ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ   作:スカビオサ

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サブタイトルだけ修正しました。


21話(オープニング)

1-Aクラスは連日ある話題で持ちきりだった。

それはクラスの代表格である一之瀬帆波と木之原葵が付き合ったからだ。

 

「にしても、木之原は良くやったよなあ、まさか一之瀬と付き合えるなんて」

 

昼食を食べながら柴田君が話しかけて来る。サッカー部所属なだけはあり、ごはんは大盛だし、カロリーが高そうな料理だ。

僕?山菜定食だけど?いや、ご飯は大盛だから。成長期なのでね…まあ、がっつり伸び悩んでるけど。

 

「僕もまだ実感湧いてないんだけどね、まあ、生徒会とかで一緒にいる時間も多かったから」

「にしても俺たちの中だと木之原が一番乗りとはね、俺は神崎だと思ってた」

「俺には好きな人がいないからな。それに恋愛にそこまで興味があると言うわけじゃない」

「クールだねえ。そういうところも良いんだろうな」

 

柴田君はそう言うが、君もかなり人気ある方だぞ。運動神経抜群で、イケメンでクラスのムードメーカーでもある。好きな人は多い筈だ。

 

「まあ、俺らは分かってたけどな。明らかに一之瀬は木之原のことを意識してたし」

 

神崎君もその通りとばかりに頷く。

 

「えっ、そうなの…?」

「お前は少々自己評価が低すぎる嫌いがある。このクラスがここまで来れたのも木之原の功績が大きい。もう少し自信を持っても良いと思うんだが」

「いや、僕がやってることは誰でもできることに過ぎないよ」

「謙遜も過ぎれば嫌味になるって本当なんだなー」

 

柴田君が呆れた表情で見てくる。こりゃ何言ってもダメだとでも思われたのか、話題を変えて来る。

 

「それにしても夏休みはバカンスなんだろ?楽しみだよなあー」

 

この学校は夏休みにも税金の大盤振る舞いに余念が無い。夏休み中の2週間、1年生は豪華旅行を楽しめる。

最初の1週間は無人島のペンションに泊まり、夏を満喫し、後の1週間は豪華客船で宿泊すると言う流れらしい。と言っても、柴田君には悪いが、クラスポイントの変動がある特別試験だろう。無人島ならサバイバルとか、バトルロワイヤルとかだろうか、夢が広がる。

 

「油断は禁物だ。恐らくバカンスと銘打った特別な試験だろう」

 

神崎君が釘を刺す。

 

「まあ、そうだよなあ」

 

どうやら彼も薄々分かっていたらしい。それでも諦め切れないのか、残念そうにしている。因みにクラスには特別試験のことは話していない。匂わせる程度なら問題ないだろうが、生徒会にて得た情報を無闇に拡散するのはリスクがあるからな。裏で戦略の材料に使う程度だ。

 

「でも、無人島だろ?無人島となれば、学力が求められるってわけでもなさそうだし、俺でも力になれそうだ」

「そんなに成績悪くは無かったでしょ。期末テストだって悪くない点数だったと思うけど」

 

どの教科も70点台はあったはずだ。

 

「そりゃ、俺もAクラスだしな。それに日頃一緒にいるお前らに追いつくために勉強も頑張ってんだよ。神崎は80後半から90点台だろ。木之原は90点越えが当たり前みたいな感じだしよ。教科によっちゃ満点も取ってる。俺だけ馬鹿なやつみたいじゃん」

「それを言うなら、柴田君の運動能力には敵わないよ。サッカーの方も調子いいって聞いたけど?」

 

そうやって話を振ってやると、嬉しそうに話し始める。

 

「おお、よく聞いてくれたな。実はレギュラーになれそうなんだよ!もしかしたら夏のインターハイの試合にも出れるかもしれない」

「それは凄いな。サッカー部は部員も多いだろう。1年でレギュラーになれるなんて初めてなんじゃないか?」

「まあ…直近だとあまり聞かない話らしい。平田も上手いけど、サッカーに限れば俺も負けない自信はあるし。ただ南雲先輩とやりあうと、自信失くすけどな。あの人、生徒会もやってて、練習も満足に出来ないだろうに、やたら上手いしさ。実際、生徒会に入る前、サッカー部入ってたらしいけど、その時点でエース確定だったって聞くし」

 

南雲副会長が有能なのは日頃接する機会がある人間として認めるところだ。堀北会長に啖呵を切ったは良いが、どうすれば南雲副会長に対抗できるか、これだけはイマイチ浮かんでこない。そもそも学年全体を掌握しつつある相手だし、学年が違うから仕掛け辛い。生徒会に入れてもらった身として、会長に何かしらしてあげたい気持ちはあるが、変に南雲副会長にちょっかい出してクラスごと潰されるのも困るんだよなあ。単純に考えるなら、学年に対抗するには学年しかないという話だが。

