ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ 作:スカビオサ
高度育成高等学校、東京にある国内屈指の名門校で、敷地面積は60万平米、(まあ60万平米と聞いてもピンと来ないだろうが、あの某夢の国が51万平米であることを思えば、教育機関にしては、破格の広さであると言えるだろう。)、敷地にはカラオケ、カフェ、シアタールームなど数多くの施設が存在しており、学校内でありながら不自由なく過ごすことができる、まさに夢のような学校だ。
とは言え、それは高度育成高等学校、通称“高育”を語る上で左程、重要なことではないだろう。この学校が最大のウリにしているのはこの学校を卒業した者の希望する進路に100%応えるというものだ。どんな難関大であれ、無条件で合格となり、大企業への就職だって叶う、まさしく夢のチケットだ。もう一つ特徴的な点があるとすれば…
「学生は敷地内にある寮での生活を義務付けられ、特例を除き、3年間外部と連絡をとることができないと。」
「そうだ。まだ14歳でしかないお前にとっては親と連絡を一切取れず、一人暮らしというのは心細いだろうが…」
資料を見ながら、俯いていた頭に言葉が被せられた。沈み込んでいた意識が引き戻され、自然と顔が上がる。そこには見慣れた顔があった。そう、平日限定キャラ…そうだ、これは担任との進路面談だったではないか。
もともと進路なぞ適当に地元にある公立の進学校に通えば良いとしか考えていなかったが、まさかこんな怪しくて面白そうな所があるとは。
「お前は交友関係こそ難があるが、勉強もできるし、運動神経だって悪くない。ここであれば学費もかからないし、お前にも合っているはずだ。」
確かに裕福とは言えない家庭故に学費がかからないというのは大変ありがたいが、何よりも、この学校の学生は外部との接触が完全に断たれる、つまり殆ど監禁状態にあるという点に興味が湧いた。これがただの進学校であるはずがない。希望する進学、就職先も100%叶えるだなんていかにもじゃないか。
「そうですね、親に負担もあまり掛けたくはないですし、受験してみようと思います。受かるかは分からないですけど。」
「分かった、ではそのつもりでこちらも手続きは進めておく。ただ受験までまだ1年もある、いかに難易度が高くとも頑張れば、お前なら問題ないはずだ。」
まったく昨今には珍しい、生徒に寄り添う良い教師だ。いや、むしろ教師のブラック労働が取り沙汰されてきている中、教職を志望している時点でやる気に満ち溢れているのは珍しくもないのか?何にしてもこんな楽しそうなものを教えてくれたことについては感謝しなくてはならないな。
早速、家に帰ってきては我が家に1台しかないパソコンで高度育成高等学校について調べた。概ねネットで調べることのできる情報はパンフレットに書かれているものと大差は無く、新しい情報を得ることは難しそうであった。鬼島政権の政策の内の一つであり、実際に各界に有望な人材を輩出しているらしい。気になることとしては学内の話が一切出てこないということだろうか、わざわざ外部との連絡を一切遮断する徹底ぶりからして、卒業生にも緘口令を敷くのは当然と言えば、当然ではあるが…
「通常の学校運営とは違う、平たく言えば公にはできないような事が行われている可能性はあるな。」
頭の中を整理するためにぶつぶつと呟きながら、高育についての情報を漁っていく。
結局、ネット上では目ぼしい情報を手に入れることはできなかった。しかし、その情報の量に反比例するように、この学校への興味が高まり続けるのを感じていた。
高度育成高等学校への入学を目指す以上、今よりも一層勉学に取り組んだ。中学範囲は一通り問題ない自信があったが、試験は筆記試験のみではない。試験は筆記試験と面接に分かれており、面接には全く自信が無かった。1年あろうが、人間の根幹は大きく変わらない。コミュニケーション能力が劇的に向上することも無ければ、初対面の人に好かれやすい人当たりの良さなど身に着けられるわけもない。苦手なものは得意なもので補う、当然の発想だし、何より希望する進学、就職100%を謳う高校の入試が、ただ中学範囲が完璧というだけで満点を取らせてくれる甘い物とは思えなかったからだ。過去問があれば、問題の傾向も分かったのだが、公開はされていないようだ。
それと並行して運動と筋トレを行なった。これは純粋に運動能力の向上と暴力への対抗のためだ。中で何が行われているか分からない以上、保険は必要となる。仮に…デスゲームは無いにしても、それに類するものが開催されている可能性は否定できない。しかし、これは本当に付け焼刃に過ぎないし、喧嘩自慢とタイマンしたらすぐに伸されるのは間違いないだろう。仮にも教育機関であるのだし、中で行われていることが暴力に偏った内容である可能性は薄いはずだ。きっと。
目標が出来てからの1年は早いものだった。そして念願叶い、僕は高度育成高等学校へと入学する。
【高度育成高等学校学生データベース】
氏名 木之原葵
クラス 1年B組
身長 171cm
誕生日 9月22日
【評価】
学力 A
知性 B
判断力 B
身体能力 B
協調性 D
【面接官からのコメント】
入試主席を取るなど学業成績は優秀
面接も大きな問題は見られなかったが
調査書によるとコミュニケーション能力に難がある模様
その点を考慮しBクラス配属とする