ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ   作:スカビオサ

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3巻(無人島試験)
22話(リーダー交代無双はお預けです)


常夏、燦々と照りつける日差し、蒼い海!

僕たちは今、海の上にいた。

夏休みの2週間に行われる豪華クルージングだ。

 

「こういうの初めてだから、何だかワクワクするね」

 

横で海を眺めていた帆波さんが言う。デッキからは海を一望でき、一面の蒼が僕たちの心を刺激する。

 

「いつもは同じ場所に閉じ込められてるからね、別にそれに不満があるわけでもないんだけど、やっぱり解放感が違うなあ」

「だよねえ。でも、これから特別試験がありそうなんだよねえ」

「折角、夏休みに入ったのに忙しないのは確かだね」

「うんうん、ちょっとは、ぐうたらしたかったかも。でもみんなと乗り越えていこうね」

 

その表情は真剣さもあり、かといって緊張で硬くなってもいない、理想的なものだった。

クラスメイトとも今回の試験の予想を話し合った。皆が覚悟を決めている。だからこそ、申し訳なさもある。

何故なら、僕にはこの試験、勝つつもりは無いからだ。

 

暫く海を2人で眺めていると、アナウンスが流れてきた。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

奇妙なアナウンスだ。意義ある景色か。

 

「意義ある景色だってね、覚えておいた方がいいかも」

「だねー。みんなもデッキに呼んでおくよ」

 

そう言って帆波さんは端末を操作する。

少し経つと、続々とデッキに人が集合して来た。デッキは瞬く間に人で埋め尽くされた。

 

最初からデッキにいて良かったな。後から来たら、何も見えない所だったぞ。

 

数分後、島の姿が現れた。遠くて大きさが掴めなかったが、近づいて行くと島の全容が判明する。思ったより大きい島だな。船はそのまま桟橋に着けることなく、島の周りを回り始める。観光のため、見せるというのであれば、こんなに不自然な高速航行をする必要はない。島を観察しろということだろうか。サバイバルにしろ、バトルロワイヤルにしろ、場はとても重要だ、特徴的な場所とその位置関係は記憶しておく。

 

気になったことはペンションらしきものが無いって事だろうか。やっぱりペンションで宿泊するなんて嘘じゃないか。さて、何が飛び出てくるか、楽しみだ。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

アナウンスに従い、着替えを済ませ、島へ上陸する。上陸前には過剰にも思えるボディチェックが行われ、端末も没収され、余計な私物の持ち込みも禁止された。

そうして1年生159名が島へと降り立った。

 

Bクラス担任の真嶋先生が準備されていた白い壇上に上がる。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかしその一方で1名ではあるが、病欠で参加できなかった者がいることは残念でならない」

 

1名いないのはBクラスの坂柳さんだ。強行して、参加してくる場合だと面倒だなと感じていたが、そんな事はなくて一安心だ。やはり彼女の弱点は慢心とそのプライドだな。まあ、彼女が希望をしても、この形式だと参加は認められない可能性もあるか。

Bクラスについては葛城君が主導する形となるだろう。

 

真嶋先生が無言で生徒を見つめる中、その横で作業着を着た大人が少し遠くで特設テントを設置しているのが見えた。長机やパソコンも置かれている。そのあまりにも無人島に似つかわしく無い光景にAクラスを除く、多くの生徒が疑問を抱き始めた。とは言え、葛城君、龍園君辺りは落ち着いているな。

空気の変化を待っていたかのように真嶋先生が閉じていた口を開き始めた。

 

「では、これより本年度最初の特別試験を始める」

 

特別試験、やはり来たな。自然と口角が上がる。

僕はバトルロワイヤル推しだ、さあ、バトロワ来い!

