アーティファクトって何?   作:小人3

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二人目の

新海翔は朝早くから説教をしていた。

 

「おまえら、いま何時だと思ってんだ」

 

 カーペットの上で霞花が正座させられている。膝の上にソフィがちょこんと座っていた。二人が一緒に口を開いた。

 

「「五時半」」

「分かってんじゃねぇか。近所迷惑ってもんを考えろ。この部屋の壁、あんまり厚くないんだよ……」

「「だってコイツがっ!」」

「黙れ」

 

 仲良く口と言葉を揃えて、発言する霞花とソフィを家主の翔が一喝する。二人が不満顔で口を閉ざす。

 

「はぁー……、この様子だと、霞花はもう大丈夫そうだな……」

 

 翔はつい昨日、ソフィに拷問されて、殺されかけていた霞花を見た。霞花は一転して、笑顔で答えた。

 

「はい。先輩のおかげで、命拾いしました。御礼にキスでもしましょうか?」

「……!?」

 

 翔はキスと言われて、明らかに挙動不審になる。その様子を見てソフィが蔑む様な目で翔を見た。

 

「おバカねぇ〜〜、あなた何を期待しているの?」

「……別に、、何もしてねぇよ……」

 

 ソフィに呆れられて、翔は揶揄われたのだと悟った。その様子を見て、霞花が少し不機嫌そうに翔のフォローをした。

 

「ソフィ、先輩はまだ童貞ですから、これは普通の反応ですよ?」

「フォローになってねぇよ……クソッ」

 

 翔は霞花の遠慮の無い言葉に悪態をついた。そしてずっと気になっていた事を聞いた。

 

「結局、霞花は俺たちに協力してくれるって事でいいのか? 俺、何も教えてもらってないんだが……」

 

 昨日、翔は霞花が気を失うと、彼女を自分のベッドに寝かせた。そしてソフィから、状況を聞き出そうとした。

 しかしソフィは『何も話す事はない』の一点張りで、何も答えてくれなかったのである。

 

「はい、その認識で大丈夫です」

「それは良かった。じゃあ、よろしく頼むわ」

 

 翔は正座したままの、霞花へ手を差し出した。霞花は少し恥ずかしがりながら、その手を握った。

 

「こちらこそです。何処まで、力になれるかは分かりませんが……」

 

 霞花の膝の上から、様子を見ていたソフィがボヤいた。

 

「……わたしの時とは大違いね……」

 

 霞花はソフィを両手で膝上から下ろした。ソフィは霞花へと向き直る。

 

「……何よ…………」

「何って握手ですよ」

 

 霞花はソフィへも手を差し出していた。ソフィはそれを胡乱な目で見つめていたが、やがて小さな手で器用に霞花の手と握手をした。

 

「はぁ……差別せずに、最初からこうしてくれれば、話がスムーズなのに」

「言葉が違いますよ。差別じゃなくて、区別です」

 

 霞花が微笑みながら、ソフィの発言を訂正した。するとソフィの機嫌が『ムッ』と少し悪くなった。その様子を見ていた翔は口を挟んだ。

 

「霞花、そういう挑発はやめろ。なんでいつも喧嘩腰なんだよ……」

「えっと……挑発?」

 

 霞花は翔が何を言っているのか理解できなかった。その態度を翔はしらばくれていると受け取ったようだった。

 

「何、惚けてんだよ」

 

 霞花は過去何度も経験したその光景を見て、自分がまた失敗した事を理解した。

 

「すみません。謝ります。本当に挑発したつもりはないんです…………」

 

 霞花は真顔で、ソフィと翔に頭を下げて謝った。そして、いつも言っている事を二人に告げた。

 

「私はどうもこうやって、人を不快にさせる人間みたいです。お二人にはご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」

「「…………」」

 

 頭を下げたまま、そんな事を言った霞花に翔とソフィが唖然とした。

 

 大葉霞花という少女は、無言で何も言わない二人が、何を考えているのか、手に取るように分かっていた。

 

