ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ 作:スカビオサ
17話(7月のポイント増減は謎が多い)
6月某日 中間テスト返却日
朝の教室はいつもより落ち着かない雰囲気が漂っていた。それもそのはず。今日が中間テストの採点結果の発表日であるからだ。
これは別に退学者が出ることを心配しているとかそういうことではない。過去問と同じ問題が出る時点でそのような心配は皆無だ。
ただテストの返却日ってのは期待って意味でも、心配って意味でもソワソワしてしまうものだ。
星之宮先生が笑顔で教室に入ってくる。手にはいくつかの筒を抱えており、中間テストの点数が書かれた紙だろうと誰もが理解する。
「みんな準備は出来てるみたいね。じゃあ、朝のホームルームを始めるわね。では、早速、結果発表しましょうか。」
そう言って黒板に点数表を張っていく。どの科目も100点ばかりだ。一部90点ぐらいの生徒もいるが、これだけ見ればどれだけ優秀なクラスなんだと思う事だろう。壮観だ。
「はーい、これが今回の中間テストのみんなの点数になります。平均点はどの科目も98点ぐらいね。文句なし!みんな天才ね!」
この絡繰りも理解しているだろうに、敢えてそのように言う。
前回のように他クラスの平均点を問う声が上がり、先生が黒板の空いているスペースに同じように紙を固定する。
Bクラスは平均点80点オーバー、元Aクラスだけあって流石に優秀、と言った感じだが、異質なのは、それに並ぶ平均点を獲得したDクラスだった。綾小路君が動いていたことを知っていた僕からしてみれば驚きは無いが、クラスメイトはこの結果に驚きを隠せないようだ。
「どうやら、Dクラスも過去問を利用したみたいだな。」
神崎君が振り向いて声を掛けてくる。
「みたいだね、僕からしたらBとCは何で使わなかったって話だけど。過去問を使うって発想自体ありふれたものだろうに。」
「Bは使わずとも乗り切れる自信があったのかもな。Bクラスは学力的に優れた人間が多く在籍している。CクラスもDクラスよりは成績が良かったはずだ。」
もう少し話したいが、今はホームルームだ。クラスメイトも思い出したのか、徐々に声が小さくなっていく。
その後は普通にホームルームを行った。ホームルームが終わった後は非常に騒がしかったとだけ伝えておく。
7月1日 朝
クラスポイントにどのように変化があるか、少し楽しみにしつつ、ポイントを確認したが、振り込まれていなかった。
急遽、一之瀬さんに連絡し、確認を取る。どうやらこの現象は1年全クラスで起きているらしい。
みな、この不可解な現象に困惑している。
始業のチャイムが鳴り、星之宮先生が入室してくる。
先生自身も生徒からの視線を察したのか、素早く口を開く。
「ポイントのことよね?それなんだけど、ちょっとトラブルがあってね、ポイントの支給が遅れてるのよねー。みんなには悪いけどちょっと待ってもらえる?」
そう言われては、受け入れるしかない。理由を尋ねた生徒もいたが、それについては、はぐらかされていた。
それに今月はそれ以外にも気になることがある。クラスポイントがどうなったかだ。
全員が期待の表情を向ける。星之宮先生は勿体ぶりたかったようだが、各クラスのクラスポイントが示された表を張り出した。
Aクラス 1090
Bクラス 990
Cクラス 490
Dクラス 87
3か月目にしてやっとポイントが上昇した。上昇幅はどれも100点近いが、散らばりがあるようにも見える。
「じゃあ説明するわね。まず初めての中間テストを乗り越えたご褒美に最低でも100ポイント付与されてるの。少し上乗せがあるのはテストの成績分ね。」
流石にテストで高得点とったのに、ボーナスありませんは、学生の育成をする機関としては不適当だ。この学校は学業成績のみにこだわらない作りをしているが、学業もできない人材ばかり輩出することになっては問題だからな。とは言え、ボーナスはあくまで少量、30点ぐらいしかついてなさそうではあるが。毎月3000円、クラス全体で12万、使える資金が増えると言えば、馬鹿にできない数字か。
「これからのテストでもポイントはもらえるんでしょうか?」
質問が飛ぶ。確かに気になる点だ。テストごとにボーナスを重ねられるなら、僕たちのクラスは有利になる。ただ先ほど最初のご褒美と言っていたところを見ると厳しいか。
「それについては言えないわね。でも、この学校は勉強が出来るだけで容易に上に行ける作りはしていないわ。」
ポイント自体無いか、あってもごく少量ということだろう。やはり特別試験が鍵になりそうだ。何故知ってるのかという話だが、理由は生徒会だ。5月中は殆ど雑務ばかりで学校の核心に触れる機会は無かったが、6月以降はそういった情報を得ることもできるようになって来た。ただ、分かってることとしては、夏に大きくポイントが動く機会があるだろうことと、その後に体育祭があることぐらいだ。そもそも特別試験の内容は毎年、かなり変更される。去年の物を閲覧した所であまり役には立たない。
放課後、僕と帆波さんは生徒会室にいた。そこで書記の橘さんから資料を手渡される。
1年Cクラスと1年Dクラスのメンバー間での暴力事件についてだ。この事件こそが1年生にポイントが支給されていない要因のようだ。
生徒会に訴え出たのは、1年Cクラスの小宮、近藤、石崎。1年Dクラスの須藤に呼び出され、暴行を加えられたと主張。
しかし、須藤は自身がバスケットボール部のレギュラーに選ばれたことに嫉妬した小宮と近藤が脅してきたため、抵抗した、つまり正当防衛だと訴えている。
