アーティファクトって何?   作:小人3

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クラスメイトはお兄ちゃんが好き

「よっ!カカちゃんはいつもダウナーだねぇ〜。春からこれなら夏になったら溶けるの?」

 

 霞花は机に全力で突っ伏して、全身から話しかけないでくださいオーラを出していた。話しかけてきたのはクラスメイトの新海(そら)である。

 彼女は天と書いてソラと呼ぶ珍しい名前を持つ女の子であり、霞花が昨日会った新海翔の妹だ。

 

 特殊な名前(キラキラネーム)の由来は兄妹で合わせる事で『天翔る(あまかける)』となるという事から来ているらしい。ほとんどの人に、よくテンと間違って呼ばれる事の多い女の子だった。

 

 霞花(かか)もよくロカと間違われるので、教員の間では、名前の読み方が難しい新入生として二人は有名だったりする。当の本人達はそんな事は露とも知らないが。

 

「夏の前にGWで不登校になりそうだよ」

 

 霞花は本心から愚痴に吐いた。彼女を苦しめる命懸けのスニーキングミッションはGW明け五月中頃まで、続く公算が高い。

 

 だからGW明けに彼女の心が折れて、不登校になる未来というのはあながち非現実的という訳ではないのだ。そんな彼女の事情を知らない(そら)は無邪気に口を開く。

 

「ほうほう自覚症状はありと、これは五月病間違いないね。ところで馬鹿アニキから昨晩、神社で私のクラスメイトに会ったって聞いたんだけど、それってカカちゃん?」

 

(正直に答えようか)

 

「そうだよ。落とし物を探してたら偶然会った。良いお兄さんだね」

 

 天ちゃんがハニカミながら言葉を続けた。

 

「やっぱり。あたしのクラスで貧乳のミディアムって言ったら、カカちゃんだけだもんねぇ」

 

 天が嫌味なくそう言っているが、霞花の耳には貧乳がド貧乳という意味で聞こえていた。

 

(この学園の女の子は、みんなおっぱいが大きすぎるっ!)

 

「天ちゃん、いま何カップだっけ?」

 

 話の流れをぶった斬ったセクハラな質問に、天が胸を張ってドヤ顔で答える。

 

「Gカップ!天然モノさぁね。ほら触ってみ御利益(ごりやく)あるぞよ」

 

 そう言って天が霞花の手を掴んで胸に押し当てようとする。霞花は天の手を雑に振り払った。

 

「御利益なんてないよ」

 

 クラスの中には貧乳な事を気にする子が何人か居るが、全員霞花の敵だった。

 

(Dカップで貧乳を自称するな。十分でかいんだよぉぉ!)

 

 雑に手を払われてもまったく気にする事なく、天は朝の無駄話を続ける。

 

「そう?にぃにはいつも、これで運気上げてるよ」

 

 天は悪戯っ子の様に邪悪な笑みを浮かべながら、そんな実兄からのセクハラ話をした。

 

「それ嘘でしょ。お兄さんそんな事する人じゃないし」

 

 天はいつもこんな感じで、嘘か本当かわからない翔のシスコン話をクラスで良くしていた。もちろん翔の事が嫌いだからではない。むしろ好きだから、何かにつけて翔の話をしたいだけなのだ。

 

 ひとりっ子の霞花は話の節々で感じる兄妹(きょうだい)の中の良さにいつも羨ましいと思っていた。霞花は兄か姉が欲しかったのだ。

 

「およ?信じないって事はもしかしてカカちゃん、馬鹿アニキと仲良くなった?」

 

霞花は返答に困った。

 

「ただちょっとお喋りしただけだよ……。私、天ちゃんのお兄さんを獲ったりしないよ?」

 

 彼女は出来るだけ平静を装って平坦に言うことで、天の鋭い牽制を避けた。先週までの霞花は彼女が時々こういう質問をクラスメイトに振る理由が、よくわかっていなかった。

 

 単に仲の良いお兄さんに近づく、女の子が妹として気になるのだろうと思っていたのだ。だが実際は違うという事をナインによって植え付けられた原作知識で霞花は知ってしまった。

 

(知りたくなかった。天ちゃんがお兄さんにガチ恋してるなんて……)

 

 新海翔と新海天はしっかり血の繋がった実の兄妹である。しかし諸事情により白泉学園への進学と同時に、新海翔だけが一人暮らしをしている。

 だから天がブラコン気味なのはそういう家庭の事情が大きいのだと、霞花は勝手に思っていた。

 

 だが実は違う。表向きの理由は天の我儘で実家の子供部屋が足りなくなったからだ。天本人もそれが理由だと思っている。

 しかし実際の理由は新海翔が天の気持ちを察して、距離をとったというのが大きい。

 

 天はそこそこ本気で兄と男女の仲になりたいのだが、翔にはその気がまったくないのである。

 

