アーティファクトって何?   作:小人3

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なんもかんも『災厄の魔女』が悪い

 夜の冷たい風で冷静に返った二人は、恥ずかしさで悶え狂った。しばらくしてどちらからともなく、先程までのとんでもない口論に関しては、なかった事にしようと提案が出た。

 

 そして無事に黒歴史として永久封印が決定した。

 

「で?夜遅くにこんな場所で、何を探してたんだ」

 

 翔が話題を会話のきっかけに戻した。霞花は正直に『異世界から、やってくるぬいぐるみを探してました』と言いたかった。

 しかし今の翔に言っても、絶対に信じてもらえないという事は理解していたので、少しだけ嘘を付く事にした。

 

(最速でも今週の水曜日、20日のお昼以降にならないと信じてもらえない……。今日は4月17日で日曜日だから、今日を入れて、あと4日間の辛抱だ)

 

「落とし物を探してました。ぬいぐるみです。見てませんか?」

 

 霞花はぬいぐるみを自分の落とし物という事にして、既に見つけているだろう翔に場所を聞いた。ここは境内の中でも少し外れの位置にある。原作知識によると翔は神社に入ってすぐ、ぬいぐるみを発見する。

 

 だから霞花は翔は既にぬいぐるみを発見した後だと判断していた。そして素直に聞けば、きっと場所を教えてくれるだろうと考えたのだ。

 

(問題なのはぬいぐるみが、先輩に見つけられた後、自力で移動するかもしれないってこと……。でも正確な場所さえ分かれば、『オーバーロード』の力で必ず会える!)

 

 霞花は場所を聞いた後の行動を考えていた。しかしそんな彼女の思考は翔から想定外の答えを聞いた瞬間、完全に固まった。

 

「ぬいぐるみか…………悪い。見てないな」

 

(見ていない?そんなバカな! もしかして見つける前だった!?)

 

 新海翔はいつもの様に喫茶ナインボールで晩御飯を食べた後、帰宅前に腹ごなしの散歩へ出る。やがて白蛇九十九(はくだつくも)神社までやってくる。

 

そして鳥居を潜って境内に入り、その後ぬいぐるみを発見する。具体的に境内の何処で、いつどこで発見したのかは、原作知識を持つ霞花でさえ把握していない。

 

 ナインによって彼女に植え付けられた記憶のほとんどは翔の記憶だが、そこに加えてナインの主観と感情が入っている。

 

 そのため分かり辛い事が多い、くわえて記憶の中には不自然にカットされている部分も存在する。

 ナインによって、意図的にR18要素を検閲(カット&編集)されているのだ。

 

 内容はかなりプライベートな部分なので、霞花には全く必要が無い部分だったが、前後の内容からおおよその内容を察していた。

 『ナインもプライバシーという言葉は知っているんだ』と彼女は思っていた。

 

 そんな訳で、霞花は色々と穴だらけな記憶を植え付けられている。当然その内容が正確ではない事を、霞花は十分に理解していた。

 だがそれでもこんな明確な事さえ、食い違う事はあり得ないと彼女は判断した。

 

(もしかして嘘をつかれている?でもなんで私に隠すの?現時点の翔先輩は、まだアーティファクトの実在やそれらの回収に来た異世界人について何も知らない……。だからあの気持ち悪いぬいぐるみが、落ちてた事を隠す理由なんてないはず…………あっ、もしかして!?)

 

 霞花はよくよく考えて、一つの可能性に思い当たった。

 

(この世界って(みやこ)ルートじゃないの?もしかして希亜(のあ)ルートの序盤!?)