事件現場には監視カメラが無く、犯行を裏付ける証拠がないため、状況証拠に頼らざるを得ない状況。
1年Cクラスの3人はひどく痛めつけられた跡があるが、対して1年Dクラスの須藤は無傷のため、1年Dクラスの須藤による暴行事件と判断し、審議を進行する。といったところだ。
まあ、ぶっちゃけて言えば龍園君の仕掛けだろう。喧嘩っ早い須藤君に挑みかかり、丁度いい感じにやられて、さらに自分たちで傷を作る。現場には監視カメラが無いから、状況証拠から須藤君が怪しくなる。上手くいけば、須藤君という運動面でポテンシャルのある人間を潰せるし、ペナルティでクラスポイントを失わせることもできるかもしれない。と言った感じか。
とは言え、この件が厄介なのは証拠がないことだろう。中立な目撃者でも居れば、話は別だが、それにしても動画など明確な証拠が欲しい。
「と、こういう訳なので生徒会役員であるあなた達には審議の場に参加して欲しいと考えています。」
ようやく生徒会っぽい仕事が出来るらしい。
「ただ、審議に携わる上で中立性が求められます。二人のことは信用していますが、どちらかのクラスに肩入れをすることは無いようにお願いします。」
丁寧にお願いされる。
「勿論です。ただ自分個人で事件について調べるのは構いませんか?」
一応、確認しておく。
「それは勿論構いませんが殆どの情報は資料に載っていると思いますよ?」
「念の為ってやつです。それに初めての審議ですからね、準備もしておきたいので。」
「分かりました。ですが、生徒会には他の業務がありますから、そちらも疎かにならないようにして下さいね。」
頷く。今日はもう遅い。またタイミングが合うときに行くとするか。
翌日、朝のホームルームにて、先日の事件についての軽い説明と、それによりポイントの支給が遅れていることが連絡された。その際、事件の目撃者がいれば名乗り出るように言われたが、どうやらクラスメイトに目撃者は居ないようだった。
放課後、僕は帆波さんを伴って、特別棟3階に来ていた。
「やっぱりここにだけ、監視カメラが無いんだね。」
「犯人はそれを知っていたんだろうね、だから、ここに呼び出した。」
資料で確認できることも改めて現地で確認していく。
「新しい情報は無さそうかな…ん?」
下から足音がする。誰かがこちらに来ているらしい。
あれは綾小路君と堀北さんか。
2人もこちらに気付いたようで話しかけて来る。
「貴方たちはどうしてここに?」
堀北さんが警戒するような目つきでこちらを見て来る。
「私達も生徒会側で審議に参加するから、下調べしておかないとって思ってね。そういえば、この前はバタバタしてて、ちゃんと挨拶できなかったよね。私は一之瀬帆波、よろしくね。」
「僕は木之原葵です。よろしくお願いします。」
帆波さんに倣って名乗っておく。
それにしても…生徒会という言葉を聞いたとき、堀北さんの表情が歪んだのが見えた。すぐに隠したようではあるが、やはり兄とは確執があるか。会長もあまり妹については触れたくないって感じだからな。
「私は堀北鈴音よ。」
「オレは綾小路清隆だ。そうか、2人は生徒会に入ったんだったな。」
「生徒会と言っても、今までは雑用係みたいなもんだけどね。ようやくそれっぽいことが回ってきたんだ。」
悪いが、敢えて触れてやる。
「堀北さんって会長の妹さんだよね?生徒会に入るつもりは無かったの?」
特に何も意識していないように、自然とそう聞く。
「ええ、私はクラスのことで精一杯だから。」
動揺しているな、やはりこれは弱点となりうるか。
「そう言えば、Aクラスではこの事件の目撃者は居なかったのか?」
堀北さんを庇うように綾小路君が話を戻す。
「うん、残念ながらね。Dクラスにも居なかった?」
「ああ、とは言っても他クラス、他学年じゃないと信憑性は薄くなるだろうがな。」
「もちろん、目撃者の言うことは信じてあげたいけど、どうしてもねー。」
「さて、帆波さん。そろそろ帰ろっか。」
これ以上ここに居ても収穫は無さそうだ。というか暑い、夏服着てるけど、関係ないぐらい暑い。
「だねー。ここ、暑いもん。早くクーラーの効いてる所に行きたいよ。」
手をパタパタして、胸に風を送っている。帆波さんもこの暑さは堪えるようだ。
「じゃあね、綾小路君。堀北さん。」
「じゃあねー、バイバイ!」
そう言って僕たちは帰って行く。このままだとDクラスは敗北するだろう。それをどう覆すか、お手並み拝見だ。
「帰って行ったな。それにしても兄の話を持ち出されただけで動揺しすぎじゃ無いか?」
そう言うと、堀北はキッと睨んでくるが、いつものような迫力は無い。
「お前はAクラスに上がりたいんだろ、ならあいつらとも、いずれ戦うことになるだろう。その時もそうしてるつもりか?」
「別に彼らに苦手意識があるわけじゃ無いわ。」
「それはそうだろうが、生徒会長の話を持ち出されたら、お前は平然としていられるのか?」
「綾小路君の癖に生意気ね。」
「生意気でも何でも良いが、お前が動揺してる状態であの2人に勝てるとは思わない。オレにも分かる動揺具合だったからな。2人もお前が兄との間に何か抱えてることぐらい気付いただろ。」
実力を発揮すべきときに、これが原因で発揮できないとなって貰っては困る。
「分かっているわよ、分かっているけど…」
本人も自覚しているが、長年の積み重ねは、すぐどうにかできるものでも無いのだろう。
「暑いし、手早く調べるか。」
この厳暑が容赦なく、オレの体を蝕む。早く冷房の効いた楽園に帰りたい。そんなことを考えつつ、堀北と事件現場を調べ始めた。