アーティファクトって何?   作:小人3

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狙われたのは

 白泉学園の廊下を二人の女生徒が歩いていた。

 

「カカちゃん、本当にもう大丈夫?保健室で休んでも、良かったんだよ?」

 

 天が隣を歩く霞花に話しかけた。教室内で過呼吸を起こした少女に対する反応としては、当たり前の心配だった。

 

「もう大丈夫だよ。この通りピンピンしてるから」

 

 そう言って体の細い少女はジャンプして見せる。どうやらジャンプできるから平気と言いたいらしい。過呼吸とジャンプの間に、何の因果関係があるのかはわからない。

 

「ムリだけはすんなよ〜」

 

 天はふざけた口調で言って、この話は終わりにする事にした様だった。二人は下駄箱で外履き(ローファー)へ履き替えて、校門前のエントランスへ出た。校門前では男子生徒が一人待っていた。

 

「遅いぞ。いつまで待たせんだよ」

 

 男子生徒あらため、新海翔が待たされた文句を二人に言ってきた。天がお気楽な調子で返事をした。

 

「いや〜〜、お腹の調子が良く無くてね〜」

 

 天が霞花には見え見えの嘘をついた。

 

「大葉は昨日ぶりだな。ぬいぐるみは見つかったか?」

 

 翔は天を無視して霞花へ話しかけた。

 

「おいこら、妹の体調を心配しろ、おまえ兄貴だろ」

「チッ……」

 

 天に指摘された翔が舌打ちをした。

 

「ちゃんと、野菜食わねぇからだろ」

「それだと、お通じじゃねぇか! そうじゃないよ、大事な〜大事な〜妹を心配しろっていってんの」

「チッ……」

 

 翔がやかましい天にまた舌打ちをした。

 

「おい、舌打ちすんのやめろ! 今日はカカちゃんもいんだぞ」

「はぁ〜〜、お大事にどうぞー、おかえりはあちらでーす」

 

 翔が医者のような言い方で校舎へ手を向けて、天を誘導した。

 

「はい、ありがとうござましたーー。って違うだろ。校舎に帰ってどうすんだよっ。あたしの帰る場所はにいやん()でしょ〜」

 

 天はノリ良く校舎へ向かって歩いたあと、すぐに戻ってツッコミをした。

 

「ちげぇよ!おまえの帰る場所は実家だろうがっ、ささっとおとんに合鍵、返せや」

「や〜だよっ。同居するまで、返さない」

「同居か……いいぞ、しても」

「えうそ!? やったー!」

「部屋は入って、すぐ右な」

「おい、そこトイレじゃねぇかっ!」

 

 翔と天が仲良くお喋り、いや兄妹(きょうだい)漫才を披露し始めた。これがこの二人の平常運転だった。その様子を見て、霞花は状況も忘れて思わず笑ってしまった。

 

「アハハハっ」

 

 その様子を見て、天が更に翔に文句言った。

 

「ほら〜見ろ〜〜。カカちゃんに笑われちゃったじゃん、これ全部にいやんのせいだからねっ」

「いや、おまえの自業自得だろ。まぁいいササっと行くぞーー」

「ちょっ!置いてかないでよ〜。ほら、カカちゃんも行こっ!」

 

 翔が校門から、白巳津川駅へ向けて歩き始めた。慌てた天が霞花の手を取って翔の後を追いかけ始めた。

 

 白巳津川駅への道を3人で歩く、翔が霞花に話しかけた。

 

「で、大葉は━━」

「できれば、霞花(かか)と呼んでくれますか?苗字あまり好きじゃないんです」

「あーー、そう言えば前に、オバさんみたいで嫌って言ってたね、苗字呼び」

「そうか、じゃあ遠慮なく、霞花の探してたぬいぐるみは見つかったか?」

 

 翔が霞花に質問を投げかけた。それは霞花が前回、翔に会った時の事を踏まえた質問だった。霞花は正直に答えた。

 

「昨日も探したんですけど、見つかりませんでした。残念ですけど、諦めます」

「そうか、そいつは良かったよ、ほら」

 

 翔が鞄から大きな何かを取り出して、霞花へ放り投げた。それが何か理解した瞬間に、霞花の体に戦慄が走った。

 それは体の真ん中にファスナーが縦に走っていた。そしてファスナーの左右で体の色が違っている。大きな耳と尻尾が特徴的な一等身のぬいぐるみだった。

 

(ッーーーー! なんでコレを翔先輩がっ!!)

