔女』という構図を霞花は簡単に想像する事ができた。

 

(タイムリミットを今日の24時と仮定すると、二日と7時間弱…………。あまりに短すぎる、正攻法でどうにかなる状況じゃない……)

 

『オーバーロード』の時間遡行(タイムリープ)に回数制限は存在しない。『災厄の魔女』にさえ気を付ければ、()()()()使()()()()()()()()

 

(『災厄の魔女』が原作世界の記憶持ちである以上、一度過去改変しただけでも、私が『オーバーロード』のユーザーとバレかねない…………)

 

 霞花は既に一度だけ、『オーバーロード』で過去改変を行なっていた。

 しかし現在、霞花が『災厄の魔女』に殺されていない事を考えるとその過去改変は軽微すぎてスルーされたか、『魔眼のユーザー』の死で()()された可能性が高かった。

 

(私の『オーバーロード』が奪われる事(敗北条件)を考えると、もう『オーバーロード』は通常の手段では使えない!)

 

 霞花に残された希望は、新海翔という天才AFユーザーが残り八時間弱以内に、『災厄の魔女』にも想像できない『オーバーロード』の新しい使い方を思い付くという極めて無茶振りな案しかなかった。

 だから今日、三人で帰るというのは必須事項だった。

 

(思考時間は()()()()()()で無限に用意できるけど、所詮は私の頭、思いつけない物はいくら考えても思いつけない)

 

 現在この世界の時間は、天が霞花に話しかけた時点で擬似的に停止していた。これは『オーバーロード』のちょっとした応用である。

 

 擬似時間停止は本当の意味で世界の時間を止めているわけでは無い。『オーバーロード』にそんな機能は存在しない。

 

 では霞花がやっている擬似時間停止とは何なのか、これは一言で言うと時間の無限ループである。霞花が昨日、使ってみせた様に『オーバーロード』にはタイムリープ能力がある。

 

 タイムリープとはタイムマシンと違い、人や物ではなく記憶だけを過去に送る事を意味している。

 

 『オーバーロード』による過去改変は確かに『災厄の魔女』によって検知される。しかしそれはあくまで、過去改変を行なった場合であり、タイムリープをした場合では無い。

 そして『オーバーロード』のタイムリープには回数限界がない。

 

 つまり擬似時間停止とは()()()()を連続的にタイムリープする事で、理論上無限の時間を確保するという霞花が思いついた『オーバーロード』の応用である。霞花にとって、現実時間の数秒は無限に等しい。

 

(擬似時間停止中は動けない。もし動けば過去改変に該当してしまう。だからスマホで調べ物もできないし、誰かに相談する事もできない…………。私が自分の頭一つで、考え続けるしかない………………)

 

 擬似時間停止によって、霞花はどうしたらいいか考え続けた。しかしいくら考えても方法など思い付くはずがなかった。

 

(クソったれ!時間を巻き戻せる相手にどうやって勝つんだよ!!そんな事できるわけがないっ!!!)

 

 原作世界の記憶持ちである『災厄の魔女』は|時間遡行能力を持っている。それは霞花と全く同じ力であった。

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