(また……、変わってるとかおかしいって思われてるんだろうな…………)

 

 『不思議ちゃん』、『変人』、『空気が読めない子』そんな言葉たちを霞花は今までの人生で、何度も聞かされてきた。

 

 過去の経験を思い出して、霞花の心が叫び声をあげる。霞花はその声を振り払う様に、頭を上げて話を変えた。

 

「話を戻しますが、ソフィが『探知』を使えないのは何故ですか?」

 

 ソフィは霞花が空気を変えるために、真剣な話を振ったのを理解した。そして、簡潔に答えた。

 

「簡単に言うと、大きさが足りない。『幻体』がアーティファクトの力を行使する場合、『魂の力』は『幻体』自身から供給されるわ。でも『術式』は幻体の体に刻まれているから、『幻体』の大きさで性能が左右される。だから、こんな小さなぬいぐるみじゃ、ほとんど力を出せないのよ」

「なるほど……、そういう理屈ですか…………」

 

 霞花はソフィの説明に納得した。アーティファクトの力を使う場合、重要になるのはリソース源である『魂の力』と力を構築している『術式』である。この『術式』の一部は『スティグマ』という形でAFユーザーの体に刻まれるのである。

 ソフィの説明はこの理屈に沿った内容だった。

 

「いや、なるほど……。じゃあねぇよー。昨日もそうだが二人の間だけで、納得して進めないでくれ。何もわっかんねぇんだよ」

 

 昨日と変わらず、置いてけぼりを喰らっている翔が、二人へ抗議した。

 

「あなたが、おバカさんだからでしょ。少しは頭を使いなさい」

「おまえ…………ッ!」

 

 翔はソフィに『おバカさん』呼ばわりされて、ついにカチンときたらしく、声が自然と大きくなる。

 

「先輩、近所迷惑になりますよ。一体、何がわからないんですか?」

 

 霞花は静かに翔に問いかけた。翔は霞花の落ち着いた声で冷静なったのか、うんざりした調子でハッキリと答えた。

 

「全部だ。全部」

「分かりました。最初から説明します」

 

 霞花は何も知らない翔にも分かりやすく、説明する事にした。

 

「まず、私たちが言っている『魂の力』。これはゲームで言うならMPの事です。AFユーザーはこれを消費して異能力を使っています」

 

 霞花は翔に分かりやすい様にゲームに例えながら説明をする。

 

「次に『術式』。これはアーティファクトが、AFユーザーに与える異能力のその物と考えて下さい。ゲームでいうなら、スキルとか特技に相当する物です」

 

 霞花は『魂の力』をMPに、『術式』をスキルに喩えた。

 

「ここまでの説明は大丈夫ですか?」

「あぁ、なんとなく……。スキルを使うとMPが減るって事でいいんだよな?」

 

 色々と理解し始めた翔が逆に質問してきた。霞花はその反応に満足して頷いた。

 

「はい、その通りです。ここから話をソフィの説明に移します。まず『幻体』については、理解できていますか?」

「分かってる。要は『ドラファン』の召喚獣みたいなもんなんだろ」

 

 翔も調子が出てきたのか、国民的RPGで喩えてきた。

 

「その理解で大丈夫です。『幻体』は、AFユーザーによって作られた人工的な存在なんです」

 

 霞花はソフィを見ながら説明を続ける。

 

「通常の『幻体』はAFユーザーとそっくりな人型です。ある程度は自由に、容姿や人格を変えられます。しかし、普通のAFユーザーはぬいぐるみなんて作れません」

 

 霞花の説明を黙って聞いていたソフィが胸を張る様な仕草をする。そして、口を挟んできた。

 

「その通りよ。でも私は違うわ。才能あるもの」

 

 ソフィが自慢気に才能を誇示してきた。ドヤ顔をしているぬいぐるみに霞花が冷たく言い放った。

 

「凄いのはイーリスであって、ソフィじゃないんですけど……。あと、水を差さないで下さい」

「……」

 

