TS薄幸白髪赤瞳超絶カワイイ超能力美少女がサイバーパンク世界を行く   作:第616特別情報大隊

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本日3回目の更新です。


野犬狩り//セクター12/5

……………………

 

 ──野犬狩り//セクター12/5

 

 

 TMCは東アジア最大規模の都市だ。

 

 そうであるが故に、この都市は人種の坩堝であった。

 

 未だ終わらない第二次朝鮮戦争から逃れてきた韓国人がいれば、昔から暮らしている中国人がいて、今回殺す予定のハッカーのようにミャンマーやカンボジア、タイ、フィリピンと言った場所からの移民もいる。

 

 このTMCに戦争や貧困、圧政から逃れてきた人間は多くいるが、実際のところ彼らはそれから逃られたわけではない。

 

 檻から逃げて、新しい檻に入っただけだ。

 

「カンタレラ。今、セクター12/5に入った。大井の刑務所に向かっている」

 

 リーパーは運転をしたままARデバイスからカンタレラさんに連絡。

 

『オーケー。今、検索エージェントにマトリクス上のニュクス17を検索させている。それと同時にセクター12/5全体のトラフィックモニターを監視中。怪しい動きがあればすぐに伝える』

 

「了解だ」

 

 流石はリーパーが頼りにしたハッカーと言うところでしょう。カンタレラさんはてきぱきとニュクス17を追い詰めるための準備を進めていく。

 

 しかし、ニュクス17もそれなりのハッカーであるならば、対抗手段を講じてくるかもしれない。そして、サイバーデッキ越しに脳を接続するマトリクスはインターネット時代とは違って直接の死の危険がある。

 

 ジェーン・ドウがハッカーの寿命が短いと言っていたのは、ハッカーが単に知るべきではない情報を得て殺されるだけでなく、ハッキングの際にセキュリティに引っかかって脳を焼かれる恐れもあるからだ。

 

「あれがセクター12/5の刑務所だ」

 

 民営の刑務所と言っても見た目が変わるわけではない。

 

 コンクリートの巨大で分厚い壁が聳え、監視哨には重機関銃が据えられたリモートタレットが存在している。そんないかにもな刑務所だ。

 

 ただ民営化された刑務所と言うのは、収容人数が多ければ多いほど契約している国からの報酬額が上がるため、企業は収容限界ぎりぎりまで受刑者を増やす傾向にある。

 

 つまり再犯防止の教育なんてないし、食事は不足し、寝床も不足し、中は人間でぎゅうぎゅう詰めというわけだ。

 

 私は幸いしてそれを体験せずに済んだが、路上生活者の中には大井の刑務所で酷い目に遭ったことを語る人が多くいた。

 

「あそこから脱獄とかが起きないかなと思ってるんだが、なかなか起きないものだな」

 

「起きたら大変ですよ」

 

「でも、きっと楽しいぞ」

 

 リーパーは脱獄した受刑者を殺して回れって仕事(ビズ)が回ってくるとでも思っているのでしょうか。別に刑務所は殺していい死刑囚ばかり収容しているわけではないと思うのですが。

 

「さて、ここらで待つか」

 

 リーパーは刑務所の傍に車を止め、シートにもたれた。

 

「リーパーっていつ頃からこの仕事(ビズ)をしているんです?」

 

「それは傭兵を始めた時期って意味か?」

 

「そうなります」

 

 リーパーには従軍経験があるほどの年齢には見えない。

 

 もちろん徴兵制がある国で兵役を務めたことはあるのかもしれないが、リーパーの実戦になれた動きはそれだけ説明できるものじゃないと思うのです。

 

 だから、彼がいつから傭兵というものを始めたのは疑問だった。

 

「教えてやってもいいが、代わりに何を教えてくれる?」

 

「対価を要求するわけですか」

 

「ただより高いものはないって言うだろう」

 

 リーパーはその言葉の意味が分かって使っているか疑問だが、そのように言って私の方を見てきた。好奇心に満ちた瞳で。

 

「あなたの今考えていることを当てる、ではどうです?」

 

「面白そうだな。当ててくれ」

 

 私の提案にリーパーが乗る。

 

「むむむ。見えます、見えます。あなたは今、刑務所に乗り込んでそこにいる極悪犯たちを撫で斬りにしたいと思っていますね?」

 

「凄いな! よく分かったな!」

 

