「霞花!」
翔は慌てて立ち上がり、廊下への扉を開けた。廊下には霞花が苦悶の表情を顔に貼り付けて、うつ伏せで倒れていた。倒れた時に左腕を打ったのか、左腕がダラリと力なく垂れ下がっている。
霞花はそんな状態にも関わらず、廊下の先の玄関に這っていこうとしている。必死に細い右腕一本で上半身を起こして体を引きずっていた。どうやら足も動かないらしい。翔は咄嗟に霞花を抱き起そうと近づいた。
「カケル、近寄っちゃダメよ。その娘は間違いなく、敵よ」
ソフィの声が翔を呼び止めた。翔はすぐにこの惨状を起こしたのは誰なのか理解した。翔は後ろに振り返った。
視線の先には床に立ち、廊下を見ているソフィがいた。
「ソフィ! なんで攻撃した!? 反撃にしか使わないって言ってただろ!!」
翔はアーティファクトで攻撃したソフィに怒りの声を上げた。翔は霞花を部屋に招き入れる前に、ソフィと会話していた。
だから霞花がAFユーザーである事、襲われた時はアーティファクトで反撃する事、口を閉ざされた場合は嘘の脅迫をする事を事前に知っていた。
その上で、彼女がAFユーザーである事はまだ知らないフリをしろと言われたのだ。
翔はこんな事になるとは想定していなかった。先制攻撃は絶対にしないとソフィと約束していたからだ。
「えぇ、だから使ったの。彼女に
その言葉を聞いて翔は動揺した。ここまでの会話で、霞花がAFユーザーである事を必死に隠そうとしている事は翔も理解していた。
しかしそれは何か特殊な事情があるのだと、考えていた。
だからこそソフィもその事情を話させるため『殺す』とまで脅したと納得していた。翔は霞花が『魔眼』のユーザーだとは少しも思ってはいなかった。
あるいは本当に『魔眼』のユーザーだとしても望んだ結果ではないのだろうと考えていた。
翔はそんな霞花が自分たちへ攻撃をしたという事実を、霞花が敵であるという現実を受け入れられなかった。
だから感情のまま、ソフィへ反論した。
「そんな証拠はないだろう! 現に俺はソフィがアーティファクトを使っても、何も気づかなかったぞ!」
ソフィは声を荒げる翔に目線を合わせる事なく、未だに冷たい廊下で足掻いている霞花を虚ろなぬいぐるみの目で睨みつけていた。
「アーティファクトは、魂の力を流す事で発動する。だから魂の力の揺らぎを観測する事で、その前兆を捉えられるの」
翔にはソフィの言っている意味がまったくわからなかった。
「魂の力?揺らぎ?なんだそれは、理解できる言葉で説明しろ!」
翔のその言葉にソフィが苛立った。
「ほんと、理解力に乏しいわね。要はアーティファクトを使う前に分かるのよ。あらかじめ対象を観測していればね」
翔はそんな事は聞かされていなかった。ちっとも情報を共有してくれないソフィに、翔は憤りと疑念をぶつけた。
「それは本当か……?」
「あら、私を疑うの?まぁ、信じなくてもいいけれど彼女、今も攻撃しようと足掻いているわよ。打ち込んだ杭の所為で、全部失敗しているけれどね」
ソフィーが現実を翔に叩きつける。翔は霞花が顔から汗を滝のように垂れ流し、苦々しい表情で玄関へ向けて這いずるのを見た。
(これが『今も攻撃しようと足掻いている』だって?殺人鬼に追われて、必死に逃げてる様にしか見えねぇぞ……)
それはホラー映画で、足を拳銃で打たれた被害者が殺人鬼が来る前に安全な場所へ隠れようとしている様を思わせた。翔は今後に及んでどうしたらいいのか分からず、呆然としていた。
霞花がアーティファクトで人を殺してしまう様な殺人鬼なのか、ソフィに殺されかけている被害者なのか、翔には判断がつかなかった。
玄関までたどり着いたが、おそらく立ち上がれないのであろう霞花が翔の方へ振り向いた。翔の耳が霞花のか細い声を捉えた。
「先輩……お願い、逃げて……そいつはソフィじゃない……」
その声を聞いた瞬間に翔は霞花に駆け寄っていた。
「カケル!」
味方であるソフィの静止を無視し、翔は敵である霞花の体を抱き起こした。その体はとても細く、とても軽かった。
「立てるか?」