 

そんな事はなく、サバイバルでした。

さて、真嶋先生の説明を要約すると…

 

・期限は1週間、8月7日の正午に終了

・最低限の物資供給

(クラス毎にテント2つ、懐中電灯2つ、マッチ一箱、歯ブラシが各自一つ、日焼け止め、生理用品は無制限)  

・物資が足りない場合、試験専用のポイントを用いて購入することができる

・試験専用のポイントは各クラスに300配布される(Bクラスは欠席1名のため、270ポイント)

・物資はマニュアルから注文可能(紛失の際は再発行できるが、ポイントが掛かる)

・試験終了後、試験専用のポイントはその全てをクラスポイントに加算し、夏休み明けに反映する

 

ざっとこんなところだろうか。気にするべきは、やはり試験専用のポイントがクラスポイントになるということだろう。つまり、どれだけ試験専用のポイントを使わず、1週間を乗り切れるか、我慢が問われると言える。

真嶋先生の会話が終わると、各クラス担任からの補足説明があるということで、僕たちAクラスは星之宮先生の前に集まった。

 

「今からみんなにこの腕時計を配布するねー」

 

そう言って、先生は先生の横に積み上げられた支給品から箱を取るように指示をする。箱を開けると、中には腕時計が入っていた。

 

「これは1週間後の試験終了まで外さずに身に着けておいてね。許可なく外したら、ペナルティがあるから、気を付けて。腕時計には体温や脈拍、人の動きを探知するセンターにGPSも備わってて、それだけじゃなく、万一の時に学校に非常事態を伝えるボタンもついてるから、もしそういう事態に陥ったら、迷わずボタンを押してね」

 

腕時計を着ける。今流行りのスマートウォッチってやつだろうか。やっぱりこの学校はお金の無駄遣いが得意だな。これ、この試験終了後、貰ったりできないかな…

 

いやGPSはもう御免だが。まあ、今回の試験だと学生全員の動きを見張れるわけも無いし、そういう安全を担保する装置が必要なのは理解できる。完全防水でもあるらしく、壊すなら物理的衝撃が必要そうだ。故障した場合はただちに代替品と交換してくれるらしい。

 

「それとマニュアルを見てね」

 

指示に従い、帆波さんを中心にマニュアルを見る。

 

「それの最後のページにマイナス査定が載ってるから、覚えておいてねー」

 

マイナス査定の項目はこうだ。

 

・著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された者はマイナス30ポイント。及びその者はリタイアとなる

・環境を汚染する行為を発見した場合。マイナス20ポイント

・毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合。一人につきマイナス5ポイント

・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収

 

つまり無理してポイントを節約して体調不良になってリタイアしたらその分、損だよってことだ。環境汚染についてはちゃんとトイレはするべき場所でしようねってことだろう。点呼はクラスごとに自分たちで設定したベースキャンプで行う。星之宮先生はそこに拠点を構えるらしい。それと…暴力行為や略奪行為への罰が重すぎるな。上手く他クラスからの暴力や略奪を誘導できれば、この試験ぐっと楽になるが、まあ相手もしてこないか。この試験の性質上、証明することは難しいが、リスキーではある。暴力なりで10人退場させれば、その時点で他クラスを潰せるからな、リターンはあるんだが、大っぴらにそんなことやれるはずもない。

 

「無理に我慢するのは良くないってことだね。支給物資は明らかに足りないように出来ているし、テントやトイレは最低限、注文しないとだね」

 

帆波さんがマニュアルを見ながらクラスに語り掛ける。

 

「俺たち、今はAクラスだしな。無理に切り詰める必要もないんじゃないか?」

「でも、Bとの差は油断できるほどではないでしょ。細かいところで妥協して、卒業の時、数ポイント差で負けるってなったら最悪じゃない?」

「そりゃそうだけどよ」

 

至る所からポイントの使い方についての意見が聞こえてくる。クラスポイントが大きく動く機会という事もあり、みんなも熱が入っている。

 

「それと、この試験には今まで言ったルールに加えて追加ルールがありまーす」

 

そう言って、先生は追加ルールとやらについて説明をしていく。マニュアルにも同様の項目があり、ルールについて箇条書きで記されていた。

 

