TS薄幸白髪赤瞳超絶カワイイ超能力美少女がサイバーパンク世界を行く   作:第616特別情報大隊

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TMCセクター5/2──秋葉原

……………………

 

 ──TMCセクター5/2──秋葉原

 

 

 私とリーパーはセクター5/2に到着した。

 

 かつて秋葉原と呼ばれていた場所だ。

 

 今もネコミミ──作り物ではなく、プラスミドで猫の遺伝子を導入して生やした本物のネコミミのメイドさんが接客するメイドカフェなどがある。

 

「ジェーン・ドウはどの喫茶店に来いと?」

 

「こっちです」

 

 ジェーン・ドウから送られてきた位置情報に従って私たちが進むと──。

 

「ここですね」

 

 指定された喫茶店はセクター4/2の高級店ほどではないが、落ち着いた雰囲気の場所で、いわゆる執事喫茶だった。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様、旦那様」

 

 執事服姿の男性が私たちを出迎えてくれる。

 

 お嬢様という響きは…………悪くないです! 悪くないです!

 

「待ち合わせをしている。ジェーン・ドウって女だ」

 

「しばらくお待ちください」

 

 執事さんは連絡を取ると、すぐにジェーン・ドウの席に案内してくれた。

 

「お前にこういう趣味があったとはな」

 

 リーパーは席に座ると席に案内した執事さんを見て、ジェーン・ドウにそう言う。

 

「ええ。自分に忠実な人間はたとえそれが演技であったとしても心地いいものです。私の中の支配欲が満たされる気がしますよ」

 

 それに、とジェーン・ドウが続ける。

 

「ここには少なくない大井の金が入っています。防諜上、問題がない場所です」

 

「そっちがメインか。お前が男にかしずかれて喜ぶようには見えん」

 

「防諜に問題がなければ犬カフェだろうと猫カフェだろうとよかったのですがね」

 

 犬カフェや猫カフェで殺しの仕事(ビズ)の話をするリーパーとジェーン・ドウを想像すると……わりと笑えます。シュール過ぎて。

 

「さて、ARデバイスを捨てたとか? 理由を聞いても?」

 

「ハックされたような状態になったからだ。戦闘の邪魔だった」

 

「それは地獄門絡みですね?」

 

「ああ。ツムギはまだそのときのARデバイスを持ってる」

 

 リーパーはそう言って私の方を指さした。

 

「ツムギさん。念のためにARデバイスを預かっても?」

 

「ええ。構いませんが……」

 

「安心してください。あなたにも新しいARデバイスを準備してあります」

 

 そういうとジェーン・ドウは2台のARデバイスを取り出した。コンタクトレンズケースのような入れ物に入ったARデバイスを私とリーパーがそれぞれ受け取る。

 

「では、これがバグったやつです」

 

 私はそれを受け取ると、地獄門でバグったARデバイスを取り外して、ジェーン・ドウに渡す。彼女はそれを別のケースにいれ、ハンドバッグにしまった。

 

「地獄門についてはこちらでも調査します。まさかTMCの地下にああいうものが存在するというのは、我々にとっても不快な事実です」

 

「あの、地獄門について何か現時点で分かっていることは?」

 

「分かっていることですか? 私が何か知っているかのように言いますね」

 

「ああいうもの、と言っていましたから」

 

 まるでジェーン・ドウは地獄門について知っているようだった。

 

「ふむ。鋭いですね。知らないわけではありません」

 

 ジェーン・ドウはそうあっさりと認めた。

 

「私たちもパラテックについては調査をしていました。その過程で悪魔、とそう呼ばれる存在が実在することを把握しました」

 

「悪魔が実在…………」

 

「それを見たあなたたちには疑う余地もないでしょう?」

 

 確かに私たちが見たのは悪魔としか言えないものだった。

 

