ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ   作:スカビオサ

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13話(幸福)

「良かったの?主役が抜け出してきて。」

「そんなんじゃないよ、みんなが認めてくれたのは嬉しかったけど、でもこれからだもん。」

 

一之瀬さんの罪の告白、その放課後、Aクラスは一之瀬さんを強引に巻き込んで、クラス会を行なっていた。一部が抜け出すのに合わせて、僕も抜けてきたという訳だ。

 

「分かってるのなら問題無いね。けれど辛いのはここからだ。」

 

犯罪者というレッテルを貼られることになる。この話はクラスで緘口令を敷いているわけではない。やろうと思えば出来たが、それでは罪に向き合ってるとは言えない。となると他クラスにもいずれ伝わるだろう。その時、悪辣な第三者がこれを口実に攻撃をしてくるかもしれない。龍園君とか坂柳さんとかね。

 

「分かってるよ、それでも全部受け止める。もう逃げない。」

 

決意の籠った良いセリフだ。

これなら折れないだろう。

 

「それじゃあね。」

 

軽く手を振りながら、帰路に着く。

次は中間テストだ。時間が空いてる時にでも星之宮先生に聞きに行こう。

 

 

 

 

 

「それで一点は何ポイントで購入出来ますか?」

「単刀直入って感じだねー、もっと先生と世間話しない?」

「光栄なお誘いですが、この後、生徒会室にご挨拶に伺わなければいけないので。お答え頂けますか?」

「そうだな、私も売ったことはないんだよねえ。」

 

売ったことはない。つまりポイントを買うのは攻略法ではないということだな。

 

「では、試験の問題を購入することはできますか?」

「切り込んでくるねー、確かにこの学校ではあらゆるものがポイントで買える、けれど、そのものの価値が高いほど、必要なポイントも大きくなる。仮に試験の問題を買おうとするなら100万ポイントは必要かなあ」

 

高すぎるな、これも現実的じゃない、ある程度正攻法で臨むべき試験ということか?

 

「では過去問はありますか?例年の問題から傾向を把握したいので。」

 

過去問を見て、よほど難しいのでなければ、Aクラスなら退学者を出すことはないだろう。仮に高難易度なら、また対策を考える必要がある。

 

「残念ながら私は持ってないわね。」

「そうですか、それなら先輩にでも当たってみることにします。」

 

丁度、生徒会にも用事があるからな。

 

生徒会室へと向かっていると、一之瀬さんがいた。

目が合い、嬉しそうに手を振ってくる。

 

「やっほー、葵君。」

「お待たせして申し訳ない、じゃあ行こうか。」

「うん、行こ。」

 

一緒に生徒会室へと向かう。

 

生徒会室の扉をノックする。

 

「1-A 木之原葵です。」

「同じく1-A 一之瀬帆波です。」

「入れ。」

 

前回来た時と同じように堀北会長から返答がある。

扉を開くと、前回とは打って変わって生徒会役員が勢揃いしていた。あれが南雲副会長か、遠目から見たことはあるが、接触するのは初めてだな。

 

「お前があの木之原か、随分オレを嗅ぎ回っていたらしいな?」

 

顔合わせの場だというのに気にすることなく突っかかってくる。

 

「ただ一学年を支配しているとまで噂されていますからね、その手腕に興味があるだけですよ。」

「へえ?ならオレの元で学んでみるか?」

「勿論、生徒会の一員として生徒会副会長から多くを学びたいとは思ってますよ。」

「なるほどな。」

 

軽い応酬をしていると、横から制される。

 

「そこまでにしておけ。南雲。顔合わせの場だ。」

「分かってますって。堀北会長。」

 

どうやら南雲副会長も堀北会長の言うことなら従うらしい。

そこからの顔合わせは和やかとも言えない奇妙な雰囲気で始まった。

 

今日は本当に顔合わせだけで、詳しい業務は明日の放課後説明すると言うことだった。

解放された僕たちは共に寮への帰路へ着く。

 

「顔合わせだけなのに疲れたねー。」

 

一之瀬さんがうんと伸びをしながら言う。全くだ。利があるから生徒会へ加入したが、早速後悔している。

 