 

 原作知識によれば、未来には大きく4つの流れつまりはルートがある。都ルート、(そら)ルート、春風(はるか)ルート、希亜ルートの4つだ。ルートそれぞれで、主人公に相当する新海翔は恋人を作るが、それが誰なのかが大きな違いの一つになる。

 

 それぞれのルートは、すべての別の並行世界で起きる出来事である。世界が違うため展開も違うが、各並行世界で共通している展開も少なからずある。

 

 この境内でぬいぐるみを発見するイベントもその一つだった。全てのルートで翔はぬいぐるみを発見する、そこは変わらない。

 ただ都ルート、天ルート、春風ルートでは全く同じ流れだが、希亜ルートだけは違う。

 

 その並行世界の翔は、他の並行世界に関する記憶を持っている状態でスタートする。だからぬいぐるみの正体やアーティファクトとAFユーザーが実在する事を、この時点で知っている。

 

 そして未来の記憶を持っているのなら、記憶に無いこんな時間にぬいぐるみを探す霞花を不審がって、嘘をつく事は十分に考えられた。

 霞花はこの予想外の展開にどうすればいいのか、考え始めた。

 

「それって、大事な物なのか?」

 

 予想外の状況に固まっている霞花を不審に思った翔がぬいぐるみについて探りを入れ始めた。

 霞花はとにかく思考時間が欲しかったので、とりあえず会話を繋げて追求を躱そうとした。

 

「はい、でも今日はもう遅いので帰ります。翔先輩はなぜ、こんな時間に神社へ?」

 

翔先輩はサラリと答える。

 

「俺は単なる散歩だな……」

 

 その言葉に嘘をついている雰囲気は、まったく感じられなかった。

 

(演技なのか、本当なのか…………。いや希亜ルートでも、散歩なのは本当の事だ………………。駄目だ。考えが全然纏まらないし、嘘かもわからない。とりあえず自然な雰囲気で、先輩について行って時間を稼ごう)

 

「その散歩、私もご一緒して良いですか?」

 

彼女の提案が予想外だったのか、翔は少し動揺した様だった。

 

「あぁ……良いぜ。別に……」

 

 霞花は神社から出ようとする先輩の少し後ろを、ついて行った。

 そしてこの場を切り抜けて、ぬいぐるみを手に入れるべく頭をフル回転させた。

 

(まず私が『オーバーロード』のユーザーである事や原作知識がある事を明かすのは、絶対に駄目!!)

 

 これから起こる殺人事件の裏で暗躍する異世界人『災厄の魔女』。原作知識にある並行世界、霞花が呼ぶところの原作世界においてラスボスに相当する奴の目が今どこにあるのかは、霞花にさえ分からない。

 

 もし万が一『災厄の魔女』に霞花のアーティファクト『オーバーロード』を奪われたら、世界は間違いなく終わるだろう。

 『オーバーロード』(伝説のアーティファクト)の実在がバレる事さえ、極めて危険な相手であると霞花は考えていた。

 

 だから『オーバーロード』のユーザーである事は、絶対に誰にも話してはいけない。話さなければ『災厄の魔女』に『オーバーロード』のユーザーだと知られる事はない。

 当然の理屈である。

 

原作知識(未来の記憶)を有する事を話すのも、同様の理由でアウトになる。未来予知ができるアーティファクトなど、『オーバーロード』以外に存在しないからだ。

 未来を知っているor未来を予知した(イコール)『オーバーロード』の図式が成り立つのだ。

 

 だが一方で原作キャラ(翔達)に協力できるのは、未来の記憶(原作知識)だけというジレンマが霞花には存在した。

 

 だからこの世界が希亜ルートなら『災厄の魔女』には理解できないが、並行世界の記憶を持つ翔には理解できる符牒(あいことば)が必要だった。

 その符牒を使って味方である事と未来の記憶がある事を同時にアピールする必要性が、霞花には生じていた。

 

(翔先輩に言うべき言葉は何か…………)

 

 霞花は原作知識を頭の中で何度も確認して、この世界の運命を委ねる言葉を決めた。

 

「翔先輩」

 

 霞花がそう話しかけると、神社から出る参道の途中で翔が立ち止まってから振り返った。

 

「どうかしたか?」

 

 翔が尋ねる。失敗一つで、世界の運命が決まる。

 霞花はストレスで、胃液が込み上げるのを必死に抑えて、覚悟を決めて言葉を口にした。

 

