TS薄幸白髪赤瞳超絶カワイイ超能力美少女がサイバーパンク世界を行く   作:第616特別情報大隊

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始まりの場所にて//廃村と闘犬

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 ──始まりの場所にて//廃村と闘犬

 

 

 私はそれから2日間、お金持ち向けの病院とやらに入院したのちに退院した。

 

「今回のことでジェーン・ドウから緘口令なんかは?」

 

「ないぞ。その手のものは。ただし、だ」

 

 リーパーは渋い顔をして続ける。

 

「暫くTMCを出てほとぼりを覚ませ、と言われている。今回のクーデターの件で大井内部は暫く荒れるからと」

 

「TMCの外ですか……」

 

 かつての日本でも東京などの都市圏以外の地方は人口減少を受けて過疎化していた。

 

 だが、今においては政府がTMCへの一極集中を容認したために、過疎化どころではなくもはや僻地と化している。

 

 文字通り僻地だ。インフラの整備は放置され、人口は僅かとなり、何もなくなった場所が広がっているのです。

 

 一部の都市圏に近い場所では、電力施設や合成食料プラントなどが整備されたりしているが、基本的に地方には何もないのが今の日本だ。

 

 TMCの外に出るということは、そういうところに向かうということ。

 

「当てはあるんですか? TMCの外には何もないでしょう?」

 

「昔、暮らしていた場所に向かうつもりだ。そこなら一応過ごせる」

 

「TMCの外で生活してたんですか?」

 

「ああ。ずっと昔にな」

 

 リーパーはそう言い、TMCの外に出るために高速道路に乗った。

 

 高速道路はTMCに並ぶ都市圏である関西(K)メトロ(M)コンプレックス(C)に繋がるものだ。

 

 リーパーはその方向に向けてSUVを走らせ、暫くすると高速道路を降りた。

 

「この近くですか?」

 

「もっと山の方だ」

 

 山の方……。そっちには本当に何もないはずですが……。

 

 リーパーは閉店した店ばかりが並ぶ市街地をSUVで抜け、本当に山の方に入った。

 

 山の方に入るとバイオハザードマークの張り紙が付けられた施設が見える。恐らく変異した高病原性鳥インフルエンザや、あらゆる家畜を媒介にするゼータ・ツー・インフルエンザで封鎖された畜産施設だろう。

 

 世界には青ざめた馬が駆け抜け、今や世界は危険な病気だらけだ。

 

「まだ山の方に行くんですか?」

 

「山奥の真っただ中にあるからな」

 

 リーパーは最後に整備されたのがいつかも分からない道路を駆け抜けて、山奥へ、山奥へを車を進めていった。

 

 それからどれだけ走っただろうか。私は代わり映えのしない景色に飽きて、うとうとと眠気と戦っていた。

 

 と、そこでリーパーはSUVのブレーキを踏んだ。

 

「着いたぞ」

 

 リーパーはそう言ってドアを開けた。

 

「廃村、ですかね……?」

 

 そこは数軒の廃屋が並ぶだけの、寂しい場所だった。

 

 廃屋となっている建物はかなり古く、侵食してきた植物に覆われてぼろぼろです。お化けが出ると言われても信じてしまうでしょう。

 

 人気はまるでなく、生活臭もない。ここに今も暮らしている人はいないようだ。

 

「ここがあなたの生活していた場所、ですか?」

 

「そうだ。少し歩いて見て回ろうぜ」

 

「はいはい」

 

 私はリーパーを前に廃村を歩く。

 

「俺はこの家で育った」

 

 リーパーが示すのは一軒の民家で、やはり廃屋だ。

 

 住居らしい建物があり、それに併設して大きな倉庫があった。

 

「育った……。生まれた場所は別ですか?」

 

「生まれた場所はしらん。ただ俺は赤ん坊のころにあの山に捨てられていて、ここの住民が俺を拾った。それだけだと聞かされている」

 

「捨てられていた…………」

 