「仲が悪いとは言わないけど、少しギスギスしてたからね。」

「クラスが違うと、どうしても壁を作ってしまうところはあるのかもね、そういうところは普通の学校の方が良いなあ。」

「クラスのみんなとは普通以上に仲良くなれるけどね、でも一之瀬さんはクラス外にも友達多いでしょ?」

「多いけど、やっぱりクラスの子達ほどじゃないな、どうしても学校のシステム上、敵にならざるを得ないから。勿論、みんな退学せずに卒業できたらとは思ってるけど。」

 

一之瀬さんは気付いたように言う。

 

「というか帆波って呼んでって言ってるのに一向に呼んでくれないよね。」

 

可愛らしく頬を膨らませながら、こっちに詰め寄ってくる。

 

「うーん、でもなあ…」

 

僕はそういうの慣れてないんだよ。流れでタメ口はいけるけど、呼び捨てはきついタイプなんです。

 

「取り敢えず帆波さんで良い?追々ってことで。」

「まあ、今よりは良いか…でもいつか呼んでよ?」

「善処するよ。」

 

うん善処ね。

 

「そうだ、もし良かったら今日ご飯一緒に食べない?」

「構わないけど神崎君とか柴田君でも呼ぶ?」

「ううん、2人がいいんだけど、ダメ?」

 

2人の方が都合がいいということか?まあ、最近は2人で行動することも増えてきたし、前よりは話せるだろう。

 

「良いよ、どこで食べる?」

 

どこが良いだろうか、夜だからパレットのメニューだと少々物足りないか?いや、女性だとそんなものか?

やはり交友関係が少ないと適切な店も出てこないな、ここは一之瀬さんに頼るか。

 

「もし良かったらなんだけど…」

 

一之瀬さんは顔を背けながら続ける。

 

「私の部屋で食べない?」

 

なるほど、一之瀬さんの部屋…!?

 

「ダメかな?」

「帆波さんが構わないなら良いけど、良いの?」

「うん!今回の件でも助けて貰ったし、お礼がしたかったの。それでおもてなしって訳じゃないけどね、手料理をと思って。」

 

手を擦り合わせながら、そう言ってくる。

勘違いしちゃうから、やめてくれ…

悶々とした思いを抱えながら、一之瀬さんの部屋へと向かった。

 

 

「いらっしゃい、入って入って。」

「お邪魔します。」

 

誘導されるままに部屋に入っていく。元は同じ部屋なのに自室とは随分と違って見える。なんだか良い匂いもするし…

いくつか置かれている小物類が女性の部屋であることを主張している。

 

「一之瀬さんって料理は普段するの?」

「うん、夜は基本自炊かな、昼はみんなと食べることが多いから学食だったり色々だけど。元々中学の時も作ってたから安心してよ。」

「そこは心配してないよ。女子力高そうだからね。」

「にゃはは、そう見える?それなら嬉しいかも。」

 

テーブルの前で適当に座っていると、一之瀬さんが冷蔵庫から食材を取り出しているのが見える。

流石に何もしないのも罪悪感あるな。

 

「何か手伝えることある?」

「今日はお礼だからね、ゆっくりしてて。」

 

そう言いつつ、一之瀬さんは準備を進めていく。

 

「それにしても過去問には驚いたよね。」

「そうだね、まさか毎年同じ問題だとは。」

 

そう、生徒会室にて顔合わせを終えた後、堀北会長に過去問を売ってもらえるように交渉したのだ。生徒会長だし、テスト問題は残してそうだと考えて、頼んだのだが…確認すると一言一句違わず、同じ問題が出ていた。これこそ退学者を出すことなく乗り切れる確信ということなのだろう。まあ、今回限定だろうが。因みに小テストも毎年同じだった。

 

提示された額は30000ポイント、たかだか過去問に30000なんてあり得ないと思ったが、仮にも生徒会長だ、ぼったくっている訳ではないと考え、素直に支払った。確かに中間テストを全員満点で乗り越えることも不可能ではなくなると考えれば、過去問にはそれだけの価値があると納得はしたが。

 

「でも過去問とテストの範囲が一致しないのには気になるよね…」

 

今までずっと同じ問題で来ているのに、今年から変わるとは考えにくいが…

 

