ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ   作:スカビオサ

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19話(深度Ⅰ)

Dクラスの暴力事件はCクラスの生徒に1週間の停学、Dクラスの須藤君に夏休みまでの停学と言う結果になった。

クラスポイントはDが30ポイント剥奪される形となった。つまりDクラスの現在のクラスポイントは57ポイントだ。

 

堀北さんは最後まで粘ろうとしたが、それも叶わず、この結果に終わってしまった。須藤君も最後まで反発していたが、判決が確定した後は、かなり落ち込んでいた様子だ。折角、決まったバスケットボール部のレギュラーも一度白紙に戻ることだろう。夏休みまでは部活にも復帰することが出来ない。これは彼にとってかなり辛い結果だ。めげずに再チャレンジして欲しいものだ。うん。

 

この問題が解決したことにより、僕たちにも正常にプライベートポイントが振り込まれた。クラスの銀行に8割納めていく形式なので、手元に残るのは2万ポイントぐらいだが、高校生にとっては十分すぎるほどだ。銀行については帆波さんの問題もあったため、僕が銀行役をしている。今までの功績を加味されての大抜擢だ。まあ、銀行役と言っても戦略上必要であれば、使う許可は得ているが。

 

 

 

 

 

 

7月13日 土曜日

 

「Dクラスもこれから大変だねー。本当はDに勝って欲しかったんだけどな」

 

帆波さんがぐでーっと寝転がっている。実に無防備だ。というか下は普通の床だ。勿論、掃除はしているが、絨毯なんて買ってないからな。そういうの抵抗ないんだろうか。部屋にはクーラーがついているし、床の方が冷たくて気持ちいいなんてことも無いと思う。

 

「ほら、起きて」

「最近、生徒会とか忙しくて疲れてるの。寝させてよー」

 

そう言って、意地でも起きようとしない。日頃、みんなの前では頼れるリーダーで居ようと頑張ってるからな。そうなるのは仕方ないとは思うのだが…

 

「ここが僕の部屋じゃなければね」

 

最近、彼女は土日に僕の部屋に来ることが多い。香水を付けてるのか、部屋全体がシトラス系の匂いに包まれている。流石に平日は学校もあるし、香水は付けていないみたいだが、土日はそうじゃないみたいだ。果物が好きって話もしてたし、ミカンとかそういう柑橘系が好きなのかな。香水について言及するのってセクハラっぽいから何も言えてないが。

 

「そういえば...最近白波さんと何かあった?」

 

起こすのを諦めた僕は、最近気になっていたことを問う。

その話題は予想外だったのか、それとも寝ながら話すことじゃないと思ったのか、帆波さんは体を起こしながら答えた。

やけに沈黙した後、話し出す。

 

「うーん、実はその…千尋ちゃんに告白されて…。その…えっと…好きな人がいるって断ったんだけど、それで、ちょっとぎくしゃくしてるんだよね、友達のままで居ようって話はしたんだけど、それでも気まずいみたいでさ。私としても少し声掛け辛くて」

 

ふーん、なるほどね、というか帆波さん、好きな人いるのか…

 

「えっ、帆波さん好きな人いるの!?」

 

ここ最近で一番の衝撃だ。クラスの皆が最優先で今はそういうことを考えている余裕は無いよって感じかと。

 

「誰?神崎君とか柴田君とか?というか、これって聞いていい奴?」

 

気が動転して、ありえそうな面子をあげていってしまう。でもよくよく考えるとセクハラになるんじゃないかと思い、確認する。

 

「神崎君とか柴田君は良い友達だけど、違うかなあ。聞いても良いよ…」

 

少し恥ずかしそうにしているが聞いても良いらしい。

 

「他クラスの男子とか?あるいは先輩?」

 

恋バナというやつに縁遠かった僕は少々気分が高揚していた。本当は神崎君とかとしたいんだけど、彼、恋とか興味ないって感じだからね。前も他クラスの誰かに告白されてたけど断ってたし。