追加ルール

・スポットを占有するには専用のキーカードが必要である

・1度の占有につき1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用できる

・他が占有しているスポットを許可無く使用した場合50ポイントのペナルティを受ける

・キーカードを使用することが出来るのはリーダーとなった人物に限定される

・正当な理由無くリーダーを変更することは出来ない

 

これは大きいな、試験期間は1週間、スポット1箇所のみでも今日、最終日を抜いても15点を得られる。3箇所であれば、50ポイント近くになる。しかし、最後のルール、これが厄介だ。

 

7日目の最終日、点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。その際、見事他クラスのリーダーを的中させることが出来たなら、的中させたクラス1つに付き、試験専用のポイント、実質クラスポイントを50ポイント得る。そして逆に言い当てられたクラスは代償として試験専用のポイントを50ポイント支払わなければならない。

もし見当違いの人間をリーダーとして学校側に報告した場合、判断を誤ったとしてマイナス50ポイントされてしまう。

これに付け加えてリーダーを見破られたクラスは、それまでに貯めたボーナスポイントも全て失うことになる。

 

つまり上手くいけば、敵クラス3つ分で最大150ポイントを得ることが出来るが、逆に当てられてしまえば、スポット占有で得られたポイントも消える上に試験専用のポイントから50点も引かれるという事だ。当然、こちらも全クラスから当てられれば150ポイントのマイナス、折角ポイントを残しても、150ポイントも引かれたら殆ど残らないだろう。

 

一通り、説明は終わったので、質問に移行していく。気になることを聞いていくか。

 

「試験専用のポイントを失っても、それがマイナスとなり、クラスポイントに悪影響を与えることは無い、そう考えて大丈夫ですよね?」

「そうね、だからどんだけポイントを使っても、リーダーを当てられようと、0ポイントより下になることは無いわ」

「では、リタイアの条件と言うのは?体調不良や怪我とのことですが、これは腕時計で体調を管理し、本当に体調不良の際のみにリタイアすることになる、そういうことでしょうか?」

 

クラスメイトが疑問の視線を向けてくるが、努めて無視する。

 

「うーん、これについてはあくまで自己申告なのよね。ただリーダーの交代については自己申告による体調不良、例えば仮病では認められないことになっているわ。そんな簡単にリーダーが変えれちゃうと試験が成立しなくなっちゃうし」

「本当に体調不良、深刻な怪我、その場合であればリーダーの交代は出来る、そういうことで良いですね?」

「そういうことになるわね」

 

なら、このリーダ当てに極論、意味は無いな。リーダーがバレたと思ったら、わざと怪我をして、リタイアすればいいだけだ。そうなるとスポットも攻めていけるな。ただ、リーダーに怪我をしてもらう必要がある以上、誰かに頼めないし、そもそも勝ってしまっては問題だからな。この案は棄却すべきか。他クラスのリーダーを当てる際には留意しておこう。

 

それから星之宮先生はクラスメイトからの質問に答え、茶柱先生の方へと去っていった。

 

「で?どういう意味なんだ?さっきの質問は」

 

柴田君がクラスを代表して聞いてくる。

 

「説明したいところだけど、とりあえず移動しよう。ここは日差しが強くて暑いし、それに良いスポットを抑えないと、後々不利になる」

「だね、何を購入するかみたいな話し合いもベースキャンプを決めてからにしよっか。リーダーも今日の点呼までに決めれば大丈夫だし。力に自信がある子は支給品を運んでもらってもいいかな?手の空いてる子は3人1組になって森を探索、ベースキャンプに良い場所があったら教えて。でも深いところまでは行かずに必ず戻ってこれるようにしてね。ひとまず森の浅いところを仮拠点にするよ」

 

それぞれが帆波さんの号令に従って、動き出す。このあたりのスムーズさは、このクラスらしさだな。

指示を出している帆波さんに話しかける。伝えておくことがあるからな。

 