(でも天ルートだと翔先輩、色んな事がありすぎて最終的に押し切られるんだよなぁ……。そして天ちゃんと一線を越えるという…………)

 

 霞花は別に兄妹で恋愛する事をもっと言えば、セックスして子供を作る事を絶対的にダメとは思っていない。道徳心や倫理、生物学上の問題を除けば、あくまでも当人達同士の問題だと考えていた。

 

 法律で禁止されている訳でもないというのが一番大きい。社会的立場や生物学的リスクなど、諸々すべてを二人が納得済みなら外野には止められない問題だと、本心から思っていた。

 

 でもその上で彼女が唯一の友達(親友)に思っている事は一つだけだ。

 

(天ちゃん、早く諦めた方が良いよ……。現時点ではお兄さんにその気がないんだし…………)

 

 天ルートは一見すると、天の念願が叶って両想いに成れた最高の世界かもしれないが、原作知識を持つ霞花は知っていた。

 

 それが天の死と隣り合わせの危険な運命だと。彼女は間違っても親友が、死んでしまう様な危険な目に合わせるつもりはなかった。

 

(私が天ちゃんの恋路を邪魔する事はない。でも同時に手助けもしない。可能な限り事件からも遠ざける……)

 

 新海天はヴァルハラ・ソサイエティのメンバーだ。ヴァルハラ・ソサイエティはAFユーザーによって構成された組織である。そこに所属するという事は兄の新海翔と同じく、新海天もAFユーザーという事になる。

 

 ただし昨日の時点で無自覚ながら、AFユーザーになっている翔と違い天がAFユーザーになるのは数日後の話。具体的には『魂を燃やす炎』のAFユーザーが、白泉学園で放火事件を起こした翌日なので、4月21日の話だ。

 

 天のアーティファクト|『スタンドアローンコンプレックス』は能力の射程が広く、かなり便利に使える。

 だから天を巻き込まない事は彼女がユーザーな事もあって、正直に言えばかなり難しい事だった。

 

 それに『災厄の魔女』と正面から異能力バトルする可能性がある以上、一人でも多くのAFユーザーが霞花には必要だった。故に天の力を利用しない選択肢は普通なら霞花にはない。しかしそれには個人的な感情以外に一つ問題があった。

 

(暴走のリスクがあるんだよね。アーティファクト……)

 

 アーティファクトは契約者に異能の力を与える。契約すればすぐに能力が使えるので、契約するだけお得に見えるが罠がある。

 

 力を使えば使うほど、長く契約すればするほど、異能の力が強まってゆく。そして最終的には暴走を引き起こす。暴走の果てに待っている物は死だけだ。

 

(翔先輩はユーザー適正高いのに、妹の天ちゃんがユーザー適正低いのほんと不思議だなぁ。こういうの血縁とかあんまり関係ないのかな?)

 

 霞花はその後も天に恋のライバル認定されない様に、牽制球をヒラリヒラリと交わし、朝のホームルームを終えた。そして何事もなく、平穏に午前の授業が始まった。

 

 霞花はテキトーに板書を取りながら、自由時間のお昼に何をするか考えた。『魔眼のユーザー』とのランダムエンカウントで、『先輩達の誰かにAFユーザーだと暴露させる作戦』をまだ考えついていなかったのだ。

 

(問題点をはっきりさせよう……。クリアすべき課題は二つ、一つ目は自然に遭遇し会話する事、二つ目は能力を目の前で使わせる事)

 

 一つ目は白泉学園二年生の九條都(くじょう・みやこ)か、玖方女学院二年生の結城希亜(ゆうき・のあ)

 二つ目は白泉学園三年生の香坂春風(こうさか・はるか)なら比較的容易と言えた。

 

(見事に食い違うな……。どちらのグループから選ぶべきか)

 

 相手と自然に会話する事と、相手に能力を使わせる事、どちらが難しくどちらの達成を優先するべきか、霞花は考える。

 

(香坂先輩だな……。能力を使わせる事の方が遥かに難易度が高い…………)

 

 霞花は香坂春風をターゲットに決めた。ただ彼女の場合、会話する事さえ難しいという問題があった。

 

(香坂先輩めっちゃ人見知りだからなぁ〜〜)

 

 極度の人見知りを発揮していた原作世界の彼女を、霞花は思い出していた。

 

(『女王』モードなら普通に話せるけど、今日の段階でそれが使えるのかどうか…………)

 

 『女王』モードとは香坂春風(はるか)が自身のアーティファクト『エデン』によって、作り出した第二の人格である。

 正確にはそうであると思い込んでいるだけだと霞花は考えていた。

 

(確かに『エデン』を使って、もう一人の自分を作る事はできる。でもそれは単なるきっかけに過ぎない。あれはただのペルソナだ……)

 

 原作世界において、結城希亜(のあ)が戦闘中に彼女を叱責した様に、もし『エデン』を常時使う事で成り立つ人格であれば、一つおかしな事があるのだ。

 

