TS薄幸白髪赤瞳超絶カワイイ超能力美少女がサイバーパンク世界を行く   作:第616特別情報大隊

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フィルビーの憂鬱//全ての結末

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 ──フィルビーの憂鬱//全ての結末

 

 

 それから張妙鈴さん、ミネルヴァの工作担当官(ケースオフィサー)であるイーサンが連行されて行く。

 

 残念だがユウト・ノイマンさんは死体袋での撤退となった。

 

「事情を教えてくれませんか、ジェーン・ドウ?」

 

「いいでしょう。終わったことですから」

 

 ジェーン・ドウはそう言って、私たち向けの説明を始めた。

 

「あなたには言っていませんでしたが、この作戦では保安部内の二重スパイをあぶりだすためでもありました。我々の防諜作戦は保安部内の裏切り者によって、たびたび頓挫していたからです」

 

「張妙鈴さんが裏切り者だと分かっていたんですね?」

 

「ある程度は。彼女が保安部に入った経緯には疑問がありましたので。彼女が保安部に入ったのには、ミネルヴァなどの介入があった可能性があります」

 

 なるほど。だが、分からないことはまだまだある。

 

「アンディ・イトウさんが二重スパイならば、工作担当官(ケースオフィサー)の居場所はこんな大騒動をしなくても分かったのでは?」

 

 そうなのです。彼が協力者ならば、工作担当官(ケースオフィサー)がここにいるのは分かっていたはずですが。

 

「確証性の問題です。彼は確かに工作担当官(ケースオフィサー)から居場所を伝えられていましたが、どこまで彼が工作担当官(ケースオフィサー)から信頼されているかには疑問がありました」

 

「そこでこいつを泳がせて、二重スパイの疑いのある張に追わせた。工作担当官(ケースオフィサー)が本物かどうかは、裏切り者の張が証明してくれるってわけだ」

 

「珍しく頭の回りが早いですね、リーパー。その通りです」

 

「簡単なクイズだ」

 

 リーパーの言う通りなのでしょう。

 

 アンディ・イトウが信頼されているかの証明を、裏切り者の疑惑がある張妙鈴さんに行わせた。

 

 これならば工作担当官(ケースオフィサー)が本物かどうかも、張妙鈴さんが二重スパイだったかどうかもはっきりします。

 

「アンディ・イトウ氏は最初から私の協力者で、長くミネルヴァに対する二重スパイとして活動していました。その成果がようやく実ったわけです」

 

 ジェーン・ドウは自分の功績を讃えるようにぱちぱちと拍手した。自画自賛です。

 

「これで仕事(ビズ)は終わりです。改めてご苦労様でした」

 

 ジェーン・ドウはそう言い、サンライズ・リサイクル・サービスと偽装された大井統合安全保障のパワード・リフト機で去った。

 

「何というか……。怒涛の展開でしたね…………」

 

「ああ。ストーリー重視のイベントだったな」

 

 アクション面では不満が残るとリーパー。

 

「私がアンディ・イトウさんに接触しないようにしたのも、彼が二重スパイだと私が気づいてしまうのを避けるためだったのでしょう。私がポーカーフェイスを維持できないと思われたのですね」

 

「自覚はあるだろう?」

 

「まあ、あると言えばありますけど」

 

 リーパーが茶化すのに私は渋々頷く。

 

「それじゃ、帰ろうぜ。仕事(ビズ)は終わった」

 

「はい」

 

 私はリーパーが呼んだSUVに乗って、セクター13/7の危険な汚染地帯を去った。

 

 

 * * * *

 

 

 私とリーパーがジェーン・ドウに呼び出されたのは、仕事(ビズ)が終わってから2日後のことだった。

 

 報酬を渡すということで、私たちはセクター4/2の喫茶店に向かった。

 

「さて、以前の仕事(ビズ)では助かりました。無事に私たちは保安部に忍び込んでいた二重スパイを摘発し、ミネルヴァの工作担当官(ケースオフィサー)が握っていた資産(アセット)についても摘発が進んでいます」

 

 ジェーン・ドウはそう報告。

 

「やはり張妙鈴を保安部に引き入れたのは大井内に前々から潜伏していた二重スパイだったようです。そちらについての処理は完了しています」

 