 ソフィが舌打ちをした。霞花は不機嫌になったぬいぐるみを無視して話を続けた。

 

「話を戻します。『幻体』は単なる自立稼働する人形ではありません。一つ極めて、大きな特性を持ちます」

「大きな特性?」

「『幻体』はAFユーザーが契約しているアーティファクトも使えるんです」

 

 霞花の説明を聞いた翔が驚いた。

 

「すげぇなそれ。完璧な自分のコピーじゃん。俺そのアーティファクトめっちゃ欲しい……」

 

 霞花は苦笑いした。何故なら、霞花が今一番欲しいアーティファクトも『幻体』だったからである。『オーバーロード』と『幻体』の組み合わせは最強だと、霞花は考えていた。原作世界の翔が考えたとんでもない裏技があるのである。

 

「そこまで分かれば、イーリスが契約してるアーティファクトをソフィが使える理由は大丈夫ですね?」

「イーリスのコピーだから使えるって事だな。あぁーー、分かったぞ。ソフィが『探知』で遠くのAFユーザーを探せないのは、再現度が低いからだな」

 

 翔がソフィが大きな力をアーティファクトから引き出せない理由を理解した。霞花は補足説明をした。

 

「その通りです。本来の姿から離れ過ぎて、スキルレベルが低いって感じですね。いくらMPがあっても、それじゃあ弱い訳です。ソフィ、あなたが使える力は、本来の出力からすると、何割くらいですか?」

 

 霞花はソフィへ問いかけた。ソフィが不本意そうに答えた。

 

「……多めに見積もっても、二割ってとこね」

 

(多めで二割……、眷属化とほぼ同じくらいだね)

 

 霞花はソフィの力がどのくらいなのか、原作知識を引き合いに出して理解した。

 

「なるほどなぁーー、ようやっと二人が何を話してたのか理解できたよ。ソフィ、説明っていうのはこういう事を言うんだぞ〜〜」

「フンっ……!」

 

 翔からの嫌味にソフィが鼻を鳴らした。不機嫌なソフィは元凶である霞花へ眼線を移した。口調にトゲを感じさせながら、霞花へ問いかける。

 

「ところで、私は昨日から、ずっと疑問なのだけれど、あなたは何でこんなに詳しいの?」

 

(それ、聞いちゃいますか……)

 

 ソフィはイーリスの『幻体』である。だからイーリスの記憶を知っている。霞花が『オーバーロード』のユーザーであると、未来の記憶があると理解しているのだ。にも関わらず、霞花にとって、突いてほしく無い藪蛇をあえて突いてきた。

 

 会話内容を決して漏らさないという、約束を守る為のカモフラージュの一環なのだろう。しかしこの件に関して触れるのは、正直やめて欲しいと霞花は思った。

 

「『幻体』だけじゃ無い。『世界の眼』もそうだったわ。くわえて、アーティファクトの根本的な仕組みにもあなたは精通している。一体、誰から聞いたのかしら?」

「…………」

 

 霞花はソフィからの追求を受けて悩んだ。

 

(今更、知らないふりは意味ないから、先輩に解説したけど……。完全に失敗だったな昨日のアレ)

 

 昨日、ソフィから拷問を受けた時点で、霞花は完全に自身の生存を諦めていた。だからソフィへの反論を装って、翔が知るべき情報を可能な限り話すという方針に舵を切っていたのである。その為、本来なら話すべきでない事も口にしていた。生き延びる事など、全く想定していなかったのだ。

 

 霞花はソフィの問いかけに何と答えるべきか迷った。その時だった、翔が困って声が出せない霞花へ助け舟を出した。

 

「霞花、昨日も言ったけど、話せない事情があるのはよく分かってる。だから、無理に話す必要はないぞ……」

 

(なんて言えばいい……。話せるものなら、正直に全てを話したい……でも…………)

 

 翔は心の底から、霞花を気遣う言葉を口にしている。その好意を無碍にする事が、深く霞花の心を痛めるのは明らかな事実だった。しかし、彼女にこの場で全ての真実を話す選択肢が無い事も事実だった。