 

あの時、クラスから退学者を出したくはない。故に南雲副会長の方針には賛成できない。そう会長に語った言葉は事実だが、全て本音ってわけでもない。南雲副会長が実力主義の方針にするなら、その基準を超えられるようにクラスメイトを導けば良いだけだからだ。

 

他クラスについては、僕は何人退学者が出ようが何とも思わないどころか、出て欲しいとすら思うからな。僕の交友関係は殆どAクラスで完結している。他クラスの友達なんて、椎名さんぐらいだからね。流石に彼女には退学して欲しくないとは思うがそれだけだ。

 

「おーい、そろそろ、教室戻ろうぜ」

 

柴田君が声を掛けてくる。喋りながらだと言うのに、もう食べ終えている。

 

「ああ、ごめん、ぼーっとしてて」

 

残ったご飯を掻きこみ、席を立つ。プレートを3人揃って、返却する。

 

「木之原は時々、こういう風になるよな」

「長考癖って言うか、そういう感じだよな。車の運転とかさせたら怖そうだ」

 

何気ない会話をしながら教室へと戻る。

 

 

 

 

 

教室に入ると、帆波さんらも戻ってきていたらしい。席で網倉さんと楽しそうに話している。その方向を眺めると、視線に気付いた網倉さんが僕を手招きする。誘導に従って近づいて行く。

 

「今、話題の彼氏さんのご登場だー」

「もう、麻子ちゃん…!」

 

帆波さんは照れつつも嬉しそうにしている。何か恥ずいな。

 

「どうも彼氏です」

 

取り敢えず乗っかってみる。こういうタイプじゃないんだけど、偶にハジけたくなる時ってあるよね。

 

「葵君も…もお!」

 

嬉しそうにしながらじゃれついてくる。

そうやって遊んでいると、先生が入ってくる。

 

「はいはーい、今日は午後から終業式だからね。一旦、席についてね。ほら、そこの生徒会カップル、式の仕事あるんじゃないの?」

 

あっ、もうそんな時間か。星之宮先生、帆波さんと付き合ってから毎日のように絡んでくるんだよなあ。普通、教師って生徒の恋愛とかノータッチじゃないの?ともかく今から行かないと集合時刻に間に合わなさそうだ。

 

「行こうか」

 

帆波さんに声を掛ける。

 

「うん、行こ」

 

そう言って、控えめに手を出してくる。

え?何だ?そう思いつつ、気にせず普通に向かおうとしたら、教室全方位からブーイングが飛んできた。

 

「ありえなーい」

「勇気出して手を出してるのに、それでも男か!木之原!」

「帆波ちゃんが頑張ってるのに!やっぱりお前なんかじゃ駄目だ!」

 

え?何?最後の白波さん?いや、そんなキャラじゃないよな。

言いたいことは分かるが二人きりのデートじゃないんだぞ。でもこの様子だと、手を繋ぐ他に、このクラスメイトどもを鎮める手段も無いか。しっかりと手を繋ぎ、ぐっと引っ張って駆け足で教室を出ていく。見世物じゃないんだぞ!

 

「ふふっ、なんか楽しいなあ。こういうの」

 

早歩きで移動しながらすごい良い笑顔でこっちを見てくる。

 

「おもちゃにされてるとしか思えないけどね」

「あはは、それは確かにそうかも。でもクラスのみんなが認めてくれてるって感じがして、私は嬉しいけどなあ。終業式も一緒に頑張ろうね!」

 

頑張りたいほど、業務に熱心さは無いはずだけど、どこからかやる気が湧いてくるから変なものだ。

 

「うん、頑張ろうか」

 

 

 

 

 

会場である体育館に着くと、そこには生徒会役員が勢揃いしていた。

 

「すいません、遅れました」

 

一番後輩なのに遅れてくるのはまずい。

 

「おいおい、付き合って浮かれてるんじゃないか?」

 

だって南雲副会長が絡んでくるからね。

 

「南雲、そこまでにしておけ。時間通りではある、問題は無い。ただ南雲の言う通り、手を繋いで歩くのはプライベートの時のみにしておけ」

 

あ。繋いだままだった。手を離す。

 

「すいません」

 

2人して謝る。

 

「よし、本番前に軽く流れを確認しておくぞ」

 

堀北会長に従って、準備を進めていく。

本番も滞りなく進行し、式は終了した。

 

 

 

 

 

終業式終了後、資材庫にて、僕は南雲副会長と終業式に用いた機器を片付けていた。

 