 

「何これ、変なぬいぐるみ……にいやんセンスわっる……」

「プレゼントじゃねーよ。あとセンス悪いとか言うな。これ霞花の私物だぞ、それも結構大事な」

「…………同意ですね、私のじゃないですよ、、?」

 

 霞花は狼狽しながらも、できる限り自然に答えた。

 

(天ちゃんにも見えているっ。こいつは『災厄の魔女』で確定だ。間違いがない!)

 

 この変なぬいぐるみは、ただのぬいぐるみではない。その正体は異世界人である。

 正確には異世界人が、この世界に干渉する為にアーティファクトの力で生み出した『幻体』という仮初の体である。

 

 異世界に生物は送れない。しかしアーティファクトで作り出された『幻体』は生物では無いので、送る事が可能なのである。原作の異世界人達は送り込んだ『幻体』を操る事で、この世界へと干渉していた。

 

 霞花が探していたぬいぐるみを操っているのは、異世界人ソフィーティアであり、『災厄の魔女』では無い。

 そしてソフィーティアの『幻体』は一般人(非AFユーザー)には見えない。

 

 まだAFユーザーでない新海天に見えたという事は、この『幻体』を操っているのは、ソフィーティアでは無いということが確定していた。

 

「ん?そうなのか、昨日の夜に神社で拾ったから、てっきりそうかと思ったわ」

 

 翔が霞花の言動を気にせず、軽い調子で言い返してくる。

 

(クソっ! 擬似時間停止が『オーバーロード』が使えない。考えをまとめられない)

 

 ソフィーティアは魂の力の揺らぎを観測する事で、相手がアーティファクトの力を使ったか、どうか判別する事ができた。同じ異世界人である『災厄の魔女』に同様の事ができないと考える事はあまりに楽観的だった。

 

「そ、そういうわけなんで、返しますこれ」

 

霞花はぬいぐるみを無理やり、翔へと押し返した。

 

「プレゼント失敗だね〜〜、もっと、センス磨いてけ」

「だから、プレゼントじゃねぇよ。違ったか……」

「……………ムッ」

 

 翔は受け取ったぬいぐるみを半ば無理やり鞄に詰め込んだ。詰め込んだ瞬間にぬいぐるみから声がしたが、霞花はスルーを決め込んだ。

 

(何も聞こえない、聞こえていない。ぬいぐるみは喋ったり、なんかしない…………)

 

 霞花は現実逃避を決め込んでいた。もし今ここでぬいぐるみが喋り出せば、霞花が考えている翔に事情を明かして、頼るという案は実現不可能になるのだ。

 

「……ん?今なんか音がしなかった?」

 

 霞花の現実逃避も虚しく、天の耳にも謎の声が聞こえていたらしい。天が謎の声に疑問覚えていた。

 

「…………そんな声したか?」

「耳鳴りとか、じゃない?」

 

 翔と霞花が揃って天の疑問を否定した。

 

「ん〜〜、ま、いっかー」

 

 天はまだ疑問を覚えていた様だが、二人が否定した事で忘れる事にした様だった。霞花は天の脳天気さに心から感謝した。

 

「ところで〜、お二人方〜、今朝のテレビはご覧になれました?」

「見てねぇよ、部屋にテレビねぇの知ってんだろ」

「もしかして、九十九神社のニュース?私は見たよ」

 

 天は対照的な二人の反応に笑みを浮かべて、話を続けた。

 

「いや〜〜、あれは今世紀最大のエンタメだったねー。思わず録画しちゃったもん」

「神社って……神器が壊れた件が報道でもされたのか?」

 

 翔は一人だけ、わけがわからない様だった。霞花は勿体ぶってる天に代わり説明した。

 

