東方鳥人族 ~the Illusion Land and the Lonely Last Survivor.   作:影のビツケンヌ

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堕とされた鳥

 無数の煌めく星々に囲まれて、一つの宇宙船が、とある惑星に向け全速力で航行していた。

 滑らかな流線型のシルエットは淡い緑色に輝き、またどこか生物的な雰囲気も醸し出している。

 それに乗っているのは、ヒトではない。鳥のような容姿のエイリアン『鳥人族』。チョウゾともいわれる、驚くべき科学力を持った種族だ。

 そして()は、その最後の生き残りである。

 長寿命による高齢化で絶滅の危機に瀕していた彼らチョウゾは、故郷の惑星ゼーベスを宇宙の海賊『スペースパイレーツ』に襲撃され、完全に滅亡した。この銀河を統括する銀河連邦の記録にはそう記されている。辺境の惑星タルタゴで隠居していた彼は、同族の滅亡、腕利きバウンティハンターサムス・アランによるスペースパイレーツの崩壊とゼーベスの消滅、そしてチョウゾの生み出した生体兵器『メトロイド』の絶滅など、それらの情報を大分後になって風の噂で聞きつけたに過ぎず、またそんな彼を銀河連邦が見つけることも叶わなかった。

 彼が向かわんとしている惑星は、名を『ターロンⅣ』という。

 そこは彼の生まれ故郷だ。かつてチョウゾの一部族はその地に根を下ろし、科学の恩恵を捨てて生活していた。隕石の衝突と、そこからもたらされた特異な放射性物質『フェイゾン』で彼らの生活環境は乱され、隕石を封印し星を捨てるよりなかった。彼の隠遁生活は、その時仲間と別れ、自分が生まれるより前の彼らと同じく放浪した後、偶然見つけたタルタゴに降り立った日からずっと続いている。

 サムス・アランの活躍は、スペースパイレーツの壊滅に留まらない。その一年程前に、ターロンのフェイゾンによる汚染を解決している。今やそこは、彼の幼少期と殆ど変わらぬ生命の楽園だという。

 美しい故郷を、彼はまた拝みたくなったのである。

 

 「ホームシック、か。誰も待っていないのにな」

 

自嘲じみた溜め息と共に、彼は小さく呟いた。鳥らしからぬ行動だ。

 鳥を祖先に持つとはいえ、表情筋が発達し、嘴が軟質で歯のあるチョウゾは意外に表情豊かだ。人間のものとほぼ同サイズの巨大な大脳は高度な知性を実現し、複雑な鳴管は発音能力に優れる。祖先の身体を覆っていた羽毛は外骨格に変化しており、飛行はできなくなったが、それを補って余りある素晴らしい身体能力を獲得している。

 しかも、ターロンに棲んでいた彼の部族は、ある種超自然的な能力をも持ち合わせていた。テレパシー、予知、透視、千里眼、念力、テレポーテーション、サイコメトリー、念写、霊媒…それら全てを、彼は変幻自在に扱うことができる。

 そんな力を持つ彼も、気候の変化に抗う術はなかった。

 本来チョウゾは、硫酸の雨が降るゼーベスにさえ生息可能であるのに、彼は親の代の近親交配による遺伝的劣化現象で、環境への適応力が人間並みに弱退化している。タルタゴで絶え間なく続く地殻変動、それは惑星規模での火山活動の活発化を招いた。大気は有毒ガスと塵で汚染され、惑星上の生物は、皆窒息しかけていたのだ。即ち彼には、『比較的』環境が穏やかなターロン以外に帰る場所はない。

 感傷に浸りながら外を眺めていた彼は、急に喉の渇きを覚えた。考えてみると、タルタゴを出発してから一滴も水を飲んでいない。鉤爪の生えた細い指でコンピューターを操作し、彼が『エルダー初号機』と名付けた宇宙船を自動操縦に切り替えてから、積み込んでいたウォーターサーバーで水分補給するべく操縦席を立った。