「悪魔は存在します。もっとも一般的な宗教で定義されるものとはいささか異なっていますが。我々は彼らを極めて高度なテクノロジーを有する、多元宇宙に跨る存在だと考えています」

 

「多元宇宙?」

 

 ここでリーパーが理解できないという顔をした。

 

「ええ。複数の宇宙を悪魔たちは行き来している。その多元宇宙のうち、もっとも悪魔たちが多い宇宙を我々は地獄と呼んでいます」

 

「パラレルワールドってやつですか? Ifの世界っていうか……そういう感じの?」

 

「そんな三流のSF作家が考えたような妄想の産物ではありません。我々の宇宙とは物理法則すら異なる世界のことです。我々は宇宙の始まりを突き止めようとしており、それが一度だけ起きるものではないと理解しつつあるのです」

 

 この宇宙が存在する世界の全てだということはなく、宇宙はこれまでも何度も生まれてきたかもしれないとジェーン・ドウは語る。

 

「人類はひとつの宇宙だけでも持て余しています。人類は自分たちの暮らす宇宙の果てを知らず、この宇宙の中の本当にちっぽけな領域で殺し合っている。実に下等な生き物ではないですか」

 

 ジェーン・ドウは呆れたと言うようにそう語り、続ける。

 

「ですが、悪魔どもはひとつの宇宙どころか複数の宇宙を股にかけて行動している。これを見た学者が悪魔につけた科学的な名称は『多元宇宙的恐怖』というものです」

 

「多元宇宙的恐怖とはな。そいつをぶった斬った俺はどうなる?」

 

「エクソシストとでも名乗ればどうですか?」

 

 ジェーン・ドウはリーパーのヤジにそう適当に応じた。

 

「そして、地獄門ですがこれは悪魔たちが移動する際のポータルと考えられています。このポータルを経由して悪魔たちは多元宇宙を移動している、と」

 

「なら、TMCの地下にそれがあったのは……」

 

「危うくTMCが悪魔だらけになるところでしたね」

 

 私が驚きながら思わず声を出すのに、ジェーン・ドウは肩をすくめた。

 

「これからもこの件については調査を進めることになるでしょう。ミネルヴァがかかわっているとなればなおさらです。連中はテロリストのようなものですから」

 

 ジェーン・ドウはそう言って話は終わりだと言うように手を振った。

 

「行きましょう」

 

 私とリーパーは席を立ち、セクター5/2の通りに戻る。

 

「ジェーン・ドウが地獄門や悪魔について知っていたのは意外でしたね」

 

「そうか? あいつが知らないことなんてないようにも思えるけどな」

 

 リーパーは新しくジェーン・ドウから受け取ったARデバイスを装着し、マトリクスから古い端末の情報を移行させ始めた。

 

 昔のスマホの機種移行よりこの手の作業はらくちんになっています。

 

「どうしてそう思えるんです?」

 

 私もデータ移行をさせながらリーパーに尋ねる。

 

「さてな。何となく、だ」

 

「何ですか、それ……」

 

 もしかして、適当に言っただけじゃないです?

 

「それよりここら辺には久しぶりに来たな」

 

「前にも来たこと自体はあるんですか?」

 

 リーパーが秋葉原のような場所に来ていたとは意外です。

 

「殺しの仕事(ビズ)でな。ここにいたある人間を殺した」

 

「ですよね。あなたがここに興味があるようには見えませんし」

 

「そうでもないぞ。この街には珍しい昔のゲーム機があるとも聞くしな。せっかくだから見て回らないか?」

 

「別にいいですよ。私もこの街には興味がありますしね」

 

「よし。じゃあ、適当に見て回るか」

 

 私たちはセクター5/2の電気街をぶらぶらと探索することに。

 

 セクター5/2はアニメなどのサブカルチャーだけではなく、電気街としての側面も残っている。

 