翔の問いかけに霞花は首を弱々しく左右へ振った。翔は霞花に肩を貸して、立ち上がらせようとする。するとその様子を見ていたソフィが呆れた様子で翔へ声をかけた。
「はぁ〜〜まったく……。杭が左肩に刺さってるから、気をつけなさい。それと間違っても、抜いちゃ駄目よ」
「杭?」
翔はソフィに言われたまま、彼女の左肩を見る。力なく垂れ下がっている左手の他におかしな点は見当たらない。
「そんな物、ねぇぞ」
「目で探しても見えないわよ、透明なんだから。肉体的にも傷は負わないわ」
翔は何も刺さっているとは思えない霞花の左肩に触った。確かに何か透明で棒状の物が左肩から体の正面へ向けて飛び出している。
透明な物体が少女の体に刺さっているという光景は、現実離れしていて異様だった。
翔はソフィの忠告通り、その何かには触れない様に右側から霞花へ肩を貸し、彼女を一つしかないベッドへと運んだ。
翔は霞花をベットの上で壁に寄りかからせた。痛みを堪えているのか、霞花の息はとても荒かった。
「霞花が痛がってる。この杭?どうにかならないのか」
テーブルの上から、ソフィが霞花の様子を注意深く伺いながら答えた。
「無理よ。抜いたらどんな力を使われるか、分からないじゃない。それにこのアーティファクトは、相手を傷つける為の物じゃないの。彼女が痛がり過ぎなだけよ」
霞花がアーティファクトの力を明かさない限り、痛みから解放する手段はないと翔は理解した。その時、霞花が口を開いた。
「これは何……?どうして、発動しないの…………」
ソフィの言う通り、霞花がアーティファクトを使えない状況なのは間違いない様だった。
「状況説明も兼ねて教えてあげる。このアーティファクトは打ち込むと魂の力が流れる事を抑制して、力の発動を妨害するの。今の私が出せる力だと、五本くらいは打ち込まないと駄目なはずだけど、あなたの場合は一本で良いみたいね。それだけ強力な力なのか、あるいはこの世界の人間が弱すぎるのか」
その返答に納得したのか、霞花は現状に対する苛立ちを吐き捨てた。
「クソっ……! 肉体じゃなく魂に刺さる杭か……!」
霞花は右手で左肩に刺さっている透明な杭を掴み、引き抜こうとする。その様子を翔もソフィも止める事はしなかった。
どう見ても自力で抜けるとは思えないほど、貧弱な力しか出せていないのだ。
そもそも杭は霞花の背中側から刺さっている。それを前から引っ張っても抜けるわけがない。自分の体を自分で痛めつけるだけである。
ひとしきり足掻いた末に霞花も諦めた様だった。
「状況が分かったところで質問よ。貴方の力は何?どんな事ができるの?」
ソフィが質問を投げかけるが、霞花は何も答えない。左肩の痛みに耐えながら、敵意が籠った目でソフィーを睨みつけている。
「本当に往生際が悪いわね。カケル、手荷物と体を調べて、どこかにアーティファクトがあるはずよ」
ソフィが霞花を警戒したまま翔に頼み事をする。
「霞花、悪いがカバンの中、漁らせてもらうぞ」
霞花はその翔の断りに一切反応返さないまま、ソフィを睨み続けていた。翔は何も言わない霞花の反応を了承と受け取った。
翔は言われた通り、霞花の手荷物を調べ始める。手鏡やリップクリーム、生理用品など色々と女の子らしい物が出てくるが金属製のアクセサリーはひとつも見当たらない。カバンの中に無いなら、あとは彼女が直接身につけている場合しかあり得なかった。
「体に触るぞ」
翔はベッドに近づいて、彼女の体を検分した。その時、胸やらお尻やらに触ってしまって、翔はドキドキしてしまった。
このシリアスな状況では流石の翔も『女の子の体って柔らかいんだな』とか考えてはいない。誓って本当だ。翔は何度も霞花の体を確認した上で、結果をソフィーに報告した。
「ソフィー。何も持っていない。何かの間違いじゃないのか?」
つい先程アーティファクトは捨てても、戻ってくるとソフィーは言っていた。この状況で見つからないと言う事は霞花がAFユーザーだというソフィーの主張は何かの間違いである事は明白である。
しかし翔の報告に対して、ソフィーが舌打ちをした。
「チッ……、やっぱりね」
(やっぱり?やっぱりってなんだ?)
