東方鳥人族 ~the Illusion Land and the Lonely Last Survivor. 作:影のビツケンヌ
これより方針を変更し、たとえネタバレになろうとも無限者及び続編の孤戦漢の執筆を優先させて頂きます。ご了承下さい。
ジェイビークの幻想入りから早二週間。
「いつまでも世話になっては悪い」と、彼は命蓮寺付近の小さな森で野営していた。タルタゴにいた頃は野宿など日常茶飯事だったこの中年鳥人族にとって、穏やかかつ豊かな自然の幻想郷で暮らすのは屁でもない。来た当初は適応できるのかいささか不安を覚えていたが、意外にも早いものだ。
だがどうしても、妖怪というものの存在は彼の頭を悩ます要因であった。
人里に住む者なら危険性は低いにしても、一歩里を出れば知能を持たぬ下級妖怪、また知能を持っていても積極的に人を襲う人喰い妖怪、人を喰わずとも好戦的な妖怪に襲われる可能性が常に付き纏う。実際、既に花の大妖風見幽香に勝負を持ちかけられ、丁重に断っている。
「
長い足を無造作に投げ出し、地面に直に座りながらジェイビークはぼやいた。勿論その言葉の意味には、他者を傷付けるようなことは含まれていない。
彼の持つ霊媒能力なら、幽霊を退けるのみならず、精神感応波を送り付けて対象を意のままに操ることも、人為的に幽体離脱を引き起こすこともできる。自ら幽体離脱すれば、半位相的性質で自然界のエネルギーを無効化する『チョウゾゴースト』になることも可能だ。
彼は失念していた。精神攻撃ができる彼の能力は、魂や精神を構成するアストラル体に存在の比重が偏った妖怪に対し非常に有効だ。しかし彼はそれに気付かず、妖怪を生物の延長線上にある存在としてしか見ていなかったのだ。有効な対抗策がない、と思い込んでいる彼にとって、妖怪は人間にとってのものと同じくやはり脅威であった。
それ故に、彼は自分に向けて近付いてくる一つの気配を察知すると、神経を尖らせずにはいられなかった。
「…!」
「ああいや、そんなピリピリすることはないんだ。聞いて欲しい」
木の陰から現れた少女。クセのあるダークグレーのセミロングヘアーに深紅の瞳。頭には丸い耳が生えており、腰からは長い尻尾があって、その先に小さなネズミ達の入ったバスケットを吊るしている。先のほうが切り抜かれた奇妙なセミロングスカートを着、肩には水色のケープを羽織って、首からはペンデュラムをさげている。
「…挑戦なら断らせて貰うよ」
「いやそういうものではなくてだな…」
その容姿で人外であることを即座に認知したジェイビークは、その少女の二言目を待たずに挑戦を破棄する旨を告げた。スペルカードルールに従った場合でも、彼は自分の実力に確信を持てなかったからだ。が、彼女の目的は別にあり、心外そうに眉をひそめた。
「私はナズーリン。ダウザーの妖怪鼠だ。ジェイビーク、君に見て貰いたいものがあって来たんだ」
「うん?」
ジェイビークがナズーリンの案内でやってきたのは、無縁塚。
木々に囲まれた広場のそこかしこに粗末な墓が点在するここは、外界から連れてこられた人間等、縁者のいない者を埋葬する場所だ。この地域は墓の下の外来人の遺体の影響で結界が緩んで外界と繋がりやすく、墓地であることから冥界とも繋がりやすい為、結界が交差するという本来ありえない現象が起こり、自分の存在の維持をすることが困難になる場所になってしまっている。
しかし、ここをねぐらにしているナズーリンにそんな兆候は見られない。
「えーとそうそう確かこの辺に…」
ダウジングが趣味である彼女は、この周辺に大きなお宝があると予感し、ここしばらく捜索を続けていた。だが見つかるのは外界から幻想入りした物品ばかり。自分のロッドもペンデュラムもこれらに反応していたのかと、彼女は内心諦めかけていた。
そんな折に見つけたのが、
「ああ、ここだここ」
目の前の洞穴である。
「この穴かい?」
「そうだ。この奥にあるものが、ひょっとすると君に関係あるんじゃないかと思って」
ナズーリンに促され、ジェイビークは身を屈めて洞穴に入っていく。入り口が小さいのもそうだが、ジェイビークの身長は二メートル近い。
二十メートルも奥に進むと、土の壁が切り出された石の壁に変わった。
「ん? これは…」
壁に細かな文様が刻まれているのに気付いたジェイビークは、それを注視して驚愕した。
「馬鹿な…これは古代チョウゾ文字じゃないか!」
有り得ない。彼は否定した。チョウゾが地球を訪れた記録などは、自分の親や祖父母からは伝え聞いていないし、幾らチョウゾといえど、西暦二〇一五年の時点で惑星間航行ができるような技術など生み出してはいない筈。
「…いや、まさか実際にここに来たことが…?」
その真偽はともかく、今
壁の文面を解読すると、大体次のような内容になった。
『我らはこの地にいずれ訪れる災禍を予見し、然るべき者に託すべく幾つかの力を残した。しかしその災禍の起こるまでには、無知なる者、天命を解さぬ者、心貧しき者が、我らの残した力を不当に持ち去り用いるであろう。もしもこの碑を我らの同胞が見たのなら、願わくば、真に力を持つべき者をその目で見極めて欲しい』
節介焼きとかそういう以前に、ジェイビークはこの碑に込められた遠い先祖の託した想いを無碍にすることはできなかった。
「これは、一悶着ありそうだ…」
溜め息一つ、いつになく真剣な表情になった彼は、遺跡の入り口から深々と黙礼した。
次回投稿する無限者は、ジェイビークがターロンに帰った後の話になる予定であります。