TS薄幸白髪赤瞳超絶カワイイ超能力美少女がサイバーパンク世界を行く   作:第616特別情報大隊

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コロシアム//母なるロシアを離れたモンスター

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 ──コロシアム//母なるロシアを離れたモンスター

 

 

「お客様。申し訳ありませんが、ここから先は関係者以外立ち入り禁止です」

 

 私たちがイヴァン雷帝の去った控室に勝手に入ろうとすると警備ボットを連れた人間の用心棒(バウンサー)に止められた。

 

 まあ、当然ですね。

 

「そう固いこというなよ。是非とも今日の主役と話したいんだ。ああやって人を殺したときどんな気分がしたかってな。これもサービスのうちじゃないか? いいだろ?」

 

「そういうサービスはやっていません」

 

「じゃあ、これでどうだ?」

 

 リーパーはこれまでの試合で儲けた金を用心棒(バウンサー)に送金。

 

「……分かった。ですが、5分だけですよ」

 

 金を受け取った用心棒(バウンサー)は少し渋い表情をしたが、道を譲って、控室の扉を開けて私たちを通した。

 

「ありがとな」

 

 リーパーは軽く手を振ってそう言い、私たちは選手控室に入る。

 

「おい。何だ? ファンのご登場か?」

 

 控室ではまだ血の滴っているイヴァン雷帝がいた。

 

 上半身らのイヴァン雷帝の肉体はやはり高度に機械化されており、あちこちに金属が顔を見せている。それに加えて凄い傷跡です。

 

 ここまでよく生き延びられたなという、そんな感じがしますね。

 

「ああ。あんたのファンだ。話を聞かせてくれよ」

 

「いいぜ。座りな」

 

 リーパーから何か感じ取ったのだろうか。

 

 イヴァン雷帝は檻の中にいたときより穏やかな表情で私たちに椅子を勧めた。まるで友人にでも接するように。

 

「あんたらはただ人が殺されるのを見たくて来たって類の人間じゃないな?」

 

「まさに、だ。あんたなら分かると思っていた。俺は同業者目線で一連の試合を見ている。その上で聞くが、人を殺したときどう思った?」

 

 リーパーはイヴァン雷帝の問いに答えながらも、自分もそう問いかける。

 

「それは初めて殺したときのことか? それともそのあとのことか?」

 

「できれば両方聞かせてくれ」

 

「ふうん。シラフで話す内容じゃないな……」

 

 イヴァン雷帝はそう言うと控室の隅に置かれていた冷蔵庫からウオッカのボトルを取り出して、ぐびぐびと飲み干した。

 

 何というか。流石はロシア人ですね。

 

「初めて人を殺したのは内戦が始まったときだ。俺はてっきり停戦協定が度々破られているウクライナに送られるものだと思っていたが、送られたのは見たことがない地方の街で、ロシア領だった」

 

 ロシアではウクライナ戦争のあとにロシア人同士の殺し合いが起きている。

 

 第二次ロシア内戦だ。

 

「俺たちの任務は母なるロシアの分裂を試みる反政府勢力に加担した人間の排除だった。それがその地方の街にいると言われた」

 

「テロリスト狩りか」

 

「ああ。俺たちは民家に押し入って住民を脅して回った。最初は、そう、ただ脅すだけだったんだ。しかし、そこに反政府勢力が現れて状況が一変した」

 

 やつらは住民を盾にしたとイヴァン雷帝。

 

「得てして人間はより強い暴力に屈する。住民は反政府勢力の方に怯え、俺たちへの攻撃を手助けした」

 

 イヴァン雷帝が忌々しげに告げる。

 

「住民の古いトラックが反政府勢力の兵士たちを運び、子供は俺たちの動きを見て反政府勢力に通報し、教会の地下には武器が蓄えられ弾薬庫になった」

 

「で、ドカンか?」

 

「ああ。反政府勢力の大攻勢が開始され、俺たちは完全に不意を打たれた。だが、それでも俺たちは戦った。人を最初に殺したのはそのときだ」

 

「その顔。テロリストを殺したって顔じゃないな……」

 

「そう見えるか? あのときの俺たちは敵は全てテロリストだと言われていたから、確かに殺したのはテロリストだぞ。ただそいつは16歳ぐらいの少年で、持っていたのはクソ古い猟銃が1丁だけだった。それだけだ」

