ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ   作:スカビオサ

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1巻
2話(はじめまして高育)


学校の門前にて一人。どうやら早く来すぎてしまったようだ。周りに新入生の姿は見当たらない。これから3年間、こちらに戻ってくることはできないというのに、こちら側への執着は自分でも驚くほど薄かったらしい。

とは言え、門が閉まっているという事もなく、普通に入れる様子だった。中の情報を徹底的にシャットアウトしている割には杜撰というか…学生証による認証ゲートとかあってもおかしくないと思うのだが、そういったものは見当たらない。どこかで監視でもされているのだろうか?

 

私物の持ち込みも許可されており、 特別チェックも入らなかった。

学内では現金の代わりにポイントを用いるそうで、現金の持ち込みは禁止されているし、携帯も代わりとなるものを支給するらしいが、誰もかれもがそれを真に受ける良い子だとでも信じているのだろうか?確かに現金が使えないことで持ち込んでも意味は薄いように感じるが、一歩外に出たら普通に使えるのだし、卒業後のことを考えたら、買収など有効に使うこともできそうなものだ。携帯も持ち込めば、内部の情報を外に伝えられるだろうし…これは警戒しすぎなのだろうか。それとも僕の頭では思いつかないような対策が取られているのだろうか。

 

まあ、残念ながら僕は大企業の御曹司でも中学生から自分でバリバリお金を稼いでいるYoutuberでもないので、この持ち込みを実行したところで、バレた際のリスクに見合うリターンは得られないと断念せざるを得なかった。

現金も3年間は使うことができないのであればと、ほぼ全財産をはたいて、買ったノートパソコンだけが僕の財産というわけだ。

 

思考に没頭しながら歩いていると校舎の前にクラス分けの紙が張り出されていた。どうやらクラスはA~Dの4クラスに振り分けられているらしい。

 

いつも通り、前から順に探していく。き、き、き…

木之原葵 あった。

どうやら僕はBクラスのようだ。数えてみると各クラス40人で1学年ごとに160人となっている。よくもこの狭き門を潜り抜けられたものだと、自分を褒めてやりたい気分になった。

 

高揚しつつ静かな校舎の中を進み、目的の教室の前に到着する。深呼吸。ドアを開ける。

案の定、そこには、まだ誰もいなかった。

 

「そりゃ、そうだよな。」

 

周りに誰もいないことが確認できたからか、自然と独り言が漏れ出る。誰もいない教室、悪くない気分だ。ただ、誰か一人でもいてくれたならば、こんなコミュ障でも自然と話しかけることができていたかもしれないというのに…とも思う。

「こんな時間に来てるんだね、早いね」とかそんな感じでさ。因みに2人以上はNG。先客同士で話してる間に割って入るなんて、難易度ルナティックだ。

 

ひとまず指定された席に座り、周りを見ていると、監視カメラが目についた。やはり、この学校は普通とは違うという事なのだろう、単に貴重品の盗難防止といった用途という事も考えられるが、何となくそうではないのだろうと感じていた。

さて、暇だ。始業の時間まで、まだ2時間以上ある。折角、この学校に入れたのだし、ぼーっとするだけで時間を潰すのも勿体ない。少し学校を見回ってみるとしようか。

 

 

完全に出遅れた…

 

校舎は先ほどとは打って変わって活気に満ちており、新入生同士で会話している様子が至る所で見られる。やや居心地が悪くなりながら、廊下を進み、1-Bの教室へと戻る。教室に近づくと、外からでも明るい声が聞こえてくる。

きっともう友達が出来たりしたのだろうな…と思いつつ、2時間前、扉の前に立った時とは全く違う気持ちで深呼吸。ドアを開ける。

開閉音で一部の人間がこちらを見るが、それも室内の喧騒にすぐかき消され、各々新しくできた友達との会話に戻っていく。席を見ると、ほとんどの人が来ていることがはっきりと分かり、自身が出遅れたこともまたはっきりと分かった。

 

この状況で誰かに話しかけられる勇気なんてねえよ、心の中で少し悪態をつく。

当然の権利を行使して、自分の席に着く。先ほどの教室とは大違いだ。あの優しかった雰囲気はどこへ?

