ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ 作:スカビオサ
翌日、早朝、職員室にて。
「ホームルームの時間を買いたい?」
星之宮先生が何故?と言いたげな顔をしている。
「はい、この学校では何でもポイントで買えるんですよね?であれば、こういうこともできるのかなと。」
「そうね、因みに何をするつもり?」
「内容は言えませんが、必要な事です。」
「そうね、それなら5000ポイントを…と言いたい所だけど、今日は話すことも無いから、特別に譲ってあげるわ。」
それは良いのだろうか、教師側が生徒に肩入れするのは禁じられている筈だが。
「問題無いわよ、私達教師だってホームルールの時間を全て使い切らなければならない決まりはないもの。時間が余ったと言うことにすれば良いだけよ。」
そう言われれば、そうだな。というかこの人、普通に遅刻して来るし。
「それに学校のシステム上、優遇はできないけど、自分のクラスの生徒のやることは応援したいじゃない。」
「一之瀬さんの事でしょう?」
星之宮先生はさらっと告げる。
ここで一之瀬さんの名前がすぐ出て来ることに驚いた。彼女の変化はここ数日中のもの、それでも気付いていたのか。
「生徒会にも入れなくて、最近落ち込んでたからね。私に自分がBクラスになった理由とか生徒会に落選した理由を聞きに来たし。勿論、答えられないこともあるけど。」
「良く分からないけど、頑張ってね?王子様?」
何だその揶揄いは。
「頑張るのは僕じゃないですよ、彼女自身です。」
そうだ。結局、自分を救えるのは自分の他にいない。
職員室を出ると、そこには一之瀬さんがいた。
「ごめんね、準備をお願いしちゃって。」
「構わないよ、協力するって言ったからね。一之瀬さんはこれからに集中していて。」
「優しいね、ありがとう。」
そう言いながら、手を握ってくる。
「心細くて、ダメかな?」
ダメじゃないです。ダメじゃないけど、この場面を目撃されると、話どころじゃ無くなる可能性もある。
「なんてね、冗談!」
ぱっと手を離す。
良かったと残念という気持ちが湧き上がる。人間は矛盾を抱える生き物。
「葵君、見ててね。」
前を向きながら、そう言う。
「うん、見てるよ。君の姿を。」
朝のホームルームが始まるが、星之宮先生は壇上に立たず、教室の扉の前で、どこからか持ってきた椅子に座っている。完全に観戦の姿勢だ。
その様子にクラスメイトも困惑している。
困惑の中、一之瀬さんが教壇に立つ。
「驚かせてごめんね、今日はみんなに話したいことがあるの。聞いてもらえるかな。」
一之瀬さんの真面目な雰囲気にクラスメイトは何も言えず、頷くだけだ。
一之瀬さんは胸に手を当て、目を瞑り、深呼吸して、そして目を開ける。
「これから、聞いて欲しいのは私の過ち、私は昔、万引きしたことがある。」
衝撃の出だし。優等生である一之瀬さんの過去。冗談と思う人間もいたかもしれない。仮に本当だとして、何故今、それを話すのかと。けれどこの雰囲気に誰も何も言えなかった。
沈黙の中、彼女は話し続ける。自分の過去を。その罪を。
「これで私の話は終わり。今まで隠しててごめん。」
彼女は深く頭を下げる。
告解を聞いて、尚、冗談だと思う人間はいないだろう。彼女は紛れもなく過ちを犯したのだとみんなが理解した。
嫌な沈黙が流れる。当然だがクラスメイトには、騙された意識もない。確かにプライベートポイントは彼女に集めようとしていたが、まだ集めてすらいない。そもそも発案も彼女では無い。つまり、彼女に何かしらの危害を与えられたわけでもない。怒りなど湧いて来るはずもない。
「それで一之瀬はどうしたいんだ?」
神崎君が問う。ただ謝罪するだけでは意味が無い。この行動を起こした理由があるはずだとそう言っている。リーダーを辞めるのか、それとも…と。
「私はリーダーを続けたい、過去に罪を犯した私だけど、みんなと共に歩みたい、着いてきて欲しい。」
一之瀬さんはゆっくりと意思を込めて伝えていく。
「着いていくよ!」
白波さんが言う。彼女はこのような場で率先して発言するような人間では無い、けれど伝えたかったのだろう。
それを皮切りに一之瀬さんをリーダーとして認める発言が続く。このクラスらしい結末だと思う。このクラスは言ってしまえば、仲良しクラスだ。場を乱すことをよしとしない、そんな意識が働いている。我慢しているわけでは無いのだ、流されやすいというか、雰囲気に自分の感情も塗り潰されていくような、そんなクラス。だから、これで終わりじゃない。ここから真の信頼を得なければならない。
とは言え、ここで一区切りなのは間違いない。
自分の罪を認め告白するのは容易ではない。それも嫌われたくない相手に、大人数となれば尚更だ。だから今日ぐらいは労うとしよう。