 

「でも無いよー」

 

顔を赤くしながらそう答える。

 

「となると自クラスの男子か、施設内の職員、教師、あるいはここにいない人か…将来を誓い合った幼馴染とか居る?」

「そんな人いないよー。それに私、中学3年生の半分、不登校だったから、その時までの関係性は…あんまり残ってないっていうか」

「1-Aの誰か?」

 

帆波さんは言葉を発するのも照れくさいのか、コクンと頷く。

 

「誰だろ…?」

 

浜口君とか候補は上がるものの、神崎君や柴田君ほど仲良くしてるイメージは無いんだよな...

うーん?うーん…いや、まさかね。

 

「ははっ、じゃあ僕とか?何てね」

 

やっば、他に思いつかなかったし、創作定番の感じで返しちゃった。気持ち悪いナルシストになっちゃった。

帆波さんは先ほどと同じようにコクンと頷く。

ん?

 

「えっと…」

「うん、葵君のことが好き」

 

まるで湯気が出てるかのように錯覚するほど、顔を赤くしながら、答える。

どうやら感染したらしい。自身の顔が急激に熱くなる。

ただ何も言わず、床に座って向き合っている。どうすべきなのか迷っていると、帆波さんが急に抱き着いて来た。体はこんなに熱くてエネルギーを持て余してるというのに、僕は動けない。

 

「ねえ、私、葵くんのことが好きなんだ。だから付き合って欲しい。ダメかな?」

 

耳元で囁いてくる。シトラスの香りが強くなる。

えっと、これは夢?僕の意識はここで途切れた。

 

 

 

 

 

見慣れた天井だ。どうやら夢だったらしい。この僕にそんな都合の良いことが起こるはずないわな。ガハハ。なんか唇が湿った感触がするけど、気のせいかな。体を起こすと、何やら腕に感触。疑問に思い、タオルケットを剥がすと、そこには帆波さんが寝ていた。

?????????????????

僕が身じろぎしたためか、彼女も丁度、目を覚ました。

 

「お、おはよう…?」

「うん、おはよう」

 

平然と返してくる。いや、少し顔が赤いか。

 

「ごめん、何でこうなってるんだっけ?何か直前の記憶があやふやでさ。あり得ない夢を見てたことは覚えてるんだけど」

「ありえないって?」

「帆波さんが僕に告白してくる夢なんだけど…ごめんね、気持ち悪いこと言って」

 

混乱していることもあってか、濁さず口に出してしまう。口は禍の元とは、まさしくその通りだな。すぐに謝罪する。

 

「夢じゃないよ。もう一度しようか?」

 

何かのゲージが振り切れてるのか、滅茶苦茶恥ずかしくなることを言ってくる。

 

「本当に?」

「本当だよ」

「えっと、その…ごめん。まだ」

 

頭の整理がついていない。起きたばかりということもあるが、何より事態が想定外のこと過ぎる。

話の途中だったのだが、帆波さんは急に立ち上がる。

 

「にゃはは、ごめんねー、そうだよね。また月曜日にはちゃんとするから、今日は帰るね」

 

反転、青ざめた顔で、震える声でそう告げる。

 

「待って!」

 

手を掴む。焦っていたからか、強く引っ張ってしまい、帆波さんが倒れ込んでくる。

 

「にゃ!」

 

密着する形になったが、気にせず告げる。

 

「ごめん、そうじゃないんだ。まさか帆波さんが僕のことを好いてくれてるなんて思いもしなかったから実感が無くて。

ずっと綺麗だと思ってたし、可愛いとも思ってた。付き合えたら良いなとも思ってた。けれどそんなこと起こるわけないって思ってたから、好きだって思わないようにしてたんだ。それでその、こんな中途半端な僕だけど、それでも良いのなら付き合ってほしい」

「本当?」

潤んだ瞳で見てくる。

「本当だよ」

安心させるようにはっきりと言う。

「良かった、良かったよう...」

 

