TS薄幸白髪赤瞳超絶カワイイ超能力美少女がサイバーパンク世界を行く   作:第616特別情報大隊

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パブリックエネミー//カレーの世界

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 ──パブリックエネミー//カレーの世界

 

 

 私とリーパーはパワード・リフト機でセクター4/2に向かった。

 

 パワード・リフト機はセクター4/2の交通ハブにて着陸し、私たちを降ろした。そこからは事前に呼んでおいたリーパーのSUVで喫茶店に向かう。

 

「ご苦労様でした。無事にテロは阻止されましたね」

 

 ジェーン・ドウはいつものように涼しい顔をして、喫茶店の個室で待っていた。

 

「エージェント-27Uによる人的被害はテロリストだけ。完璧な仕事(ビズ)だったと言えるでしょう。素晴らしいことです。あなた方に任せて正解でした」

 

 珍しくべた褒めのジェーン・ドウ。ちょっと怖いです。

 

「満足したならいいが。あと、今回の仕事(ビズ)に協力した佐伯が恩赦がどうのこうのと言っていたぞ」

 

「その件は問題ありません。既に手続きを進めています」

 

「恩赦ってことは何かやらかしたのか?」

 

 リーパーは少し興味を持って尋ねる。

 

「彼は元は日本陸軍の技術者でした。エージェント-27Uを最初に合成したのは、他でもない彼なのですよ」

 

「佐伯さんがエージェント-27Uの生みの親……」

 

 予想外のことでした。まさか佐伯さんがエージェント-27Uを作ったとは。

 

「元は日本陸軍が研究目的で開発したものでしたが、佐伯は自らが開発したそれを盗み出してアトランティスに売り渡したのです」

 

「なんとまあ」

 

「そのことで彼は日本においては指名手配犯となり、暫くの間は国外で暮らしていましたが日本が恋しくなったようです。なので、私は今回の件に協力するならば、恩赦を与えていいと提案した。それだけですよ」

 

 道理で彼はエージェント-27Uに詳しかったわけですね。

 

「さて、今回の件でメティスからの情報は正しく、彼には我々との関係を改善する意思があることが示されました。あなた方が捕虜にした人間の聴取も行いますが、パトリオット・オペレーションズの人間と分かっているだけで大きな収穫です」

 

 ジェーン・ドウはそう告げる。

 

「これから情勢はさらに変化していくでしょう。あなた方には期待しています」

 

 ジェーン・ドウはそう言って手を振った。

 

 私とリーパーは席を立ち、喫茶店を出る。

 

「大井はミネルヴァ対策に本当にメティスと手を結ぶつもりなんでしょうか?」

 

「さあな。メガコーポ同士の同盟ってのは基本長続きしないが」

 

 私が疑問に思って尋ねるのにリーパーはどうでもよさそうでした。

 

「確かにこれまでメガコーポが長期的に同盟や業務提携した話は聞きませんね」

 

「連中は利益になるならば手を結び、そうでなくなれば裏切る。結局は壮大な囚人のジレンマゲームをずっと繰り返しているんだよ」

 

 囚人のジレンマ────。

 

 ゲーム理論におけるゲームのひとつ。

 

 共犯関係にあるふたり囚人を別々に取り調べ、ふたりの囚人が相手を裏切って司法取引するか、それとも黙秘を続けるかを選ぶものだ。

 

 ともに裏切れば大損で、ともに協力すれば軽度の損害だが、片方だけが抜け駆けして裏切れば片方だけが大儲けという話。

 

 これは軍拡競争や生物の生存戦略の開設にも使われている理論です。

 

 裏切りと同盟を繰り返すメガコーポもこのゲームをしていると言えよう。

 

「それにしても腹が減ったな。何か食べて帰らないか?」

 

「そうですね。と言ってもハンバーガー何でしょう?」

 

「お前が選んでいいぞ」

 

 リーパーにしては珍しく私に決定権が委ねられました。

 

「そうですね……。何にしましょうか……」

 

 自由にしろと言われるのは、それはそれで悩むのです。

 

「なら、カレーにしましょう。カレーライス!」

 

「お子様だな」

 

「あなたに言われたくないですよ」

 

 ハンバーガーばっかりもお子様なんですよ?