「取り敢えず様子を見るしかないかな、もしテストの範囲の変更が来たらビンゴって感じで分かりやすいんだけど。」

「でも毎年同じ問題なのに何でテスト範囲を変えるのかって話にもなるよね、最初から正しいテスト範囲でいいはずなのに。折角勉強した所が無駄になっちゃう。」

「それもヒントなんだろうね、普通に考えればテスト範囲に大規模な変更はあり得ないし、あるとするならテストの延期も考慮して然るべきだ。仮にそうしないと言うなら、時間が短くなっても攻略できると暗に示していることになる。」

「あー、そういう捉え方もできるのか、なら範囲変更してきそうだね。流石。葵君。」

 

一之瀬さんも納得したように頷いている。

 

「褒めても何も出ないよ。」

「素直に褒めてるだけだよー。見習いたいって思ってる。」

 

そんなに褒められてもな…僕は凡人がやれることを徹底的にやってるにすぎない。テストの過去問だって、入試を考えれば浮かばない発想じゃない。この学校の入試には過去問が無かったが、この高校以外にも受験した人は居るはずだ。

そうして話していると、料理がやって来た。

 

「ハンバーグか。」

「ダメだったかな?男の子はこういうの好きかなって」

「いや、好きだよ。肉とか特にね。」

「そっか、良かった。」

 

他にも付け合わせのサラダなどを持って来る。流石に運ぶぐらいは手伝おうとするが、禁止される。

 

「もう!ほら、座ってて!」

「いや、罪悪感を刺激されるんだけど、こんな亭主関白みたいな…」

 

ミスった。状況も相まって変な例えしちゃった。

 

「あ、いや、その…」

「私が葵君のお嫁さんってこと?」

 

そこは流してくれ。あんたならそれくらいのコミュ力あるでしょ。

 

「言葉の綾だからね!本当に申し訳ない。」

「分かってるよ、そんなに動揺しなくても良いのに。」

 

彼女は笑顔で何も気にしてないように告げる。

それはそれで悲しい気もする。

食卓にご飯が並ぶ。

 

「いただきます。」

「いただきます。」

 

 

 

 

 

信じられないことだなと思う。

 

僕はずっと人生に諦めを抱いていた。勉強は出来る方だし、容姿も運動能力も悪くはない(と思う)、だから、どうしようもない人生だと思ってるわけじゃない。

人はみな自分の人生の限界を悟り、夢を、目標を軌道修正する瞬間があると思う。プロスポーツ選手を目指してた人間が、強豪校でレギュラーにもなれず諦める。医者になりたい人間が医学部の難易度の高さに阻まれて、諦める。何処にでもある、ありふれた人生の1ページ。僕にとっては、それが中学時代だった。

 

さして大きくない中学でも僕より勉強が出来て、中学生だと言うのに数Ⅲやってるやつはいた。一番得意としてる勉強だってそうなのだ、運動や容姿については、言うまでもないだろう。そして何より、僕には友達と呼べる人間がいなかった。いじめられていた訳ではないが、強制的に関わる機会だけしか交流しない。ただそれだけの浅い関係。

 

そんな人間だったから、学問などで身を立てるような、社会的な成功も、友達に恵まれ、恋人も出来て、家庭を、守るべき存在を得る、そんな個人的な私的な成功も出来ないんだろうと漠然と諦念を抱いていた。

 

だから読書、特に物語が好きと言うこともあるのだろう。辛い現実を忘れられる。希望を持たせてくれない現実から逃げられる。空想の世界は何だってやれる。人を救い、魅了し、支配し、貶め、騙し、裏切り…空想という言葉のもとでその多くは否定されない。現実でそれをしようと思えば、どれだけの壁が立ちはだかるだろう。

 

だからこの学校に惹かれた。

まるで空想上の学校のようだった。ファンタジーほどではないが、僕が見て来た世界、知っている常識ではあり得ないことばかりだ。この学校では暴力も謀略も、何であれルールに抵触しなければ許容される。理想的な世界だ。

 

それに…この状況だって、以前の僕からしたら信じられないことだろう。

ご飯をもぐもぐしてる帆波さんを見る。きっと初めての女友達、そう言って良いのだと思う。はっきりと言える。今、僕は幸せだと。

 

この後は、午後8時前に帆波さんの部屋を出て、自室へと帰った。遅れると出入りが制限されてしまうから、名残惜しいが仕方なかった。

 

今日この時は、見慣れた自室だが、少し寂しく感じた。今までであれば、そんなことを思うことはなかっただろう。弱くなったと思う。けれど、この変化も悪くは無い。そう思う。

 

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