「実は私、ヴァルハラ・ソサイエティのメンバーなんです」

 

 ヴァルハラ・ソサイエティとは天ルートで結城希亜(ゆうき・のあ)という少女によって、強制加入させられた(結成した)翔たちの組織名というかチーム名である。

 

 希亜ルート(この世界)でもあるシーンで重要キーワードとして、使われる事になる。並行世界かつ未来のワードなのである。

 よって今の会話が『災厄の魔女』に聞かれていたとしても、その意味は理解できないのだ。少なくとも天ルートで組織が結成される4月25日までは。

 

(我ながら完璧な符牒(あいことば)だと思う。これで先輩に私が味方である事や未来の知識がある事が、それとなく伝わるだろう……)

 

 霞花の発言に翔の眼が大きく見開かれる。霞花はそのまま何も言わずに彼の言葉を待った。

 どんな意味や寓意(ぐうい)を含めた言葉を使われるか分からない、一言一句聞き逃さない様にしないといけなかった。

 

「バル……え〜と、なんだって?」

 

(あっ、これ何も知らない反応だ)

 

 霞花は失敗した。世界の終わり(社会的死亡)である。

 

 その言葉と反応から、霞花は翔に並行世界の記憶が無い事を悟った。それはつまりこの世界は都ルート、天ルート、春風ルートのどれかで、確定したという事だ。同時に霞花が痛い子なのも確定した。

 

 厨二病丸出しなネーミングセンスとセリフをカッコつけて、堂々と言った彼女はどこからどう見ても、頭のおかしな厨二病患者でしかない。

 あるいは往年のアニメでのみ存在する電波少女だ。

 

(やばい死にたい…………。パンツ(ショーツ)の件も合わせて『オーバーロード』でなかった事にしたい)

 

 霞花のアーティファクト『オーバーロード』の力はとても複雑だが、一言でまとめるとタイムリープ(時間遡行)と呼ばれる異能だった。

 だから彼女にとって翔に会う前の時間へ、ほんの十数分前に過去跳躍して、一連の発言を取り消す事は簡単である。

 

 しかしそれには一つだけリスクがある。『災厄の魔女』に過去跳躍による過去改変(『オーバーロード』の実在)を悟られる恐れがとても高いという事だった。

 

 正直に言ってこの程度の小規模改変であれば、大丈夫な気が霞花にはしていた。

 しかし万が一にも『オーバーロード』の実在を気付かれる訳にはいかない以上、黒歴史がパンツ口論に加えて、追加で一ページ増える程度では、使うという選択肢自体が彼女の中に存在しなかった。

 

 一個人の恥辱と世界の運命など、天秤にかけて比べる様な物ではないのだ。渋々彼女は苦しい言い訳で、無理やり流す事を選んだ。

 

「……って言うセリフがカッコいいアニメがあるんですが、先輩は見た事ありますか?」

 

 もちろん嘘である。そんなアニメなど存在しない。だが霞花はどうか存在していて欲しいと真剣に願っていた。意味不明な厨二病発言より、アニメのセリフをカッコつけて言っただけという方が傷は浅い。

 

 致命傷が重症になっただけな気もするが、『マシなものはマシだ』と彼女は思っていた。

 

「いやないよ。なんてアニメ……?」

 

(こっちが聞きたいよ!)

 

 普段なら好きなアニメを布教したくて、しょうがないアニオタの霞花には嬉しい台詞である。

 しかし今は聞きたくない言葉だった。霞花は適当に誤魔化して、クソアニメの話でもする事にした。

 

 原作知識から『メビウスリビング』を、翔がまともに見ていない事は把握していた。

 今後の為に伏線をばら撒く必要があると、判断したのだ。

 

「ははっ……昔のアニメです…………。ところで実は今日、『メビウスリング』のフェスがあった事はご存知ですか?」

 

 霞花は急に話題転換をした後、『なんもかんも災厄の魔女が悪い』と心の中で責任転嫁を始めた。

 だが責任転嫁だけでは恥ずかしさが消えなかった。

 彼女は誤魔化す為に翔の前を歩き始める。翔は置いていかれまいと、霞花の隣を歩きながら反応を返した。

 

