ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ 作:スカビオサ
5月18日 放課後
「それで私の元に話に来たと。」
僕は星之宮先生に先ほどの話を伝え、考察の確認を取った。
「結論から言うと、佐枝ちゃんの独断でしょうね、そんな試験は存在しないわ。どうして遅らせたのか、その理由は分からないけれど。」
「茶柱先生はAクラスでの卒業に興味が無いんでしょうか?」
「そう見える?」
試すようにそう尋ねてくる。
「客観的に見れば、そうとしか見えませんね。」
「まあ、そうよねー、ここで話すのも何だし、生徒指導室の方で話しましょうか。」
そう言って、僕を置いて、移動して行ってしまう。話が読めないが、付いていくしかないか。
生徒指導室に入り、向き合って座る。
「ここは監視カメラも無いから、内緒話に重宝するの。」
「内緒話ですか…?」
「ええ、木之原君なら話しても大丈夫だと思うし、私と佐枝ちゃんについて話しちゃおうかなってね。」
そう言って、先生は過去について話し出す。
「私と佐枝ちゃんは元はここの生徒だったの。それも同じクラスでね、仲も良かった。私たちの学年は卒業直前まで接戦で私達のクラスも十分にAクラスでの卒業が狙えたわ。」
どこか懐かしむように。続ける。
「詳細は省くけど、ある試験で佐枝ちゃんが間違いを犯した。これでクラスは転落、Dクラスになり、私たちはAクラスで卒業することができなかった。佐枝ちゃんは今でもそのことを引きずっている。だから、佐枝ちゃんはAクラスでの卒業に消極的だと周囲に見せてはいるけど、誰よりもその気持ちは強いはずよ。」
「代償行為ですか。」
「ええ、笑っちゃうわよね、自分のエゴで私達の未来を潰しておいて、それなのに執着して。」
いつも飄々としてる先生らしく無い、怒りや嫌悪などの感情が溢れ出ている。
「先生がこの話を僕にしたのは、DクラスがAクラスに上がるのを何としても防いで欲しいから、ですね?」
「ええ、木之原君なら出来るわよねー?教師の過度な贔屓は禁止されているけど、バレない範囲なら協力するわ。」
女って怖いな。帆波さんに癒されたい…
「断言はできませんが、当然、僕たちもAクラスで上がりたいので尽力はしますよ。」
なるほど、これでピースは揃った。
「茶柱先生が敢えてテストの範囲変更の連絡を遅らせたのは、過去問に気付かせるためですか。」
「恐らくね、正攻法じゃDクラスの学力では他のクラスに太刀打ちできない。何なら退学者も出るかもしれない。そう思ったんでしょうね。」
ふーむ…
「一つ疑問なんですが、今までもこうやって生徒に協力をお願いしてきたんですか?」
「いいえ、この事を話したのはあなたが初めてよ。」
「つまり、それほど今のDクラスは警戒に値するとそう考えているということですね。」
「そこまで分かっちゃうなんて、流石ね。佐枝ちゃんが自分から動くなんて今まで無かった。今年のDクラスは今までとは違う。そう感じたんでしょうね。」
なるほど、それで。
「星之宮先生的には綾小路君が茶柱先生の隠し球なんじゃ無いかと?」
「確かに一番興味があるのは彼ね。でも今年のDクラスは例年だとあり得ないほどの人材を抱えているわ。」
「平田洋介、櫛田桔梗、この2人は文句無しにAクラス級ですね、堀北鈴音、高円寺六助は性格に難こそあるものの、素質ならAクラスでも上澄みでしょう。」
具体名を挙げていくとはっきり分かる。
「確かに改めて確認するとDクラスは異常だ。もしこの人達に対抗しようとするなら、ウチから出せるのは一之瀬さん、神崎君、せいぜい僕ぐらいですね。高円寺君については、未知数過ぎて、対抗できるとも言えません。クラス全体の総合力と現在のリードがあるので負けるとは思いませんが、それも綾小路君というジョーカーがいると。」
「そこまで分かってるのね。」
星之宮先生が感心したように言う。
「4月時点で各クラスの主要人物は抑えています。ただ綾小路君についてはノーマークでしたが。」
「それについては仕方ないわ、そもそも実力をまだ発揮していないもの。」
「それなら、買い被りという可能性もあるのでは?勿論、万全を期すべきですが。」
「と言うかなと思って、こんなものを用意してまーす。」
急に陽気に宣言したと思ったら、そこには綾小路君の入試時のテストがあった。点数は全て50点。点数だけ見たら平凡の一言だが、全て50点に揃うことなど、普通あり得ない。
「こんなの、僕に見せてもいいんですか?」
しかし、めちゃくちゃ個人情報だ。
「勿論、ダメよ。だから黙っててね、そしたらバレないから。」
あっけらかんと言う。強制的に共犯にされたんだが。
仕方ない。細かく見てみると、明らかに簡単な問題で間違えているのに、難易度が高く、複雑な問題では正解しているという何ともちぐはぐな結果だった。これは遊んでるな。
「天才ってやつですね。本当にこんな陰の実力者みたいなやついるんだ…」
カッケー!憧れるぅ!僕もそういうのやりたかったなあ。
「彼がどうして動かないのかは分からない、けれど無視していい相手でないのも事実。だから気をつけて。」
有難い情報だ。知らなければ不意を突かれて、やられてた可能性もある。
「ご忠告感謝します。僕はそろそろ帰りますね。」
そう言って、部屋を後にした。
綾小路君か…
虎の尾を踏むわけにはいかないが、少し観察してみるか。茶柱先生の意図を汲み取れるなら、近日中にDクラスの誰かが動くはずだ。
それが綾小路君なら面白いかもしれない。