 

「カレーの店はこの辺りに、と……」

 

 リーパーがARデバイスで検索する。

 

「あったぞ。普通のチェーンのカレー屋だが、そこでいいか?」

 

「贅沢は言いませんよ」

 

「よし」

 

 リーパーはSUVを走らせセクター4/2にあるチェーンのカレー店に向かった。チェーンのカレー店は私の時代にも存在したもので、辛さとトッピングが選べるお店だ。

 

 私たちは中に入り、早速タブレット端末からメニューを選ぶ。

 

 やはりこの時代ではいろいろとなくなったトッピングなどがある。

 

 しかし、カレーそのものは存在している辺り、世界におけるカレー人口はメティスが無視できない規模だったのだろう。どうやってカレーを工業的に合成しているのかは、見当がつきませんが。

 

「辛さはどうします?」

 

「俺は甘口にしておく」

 

「甘口、ですか?」

 

「ああ。カレーだと辛いのは好きじゃない」

 

 ますます子供っぽいですね、リーパー。

 

「では、私も中辛の1個上に」

 

 とは言え、私もあまりにも辛いカレーは苦手なので共感できます。しびれるような激辛のをはあはあ言いながら食べるのも楽しいんでしょうけど、私は真っ先に舌が痛くなってしまうのです。

 

 それから私たちは飲み物とともにカレーを頼み、テーブルで待った。

 

「辛いのが苦手と言っていましたが、これまでも何か辛いもので困ったことが?」

 

「ん。そうだな。ジェーン・ドウのおごりでパスタの辛いやつを全く知らずに食べたときは後悔したな……。事前に分かっていれば普通に食べられるんだが」

 

「ああ。パスタは結構辛いのがありますからね」

 

「その他にはやはりカレーだな。ちょっと昔、中辛に挑戦したがいまいちだった」

 

「そんなにカレーを食べる機会が?」

 

「廃村にいたときは賞味期限が2020年辺りのレトルトカレーを食ってた」

 

「30年前の……」

 

「それが甘口しかなかったから、ずっとカレーはこういう味だって思って生きてきた。ずっと甘いものだと思っていたものが、辛かったりすると美味い不味い以前に困惑するだろう?」

 

 辛い云々以前にお腹は壊さなかったのだろうか。

 

「まあ、こういうのは慣れというのもありますからね。あとは年齢の変化で好みが変わるということもあると聞きます。辛いものや、渋いもの、苦いものが年齢を重ねると好きになったりすることもある、と」

 

「年齢を重ねれば、か。この世界は時代を経るごとに味わえるものはどんどん減っていくってのにな……」

 

 確かにリーパーが言うように世界からは徐々に昔は当たり前だったものが消えている。このカレーチェーン店のメニュー表から消えたトッピングのように。

 

 このまま世界は失い続けるだけなのか、それともまた回復するときが来るのか。

 

「お待たせしました」

 

 と、ここでカレーが運ばれてくる。

 

「いただきます」

 

 私はそう言ってカレーをスプーンですくう。

 

 うん。やはり合成品はある程度辛い方が美味しいです。合成品に混ざっている化学薬品臭がごまかされて、ですね。

 

「リーパーはどうです?」

 

「カレーはカレーだな。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「さいですか」

 

 リーパーはいろいろ言いながらも基本的に食に無頓着なようだ。

 

「今度はインドカレーのお店に行ってみましょうよ。辛いカレーですけど、ナンやラッシーと一緒に食べると美味しいですよ」

 

「インドカレーの店は日本にあるのか?」

 

「探せばありますって」

 

 リーパーは幼少期を甘口のカレーしか存在しない小さな世界で生きてきた。そんな彼にいろいろと教えるのは少し楽しい。この前のラーメンのように気に入ってくれるものがあるかもです。

 

「そうだな。せっかく存在するゲームのギミックを楽しまずにクリアするのは、あまり面白いころじゃないな。どうせならトロフィーもイースターエッグも全て暴いてクリアしないとな……」

 

 リーパーはそう言ってカレーを掻き込むように食べた。

 

 彼は世界を遊び尽くすつもりのようです。この薄暗い世界でそれが楽しめるのは一種の才能なのかも。

 

「ええ。楽しめるものは楽しみましょう」

 

 私もそう言ってカレーを味わったのだった。

 

 中辛のちょっと刺激的なカレーは私の舌を楽しませ、工業合成されただろうスパイスによって私は少し幸せな気分になったのでした。

 

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