翔の頭はソフィの発言を処理できていなかった。
「確か、カカって名前だったわね…………。カカ、よく聞きなさい。私の質問に答えるの。嘘をついてもいいけれど、沈黙は駄目よ」
ソフィが静かなでも怒りを感じさせる声で、霞花に話しかけた。
「アーティファクトは今どこ?」
翔は場の雰囲気の呑まれて、頭の中が疑問だらけなのにそれを口にできないでいた。質問された霞花がポツリと答えた。
「知らない……」
「嘘ね」
ソフィーが呆れた様に言い放つと次の瞬間、霞花が苦悶の声上げた。
「ぐっぁ……」
翔の目は何も捉えてはいなかったが、何が起きたのかはすぐに理解した。ソフィがまた霞花を攻撃したのだと。
翔はソフィに向かって叫んだ。
「やめろ! これじゃ、ただの拷問じゃないか!」
ソフィーは相変わらず、翔の方を向かずに霞花だけを見つめて冷たい声で言った。
「そうよ。拷問しているの。この娘の口を今日ここで割らせないと駄目だわ。犠牲者が増えるだけよ」
翔は一向に自分を見ないソフィへの怒りを抑えきれず、両手でテーブルの上のぬいぐるみを引っ掴んだ。
「こっちを見ろ! 『アーティファクトは捨てても持ち主の所に戻る』そう言ってたよな!!」
ソフィがぬいぐるみの癖にやれやれと言わんばかりの顔で翔を見た。
「ええ、その通り」
翔はソフィに現実を理解させるためにハッキリと言った。
「なら霞花がユーザーな訳がない。彼女の荷物や体を確認してもアーティファクトが出てこないんだから」
ソフィーは静かに首もとい体を振った。
「詳しく説明するつもりはないけれど、アーティファクトを携帯せずに、その力を使う方法があるわ。でもそれはゲートが開いて、まだ三日しか経っていないこの世界の人間に、分かるはずがないの。つまり
翔はソフィの言葉をゆっくりと咀嚼した。この世界の人間が知り得ない情報なら答えは一つしか無い。
「……ソフィ以外の異世界人」
ソフィが無表情に笑った。
「良くできました。彼女は異世界人か、その異世界人に接触した人間から聞いているわ。つまり仲間が居るの。どう彼女が剛情な理由がなんとなく分かるでしょう。そして私が彼女をこのまま帰す事ができないのも。その仲間が『魔眼』のユーザーである可能性は高いわ」
ソフィの言い分は正論だった。もしこのまま帰せば最悪の場合、霞花は『魔眼』のユーザーと共に翔とソフィを襲うかもしれない。翔やソフィが、石になってからでは遅かった。
「それじゃあ質問を続けるわよ。カカ、あなたはどうやって力を手に入れたの?」
ソフィが手の中で翔の方を向いたまま、霞花へ二つ目の質問を投げつけた。
「ア、アーティ、ファ、ックトと、契約じって…………」
霞花が苦痛に耐えながらそう答えた。アーティファクトと契約した事、つまりAFユーザーである事を、彼女は自分の口で認めた。
「良い子ねカカ。ほら分かったでしょ。彼女は間違いなくユーザーよ。しかも異世界人から情報を貰っている。この状況で彼女を疑うなって方が無理よ」
翔の手からソフィーがするりと抜け出し、霞花へと向き直った。
「強力な力を手に入れて異世界人と手を組んで、問い詰められても平気で嘘をつく。それがこの娘の正体よ。この部屋に来たがったのだって、絶対に碌な理由じゃないわ。妹の友達に裏切られて傷つくのはわかるけど、良い加減に現実を見なさい。彼女は敵で、嘘つきなの」
毒付くソフィーの言葉に翔は何も反論出来ずにいた。その時、度切れ度切れの笑い声が聞こえてきた。それは翔からでもソフィーからでもなく、霞花からだった。
「ハッハッハッ……笑わせ、ないっで……わたしっ…が嘘つきなら、、あなたはっ……大嘘吐き…………でしょっ、うが」
翔は狂気を僅かに含んだその様子を見て困惑した。
「霞花…………」
「はぁ……。一体、何を吹き込まれたのか知らないけど、私は嘘なんて言ってないわよ。話していない事はあるけれど」
ソフィはため息をついてそう言った。霞花は翔の目を見ながらたどたどしくでも、ハッキリと言った。
「そいつ、はソフィー、ティア、じゃない……偽物で、す」
ソフィが感情を全く感じさせない声色で問いただした
「私がソフィーティアじゃなければ、なんだって言うの?」
「イーリス…………」
翔は霞花のその発言に引っ掛かりを覚えた。何処かで聞いた事ある言葉だった。それはすぐに記憶の底から引き上げられた。
(イーリス……、『輪廻転生のメビウスリング』のイーリスか?九條がフェスでコスプレしてたイーリス?なんでその名前がここで出てくるんだ?)