「知ってるよ。バイトで神社に居たし。もしかしてぬいぐるみはフェスの時に落としたのか?」

 

 翔は神社でぬいぐるみの落とし物を探していた事と、話題に出たフェスにありもしない繋がりを見出した。

 それはある意味では都合の良い勘違いだったが、彼女は不用意に嘘を付いて後からバレると非常にマズいと思ったので正直に言った。

 

「いいえ、違います。もっと前に落としました。今日は諦めますけど、絶対に見つけたいです」

 

 霞花はぬいぐるみ探しに対する、強い意気込みを表明した。

 

(なぜ翔先輩にも見つけられなかったのか、その理由は全く分からない……。でも明日また探せばいい。あのぬいぐるみは()()()には見えないから誰かが拾ってしまう事もない…………。神社の関係者に約一名見える人がいるが………………大丈夫だろう、あの人ならどうせ拾わない……)

 

 霞花は素敵な性格をした巫女さんを思い出した。

 翔はぬいぐるみに掛ける彼女の意気込みの強さへ、疑問を覚えた様だった。

 

「そこまで、大事な物なのか?その……えっと…………」

 

 翔は少し言葉を濁しながら、質問した。濁した部分が『パンツ丸出しで地面に這いつくばるくらい』という意味なのは間違いないだろう。

 

 霞花は封印された黒歴史を思い出して、顔が赤くなりそうになったが強引に再封印して、質問にだけ答える事にした。

 

「えぇ、とても、とても大切な物です。見つからないと大変な事になります」

 

 そのぬいぐるみは世界の運命がかかった本当に大切なアイテムだったので、真剣なトーンで霞花は言った。

 

「大変な事って?」

 

 翔がそんな彼女の内心も知らず、軽い調子で尋ねた。霞花は嘘偽りなく正直に答える。

 

「私が死にます」

「あーその……命は大事にな?」

 

 彼女の意味不明な発言に翔が無難な返事をした。ぬいぐるみ一つで生死を左右されるとは、如何にも奇妙な話であった。霞花は話が少し脱線したので、元に戻す事にした。

 

「話を戻します。フェスがあった『メビウスリング』、その作中に出てくるアーティファクト、あれが実在するのは知ってましたか?」

 

 霞花はサラリと核心的な話を大胆に、隣を歩く翔へ投げかけた。翔は何の事かさっぱり分からず、頭に疑問符を浮かべていた。

 

「いや、知らん……。そもそもアーティファクトってなんだ?」

 

 予想通りな反応に、気分を良くした霞花は言葉を続けた。

 

「アーティファクトというのは『メビウスリング』の登場人物達に、異能の力を与えている異世界のアイテムです。アニメでは、その異能力者達をアーティファクトユーザーって呼んでますね」

「ふーん、そうか、」

 

 霞花は得意気にアニメの設定を語るが、翔の反応は(かんば)しく無い。興味も無いアニメに対する一般人の反応など、普通はこの程度である。

 だから彼女は改めて関心を買うために、スルーされた言葉を再び口にした。

 

「そのアーティファクトは実在します」

 

 霞花ははっきりと何の臆面も無く、そんな電波な台詞を口にした。

 

「…………」

 

 翔は隣を歩く電波少女に、唖然として言葉を失っていた。彼が妹の交友関係を心配し始めた時、少女は再び口を開いた。

 

「なーんってね。本気にしました?」

 

 小悪魔の様な笑みを浮かべて、霞花は笑って冗談だと口にした。その様子を見て、翔も妹の友人がちゃんと正気である事を確認にして安堵した。

 

「脅かすなよ……。一瞬、正気を疑ったぞ」

 

 翔が霞花に抗議をした。正気を疑ったとまで言われても、霞花の機嫌は変わらなかった。

 当然彼女は参道を歩く翔の前へと飛び出した。

 そして彼の方へ振り向いたまま、後ろ向きに歩いて言葉を(つむ)いだ。

 