(『女王』モードの時、術式の転写(スティグマ)が出てないんだよ、香坂先輩…………)

 

 霞花の言うスティグマとはAFユーザーが能力を使っている時、必ず体のどこかに現れる光る紋章の事だ。

 場所は手の甲や顔、脇腹といった感じにAFユーザー毎に異なっている。仮に同じアーティファクトと契約しても個人差が出る。

 

 唯一ある共通点はアーティファクト毎にスティグマ形状が同じな事くらいだ。

 

 翔と春風が恋人になる世界(春風ルート)で二人は肌を晒して混浴するのだが、その時の春風は『女王』モードになっていた。

 しかし彼女の体にはスティグマが浮かんでいなかったのだ。

 

 彼女のスティグマは位置が左胸なので、上半身を晒している状態では隠し様がない。翔が見落とす事などあり得なかった。

 

(先輩は今日から能力を暴発させてる……。だから能力を使わせるのは簡単……でも最悪の場合、私も攻撃されるんだよなぁーー)

 

 春風のアーティファクト『エデン』の能力は本人曰く『自分の欲望(妄想)を現実にする事』だ。初めて能力を説明された人は『自分の欲望(妄想)を現実にする事』と言われてもピンとこないだろう。

 それはこの能力を字面通りに受け取らないからだ。

 そう『エデン』は、香坂春風は()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

(例えばもし香坂先輩が大金持ちになりたいと願ったら、たまたま拾った宝くじが当然の如く一等に当選する)

 

霞花のたとえは正確ではない。実際にそういう過程を経るとは限らないし、具体的にどれくらいの金銭を手にするかは、引き出した『エデン』の力次第である。

 だが香坂春風が考えた『大金持ちになりたい』という欲望(願い)は必ず実現される。それが『エデン』の力である。

 

(どう考えても、チートなんだよ。しかも自分や環境だけでなく他人でさえも巻き込む…………香坂先輩はそれで逆ハーレムを作った訳だし…………………)

 

 原作世界の春風は今日の朝から、登校時に必ず彼女を中心にした逆ハーレムを形成する。

 これは彼女の『少女漫画みたいに男の子にモテてみたい』という内なる願望によるモノである。思春期の女の子なら、少なからずある愛され願望を『エデン』が現実の物にしてしまったのだ。

 ちなみにその願望は登校時限定な様で、学校での彼女は目立たないボッチのコミ障オタクのままだ。

 

ついさっきまで春風の気を引こうと、何人ものクラスメイトが彼女にアプローチを仕掛けていたのに、教室に入った瞬間にそれまでのことをまるで、()()()()()()()()振る舞う光景は誰が見てもホラーである。

 

(私は『オーバーロード』の力で記憶操作や忘却に対して耐性があるけど、人格変えられちゃうのは防げないんだよねぇ〜〜。()()()があっても意味ないし)

 

 つまり下手に彼女と会話すると最悪の場合、彼女の妄想空間に取り込まれて、あれこれや口を割らされる恐れがあった。

 具体的に言えば突然、霞花が『お姉様っ!どうか私をペット(下僕)にして下さいっ!』とか言い始めるという意味不明な展開が平気で起こりえる。

 

 誰がどう考えてもチートな能力である。当たり前だが、戦闘にも応用が可能で極めて強力なバフ&デバフ(支援と妨害)として機能する。

 

(結城先輩も言ってたけど、味方全体に命中100%(必中)回避率100%(ひらめき)確定クリティカル攻撃(熱血)を同時に掛けるとか、戦術(ゲームバランス)が崩壊するんだよなぁーー。欠点は燃費が悪いから長期戦が苦手な事くらいだし……)

 

 『エデン』の支援ありで長期戦になるなど、相当の戦力差がないとあり得ないので、欠点とは言えない欠点である。

 

 ここまで規格外なアーティファクトであるが故に、その力は現実改変あるいは運命改変とも評されるが、それは正しい表現ではないと、本当に運命を操る力(『オーバーロード』)を持つ霞花は考えていた。

 

(『エデン』の正体、それは()()()()だ)

 

 その考えは原作世界で、新海翔が説明した『戦場のコントロール』という表現に近い。要は味方全員が幸運になり、敵は不運になるという事だ。

 

(『エデン』は現実では絶対にあり得ない現象を、引き起こす事はできない。具体的に香坂先輩のデスカレー創造(メシマズ)は治せない…………)

 

 いかに『エデン』でも香坂春風がお料理上手(ありえる可能性が確率0%)な事は実現不可能なのである。

 

(でもそれさえ、『エデン』で『エデン』を強化(『エデン』ループを)すれば変わる。たとえそれが戦闘中に敵が突然死する事(天文学的確率)であっても望んだ結果を手繰り寄せるっ!)

 

 霞花はつくづくチートなアーティファクトだと心の底から思った。香坂春風は絶対に、敵に回したくないお人である。

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