 その時。

 凄まじい衝撃が、エルダー初号機の船体を貫いた。

 

 「うおっ!?」

 

激しい揺れに足を掬われて転倒した彼は、何が起きたのか理解する間も無く、計器類にしたたか打ち付けられ、気絶してしまった。

 

 

 

 彼が目を覚ますと、そこは浅い森のはずれだった。

 悲鳴を上げる身体を軋ませつつその場で上体を起こし、辺りを見回す。周囲の植生は温帯地域のものだ。どこかの惑星に墜落したらしい。

 

「! エルダーは?」

 

立ち上がり、更に周囲を観察するも、エルダー初号機の姿は見えない。目に入るのは低木と、その向こうの木造建築だけだ。

 

「…友好的であればいいのだが」

 

彼は一抹の望みを、その近くを歩いていた地球人類種と思しき女性に賭けてみることにした。

 

 「もし、そこな御仁。一つ物を尋ねたい」

「はい、何でしょう?」

 

頭頂部から毛先にかけて紫から金のグラデーションになった長い髪を持つその女性は、彼の異様な姿に別段驚くこともなく、柔らかな微笑みを浮かべて応じた。その反応に内心少しばかり安堵しながらも、彼は問うた。

 

「この近くで、私のエルダー初号機…宇宙船を見なかったか?」

「いえ、そのようなものは見ておりませんが…そもそも、」

 

彼女の返答は、およそ彼の予想を遥かに上回っていた。

 

「宇宙船、とは…何ですか?」

「…!!」

 

 彼は度肝を抜かれた。彼の感覚からすれば、宇宙船の存在を知らぬ者など殆どおらず、いてもタルタゴクラスの辺境の惑星に住まう原住民程度なものだ。何故こんなことになったのか、原因をあれこれと考え始める頭を必死に抑え、努めて冷静な判断を下そうとする。

 

「…ああ、そうだ」

 

今の今まで忘れていた。右手にはめた腕輪型の遠隔操作用デバイスを起動すると、青いホログラムが浮かび上がり、宇宙船の座標と現在の状態を示した。

 

『惑星圏外 距離:三十八万四千四百キロメートル 現状発進可能状態にありません。…』

 

彼は空を見上げた。丁度座標が指し示す方角には、灰色のしみのような模様のある白い天体が浮かんでいる。

 

「…あの星は何だね?」

「あれは月です」

「月? ということは、ここは地球なのか?」

 

 銀河連邦本部が存在するのは地球ではない。コスモ暦元年の時点で、地球の自然環境は地球人類種の生存には適さなくなっており、その頃には既に地球人類種はテラフォーミングされた別の惑星へと移り住んでいた。

 頭脳をフル活用して彼は考えを巡らせる。仮にここが地球だったとすれば、可能性は三つ。テラフォーミングにより環境が改善され、人々が移住してきたか、まだ環境の良好な地域が僅かながら残っていたか、或いは――

 

「タイムスリップした…?」

 

有り得ないことではない。エルダー初号機のみならず大抵の宇宙船に搭載されたワープ航行用装置『ワープドライブ』は、ヒッグス粒子の展開で重力を作り出しコントロールすることで、光速を超えて移動する。相対性理論に於いて重力は事象平面の歪みであり、ワープドライブを発展させればワームホールを形成して更なる長距離航行が可能になる。機体に走った『衝撃』で、ワープドライブが暴発・暴走し、勝手にワームホールを形成、相対性理論に則って時間が逆行したなら納得できなくもないだろう。

 

 「あの、どうかなさいましたか? 何かお困りのようですが…」

 

自分を心配する彼女の言葉に、

 

「ああ…困っている。恐らく誰よりも、物凄く困っていると、そう断言できる位にはな」

 

彼は振り返らずにその衛星を睨みつつ、ただし焦燥感に駆られながら答えた。

 

 「自己紹介が遅れたね。私はジェイビーク。時空漂流者らしい」




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