「ごめんなさい。でもアニメの神器はちゃんと実在してるんですよ。あそこに」

 

 霞花は最後の部分だけ、彼の肩越しに見える鳥居を指差して言った。

 その仕草に翔も釣られしまい、再び足を止めて振り返った。境内へ続く参道も終わりに近づき、白蛇九十九神社の鳥居はもう小さくしか見えない。

 

 翔は霞花へと視線を戻して、少し申し訳無さそうに言った。

 

「残念だけどその神器、今日バラバラにぶっ壊れたぞ」

 

 二人が話題にしている神器は、由緒正しい物で確かに現実にも存在する。

 だからこそ白蛇九十九神社がアニメの聖地とされ『メビウスリング』のフェスが行われていたのである。

 

 しかし運悪くフェスの最中に大きな地震が発生した。幸い人的被害は出なかったが、物的被害が出た。それが件の神器である。

 

 フェスの為によく見える展示台へ移されていた事が悪かった。由緒正しき神器は、地震の衝撃で転げ落ちた。

 そしてガラス玉のごとくパリンと割れて、粉々になってしまったのだ。

 

「ええ、知っていますよ」

 

 霞花は事もなげに言った。翔は何故知っているのか疑問に思った様だったが、すぐに納得した雰囲気だった。

 おそらくSNS(ツブヤイター)か何かで知ったのだろうと考えたのだろう。今や小学生ですら、スマホを持つ時代である。

 

 神器は撮影不可だったがフェスの目玉でもある。来場者の眼の前で破損したので、情報が出回っていても不思議では無かったのだ。

 

 霞花は神器は壊れたと告げる翔へポツリと呟いた。

 

「……でもそれって……本当にアニメみたいですよね…………」

 

 『メビウスリング』の序盤で、アニメの中の神器は破損してしまう。霞花はその事と現実の神器破損を、重ねて言った。

 翔はそんな彼女の考えを馬鹿々々しいと一蹴した。

 

「偶然の一致だろ。天災で神社や寺の御神体が破損するなんて、良くある話じゃん。それで何かあるなら今頃、日本中が妖怪とか呪いだらけさ」

 

 翔は極々当たり前の正論を口にした。霞花はそれ以上何も言わずに、前へと振り直って歩き始めた。翔も後をついて行く。

 

 残り少ない参道はあっという間に終わり、普通の道路に出た。この道路を左に曲がった後、道沿いに南下すると白巴津(しろみつ)商店街だ。そして商店街の先には白巴津川(しろみつがわ)駅がある。

 

「ここまでですね。私はこっちなので」

 

 霞花が自宅へ帰る為、右に曲がろうとする。霞花の家はここから西にある住宅地にあるのだ。

 翔は去ろうとする彼女を見て、忘れていた事を思い出し呼び止めて言った。

 

「さっきはごめん。俺はともかく、天とは仲良して欲しい」

 

 翔は何かの謝罪と、妹と仲良くして欲しいというお願いをした。それを聞いた霞花は驚いた後、少しだけ微笑んで言葉を口にした。

 

「それはどっちも私の台詞です。ごめんなさい、言い過ぎました」

 

 お互いに何かの謝罪をして、完全に今日有った事を瑕疵(かひ)なく無かった事にした。雨降って地固まるそんな光景だった。

 翔は胸の突っ掛かりが消えたのか、左に曲がって去ろうとした。

 だから霞花が続けて、投下した爆弾発言は彼にとって完璧な奇襲攻撃となった。

 

「知ってますか、まとめて買うと五色セットなので、大抵グレーが入るんですよ?」

「……ッ!?」

 

 翔が振り返った時には、霞花は既に背中を向けて去っていた。

 だから彼には彼女の顔がしてやったりと、ニヤけているのを知る術は無かった。

 

 呆然として彼女の言葉と、その意図する所を噛み締めている夢見る男の子は呟いた。

 

「そういや、名前を聞いてなかったな……」

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