「え〜〜っと、テレビに成瀬先生が映ってました。神社の関係者として……」

 

 霞花のその説明を聞いて、翔が引き攣った顔をした。そしてテレビの内容を質問してきた。

 

「えと、それ流石にいつもとは違ったよな?テレビの前だし」

「いつもの沙月ちゃんだったぜぇい」

「放送事故じゃねぇかっ!」

 

 翔と天は二人とも歳こそ離れてはいるが、成瀬沙月とは幼馴染みでありとても親しい関係である。よって彼女の素晴らしい性格についても、良く理解していた。

 

「神器の修復に接着剤を使おうとしてましたよ……」

「………」

 

 翔が顔に手を当てて、呻き声を漏らした。どう考えても神職が発言していい内容ではなかった。

 

「いや〜〜、幼馴染みがテレビデビューして、あたしゃ鼻が高いね〜〜」

「ツブヤイターとかで、炎上しなけりゃいいけどな……」

 

 翔は幼馴染み、教師、巫女と属性の交通渋滞を起こしている成瀬沙月の社会的立場を心配した。

 

「大丈夫じゃ無いですかね?インタビューの時は私服でしたし、あくまで神社の関係者ってテロップでしたから」

「沙月ちゃん、滅多に巫女服着ないもんね。似合ってるのに」

「フェスの時もきてなかったしな。普通の人は巫女とは思わないか……」

 

 地元の人間には成瀬沙月が巫女である事は有名である。同時に性格が適当過ぎる事も有名である。今更地元の人間は神器を接着剤で直そうとしたくらいで、とやかくは言わないのだ。

 

「ニュースで思い出しましたけど、人体が石化するだなんて、怖いですね」

 

 霞花は翔の事を考えて、あえて石化事件について触れた。もし知っているのなら平気そうに見えて、翔の心中はかなり複雑なはずである。

 知らないのなら今の内に知らせて、心の整理をさせて置くべきだった。

 

「…………あぁ、そうだな……」

 

 翔はそれまでと違って暗い雰囲気で答えた。どうやら既に彼も知っていたらしい。

 

「うちの生徒が公園で死んだかもって話だよね。クラスで噂になってたよ」

「まだ……死んだとは決まってねぇよ」

 

 翔が少しドスを含ませた声で天の死んだという、発言に抗議した。その様子におかしな物を感じた天が、気まずそうに質問した。

 

「あーー、もしかしてお兄様のお知り合いで、あらせられます?」

「あぁ、それなりにな…………」

「ごめんなさい。気軽に振る様な話題じゃなかったですね……」

「気にしねぇよ。朝のホームルームの時点で、成瀬先生が話をしたからな。気持ちの整理はついてる……」

 

 そう言いながらも、翔の姿はショックを受けている様だった。霞花は必要な事だったとは言え、無遠慮に話題を振った事に罪悪感を覚えた。

 だから一旦話題を変える事にした。

 

「翔先輩って一年以上、一人暮らしですよね?」

「あぁそうだな。このバカのせいで」

 

 そういって翔は天を指差した。

 

「バカって言うなよっ、いいの、泣くよ?あたし泣くよ?」

「はっ……、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、」

「五回も言った!五回、泣いてやるっぅ!うー、うー、うー、うー、うー、」

 

 天が連続して、五回泣き真似をしてみせる。非常に嘘っぽい泣き真似だった。霞花と翔はそんな天を無視して、会話を続ける事にした。

 

「自炊とかって、どうしてるんですか?」

「ナインボールって分かる?あそこで、いつも食べてるわ」

 

 翔はコロナグループの社長令嬢、九條都(くじょう・みやこ)がアルバイトをしている喫茶店の名前を出した。

 

「おいお前ら、泣いてるあたしを無視とはいい度胸だな?」

「バカ、バカ、バカ、バカ、バカ」

「うー、うー、うー、うー、うー、って違うわ。何回泣かす気だっ!」

 

 今度は霞花が五回バカと言った。そして天はまた泣き真似した後、今度はツッコミを入れてきた。ノリツッコミのキレ味が違う、年季を感じさせる芸風である。

 

