TS薄幸白髪赤瞳超絶カワイイ超能力美少女がサイバーパンク世界を行く   作:第616特別情報大隊

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ワイルドファイア//ミネルヴァ

……………………

 

 ──ワイルドファイア//ミネルヴァ

 

 

 侵入者が撤退したという報告を、エミール・ネテスハイム博士が受けたのは、ツムギたちの侵入が発覚してから30分後のことだった。

 

「被害は?」

 

「酷いものです。こちらは研究者複数が犠牲になり、ベルセルク・ウィルスも強奪(スナッチ)されているのを確認しました」

 

 ネテスハイム博士が報告を求めるのに警備の責任者が告げる。

 

「パトリオットも大損害を出しています。暫くは警備が手薄にならざるを得ないかと」

 

「迅速に穴を埋めてくれ。これ以上、我々は失うわけにはいかないのだ」

 

「了解」

 

 ネテスハイム博士はそう指示し、警備責任者が退室する。

 

「しかし、この映像は…………」

 

 警備責任者が退席してから再生される無人警備システムの映像には、味方同士で攻撃し合うゾンビの姿が映っていた。

 

「Ω-5インプラントによるものだとしか思えない。しかし、あれは成功例がまだ数例しか報告されていないものだったはず。それがどうして研究所の外に……?」

 

 このネテスハイム博士はパラテックを研究する結社ミネルヴァのトップである。

 

 ミネルヴァについてはツムギたちが調べていた通り、地獄の技術を利用して、パラテックを研究、生産している組織だ。

 

「興味深いな、実に」

 

 ネテスハイム博士は映像を見つめ続けてそう呟く。

 

「ネテスハイム!」

 

 ここでそんな帝都生化技研の警備室に大柄な男が入ってきた。迷彩服を身に着け、腰には44口径のレボルバーを下げた男だ。

 

「どうしたかね、ウルフ最高経営責任者(CEO)

 

 それは以前ツムギたちも資料でみたことのあるパトリオットの最高経営責任者(CEO)であるウルフ元中将だ。

 

「どうかしたか、だと? 私の部下を巻きこんでおいて、よく言えたものだ」

 

「それも契約のうちだろう」

 

「ふん。敵に殺されるならばともかく味方に殺されるなどは許容できんぞ」

 

 ネテスハイム博士があっさりとそう切り捨てるのにウルフ元中将は険しい表情を浮かべて彼を睨んだ。

 

「非常時だ。そもそも君たちパトリオットが警備できていなかったから、このようなことが起きたのではないかね? 君たちが最初からきちんと仕事(ビズ)を果たしていればこんなことにはならなかったのだと」

 

 因果が逆だとネテスハイム博士。

 

「ふん。大井とメティスを敵に回しているんだ。こういうことだって起きる。本来ならば大井かメティスの一方をこちらに引き込むのではなかったのか?」

 

「残念だが、そちらの工作は現在頓挫している。厳しい状況は続きそうだ」

 

「パラテックを餌にしても六大多国籍企業(ヘックス)は釣れないか」

 

「彼らのうちの少数の派閥は我々と手を組む意志があったが、それらは派閥争いに敗北している状況だ」

 

「で、これからどうするつもりだ?」

 

 ネテスハイム博士が淡々と述べるのにウルフ元中将が尋ねる。

 

「一度コールドハーバーの研究施設──サイト-オリジンに戻る。そこで戦争の準備を進める。我々は戦争を恐れてはいない。たとえそれが六大多国籍企業(ヘックス)2社の敵に回したものだろうとな」

 

 ネテスハイム博士はそういい、帝都生化技研をウルフ元中将とともに去った。

 

 

 * * * *

 

 

 私たちは無事に帝都生化技研を脱出し、ベルセルク・ウィルスと黒沢バレリアというお土産(パッケージ)を持ち出した。

 

「あとはどうするんです?」

 

「ジェーン・ドウが迎えに来る」

 