いや、分かっている。まだ少し出遅れただけだ。誰だって最初はみんな初対面なのだ、多少無理やり話しかけても分かってくれる。さあ、誰に話しかけようか…

 

そうして5分、僕は本を読んでいた。そういえば、今ちょうど面白いところだったのだ、だから少しでも読みたくて、それで読んでいるに過ぎない。決して何もしてないぼっちだと、余計に浮くだとかそんなことは考えていない。周囲をチラッと伺いながら読んでいるせいで何も入ってこない。何も入ってこないのにそれっぽくページをめくる。本当に何をしているんだ、自分が嫌になる。いっそのこと、机に突っ伏して今後は一匹狼コースでいってやろうか、正直中学の時だってそんな感じだったしな。そう考えていると

 

「そんなに本が好きなのか?」

 

先ほどは空席だったところから声がした。クールな男の声だ。

 

「いや、そういう訳じゃないけど…」

 

突然話しかけられ、しどろもどろになりながらそう返す。声から何となく察してはいたがかなりのイケメンだ。良い声してる人って顔も良い気がするのは僕だけだろうか。本を読んでいる知らない奴に話しかけられる能力と言い、僕に持っていないものを多く持っていそうな人間だ。

 

「すまない、読書中に声を掛けてしまって。俺は神崎隆二だ、よろしく。」

 

簡潔な自己紹介だ。もしかしたら彼も人付き合いが得意というわけではないのかもしれない。会話の輪に飛び込んでいくほどの勇気はないが、独り読書をしている寂しい奴になら声を掛けやすいとか、そんな感じで。何にせよ、この蜘蛛の糸を手放すわけにはいかない。

 

「僕は木之原葵と言います。よろしく、神崎君。それで何で僕に声を掛けてくれたの?」

 

神崎君は少し考えた素振りを見せた後、こう言った。

 

「表現に困るが、俺には木之原が浮足立っていないように見えたんだ。この高校は希望する進路を100%叶えてくれる。入学した時点でその資格を得たのだから、浮足立ってもおかしくないだろうし、何より周囲はそう見える。だからこそ気になったんだ。」

 

なるほど、浮足立っていないのはスタートダッシュに失敗したのが主な原因ではあるのだが…そう見えたのならこの落ち込みようも悪くなかったという事か。それに…

 

「この学校が全ての生徒の進路に応えてくれるとは信じてないからね。」

 

どうやら、この言葉は神崎君に多少の驚きをもたらしたらしい。続けて言う。

 

「そもそも希望する進路に確実に応えるっていうのが怪しいというのはあるけど、入学しただけでその資格を認めてしまったら、みんなこの3年間努力する気をなくしてしまうでしょ?勿論、その進路先で能力を発揮できないと意味はないんだから、ちゃんと努力できる人もいるだろうけど、全員がそうはいかないだろうからね、僕としては卒業がとても難しいだとか、その権利は一部の優秀な生徒にのみ与えられる特権なんじゃないかなって思っているけど。」

 

ここまで言うと、どうやら納得したような表情を見せた。

 

「確かにな、言われてみれば、その通りだ。いや、元々この学校には不思議な点が多々あったが、国営の学校が詐術を用いるなどありえないと考えていた。」

 

「その点に関しては同意だけどね。元々、こういう良いところがありますよ~って人を呼んでいる訳だから、これで嘘でしたって言われても納得はできない。ただもしかしたらそういう可能性はあるかもねってだけ。」

 

確信があるわけでもないので、あくまで可能性だと念押しする。後で嘘吐かれたとか言われても困るしな。陰キャの処世術というやつだ。

 

「警戒をしておくに越したことはないということか、感謝する。有意義な会話だった。」

 

「今、分かっている情報だけじゃ何とも言えないけどね。僕も色々と調べるつもりだけど、神崎君の方でも何か分かったら教えてよ。」

 

ここまで言ったところで始業のチャイムが鳴り、同時に先生らしき人物が入ってくるのが見えた。セミロングで軽くウェーブのかかった髪型をしており、若そうという印象を受ける。アラサー手前ぐらいか?

 

「了解だ…どうやら先生が来たようだな、また話そう。」

 

「うん、よろしく。」

 

会話はここで中断だ。ただ立ち込めていた暗雲がすっきりと払われたようなそんな清々しい気持ちだった。我ながら単純だな、本当に。

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