「あなた、嘘を吹き込まれてるわよ。それは主の名前、私の名前は正真正銘ソフィーティアよ」
ソフィが霞花を憐れむ様に告げた。翔は疑問を素直に口にした。
「ソフィ、主というのはどう言う意味だ。上司とか先輩って事か?」
ソフィが霞花と俺に言い聞かせる様に説明し始めた。
「そのまんまの意味よ。私は使い魔みたいなものだって言ったわよね?私をデザインして生み出し、この世界に送り込んだのがイーリスなのよ」
翔はますます疑問だらけになった。
「デザインしたって…………それだと、ソフィがまるで人間じゃないみたいに聞こえるんだが?」
「そうよ、人間じゃないわ。『幻体』というアーティファクトの力で生み出されたのよ」
翔は人間だと思い込んでいたソフィが人間じゃない事に驚いた。
「マジかよ……今のが今までで、一番驚いたぞ」
「むしろ何で気づかなかったのよ。どう見ても、ぬいぐるみでしょ。人間だと思う方が変じゃない」
「いやだって使い魔とかいうから、異世界から操られている存在だとてっきり……」
「あぁーー、そういう事。それはごめんなさいね。私の言葉がよくなかったわ。適切な言葉に翻訳されなかったみたい。ポンコツね、『翻訳』のアーティファクト……」
ソフィが言語を訳している『翻訳』のアーティファクトをポンコツ呼ばわりした。そんなソフィをまるで親の仇を見るかの如く、霞花は睨んでいた。
「しら、じらしい、、……おまえは、イー、リスだ……」
霞花は再びソフィをイーリスと呼んだ。翔は今度は霞花に疑問をぶつけた
「なぁ、それって『メビウスリング』のイーリスと関係あるのか?」
霞花は辿々しく答えた。
「元ネタ、の……伝承の、、イーリスで……す。
俺は新しく生まれた疑問をソフィーに投げかけた。
「霞花はこう言ってるけど、どうなんだソフィー?」
「知らないわ」
ソフィはきっぱりと言い切った。翔はその発言に噛みついた。
「おい、おい! アニメや伝承と名前が同じなのに、関係無いは無理があるぞ!」
「別に関係無いだなんて言ってないわ。イーリスがこちらでなんと呼ばれてるか、なんて知らないわよ。ただ千年前にアーティファクトを回収したのは、確かにイーリスよ。当時は『魔眼』のユーザーでもあったわね」
ソフィの発言に翔は当然の疑問を覚えた。
「えっと、ソフィを作ったイーリスは、その千年前のイーリスの子孫か?あるいは異世界人にはよくある名前とか……」
「同一人物よ」
「…………は?」
「だから、千年前のイーリスと私を作って送り込んだイーリスは同一人物よ。何か文句でもあるのかしら?」
「あの〜〜ソフィさん、つかぬ事をお聞きますが、あなたが作れたのいつ頃で?」
「ほんの2週間ほど前だけど、それがどうかした?」
翔はその事実にドン引きした。
「え?何、じゃあイーリスって千年前から、つい最近まで生きてたってことか?異世界人の寿命どうなってんだよ…………」
「ちょっと勝手に殺さないでよ。イーリスはまだ生きているわ。今この瞬間もピンピンしてるわよ」
「あ、はい失礼しました。てかそれなら、ソフィは白蛇様の御使いって事じゃん。なんでそれを最初に言わないんだよ」
「だから、言えるわけないでしょう。千年前から昨日までの間に、こちらの世界で何があったか、なんて何も知らないんだもの」
翔は段々と状況がわからなくなってきたので言葉に出して、霞花へ確認を求めた。
「えっと、イーリスは千年前に降臨した白蛇様、ご本人で、今回の騒動を解決する為に、ソフィを作って送り込んだ。だからソフィはイーリスだって事が霞花は言いたいのか?」
