TS薄幸白髪赤瞳超絶カワイイ超能力美少女がサイバーパンク世界を行く   作:第616特別情報大隊

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相互理解//彼女と彼の過去

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 ──相互理解//彼女と彼の過去

 

 

 私たちは深夜遅くにリーパーのペントハウスに帰宅した。

 

「ただいまです」

 

「誰に言ってるんだ?」

 

「家事ボットにでしょうか?」

 

 私のただいまの挨拶を聞いたのはスリープモードになっている家事ボットだけです。

 

「しかし、少しお腹が減りましたね……」

 

「何か頼むか。ハンバーガーでいいな」

 

 相変わらずリーパーは私に相談することもなく、さっさと注文してしまう。

 

「今回の仕事(ビズ)も楽しかったな」

 

「全然」

 

 危うくユージン・ストーンもろともハチの巣にされるところだったのに何を言っているのだろうか、この人は。

 

「そうか? スパイみたいな潜入のスリルあり、激しいアクションあり、そして新情報ありと盛りだくさんだったろ?」

 

「まあ、新情報については私も同意しますが……」

 

 思わぬ収穫があったのも事実。

 

 メティスとミネルヴァの繋がりとパラテックの実在。

 

「ミネルヴァ。パラテックを研究する謎の組織、か。お前はあの研究室に監禁される前は何をしていたんだ?」

 

「ただの路上生活ですよ。面白いことなど何もありません」

 

「ふうん。一応興味がある。聞かせてくれ」

 

 リーパーはハンバーガーを待つまでの暇つぶしとばかりにそう話を振ってきた。

 

「仕方ないですね……。私の生まれはセクター13/6で両親は電子ドラッグジャンキーでした。珍しくもない家庭環境です」

 

「確かによく聞く話だ」

 

「ええ。よくある話です。ハンバーガーチェーンよりありきたりですよ」

 

「友達はいたのか?」

 

「いましたよ。過去形ですが……」

 

 私はエマちゃんのことを思い出した。

 

 エマちゃんは大事な友達だった。彼女がいたから路上生活も乗り越えられた。

 

「リーパーにはカンタレラさん以外に友人は?」

 

「ジェーン・ドウ、は違うか……。友人ね…………」

 

 リーパーはかなり考え込んでいた。

 

「……いや。やはりいないな。カンタレラとお前ぐらいだ」

 

「そうですか」

 

 お金はあっても友人はいないと。

 

 職業の都合もあるのですが、結構リーパーは孤独なのかもしれない。

 

()()ではないが長い付き合いなのは、やはりこいつだ」

 

 リーパーはそういってロッカーの中から仕舞っていた“鬼喰らい”を取り出し、仕込み杖の方を逆にロッカーに仕舞う。

 

「長い付き合い、ですか。リーパーの過去ってどんな感じなのか気になるのですが、話してみる気ありません?」

 

「お前が面白い話を聞かせてくれたら、俺も何か聞かせてやる。それでどうだ?」

 

「ふむ。では、面白い話をしましょう」

 

 私はリーパーにそう言う。

 

 私に知っている面白い話なんてひとつぐらいしかない。

 

「何と私には前世があります」

 

「へえ」

 

 私の言葉にリーパーは退屈そうに目を細めた。

 

「本当ですよ。私が今より過去の時代から転生してきたんです。2020年代に世界がどうだったか教えてあげましょう」

 

「ふむ。話してみろよ」

 

 リーパーは正確な年齢は分からないが20代であることには間違いない。

 

 つまり私の前世である2020年には彼は生まれていないので、彼が2020年代について知ることは少ないだろう。

 

「まず2020年は今より平和────ではありませんでした。第三次世界大戦が勃発した年ですからね。私は九州で過ごしましたが、空爆はありましたよ」

 

「爆撃を経験したのか? 食らったか?」

 

「爆撃を食らっていたら死んでしまうではないですか。巡航ミサイルが飛んでいくのを見たり、遠くで軍の基地に爆炎が上がるのを見ただけです。それも開戦から3年程度の間、酷く散発的に行われただけですから」

 

「沖縄は酷い状態だったと聞いたがな」

 