 

 イーリスが仲間になったとはいえ、『魔眼のユーザー』を石にして殺害した人物がいる事は確定しているのだ。それが原作世界の記憶を持った『災厄の魔女』である可能性は以前、高いままだった。

 

 霞花は悩んだ末に意を決して、()()()()()()()()()()

 

「…………全部、異世界人に教えられました」

「!?」

 

 翔は霞花が口にした告白に息を呑んだ。昨日の時点で、状況証拠的に明らかな事だったとはいえ、本人の口から事実を聞かされて驚きを隠せなかったのだ。

 ソフィも一言も話さず、静かに衝撃の真実を語る霞花を見守っている。

 

「その人は当然ですが、ソフィでもイーリスでもありません」

 

 霞花は慎重に情報を取捨選択しながら、言葉を続けた。不用意な発言は命に関わるので当然だった。

 

「ソフィにソフィの目的がある様に、私にも私の目的があります。今、私から言えるのはここまでです……。すみません……」

「…………」

 

 ソフィは霞花の発言を聞いても、ずっと無言だった。沈黙に耐えかねたのか、翔が口を開いた。

 

「話してくれて、ありがとう。無理を承知で一つだけ質問があるんだが、いいか?」

 

 霞花は真剣な顔で返答した。

 

「一つと言わず、幾つでも構いません。何ですか?」

「『魔眼』のユーザーに心当たりは無いか?」

 

 翔の質問に霞花の心は痛んだ。そして、これからする事で、彼女の心は更に強い痛みを覚えた。

 

()()()()()

 

 霞花はきっぱりと断言した。

 

「……そうか、分かったよ。もう聞かない。俺の我儘だな……コレ」

 

 申し訳なそうにする翔へ霞花は首を振った。

 

「当然の反応です。気にしないで下さい。客観的に言って、超怪しいですからね私……」

 

 霞花は自分で自分に怪しいと自虐する事で感じた罪悪感を誤魔化そうとしたが、あまり上手くいかなかった。その様子を見て、険しい顔でずっと無言だったソフィが口を開いた。

 

「ほんとにね。だから昨日の事は謝らないわよ。あなたの自業自得だもの」

 

 昨日、拷問で霞花を殺しかけたソフィは、堂々と霞花の自業自得と言い切った。

 

 ソフィの冗談か本気か分からない軽口に翔は苦笑するしかなかった。翔は言葉見つからず、ふと時計を確認した。時刻はまだ、午前五時台だった。

 

 時間を確認した事で、眠気が出たらしい。翔はあくびを一つした。

 

「まだ朝早いし、悪いけど俺は二度寝するわ。二人ともこれ以上騒ぐなよ。会話するなら静かにな」

 

 翔はそう言って、バスタオルを羽織り直して、薄い絨毯の上に寝転がった。その様子を見て霞花は声をかけた。

 

「先輩はちゃんと、ご自分のベッドを使ってください。床だと満足に寝れませんよ?」

「……なら、霞花はどうすんだよ。寝ないのか?」

 

 どうやら翔の頭には、後輩の女の子を床に寝かすという考えはそもそも無いらしい。霞花は努めて軽い調子で言った。

 

「私はこのまま、一度家に帰ります。着替えとお風呂に入りたいですし……」

「あぁ、そうだよな。そこの所、すっかり忘れてたわ。ごめん」

 

 翔は霞花が昨日からずっと同じ制服姿な事を思い出した。

 

「お腹も空いてるだろ。ゼリー飲料ならあるぞ。食べるか?」

 

 翔は霞花が昨日から何も食べていないという事も思い出して、そう問いかけた。

 

「申し訳ないですが、頂きます。正直かなりペコペコです」

 

 霞花は正直に空腹を訴えた。すると翔が冷蔵庫から冷えたゼリー飲料を手渡した。

 