 リーパーは私の問いに答え、SUVでジェーン・ドウとの合流地点に向かった。

 

 ジェーン・ドウは既にパワード・リフト機を地上に駐機させ、私たちを待っているところだった。周囲には大井統合安全保障のコントラクターたちが展開している。

 

「ジェーン・ドウ。お土産(パッケージ)だ」

 

「ご苦労様でした」

 

 リーパーが黒沢さんを、ミノカサゴさんがベルセルク・ウィルスの入ったポータブル冷蔵庫をそれぞれ引き渡す。

 

「ミノカサゴさん。メティスとの信頼関係はこれで構築できたと考えております。上層部は同盟について前向きであるとお伝えください」

 

「あいよ」

 

 ミノカサゴさんがジェーン・ドウの言葉に軽く手を振った。

 

「それじゃあな。また仕事(ビズ)を一緒にやることがあるといいな」

 

「ええ。少なくとも敵対したくはないですね」

 

「全くだ」

 

 ミノカサゴさんはそういってタクシーでこの場を去った。

 

「あとで報酬の方をお渡ししますので、セクター4/2のいつもの喫茶店にいらしてください。それでは」

 

 ジェーン・ドウもそういってパワード・リフト機で去った。

 

「何とか今回も仕事(ビズ)は成功しましたね」

 

「そうだな。今回はなかなかに燃える仕事(ビズ)だった。まさか現実(リアル)でゾンビアポカリプスが体験できるとはな!」

 

「嬉しそうですね…………」

 

 リーパーはゾンビを戦えたのが、とても嬉しいようです。理解できませんが。

 

「それにしても大井がメティスと同盟ですか。情勢が一気に変わって来そうですね」

 

「これまで犬猿の仲だった連中がいきなり手を結ぶ。波乱の予感がするな。高難易度の仕事(ビズ)が回されてきそうだ」

 

「うへえ」

 

 私はリーパーのようにゾンビアポカリプスや高難易度ミッションを楽しめるタイプの人間ではないのですよ。人生はぬるま湯が一番だと思っているのですから。

 

「ジェーン・ドウから連絡が来るまで少し時間を潰すか。何がしたい?」

 

「特に何も。今は休みたいです」

 

「また能力を使いすぎたか?」

 

「そんなところです」

 

 私はそういってジェーン・ドウから貰っていた薬を口に放り込む。

 

 ゾンビは制御はしやすいものでしたが、やはり生物の思考をジャックして操るというのは簡単なことではありません。

 

「それなら一度帰宅するか。報酬は俺が貰っておくから、お前は寝ているといい」

 

「すみません。そうさせてもらいます」

 

 私はリーパーに自宅まで送ってもらい、先に自宅で休むことにした。

 

 いつものようにセクター3/1のペントハウスに送ってもらい、私はリーパーのペントハウスにひとりで帰還。

 

「今回の仕事(ビズ)も疲れ果てました」

 

 私はそう呟き、ベッドに倒れるように横になる。

 

 しかし、このまま本当に私の脳みそのインプラント──Ω-5インプラントを除去する方法は見つかるのだろうかと不安になった。

 

 大井はメティスを手を結ぶ。その目的は彼らにとって脅威になるパラテックを扱っているミネルヴァを潰すため。

 

 ミネルヴァ────。

 

 彼らがΩ-5インプラントを作り、私をモルモットにして実験した。

 

 彼らの持っている技術ならば、Ω-5インプラントは本当に除去できるのか……?

 

 その時点からして謎のままだ。

 

 もし、彼らがΩ-5の除去方法を知らなければ、私はこのまま死ぬか、自分が気づかないままに全くの別人になってしまう。

 

 自分の死も、自分が別人になってしまうことも、同じように恐ろしい。怖くてまともに考えれない。

 

「どうにかなるんだろうか……?」

 

 私はベッドに横たわり、天井を見上げてそう呟いた。

 

……………………




パラテックの章はこれにて終了です。明日から最終章が始まります。
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