アーティファクトって何?   作:小人3

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魔女裁判

「イーリスと直接、話をさせてください」

 

 霞花は翔に抱きしめられたまま、そう答えた。彼女は疲労と全身の痛みで指一本動かせなかった。その言葉にソフィが告げた。

 

「良いわよ。このまま話して、ずっとリアルタイムでイーリスは見てるから。返事は私が話すわ」

 

(こいつ本当に抜け目がない)

 

 その返事に霞花は今日、何度目か分からない悪態を心の中で『災厄の魔女』に向けて吐いた。そしてソフィの提案を拒絶した。

 

「駄目です。あなたが本当にただの『幻体』なら、いくらでも嘘がつける。そしてそれを、私は見抜けない」

 

 『幻体』はどれだけ生きている様に見えても、生きてはいない。契約したユーザーの言う事を素直に聞く、偽の魂を持った人形に過ぎないのである。

 

 ソフィが本当にただの『幻体』だった場合、イーリスが嘘をつけと命ずるだけで、完璧な演技で嘘をつく。そんな相手の嘘を見抜く事は不可能である。

 

「はぁ……。いいわよ直接会話させてあげる。少し待ちなさい」

 

 ソフィが待つ様に告げで数分後、ソフィの横に黒い穴が開く。『オーバーロード』のユーザーである霞花にはそれが何なのかわかった。

 別世界へのゲート、より正確には世界と世界の狭間に繋がる穴だ。

 

「ここに手を入れなさい」

 

 翔が動けない霞花を穴の近くまで、抱き抱えて運んだ。しかし霞花は手を動かせず、穴に手を入れられなかった。

 

「俺が腕を動かして入れる。それで良いか?」

 

 霞花の状況を察した翔がそう提案すると、霞花は静かにうなづいた。翔が霞花の右腕を動かして、黒い穴に入れた。霞花の右腕だけが、この世界から消える。

 

 霞花はその光景を見て、まるでこれからする事と合わせて真実の口みたいだなと思った。穴の中で霞花の右手に誰かの右手が触れた。そしてそのまま互いに握手をする。

 

『あーあー、聞こえるかしら?』

 

 霞花の頭の中に女性の声が聞こえる。それはさっきまでソフィが話していた声より、ずっと穏やかな声だった。

 その念話?らしいものに集中する為、霞花は目を瞑った。そして霞花は頭の中で返事をした。

 

『聞こえてます』

 

『それは良かった。こんな会話の仕方、初めてするから失敗したらどうしようかと思っちゃったわ』

 

『私もです。こんな方法があるとは知らなかったです。実現できるとは考えていませんでした。凄いです』

 

 霞花はイーリスと直接会話したいと言ったがその方法はまったく思いついていなかった。だから最初の時点でかなりの無理難題をイーリスに要求していた。ソフィが話した通り、生物は異世界に行けない。例えぬいぐるみ程小さくてもだ。

 

 だから世界の狭間を利用したこんな抜け道があるとは、原作知識を持つ霞花ですら知らなかった。

 

『褒めてくれて嬉しいわ。ねぇ、会話できる事が想定外なら、この時点で合格だったりしない?』

 

『しませんよ。できないと言われたら、このまま死ぬつもりでした』

 

 ソフィによる拷問のせいで、霞花の体力と気力はもうとっくに限界を超えていた。あと一本でも杭が刺されば、間違いなく死ぬだろう。それ以前に翔が即座に全ての杭を抜かなければ、その時点でお陀仏だった可能性が高い。

 

 霞花は意識を失う前に、決着をつける事にした。

 

『まず最初に約束してください。ここでの会話は後にも先にも、()()()()()()()()聞かせない、話さない、伝えない事を。念の為に言っておきますが、これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()も含みます』

 

『誓うわ。万が一にも第三者に伝わる様なヘマはしない。この会話自体、『翻訳』のアーティファクトの応用だから、原理上あなたと私にしか聞こえないわ。だから研究所のログにも残らない』

 

 イーリスの誓いが本当かは分からないが、『翻訳』のアーティファクトを応用しているという事で、霞花にはこの念話?の理屈に思い至るものがあった。

 

『もしかして()()()も翻訳するとかそういう奴ですか?』

 

 触手話(しょくしゅわ)とは、目と耳が悪い人物と会話する為に行う、相手の手を自分の手に触らせた状態で行う特殊な手話の事である。似た手段として、指文字や手書き文字なども存在している。極めて特殊な言語である。

 

『頭が良いわね。まさにその通りよ。だからお互いの手が触ってる相手としか会話できない。あなたを抱えているあのカッコイイ男の子にも聞こえないわ』

 

 イーリスが霞花の状況を茶化しつつ、霞花が懸念していた内容に釘を刺してきた。

 

『分かりました。信じます』

 

『良い兆候ね。それで私は何をすれば良いのかしら』

 

 イーリスが信じると言われて調子に乗っている事に、霞花は本気でイラっときたが無視する事にした。今は脱線している余裕はない。

 

『まず初めに自己紹介を、私の名前は()()()()です。あなたの名前を教えてくれますか?』

 

『これはこれはご丁寧に、私の名前はイーリスです。話をするのはこれが本当に初めてよ。()()()()()

 

 霞花は自己紹介の時、わざと大葉ロカと頭の中で発音したが、スルーしてカカと呼ばれた。

 

(やっぱりこいつ手強い……。しかし即興のテストなんてこんなもんだろう。初めから期待なんてしていない…………)

 

 霞花は五分間、考えに考えた質問をする事にした。正直他にもっと良い方法がある気がするが、疲労もあって頭が回らないので霞花は妥協せざるを得なかった。

 

『ひとつだけ質問があります。私が聞きたい事はそれだけです。準備はいいですか?』

 

『いつでもいいわよ』

 

『先に言っておきますが、待ったもキャンセルも質問も受け付けません。沈黙も駄目です。必ず3秒以内に回答して下さい』

 

『めちゃくちゃ念押しするわね』

 

『はい、負けた時の言い訳なんて聞きたく無いので』

 

『負け?』

 

『ルールを破った場合の話ですよ。回答の内容以前にルールを破ったら負けってだけです。()()()使()()()()()()、一発勝負でどちらの勝ちかを決めましょう』

 

『いつでも良いわ。早くやって頂戴』

 

 霞花の明らかな挑発をイーリスはスルーした。その反応に霞花は『災厄の魔女では無いのか?』という感想を持ったが、すぐにこのあとの質問で分かる事だと考え直した。

 

 霞花はすべての覚悟を決めて、質問を投げかけた。

 

『あなたは災厄の魔女ですか?はいか、いいえだけで答えてください。それ以外の回答は認めません』

 

『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そもそも災厄の魔女が何か分からないわ』

 

『私のアーティファクトはオーバーロードです』

 

それだけ答えて、霞花は意識を手放した。

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