「あっちは地上軍が侵攻してきましたからね……」

 

 第三次世界大戦────。

 

 2020年に台湾海峡を起点に始まった戦争。

 

 核兵器こそ使用されなかったもののアジア全土が戦場になり、2027年のオスロで和平条約が締結されるまで戦火が燃えた戦争だ。

 

 日本も巡航ミサイルによる爆撃や沖縄本島に対する強襲上陸作戦を受けたことで、アジア(A)太平洋(P)合同(J)(F)に加入して参戦した。

 

 酷い戦争だった。

 

「でも、それでも昔の方が治安はよかったんですよ。民間軍事会社(PMSC)ではないちゃんとした警察がいて、犯罪組織はちゃんと取り締まられていて。それに私たちのような傭兵は存在しませんでした」

 

「傭兵がいなかったのか」

 

「ええ。殺人が起きれば犠牲者がひとりでも連日ニュースになるくらい治安が良かったんですから」

 

「ふうん。俺はそんな時代に生まれなかったことに安心している」

 

「リーパーも平和な時代に生まれていれば、平和な時代の過ごし方を知っていましたよ。剣道の先生とかプロゲーマーとかしてたんじゃないですか?」

 

「興味ないな……」

 

 何だかんだで人間は生まれた時代に適応するものだ。

 

 だから、私だって2055年のTMCで路上生活をやることに適応できた。リーパーも、もし平和な時代に生まれていれば、平和な時代にあった生活をしていただろう。

 

 人間がひとりで時代を変えてしまうなんて難しいのだから。

 

「他にも食料品はちゃんと天然のもので、ハンバーガーから有機薬品の臭いがしたりはしませんでした。昔のハンバーガーはとても美味しかったですよ」

 

「へえ。羨ましいのはそれぐらいだな」

 

 治安の良さよりハンバーガーの味の方が大事。リーパーらしいです。

 

「さて、私の面白い話はこれぐらいです。次はリーパーが話してください」

 

「分かった。なら、最初に殺した人間の話をするか」

 

 リーパーはそう言って語り始める。

 

「俺が最初に殺した人間はジェーン・ドウや企業(コーポ)絡みの仕事(ビズ)じゃない。全く関係のない殺しだ」

 

「どういう経緯で?」

 

「喧嘩だ。ただの喧嘩。発端すら忘れてしまうぐらいの」

 

 リーパーは静かに告げる。

 

「最初は殴り合いだった。殴り、殴られ、血が流れた。気づけば俺は相手に馬乗りになり、相手の顔面を滅茶苦茶にしていた。歯が砕け、鼻は潰れ、酷いもんだったが、俺は興奮していた。だから、殴り続けた」

 

「相手は死んだんですか?」

 

「死んだ。他にも相手はいて、相手がナイフを抜いたから俺もナイフを使った。相手の手の腱を裂き、心臓にナイフを突き立て、抉って引き抜く。真っ赤な血が噴き出して、俺の顔面に飛び散った。生暖かったことは覚えている」

 

「……何人の相手を?」

 

「12人。全員殺した」

 

 リーパーはどうやら昔から化け物のように強かったらしい。

 

「今でも覚えてるのはそれが辛い経験ではなく、楽しかったからだ。俺は辛いと思ったことはさっさと忘れてしまう。楽しかったことはしっかり覚えておく。そうすれば人生は楽観的に生きていけるからな。だろ?」

 

「そうかもしれませんが……。人殺しが楽しかった経験ですか…………」

 

「ああ。初キルってのは快感だ。初期の貧相なステータスと装備で相手を殺し、生き残ったというのは俺にとっては楽しい以外のものではない」

 

 私が言いよどむのにリーパーは当たり前だろと言う顔をしていた。

 

 そんな話をしていたら、宅配で頼んだハンバーガーがドローンで運ばれてきた。

 

「さて、晩飯を食ったら、歯を磨いて寝るぞ。明日も何か楽しいことが待っているかもしれないからな」

 

「どうですかね」

 

 私はリーパーの言葉にあいまいに頷くと届いたハンバーガーを紙袋から取り出す。

 

 安っぽいチェーン店のハンバーガーからはやはり有機薬品の臭いがする。

 

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