翔の眼を見ながら、ハッキリと霞花が答えた。
「ちがい、ます、、こいつは、間違いなく、異世界人、イーリス、本人です」
ソフィーがまるで濡れた子犬を見る様な目で霞花を憐れんだ。
「はぁーー、カカ、異世界に生物は送れないの。送れるのは私の様な小さな物体だけ、もし人を送れるのなら、わざわざ私を送り込んだりしないわ。もし他の異世界人に会っているのなら、私が嘘を言っていない事は分かるはずよ」
ソフィの言う事はもっともだと翔も思った。ソフィをイーリス本人だと思い込んでいる事や、アーティファクトが見当たらない事は異世界人との接触を示唆している。
霞花は間違いなく異世界人か、それに会った事のある人物に接触しているはずである。
「どうなんだ?霞花に嘘を教えた異世界人もソフィーと同じ様な姿をしてたんじゃないのか?」
霞花が痛みに苦しみながら、少しずつ言葉を紡ぎ反論した。
「その、体を、『幻体』を遠隔、操作する、手段がある……。それが出来る……のはイーリス……あなた、だけ」
(『幻体』ってのはソフィの事だよな?で、それを遠隔操作できると……。だから霞花はソフィはイーリスだって言い張ってるのか?)
翔は霞花の言葉を頭の中で噛み砕く。ソフィが優しく霞花に話しかける。
「その知識も嘘よ。『幻体』のアーティファクトに遠隔操作の機能なんて存在しないし、そもそも必要無いの。私みたいに好きな容姿と人格をユーザーが設定できるし、リアルタイムでユーザーの記憶と思考を共有しているからね。どうこれでも、まだ反論できるかしら?」
翔はソフィが容姿だけでなく、人格にまで言及した事に驚いた。
ソフィの言葉によれば、『幻体』とやらは文字通りすべてをユーザーがデザイン可能な存在らしかった。
しかも主であるユーザーの頭の中も常に理解しているらしい。翔は確かにこれなら遠隔操作の機能なんて、そもそも必要ないなと思った。
「同調、すれば、いい……。『幻体』は、生み、出したA、Fユーザー、のアーティファクト……が使える……。だから、『世界の眼』と、けい、やくすれば……できる」
霞花がここにきて、まったく意味のわからない言葉を二つ使った。
(同調?『世界の眼』?なんだそれは)
翔は再び疑問をソフィーにぶつけてみた。
「ソフィ、霞花が言った言葉の意味を教えてくれ。同調とか『世界の眼』ってなんだ?」
「……………………………………………………………………………」
ソフィは翔の質問に答えず、無言だった。質問に答えず、沈黙を続けるソフィーを見て、霞花が翔を見ながら涙目で訴えた。
「お願い、せ…んぱい、い、ますぐにっ、げて、お願いっ……」
涙をポロポロこぼしている霞花の姿はとても演技には見えない。もしこれが演技なら世界中の役者は今日で廃業だろうと翔は思った。
「なぁ、ソフィ答えてくれ。俺には今の霞花が嘘をついてる様にも、騙されている様にも見えない」
「先輩、……だめっ。私、のことは信じ、なくても……良い、だ、から逃げて……殺される…………」
霞花の必死の訴えを無視して、翔はソフィへ向き直った。ここでソフィから逃げてはいけないと思ったからである。翔にはソフィも霞花も嘘をついているようには思えないし、見えなかったのだ。
だからこそソフィの言葉を最後まで聞くべきだと思った。
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
永い沈黙の末、ソフィが口を開いた。
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………不本意だけど、私の負けね」