「処理、ねえ」

 

 人生からの解雇同様に処理もそういう意味なのでしょうね……。

 

「それからいくつか分かったことがあります」

 

 ジェーン・ドウが続ける。

 

「ミネルヴァの目的。それは我々大井にもパラテックの研究に従事させようとしていたということです。そうすることで、我々をミネルヴァの同盟者に引き入れようとしたわけですね」

 

「ほう。そうなればメガコーポのひとつが頼もしい自分たちの味方になる」

 

「ええ。それから彼らはメティスと我々をパラテックを巡って敵対させようともしていました」

 

「対立する両陣営にとって利益になるものを握っておく。蝙蝠外交でも考えたか?」

 

「でしょうね。大井とメティスを争わせて、自分たちは漁夫の利を得ようしていたとも考えられますが」

 

「どの道、大井とメティスが仲良しというわけでもあるまいし」

 

「その事情が変わりつつあります」

 

 リーパーが冗談のように言うが、ジェーン・ドウは首を横に振る。

 

「近々、我々が拘束しているユージン・ストーンとメティス側にトロントで拘束されている我々の工作担当官(ケースオフィサー)で捕虜交換を行う予定です」

 

「え? ユージン・ストーンを?」

 

「そうです。彼は表向きはメティスの正規職員ですので、メティス側も取り戻したがっていましたから。そして、これは我々が示す譲歩の証です」

 

「譲歩…………?」

 

 大井がメティスに譲歩? 凄く仲が悪い二社のはずですが……?

 

「今の問題は両社の対立よりも、ならずものでありながら危険な技術を持つミネルヴァです。我々もメティスもミネルヴァは共通の敵になります。我々は一度握手をして、その間にならずものを始末しようというわけですよ」

 

「はあん。長続きしなさそうな同盟だな?」

 

「どうなるかは私にも分かりませんが、上はミネルヴァに乗せられてメティスと争うのは無駄だと思っています」

 

 リーパーは本当にメガコーポに対して冷笑的です。一応は雇い主なのに。

 

「これからもこういう仕事(ビズ)はあるでしょうが、我々がメティスと今は争わないという方針は理解しておいてください。それでは今回の報酬です」

 

 ジェーン・ドウはそう言ってリーパーに報酬を支払うと、さよならという感じに手を振ったのだった。

 

 私とリーパーはそれを受けて席を立つ。

 

「大井とメティスが握手、か……」

 

「凄く仲が悪い企業同士なのに、ですね」

 

「ああ。医療用ナノマシン分野で独占を続けているメティスを大井はずっと目の敵にしていたはずだ。そんな両社が争いを一時的にでも止めるほど、ミネルヴァは厄介な存在になったわけだ」

 

 大井に限らずメティスは医療用ナノマシンを独占しているため、他のメガコーポと滅法仲が悪いというのはよく聞く話です。

 

「これからミネルヴァを巡ってデカい戦争が起きるかもな」

 

「それは困りますね……。ミネルヴァからは知りたいことがいろいろあるのですから」

 

 ミネルヴァには教えてもらわなければいけないことがある。

 

 私にとっては都市伝説や悪魔はさほど重要じゃない。重要なのは私の頭に存在し、今も脳を侵襲しているΩ-5インプラントを除去すること。

 

 そのためならばどんな仕事(ビズ)でもやりますよ。

 

「あまり焦りすぎるな。前のめりのなっても転ぶだけだ」

 

「分かっています。勝手には動きません。ジェーン・ドウを信頼します」

 

 しかし、と私は続ける。

 

「ジェーン・ドウは本当に私たちのことを信頼しているのでしょうか……?」

 

 今回の仕事(ビズ)では信頼できる人間として動員されるも、その中には二重スパイの疑いがあった張妙鈴がいたわけで。

 

「こういうだろう。敵は近くにおけ、と。張の件はそういうことってだけだ」

 

「私たちも傍に置かれていますが、彼女の敵ですか?」

 

「いいや。俺たちは犬だ。犬は飼い主が望もうと望むまいと近くにいる。それが本能ってだけの話でな」

 

「さいですか」

 

 私たちは今もまだ犬というわけです。

 

 私も自分が助かるならば、いくらでも犬を演じよう。

 

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