東方鳥人族 ~the Illusion Land and the Lonely Last Survivor. 作:影のビツケンヌ
ようやく更新した東方鳥人族をどうぞ。
「なるほど、幻想郷…忘れ去られたものの最後の楽園、か」
手にした湯飲みからちびちび茶を飲みながら、ジェイビークは呟いた。
「ここは外界から隔離されています。貴方が危惧する程の大事には至らないでしょう」
「それは良かった。変な科学者に解剖されるなど堪らないからね」
くくく、と小さく笑う彼につられて、その前に座る住職、聖白蓮もまた笑った。
どちらの話も、常識では理解し難いはずだ。片や時間も空間も超えてやってきた宇宙人、片や幻想を守る為外界から隔離された世界。二人は互いにそれを話し、理解した。尤も、聖はジェイビークが虚偽の発言をしていないと信じているから、ジェイビークは情報の不足故にどんな話でも信じざるを得なかったから、であるが。
そんなことがあったのが、つい昨日の昼頃であった。
今ジェイビークがいるのは、聖の説明したこの世界『幻想郷』の寺院、命蓮寺だ。妖怪の信者の多いことで有名で、また幻想郷のパワーバランスの一角を担う場所でもある。
そしてその一室で、聖に拾われたジェイビークと、聖を始めとする出家信者達が夕食を摂っていた。スパイシーな香り漂う野菜カレーを載せた大きな卓袱台を囲むのは、住職と宇宙人を除けば以下の通り。
水難事故の念縛霊、村紗水蜜。守り守られし大輪、雲居一輪。毘沙門天の弟子、寅丸星。読経するヤマビコ、幽谷響子。正体不明の正体、封獣ぬえ。佐渡の二ツ岩、二ツ岩マミゾウ。皆人外ばかりだ。
そんな所だからこそだろうか。明らかに異邦人(むしろ異星人)かつ余所者で、その上異様な姿をしたジェイビークが彼女らに受け入れられるのは、側から見れば拍子抜けする程に容易かった。
「ジェイ、ドレッシング取って」
「はい、どうぞ」
「
「村紗、私の方が近いのにどうしてジェイに頼むのよ?」
「んぐっ、だってジェイ腕長いし」
「その長い腕のお陰で、儂はサラダの大皿に手を出せないのだが」
「おっと、それはすまない」
「すみませんジェイビークさん、それ片方私の箸です」
「なんと。私としたことが…」
彼女達に限った話ではない。ここにやってくる人妖は、皆ジェイビークを快く受け入れた。宇宙には排他的であったり、侵略を繰り返し忌み嫌われる種族――クリケン族がいい例だ――も多い。彼は生まれて初めてのカレーを頬張りつつも、心の底から、地球に降り立って初めて会った者達の懐の深さに感謝していた。
「ところでジェイ、これからどうするの?」
セーラー服の少女――村紗が尋ねた。
「宇宙船の件かい? あそこに向かう手段が幻想郷にあるなら、是非とも使いたいのだが」
「生憎じゃがここにはロケットもないぞい。一から作るなりしない限りはな」
「そうそう、それよりまずはこの世界のルールを覚えて貰わないと」
ジェイビークの抱いた期待は、マミゾウとぬえの言葉でかき消されてしまう。知っての通り、ここ幻想郷は外界から隔離されており、文明レベルもそれ程進んでいない――むしろチョウゾからすれば化石レベルだ。しかし彼は、ぬえの言う『ルール』に興味が湧いた。
「ルール?」
「そ、スペルカードルール。説明するより見せた方が早いかな?」
ぬえはそう言うなり、自分の皿に盛られたサラダを目にも留まらぬ速さで平らげ、席を立った。
「村沙、もう食べ終わった?」
「弾幕ごっこ? オーケー受けて立つよ! ほら、ジェイも来た来た」
ぬえに指名された村沙が、カレーの最後の一口を頬張ろうとしていたジェイビークをぐいと引っ張り、境内まで連れて行く。そこには既にぬえが三叉槍を持って待ち構えていた。
「一体何をするんだ?」
「スペルカードルールに則った試合だよ。まあ見てなって」
二人はジェイビークを置いて、ふわりと空中に浮き上がる。この世界の霊能者や人外などはその多くがこうした飛行能力を普遍的に備えていて、外界から時たま迷い込んでくる外来人を驚愕させているものだ。
「じゃあこの前と同じで、スペカは5枚までってことでOK?」
「はい決まり先手必勝妙雲『平安のダーククラウド』ォ!!」
「えっちょッまってえええええええぇぇぇっええぇええ?!」
言うが早いが、ぬえの周囲に一瞬暗雲が立ち込めたかと思うと、そこから無数の光線が網目状に放たれた。ぬえの奇襲に対応し切れなかったのか、それを避けようとした村紗の肌を光線が掠めたが、大したダメージは受けていないらしい。
そこから始まる弾幕の応酬。錨形の光弾や蛇行する光線が二人の間で飛び交い、そして二人はそれを華麗に回避してみせる。星空の下に、無数の花が色とりどりに咲いた。
「……」
「彼女達が今しているのは、『弾幕ごっこ』です。この世界に於ける紛争の解決手段で、また数少ない娯楽でもあります」
いつの間にか自分の隣に現れた聖に説明を受けながら、ジェイビークはその光景の美しさに息を呑むと同時に、眼前で繰り広げられる『戦い』に、ある種憧れのようなものを抱いていた。
正確にどれ程の昔からかは定かでないが、チョウゾは傷害の思考が意識に上ると、精神的・肉体的な苦痛を伴うような精神プロテクトを自らに施している。故に争わず、妥協し、――これがゼーベス陥落の原因となったのは言うまでもない。その例に漏れず、ジェイビークもまた他者を傷付けて争うようなことはできなかった。
しかし、目の前のそれは争いとはどこか異なる。光弾の威力が高ければ大怪我では済まないはずなのに、村紗もぬえも、危機感など微塵も感じさせない顔で笑っている。正義も悪もない。スポーツのような一体感が、そこにはあった。
これならば、自分も参加できる。参加したい。
「二人とも、少しいいかい?」
「ん?」
「なにー?」
弾幕が小康状態になるのを見計らい、ジェイビークはのたまった。
「…私も混ぜてはくれないだろうか」