 

「なるほどな」

 

 イヴァン雷帝が表情を見せずに語るのをリーパーは静かに聞いていた。

 

 戦場で子供を殺してしまうという話は、映画などではよくあるのですが……。やはりショックなものなのでしょうね…………。

 

「それからは慣れたものさ。何を殺しても良心の呵責なんてなかった。そんなものを感じるような余裕はなかった。俺たちの国は内戦状態で、あらゆるものが敵に回ったんだ。俺たちは生き残るために必死だった」

 

 イヴァン雷帝は地獄だったというようにまたウオッカをぐびぐび。

 

「気づけば山ほど殺していた。だが、俺は生き残った。それが全てだ」

 

「いいな。生き残るために殺す。それは必要なことだ。そいつを投げ出しちまったら、生きている意味がない」

 

「分かってもらえて嬉しいぜ」

 

 リーパーが笑みを浮かべて言い、イヴァン雷帝も笑おうとしたときだ。

 

「だが、どうしてそれだけタフな男が脳みそに余計なものを突っ込んだ?」

 

 リーパーのその言葉でイヴァン雷帝の表情が険しいものに変わった。

 

「…………何のことだ?」

 

「強化脳のインプラントだけなら分からなかったかもしれない。しかし、そいつにAIが組み込まれているならば話は別だ。その手の技術はまだそこまで出回っていないし、正直あんたには必要ないものだ」

 

 そうでした。

 

 ジェーン・ドウは強化脳には戦闘支援のAIが組み込まれていると言っていましたね。

 

 ここで私はイヴァン雷帝が何を考えているのかを読み取る。

 

『──……どういうことだ? あれは大井からの正規な譲渡じゃなかったのか? あの田中って男はちゃんと会社の許可を得たと言っていたはずだが……──』

 

 おっととー? これはビンゴのようですね。

 

「リーパー。当たりです。問題のインプラントは恐らく……」

 

「やはりな」

 

 流石はリーパー。伊達に戦闘のプロじゃないです。

 

「────同業者と言ったが、俺を殺しに来たのか?」

 

 そこで気づいたのかイヴァン雷帝が警戒した様子でそう尋ねる。

 

「そのつもりだが、ここはあんたに敬意を払おう。あんたのルールでやり合ってやる。そこであんたが俺を殺せば、とりあえずあんたは生き残れる。どうだ?」

 

「リーパー!?」

 

 まさか最初に言っていた話を本当にやるつもりですかっ!?

 

「あんたはそれでいいのか?」

 

「正直、今のあんたに負ける気はしないんだよ」

 

「舐めやがって……」

 

 リーパーが余裕の表情で言うのに、イヴァン雷帝が誰かと通信する。

 

「明日だ」

 

 そして、イヴァン雷帝が告げる。

 

「明日の最終試合で俺とやろう。それでいいか?」

 

「ばっちりだ。楽しみにしている」

 

 リーパーは獰猛な笑みでそう言い、席を立った。

 

「リーパー!」

 

 私も慌てて席を立ち、彼に続く。

 

「どういうことです、リーパー! こんなの不味いですよ!」

 

「仕方ないだろう。どうしてもやりたいんだ」

 

「またそんな我がままを……」

 

 こんな地下闘技場という名の殺人クラブで決闘するなんてどうかしてます!

 

「俺はあいつには負けない。その理由がある」

 

「理由と言うのは?」

 

「あいつの頭に入っているAIだ」

 

 リーパーはそう言うだけで詳しく説明せず、エレベーターで地上に戻る。

 

「ああ。カンタレラさんにAIをハッキングしてもらうとかですか?」

 

「馬鹿を言うな。そんなことするはずがないだろう」

 

「では、どうして勝てるって言いきれるんです?」

 

 走ってきたリーパーの車を前に私はそう尋ねる。

 

 本当に意味が分からなかった。

 

 リーパーはイヴァン雷帝を侮ってはいなかった。少なくとも彼と話していたとき、リーパーはイヴァン雷帝のことを馬鹿にした態度は取っていない。

 

 今リーパーの思考を読んでも浮かぶのは、いつもの野生動物めいた闘争心だけである。リーパーが何を考えているのかはさっぱりです!

 

「明日になれば分かる」

 

 リーパーはそう言ってSUVに乗り込み、私は肩をすくめたのだった。

 

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