「はぁ……てかさ、カカちゃんって、そういうボケもできたんだ……?」

「ボケ?違うよ。事実を言っただけ」

「酷いっ!ぜっこーだ!」

 

 霞花が翔と天の漫才に乗っかって、ボケか本気が判りづらい発言をした。翔はそんな天と霞花の光景を見て言った。

 

「天、良かったな。良い友達じゃないか〜〜」

「お兄様の眼は、フシ穴でございます?眼球毎、お取り替えあそぼせ」

「ちょっ、眼はやめろ、眼は!」

 

 天がわざとらしいお嬢様言葉で言いつつ、翔の眼に手を突っ込もうとした。翔は天の手を掴んでそれを防いだ。

 霞花は重い話をした空気が、十分に緩んだと思ったので、天と取っ組み合ってる翔に話しかけた。

 

「翔先輩、今日ってこのあと、暇ですか?」

「ん?まぁ……特に何もないぞ」

「なら先輩の部屋に行っても良いですか?」

「…………」

 

 霞花の発言に思春期の男子生徒、新海翔は固まった。後輩の女の子から、突然部屋に行きたいと言われる。そんな経験を翔はした事がなかった。

 女の子が男の部屋に、しかもそんなに親しくない相手の部屋に入りたがるとか普通に考えたら、色々と勘ぐりと期待をしてしまう出来事だ。

 

 霞花は反応がよろしくない翔へ、畳み掛ける事にした

 

「水色です……。駄目……ですか?」

「駄目なわけがありませんっ!是非っ我が家に!」

 

 少しタメを作ってから上目遣いで聞くと、翔はあっさりと陥落し、頭を直角に曲げて了承した。

 

(先輩……ちょっろ、さすがヤリチン……)

 

「お、良いねぇ〜三人で大乱闘ゲーム(スマシス)でもしよう〜〜」

「……」

「お?なんだいその目は。ゴミを見る目だよ?」

「帰れ」

「やーだよ。あたしもカカちゃんと遊びたいもん」

 

 翔が突然に、自分へ舞い降りた青春を邪魔しようとする天へ無言の圧力をかけた。

 霞花は別に翔の事を異性としてなんとも思っていないので、実際には青春は舞い降りてはいない。全て翔の勘違いである。

 

「おまっ、この野郎、お前……っ!ついに春が来たんだぞ、少しは兄を労ろって気はないのかっ」

「春って……、兄上あれを良く、ご覧なさい」

 

 天は翔の顔を無理やり、霞花の方へ向けた。霞花は翔と眼が合うとキャッと呟いて、目線をモジモジと地面へ向けた。

 

「あれが恋する乙女に見えますか?」

「見えるっ!」

「フシ穴かっ!どう見ても、演技でしょうがっ!」

 

 霞花の仕草はまるで古典的なラブコメ漫画の様にわざとらしく、誰が見てもカマトトぶっている演技だった。

 

「この際、演技でも構わん。部屋に入れてしまえば、どうとでもなる」

「おい、こら、本音を言ったな!あたしの親友に何をする気だ!カカちゃんもどうしちゃったの?バカ兄貴の部屋に入っても丸まったティッシュとエロ本しかないよ?」

「ちょっ、おまえ、風評被害はやめろ。霞花、どっちもないからっ、普通の部屋だからっ!」

 

 霞花は自分の貞操を心配して、親友とまで言ってくれた天に心の底から感謝して言った。

 

「ごめんね天ちゃん。でも、もう翔先輩がいないと駄目なの」

 

 霞花は最後の『この世界が』の部分を省略して、わざと誤解を招く言い方をした。そして自分の体を抱きしめる様に、両手で包み込んだ。

 

「バカ兄貴っ!マジで何をしたっ!夜の神社で何をしたぁぁっ!」

「してねぇー!まだ何もしてねぇよ」

「まだってなんだっ」

 

 白巳津川に掛かる橋の上で、新海兄妹(きょうだい)が仲良く言い合いを始めた。霞花はその光景を見ながら、『早く、二人きりになれないかなぁー』と考えていた。

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