そう言いながら強く抱きしめてくる。手の置き場に困りつつ、抱き返す。そこからは何分も何十分もそうしてたような気がする。

夢みたいな話だ。自分がこんな風になるとは…入学時点での自分であれば想像もしないだろう。

この高育に入ってよかった。心底思う。Aクラスでの卒業、それを叶えないといけない理由がまた一つ出来た。

 

 

 

 

 

 

<一之瀬視点>

 

私がこの学校へ入ったのは失ったものを取り戻すためだ。

だから恋愛に意識を向ける余裕も無かったし、この状況も不思議だなって思う。

 

「本当に葵君と付き合ったんだよね…」

 

湯船に浸かりながら、呟く。どこか現実感が無い。

 

葵君は私にとって、この学校生活を象徴するような人だ。初日からご飯に行き、学校のルールについて話し合って、対策を取って、クラスをAクラスに導いた。それからはリーダーとサブリーダー、そのような形でずっと関わってきた。その時は特に恋愛感情は抱いていなかった。頼りになる友達というだけだった。

 

変わったのは私の抱える罪を話してからかな。罪を聞いて、逃げるなと叱咤して、辛い時は支えると言ってくれた。苦しくて怖くて堪らなかったけど、葵君のことを思えば、少しだけ勇気が湧いてきた。味方で居てくれる、そう言ってくれたから。多分、その時には好きになってたんだと思う。惚れっぽいのかなと思うけど、それでも仕方ないと思う。楽な方向に逃げようとする私を無理やり引き留めて、支えるって言ってくれたんだから。普通だったら、そんな事しないだろう。罪を糾弾するか、理解を示すか、そのどちらかだけだ。実際にクラスのみんなに告白した時もそうだった。だから、その時、私はどうしようもなく葵君の行いに愛を感じてしまった。頼れるリーダーとしての私じゃなくて、弱い泣き虫の私を見てくれてる。彼の前ならそんな私で居ても良いんだと思えた。

 

罪を告白した時にクラスのみんなは受け入れてくれたが、他クラスは当然そうでは無かった。陰口は当たり前だったし、面と向かって言われたこともある。覚悟してた事だから、大丈夫、向き合わないと。そう言い聞かせていたけど、偶に辛くなって、罪の重さに心が耐えられない時があった。でも、そんな時には必ずそばにいてくれた。話を聞いて、ただ慰めるんじゃなくて、その苦しさこそが罪と向き合ってる証なんだ。と進むべき道を示してくれた。僕が味方だと、クラスメイトが味方だと、私は1人じゃないと言ってくれた。

自覚した恋心が際限なく大きくなっていくのを感じた。

 

その頃は生徒会で一緒に活動してたから、1日の半分は一緒に居たと思う。土日も生徒会だとか、話を聞いて欲しいとか、理由をつけて一緒に居た。ずるい女だと分かっていたけど、彼が自分のために時間を割いてくれる事が嬉しかった。やっぱり彼は私の味方で居てくれる。そう感じる度にもっと離したくなくなった。独占したい、彼の時間を全て自分のものにしたい。そんな気持ちが強くなった。だから案の定、私の好意はクラスのみんなにも伝わっていたらしい。麻子ちゃんからそんなに好きなら、告白したらって言われもした。告白なんてした事なかったから、中々踏ん切りがつかなかったけど、話の流れに合わせて告白する事ができた。でも、葵君が意識を失ったのは流石に焦ったなあ。初めては意識があるうちと思ってたのに我慢できなかったのは許して欲しいな。葵君も気づいてなかったし、大丈夫だよね。最終的にはOKを貰えたし、いっぱい褒めてくれたから、すごく嬉しかった。

 

私は今、幸せだ。罪と向き合い、最近は、同級生ともその上で信頼を築けてると、そう思う。好きな人と恋人になれて、ずっと一緒にいることができる。

 

「ずっと、ずーっと一緒だよ。葵君」

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