 霞花はベッドに腰掛けると、ゼリー飲料を両手持ってチュウチュウと吸い始めた。

 

「飲み物、お茶と水しか無いけど、どっちがいい?」

「ぉ、っふぁ……で、おねふぁい、……しまふっ」

 

 行儀悪く、口にゼリー飲料を咥えたまま霞花は答えた。翔はマグカップに麦茶を注いで、霞花へ手渡した。至れり尽せりである。

 

「ごちそうさまでした。それじゃあ私は帰ります」

 

 お茶を飲み干した霞花は立ち上がって、ササっと玄関へ向かおうとする。まさに『エネルギーチャージ!』と言える食事スピードである。

 

「日は出てるけど、朝早いから気をつけろよ」

 

 翔は玄関でローファーを履く、霞花へそう注意を促した。

 

「お気遣いありがとうございます。…………おっといけない、忘れる所だった」

 

 霞花が玄関の扉を開けようとした所で忘れ物に気づいた。

 

「先輩、ソフィを貸してください。彼女、色々と便利そうなので」

「いいぞ。…………ほら、後で返せよ」

 

 翔は寝室からソフィは引っ掴んで来て、霞花へと手渡した。霞花は受け取ったソフィを鞄の中へ押し込んだ。

 

「ちょっと! あなた達、極自然に私を貸し借りするのをやめなさい! いくら私が『幻——」

 

 途中で誰かの声が聞こえたが、霞花は無視して、鞄へ押し込み無理矢理チャックを閉じた。無駄にデカいぬいぐるみのせいで鞄はパンパンになる。しかも中で何かが、暴れるせいで鞄が内側からモゾモゾ動いている。

 

「あーー、悪ノリしといて何だけど、後で怒られないかそれ?」

「『幻体』は変身して姿を変えれますから、平気ですよ。ほら、サッサっと小さくなってください」

 

 鞄の中で暴れるソフィを外からバンバン叩いて黙らせながら、霞花はそう言った。動きは止まったが、鞄はパンパンのままである。どうやら、小さくなる気は無いらしい。不当な扱いに対する抵抗の様だ。

 

「はぁ……。あとは連絡先だけですね。先輩LINGはやってますか?」

「あぁ、やってるぞ。一応」

「これ私のIDです。登録してもらってもいいですか?」

 

 霞花はスマホの画面を翔へ見せて、友達登録してくれる様に頼んだ。翔は自分のスマホにIDを打ち込んで、霞花を登録した。これでいつでも霞花は翔と連絡が取れる様になった。

 

「では、お世話になりました。今後アーティファクト回収をどうするかは、おいおい話し合いましょう」

「分かった。俺にできる事があれば、何でも言ってくれ」

 

 翔は頼もしい発言に、霞花は安堵を覚えた。早くも二人目の仲間ができたのだ。

 

 霞花は玄関の扉を自分で開けて、翔の部屋を出た。そして薄暗いの廊下を通り、エレベーターで一階へ向かった。翔の部屋七階にあるので、階段で降りる様な高さではなかった。霞花は何事もなくマンションを出た。

 

 霞花は自宅に帰るため、早朝で人通りが殆どない通りを白巳津川駅へ向かって歩いて行く。

 

(いや〜幸先が良いね〜〜。この調子なら『災厄の魔女』が相手でもどうにかなりそう)

 

 霞花の心はとても晴れやかだった。客観的に言って状況のヤバさは昨日の放課後から何も変わっていない。しかし、昨日とは打って変わって霞花の胸中は穏やかだった。

 

(よくわかんない事になってるソフィはともかく、翔先輩が仲間になったのは、本当に心強い……。AFユーザーでは無いみたいだけど、正直誤差だね〜〜。最悪、私の『オーバーロード』を押し付ければいいだけだもん)

 

 今朝、何故か新海翔がAFユーザーでは無いという驚愕の事実が発覚したが、霞花はまるで気にしていなかった。何故なら、原作世界で彼が契約するアーティファクトは正確にはアーティファクトとは呼べない代物なのである。