 大きなお店ではとんでもなく高価なサイバーデッキが売られていたり、路地に入った怪しげな店では企業(コーポ)のブラックアイスを突破できるという氷砕き(アイスブレイカー)が売られていたりと様々だ。

 

 私とリーパーはお店を冷やかしたりしながら、古いゲームを探す。

 

「おっと?」

 

 そこでリーパーが足を止めた。

 

「あれ、やったことあるか?」

 

 そう言ってリーパーが指さしたのは──カプセルトイの販売機です。

 

 お金を入れて捻ると小さい玩具が出てくるものですね。

 

「あの手の販売機は絶滅したものだとばかり……」

 

 昔は当たり前のようにあったそれも今では治安の悪化などもあって壊されることが多く、採算が取れなくなったのか、前世ぶりに目にしました。

 

「やったことは?」

 

「まあ、遠い昔に何度か」

 

「やってみないか? 何が出るか楽しみだろ?」

 

「こういうのも好きなんですか?」

 

 これもゲームではあるでしょうが、リーパーが好きなゲームのイメージとは違う。彼はプレイヤースキルで何もかもねじ伏せるのが好きな人間だ。

 

 だから、こういう運任せで結果が決まるものが好きだとは思えなかった。

 

「運も実力のうちって言うだろう? 運試しとこうぜ」

 

「はいはい」

 

 私たちはカプセルトイの販売機が並ぶ無人の店に入り、自分のほしい玩具が描かれたものを探す。

 

「私はこれですね」

 

 私が選んだのは猫のフィギュアが当たるもの。可愛い猫の小さなフィギュアが描かれた販売機を選びました。

 

「俺はこれだな」

 

「へえ。ミニカーですか? 結構、子供っぽいんですね」

 

 リーパーが選んだのは何種類かのミニカーが当たるものだった。

 

「表に描いてある商品はどうでもいいんだが、シークレットってやつが気になってな」

 

「確かに気になりますね」

 

「当たるかどうかの一発勝負といこう」

 

 リーパーはARデバイスから送金し、販売機のバーをぐるりと捻った。

 

「私もやってみますか」

 

 同じように私も送金して、バーを捻る。

 

 ガチャンと音を立ててカプセルが出てきた。外から見た限りでは中身が何なのかは分からないので、私は早速開けてみる。

 

「おお。見てください、リーパー。こたつの上で丸くなる猫ですよ」

 

「なかなかいいな? だが、俺のもそう悪くはないはずだ」

 

 私が当てたフィギュアを見せびらかすのに、リーパーもカプセルを開けた。

 

「おお? それってスポーツカーですよね?」

 

「シークレットのやつだな。いいだろ?」

 

 リーパーは曲線的で未来的なフォルムをしたスポーツカーのミニチュアを私に見せびらかす。悔しいですが作りとしてはリーパーのミニカーの方が上です。

 

「運がいいんですね。そんなにあっさりシークレットを当てちゃうなんて」

 

「かもな。俺は昔から運がいいって言われてきた」

 

「そうなんですか?」

 

「こんな仕事(ビズ)をやってるんだぞ。もし本当に運が悪かったら今頃は死んでただろうな」

 

「それはそうですが……」

 

 私は前から気になっていたことがあった。

 

 リーパーの超人的、いや不可思議なまでの強さだ。

 

 彼は完全に生身にもかかわらず、銃弾の雨の中を日本刀一本で突破し、敵を殲滅してきた。それが私にはどうしても理解できないのだ。

 

「リーパー。あなたは運がいいから強いんです?」

 

「馬鹿にしてるのか? 俺はちゃんとプレイヤースキルも磨いてきた。運に任せて仕事(ビズ)をやってきたわけじゃない。運任せにボタンをガチャ押しするような阿呆どもとは違う」

 

 私が言うのにリーパーは少し憤慨していた。

 

 

「だが、まあ、他の大勢より運はいいだろうな……」

 

 

 そうリーパーは静かに呟いた。

 

 

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