「全くお前が帆波と付き合うとはな」

「僕の彼女ですからね。手を出したら許しませんよ」

 

というか下の名前で呼ぶな。僕でさえ呼んでないんだぞ。いや、それは僕が悪いんだけど。

 

「おいおい、後輩の彼女に手を出すかよ。それに俺はそんなに女に困ってない」

 

困ってないどころか、飽和状態だろうよ。

 

「そうですね、すいません」

「ただ帆波に手を出せば、お前の本気を見れるってなら価値はある。今は堀北先輩がいるが、来年は退屈になるだろうからな」

 

最悪だな、こいつ。

素直に嫌悪の感情が出てくる。それを察したのか、笑いながら訂正する。

 

「安心しろ、冗談だ。俺は必要ならどんな手だって躊躇なく使うが、俺にも美学がある。お前も帆波も同じ可愛い生徒会の後輩だ、そんな事はしない」

 

そう言って、彼は去っていく。

はあ…本気で狙われたら止めようがないな。どうしたものか。南雲副会長を参考にするのは癪だが、学年の支配、それも考慮に入れるべきか。

一先ずは次の特別試験を乗り越えることを考えようか。

 

 

 

 

夏休み初日、僕は彼女である帆波さんとデートするわけでもなく、橋本君と密会していた。カラオケは機密性に優れており、こういう時には重宝する。

 

「それで?要件ってのは何だ?というか話題の彼女さんは放っておいて良かったのか?」

「今日も君との話が終わった後、会う約束をしてるから大丈夫だよ。一つ確認なんだけど、間違いないんだね?」

「?ああ、流石にあの体じゃな、仕方ないんだろうな」

 

星之宮先生にも、こっそり確認は取ってあったけど、間違いはなさそうか。なら、よし。

 

「じゃあ、これを見てもらえるかな」

 

そう言って契約書を取り出し、手渡す。

内容は契約書に書いてある通りだ。

 

「おいおい、どういうことだ?逆じゃなくてか?」

「それで合ってるよ」

「どういうつもりだ?いや、そういうことか…?」

 

彼は混乱した様子を見せたが、すぐに理解したのか、持ち直す。

案外、早く気付くもんだな、やっぱり優秀だ。

 

「俺の立ち位置を分かって持ちかけてるのか?」

「勿論。君の目的が分かってるからこそ、持ちかけてると言うべきかな。Aクラスで卒業したいんだろう?だから、5月ごろに各クラスの有力者に接触した。違う?」

「だが、これは…」

「2000万ポイント」

 

これだけを告げる。言外に匂わせる。言いたい事は分かるよねと。

彼は、らしくなく目をぱちぱちさせると、一息ついて話し始める。

 

「やりたいことは分かったけどな、ちゃんと報酬は用意できるんだろうな?」

「何なら今、残高を見せようか?勿論、クラスにも許可は取ってる。安心して良いよ」

 

そう言って、僕はポイント残高を見せる。1000万近いポイントだ。

 

「本当にあるんだな…」

 

橋本君はすぐに頭を切り替え、話に移る。

 

「と言っても、試験内容が分かるってわけじゃないんだろう?」

「うん、生徒会所属と言っても、そこまでは分からない。ただ毎年、夏に大きくクラスポイントが変動する機会があるのは確かだよ。それに都合よくバカンスと来てる。十中八九、このタイミングだろうね」

「それが特別試験ってことか」

「うん、それでどうかな?あくまで成功報酬だからね、するもしないも契約してから決めてくれれば良い」

「そんなんで良いのかよ。どっちに転がっても損は無いってか?」

「そうだね、僕の理想は契約を履行してくれる方だけれど、そうじゃないなら、やりようはあるよね、特に彼女の方針だとさ」

「そこまで分かってるのかよ。いや、そりゃそうか。だからこの話を持って来てるんだしな」

 

彼女が打てる手は限られる。なら僕にでも、この手は読める。いや、これは性格読みか。

 

「分かった。乗っても良いが、報酬はもう少し積んでくれ。ここで信頼を失うのは痛いんだ。勿論、誤魔化すが、それを覚悟で動く以上、もっと旨みが欲しい」

「強欲だね、じゃあ400万、これでどうかな?」

 

ここは度量を見せておくか。今後も頼ることになるだろうし。

 

「決まりだな」

 

どうやら了承してくれたらしい。

僕は契約書を訂正し、それを橋本君に渡す。契約書は2枚、僕用と彼用だ。

彼は契約書を細かく読んでいくと、問題無かったのか、頷いてサインをした。

 

「じゃあ、頑張ってね」

 

そう言い残し、僕は自分用の契約書を持ち、この場を去った。

 

 

 

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