 リーパーの過去は暗いものだろうと思ったが、まさか山の中に捨てられて、育児放棄されていたとは…………。

 

「この家じゃな。隠れて闘犬をやってたんだぜ。昔は土佐犬やピットブルが大勢飼われていた。俺もそんな犬の一匹みたいなものだったよ。『おい、お前。あれをしろ。これをしろ』ってな」

 

 リーパーは昔を懐かしむようにそう言い、倉庫の方に向かった。

 

「ここだ。ここで犬どもが戦っていた。俺は犬どもが殺し合うのを見るのは嫌いじゃなかった。娯楽と言えば、それぐらいだったからな」

 

「闘犬は完全に禁止されているものですよね?」

 

「そうだ。その上、ここの人間は賭けまでやっていた。闘犬の様子をアングラのサイトで配信して、オンラインで賭けられるようになっていた。あそこに古いWebカメラがあるだろ? あれで闘犬の様子が映されていたんだ」

 

「うへえ」

 

 闘犬なんて動物愛護の精神に真っ向から反発するものですし、それに加えて賭博までやっていたとなると、ここに暮らしていた人間がまともとは思えませんね……。

 

「そう言えば、猫もいたんですよね? 猫を飼っていたのもここですか?」

 

「ああ。ここで出た犬の餌の残りをやっていた。賢いやつで闘犬が行われてるときは、どこかに逃げていたな。終わってからふらりと戻ってきて、俺から餌を貰うのがルーチンだった。懐っこいやつでもあったから、ここの犬より好きだった」

 

「あれ? 前にも言っていましたが犬派ではなく、猫派ってことですか?」

 

「別にそういうわけじゃない。俺にとって犬は力の象徴で、猫は自由の象徴だ。俺は闘犬を見るのは好きだったし、猫の世話をするのも好きだった」

 

「複雑ですね」

 

 リーパーは普通の家庭環境で育っていない。

 

 彼にとって犬は闘犬で戦い、殺し合う存在だ。幼少期から闘犬を通してしか犬のことを知らなかったリーパーにとってはそれが全てなのである。

 

 彼が犬を自称するのは別に自らを卑下しているわけではないのだろう。彼にとって犬は獰猛に戦い、相手を死ぬまで襲い続ける恐ろしい存在なのだから。

 

「この家でずっと育ったんですか?」

 

「いいや。ある日、決裂した」

 

「決裂…………」

 

 リーパーが告げた言葉に、私は首をひねる。

 

「犬同士を戦わせて、賭博で稼いでいたと言ったが、それが頭打ちになってきたらしく、新しい催しものとやらを連中は考え始めていた。それで思いついたのが、犬に殺させる相手を変えることだった」

 

「殺させる相手を変える?」

 

「人間を殺させて、そいつをスナッフフィルムにして売ろうってわけだ」

 

「そんな……!」

 

 おぞましいことです。犬に人間を殺させて、それを見世物にするなんて!

 

「それに連中が犬食わせるために連れて来たのは子供でな。少女と少年がふたりだった。俺はそいつらが連れ来られたときには、まだ何をするのか知らなかったから、別に興味もなかった」

 

「どうなったんです?」

 

「最初に犬に食わされたのは少年の方だ。凄い悲鳴が聞こえてきて、俺がここを覗いたら少年が犬に生きたまま食われていた」

 

 リーパーはそう言って倉庫の中にある黒いしみに視線を落とした。

 

 まさかこれが少年の流した血だったりするのだろうか…………?