 

(あんな()()()()()()()()()()を使いこなすとか、翔先輩の才能って頭一つ飛び抜けてるよね〜〜。実は異世界人だったりして…………)

 

 霞花は新海翔は異世界人かもしれない、と言うあり得ない妄想をし始めていた。霞花は自宅へ向かう間ずっと上機嫌だった。だからだろう彼女に魔が刺した。

 

(せっかくだし、公園に寄り道して行くか……。あ、花がないや……。まっ、いっか別に花なんて、嬉しくもなんともないだろうし)

 

 霞花は公園で殺された『魔眼のユーザー』に手を合わせる事くらいはしてやろうと考えついた。霞花の頭の中で『憐れむな!』と慟哭する男の声が聞こえたが、彼女は無視して盛大に憐れんでやった。

 

(原作世界はともかく、この世界では奴もただの被害者だ。かわいそうに…………。安からに眠ってほしい…………。いや、マジでね?)

 

 霞花は『魔眼のユーザー』の冥福を祈りつつ、『頼むから生き返ったりはするなよ』と願っていた。実に矛盾した感情だが、原作世界で彼がやった凶行を知ればこそである。

 

(アーティファクトを手にして、推定二十日間で四人も殺してるとか、完全にイカれてる……。しかもこれ最低人数だし…………)

 

 原作世界の『魔眼のユーザー』はアーティファクトを手にして、短期間で数々の殺人に手を染めた。恐ろしい事はその被害人数がはっきりしない事だ。奴の保有するアーティファクトの数を踏まえると、おそらくもう数人は手にかけているのでは無いかと、霞花は推測していた。

 

(石にした後に砕けば、()()()()も完璧だしね。なんで『魔眼』はあんな奴をAFユーザーに選んだの?もっとこう慎重に選んでよ! 『ジ・オーダー』を見習って!!)

 

 霞花は『ジ・オーダー』が、AFユーザーとして選んだとある少女の事を、思い出していた。彼女は力の運用能力も、精神性も全て『ジ・オーダー』に相応しい人間だった。『魔眼のユーザー』とは大違いである。

 

 白巳津川公園へ着いた霞花は、昨日今日の出来事故に献花されているかも分からない『魔眼のユーザー』が亡くなった場所を探し始めた。警察による立ち入り禁止テープの一つでもあれば、わかりやすいのだが、どうやらそういうものはないらしい。

 

 警察がこの事件を殺人事件ではなく、不審死あるいは怪奇現象としか扱っていない事は明白だった。

 

 場所が分からず、霞花は公園のあちこちを探して始めた。故にそれを見つけたのは必然だったと言える。

 

「……?」

 

 それは黒い塊で、モゾモゾと動いていた。程なくしてその動く黒い塊の正体に気づいた。

 

「なんだカラスか……。誰だよ公園にゴミ捨てた奴……」

 

 どうやらカラスの集団がゴミ袋を突いている様だった。迷惑な事にゴミ袋は公園のベンチの前に捨てられていた。霞花はカラスの群れに警戒しながら、横を通り過ぎようと考えた。

 

 霞花が近づいた事で、警戒したカラスの何羽かが飛び去った。密度の薄れたカラスの群れの隙間から、ゴミ袋が垣間見える。

 

「………………ッ!」

 

 霞花はそのゴミ袋をはっきりと見てしまった。すぐに気持ち悪さと胃酸が込み上げる。霞花はついさっき食べたものが普段食べないゼリー飲料であった事に感謝した。吐瀉物があまり汚くないからだ。

 

「うぇっ、げ。あーーー」

 

 霞花は胃の中身を公園のレンガの上にぶちまけた後、震える手で、スカートのポケットからスマホを取り出して、電話アプリを開く。そして、電話番号を3つ入力して通話ボタンを押した。

 

「はい110番警察です。事件ですか?事故ですか?」

「…………公園に死体があります」

 

 ゴミ袋の正体は人間の頭部だった。

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