幸いにしてベースキャンプに相応しい場所はすぐに見つかった。

井戸があり、水には困らなさそうだ。そしてその横に謎の機械が存在している。

 

「これがスポットってことかな?」

「そうみたいだね、さてリーダーをどうしようか?」

 

一先ずクラス全員を集合させる。

 

「よーし、みんな集まったね。じゃあリーダーを決めようと思うんだけど、誰が良いと思う?」

 

いつも通り、帆波さんが話し始める。

 

「うーん、その前にさっきの質問について聞かせてもらってもいいか?」

 

柴田君が僕の方を向いて言う。

 

「それもそうだね、さっきの質問はリーダーを敢えて交代することで他クラスを騙せないかなと思ってね。この試験はスポットを占有することでボーナスポイントを得ることが出来る。けれど多くのスポットを占有すれば、当然リーダーが見破られる可能性は高まる。この塩梅が難しいんだけど、リーダーを交代できれば、この問題は解決する」

「なるほど、仮にリーダーがバレようと交代してしまえば、ボーナスポイントを失うことは無い。どころか相手のリーダー当て失敗によるペナルティを狙うことも出来るということか」

「そういうこと、ただ仮病じゃ通じないってことだからね。この手段は無しかな」

「だが、体調不良や怪我が本当であれば問題は無いのだろう?」

 

流石にここまで言ったら気付いちゃうよな。

 

「ちょっと待ってね、つまり神崎君の言いたいことって…」

 

帆波さんが察したようで神崎君に尋ねる。

 

「ああ、わざと怪我を作るなり、体調不良になれば良い。勿論、提案するからには自分がやるつもりだ」

「いや、それは駄目だよ。私は、私たちは仲間を傷つけてまで勝ち上がりたいとは思ってない」

 

帆波さんは必死に止める。クラスメイトもそこまですることは無いと思っているようだ。

 

「木之原はどう思う?お前もこの手段は思いついていたんだろう?」

「まあ、そりゃあね、ただナシかな。誰かに負担を掛けるってのもそうだけど、腕時計があるからね、自傷行為は学校側に気付かれる可能性もある。今回の試験は得られるポイントが多い以上、反則だと取られて、ペナルティでもくらえば、痛手になる。自然と体調不良になれるならありだけど、この戦略を取るならリタイア分の30ポイントは絶対に元を取らないといけない。つまり、リーダーがバレる前提で動き回ることになるけど、それで体調不良にもならず、リーダー交代が出来ずに他クラスにリーダーを当てられたら、最悪だよ」

 

それっぽい理由を並べてみたが、神崎君は一応納得してくれたらしい。

 

「すまない、無理を言った」

「ううん、他のクラスが勝つためにそういう戦略を取ってくるかもしれない。だからこうやって提案してくれるのは本当にありがたいよ。知っていれば警戒することも出来るから。で、えっと、リーダーは誰にしようか?」

 

脱線した話を元に戻す。

 

「リーダーと言えば、一之瀬や木之原あたりだろうけど、分かりやすすぎるよな」

「当てずっぽうで選ぶにはリスクが高すぎるが、目立つ人物は避けるべきだろうな」

「となると…まあ、じゃんけんとかで良いか?」

「うん、それで良いんじゃない、リーダーとは言っても、カードキーを通すだけだからね。目立ちそうな帆波ちゃん、木之原君、神崎君、柴田君抜きでじゃんけんしよっか」

 

網倉さんがそう言って、じゃんけんを始めていく。

結果としてリーダーは白波さんとなった。

星之宮先生から得たカードキーをスポットにはシラナミ チヒロと書かれている。こういう感じなのか。

他クラスから万一にも姿が見られることがないように、人で囲い、スポットを占有した。

 

その後はテントを設営したり、食料を調達したりと、活動していた。ポイントの使い方の話し合いを終え、ハンモックを使う事や、ウォーターシャワーなるものを活用することも決定した。

 

時刻は5時を過ぎ、そろそろ暗くなりそうな所で、僕たちのクラスにある人物が現れた。

 

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