 

「酷いものだった。犬は最初に首を狙わないようにしつけてあった。即死すると面白くないって理由だったらしくてな。最初に犬は腹を裂き、それから頬の肉が裂かれ、手足が引き裂かれていた。辺りは血まみれだ」

 

 僅かな嫌悪を込めてリーパーはそう語る。

 

「俺は次に少女が犬の餌になると理解した。俺は闘犬は嫌いじゃなかったが、連中がやったように人間を餌にするのは嫌いだった。それは対等な勝負じゃないから、面白くないと思ったんだよ」

 

「対等、ですか」

 

「人間を相手にさせるとしても、子供ではなく大人だったら文句もなかったんだがな」

 

 リーパーの価値観はやはり変な感じです。

 

「で、俺は連中のやっていることが気に入らなかったから、連中を殺すことにした。それが最初の殺しだ。以前、この話はしたよな?」

 

「ええ。12人殺したんでしたっけ……?」

 

「そうだ。12人殺した。闘犬をやっていた連中と、スナッフフィルムを撮影していた連中、そして殺しの様子を生で見に来た悪趣味な金持ちとその護衛」

 

「そのあと、どうなったんですか?」

 

 リーパーはここで育てられたと聞いた。ここにいた闘犬やスナッフフィルムをやっていた連中に育てられていたのだろう。

 

 彼らを殺したあとで、リーパーはどう生きてきたか…………?

 

「金持ちを殺したことでバイタルの情報が通報され、そいつが契約していた大井統合安全保障の救急サービスが飛んできた。救急サービスではあるが、完全武装の連中だ」

 

 リーパーはそう語る。

 

「俺はそいつらと戦うつもりはなかったが、向こうはそうじゃなかった。犬の餌にされそうになっていた幼い少女を除けば、唯一の生き残りである俺が金持ちを殺したのは明白で、連中は俺を拘束しようとしてきた」

 

「抵抗したんですか?」

 

「当然だろう。捕まるいわれはない。金持ちが死んだのは自業自得だ」

 

「まあ、確かに私も子供が犬に食い殺されるのを嬉々として見学しに来る人間に同情はしませんけどね」

 

 悪趣味な金持ちと悪趣味な仕事(ビズ)をしていた連中が死んだだけで、リーパーに何かしらの非があるようには思えない。

 

 ただ今の世界の金持ちは特権階級で、正義なんて存在しないってことです。

 

「俺はナイフを使って連中を殺した。最初の数名は楽だったな。油断していたからあっさりと殺せた。それからは手ごたえがある勝負だった」

 

「完全武装の大井統合安全保障のコントラクターを殺したんですか……?」

 

「そうじゃなきゃ、俺はここでこうして生きていない」

 

 そう言いながらリーパーは倉庫の壁に視線を向けた。

 

 そこにはいくつもの銃痕が刻まれており、激しい戦闘があったことを示唆している。

 

「だが、所詮はガキに過ぎなかった俺がいつまでも大井統合安全保障なんていう大手民間軍事会社(PMSC)を圧倒できるわけがない。次第に追い詰められていったそのときだ。あいつが来た」

 

「あいつ?」

 

「ジェーン・ドウだ」

 

 おや。ここでジェーン・ドウが出てくるとは……。

 

「あいつはそこらの民家に立て籠もった俺に対して、金持ちを殺した罪などで拘束しないと約束し、これからの生活を保障するから自分に従えと命じてきた」

 

「犬になれ、と」

 

「そう。闘犬に使われる犬のように相手をかみ殺す犬になれとな。俺はそれを断らなかった。俺はそうしてジェーン・ドウに拾われた」

 

「なるほど。そういう経緯だったのですか……」

 

 ようやくリーパーの過去とジェーン・ドウとの繋がりが分かりました。

 

「俺にとってここでのことは、自分が主人公だと思わせるのに十分なことだった。だってそうだろう? 何十人も殺し、兵隊を相手にしても緒戦は勝利し、殺したことの罪を問われるどころか救済された。それに…………」

 

「それに?」

 

 私はリーパーがどうして世界をゲームのように捉えているのか疑問だった。

 

 確かに自分が助かり続けたというのはゲームの主人公のように思えるかもしれない。主人公が死ねばゲームはそこで終わり、世界は真っ暗になってしまうのだから。

 

 だが、それだけで主人公だと思い込むのは、いささか薄い理由な気もします。

 

 本当の理由が、リーパーの口から語られた。

 

 

「俺には未来が見える。だからだ」

 

 

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