「はあ……。本当にそう思ってます?」

 

 私がテレパシーを使うまでもなく、リーパーの考えは見え見えだ。ずっとゲームを待ち望む子供ような顔で刑務所のゲートを眺めているのだから。

 

「乗り込んじゃダメですよ」

 

「流石にそれは分かっている」

 

 私が一応注意するのにリーパーは残念そうに返した。

 

『リーパー。これからニュクス17をメティスのIDに偽造した検索エージェントで追い立てる。あいつが間抜けでなければ何かしらの行動に出て、トラフィックモニターに反応があるはずだ』

 

「ということは、まだ見つかっていないのか」

 

『あたしはランプの魔人じゃないんだ。願ってもすぐに叶うものじゃない』

 

 そう言ってカンタレラさんからの連絡は終わった。

 

「なあ、ランプの魔人ってなんだ?」

 

「え。知らないんですか?」

 

「知らない」

 

 嘘でしょ……。これぐらいは常識では…………。

 

「あのですね。昔話でランプをこすると願いを3回叶えてくれる魔人が現れるお話があるんです。だから、カンタレラさんが言ったのはそういうことですよ」

 

「へえ。そういう話があるのか。初めて知った」

 

「そ、そうですか……」

 

「しかし、3回か」

 

 リーパーは考え込むように顎に手を置いた。

 

「お前なら何を願う?」

 

「そうですね。1回目はこの脳みそのインプラントをどうにかしてもらいます。それから大富豪にしてもらって……」

 

「3回目は?」

 

「ランプの魔人をランプから解放してあげます」

 

 そういうお話でしたよね?

 

「ふん。凡庸でつまらないな」

 

 リーパーはケチをつけるようにそう言う。

 

「あなたならどういう願いを?」

 

「1回目に強敵を、2回目にもっと強敵を、3回目に────」

 

 にたりとリーパーが笑う。

 

「その魔人とやらと戦う」

 

「さいですか」

 

 こいつの頭には誰かを殺すことしかないのだろう。

 

「しかし、昔話か……」

 

「思い出でも?」

 

「いいや。そういう話は一度も聞いたことがないだけだ」

 

「助けたツルがお礼にくる話とか、意地悪なサルにカニが復讐する話とか、おばあさんがオオカミに食べられちゃった子の話とか、全く?」

 

「……なんだそれは? 電子ドラッグジャンキーの妄想じみてるな……」

 

「うええ。マジですか」

 

 どういう子供時代を過ごしたんだろう、リーパーって。

 

「そういえばさっきの答えがまだだったな」

 

「ああ。そうでしたね。で、いつから傭兵の仕事(ビズ)を?」

 

 その答えをまだ聞いていませんでした。

 

「ずーっと、ずっと子供のころからずっーぅとだ」

 

「それは……」

 

 そこで私とリーパーのARデバイスにカンタレラさんから着信。

 

『ニュクス17が動いたよ。やつはそこから3キロほど離れたアパートにいる』

 

「オーケー。上出来だ。すぐに向かう」

 

 リーパーはアクセルを踏み込んで車を急発進させる。

 

「それで韓国海兵隊の連中はいたか?」

 

『近くの宅配ドローンをハックして映像を確認したけど、気質じゃない連中が近くにいるのを確認している。警戒しなよ』

 

「そうでないとな」

 

 そういうリーパーはどこまでも楽しそうな顔をしていた。

 

「一応仕事(ビズ)を再確認しますが、目的はハッカーであるニュクス17の殺害だけなんですね?」

 

「そうだ。ジェーン・ドウから追加の依頼はない」

 

「分かりました」

 

 ジェーン・ドウはニュクス17がどんな情報を持っているのか知っているのか、興味がない。ただニュクス17が手に入れるべきではなかった情報を手にしたために、殺害を決定しただけ。

 

 そういうことなのでしょう。

 

「重要なのはハッカーを逃がさないことだが、俺は韓国海兵隊の連中とやり合いたい。逃げそうになっていたら、お前が殺せ、ツムギ」

 

「了解です」

 

 SUVで薄汚れたセクター12/5の道路を疾走し、リーパーはかなり荒い運転で目的のアパートの前に滑り込んだ。

 

 そこで私のテレパシーが鋭い殺気を感じた。リーパーのものではありません!

 

「リーパー! 待ち伏せされています!」

 

……………………




本日の更新はこれで終了です。
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