ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ   作:スカビオサ

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23話(スパイ戦略)

うちのクラスの生徒に連れられてやって来たのは、確かCクラスの金田君か。

Cクラスにしては珍しく、勉強が出来る生徒という印象だけど…どうやら殴られたのか、顔が腫れているな。

 

「えっと、彼は?」

 

一応、尋ねておく。まあ、狙いは分かるが。

金田君を連れて来た子が答えてくれる。

 

「彼はCクラスの金田君で、クラスの方針に逆らって龍園君に追い出されちゃったみたいなの。その時に殴られたみたいで…」

 

彼に同情したような視線を向けている生徒も多い。当然、スパイだと警戒する視線の方が多いが、単に追い出すだけは今後を考えると良くないか。帆波さんの方を見る。視線が合う。僕は金田君に話し掛ける。

 

「金田君、少し聞いてもいいかな?」

「ええ、何でしょう木之原氏」

 

氏?まあ、良いか。

 

「金田君ってさ、スパイじゃないよね?」

 

ここは単刀直入に聞く。当然、本人に聞くようなことじゃないため、周囲はざわつく。

 

「おい、木之原、流石にそれは無いんじゃないか?」

 

柴田君が突っかかってくる。

 

「まあまあ、一旦静かにしてて」

 

そう言って、僕は周囲を落ち着かせる。僕に考えがあるとでも思ってくれたのか、すぐに周囲は落ち着きを取り戻す。

少々視線は痛いが。

 

「で、どうなんだい?」

「当然、違います。貴方たちが私を疑うのも無理もないことですが」

「そうだよね、明らかに怪しいもんね。で、どうするの?ここで受け入れないとしたら、他クラスに行く?それともリタイアする?」

「それは…」

 

彼は言いよどむ。

 

「入れてあげればいいんじゃないかな?確かに怪しいところもあるけれど、殴られてる子を放ってはおけないよ」

 

鶴の一声。帆波さんだ。これでAクラスは金田君保護の方に傾くか。

 

「俺は反対だ。この試験においてはリーダー情報が勝敗のカギを握っている。不用意に他クラスを招き入れるべきじゃない。人道的な観点から保護すべきと言うのは分かるが、それなら木之原の言うようにリタイアすればいいだけだろう。仮病でも何でも、リーダーでない場合、認められるのは確認済みだ」

 

神崎君は金田君に視線を向ける。

 

「リタイアはクラスの迷惑になるので…」

「お前は自分のクラスに戻る気は無いんだろう?だったら点呼失敗で合計で60点近く失うことになるんだ。リタイアの30点の方がダメージが少ないのは明白だと思うが?」

 

この議論において金田君に勝ち目は無い。実際、その通りだからだ。この点において他クラスにスパイを送り込む作戦は相手が余程間抜けでなければ成立しない。となると後は感情論だけだ。

 

「それはその通りです。ですが、追い出された挙句、勝手にリタイアしたとなると、クラスの仲間からの心証はかなり悪くなってしまう。うちのクラスでは暴力もまかり通っています。私は見ての通り、ひ弱ですので、その制裁が怖いのです」

 

彼は怯えたような表情で語る。

 

「分からないな。ここでリタイアするだけで30点近くも残せるのに、その選択を責めるだと?」

「うちのクラスはAとは違って、そういう人間ばかりなんですよ」

「怯えているのに方針に逆らったのも奇妙な話だ。やはり…」

「はい、ストップ!」

 

帆波さんが手を叩いて、音を出し、神崎君を止める。

 

「だが、一之瀬」

 

神崎君は納得していないようで、食い下がる。

 

「良いから。じゃあ、金田君。スパイ行為はしないっていう契約を結ぶのはどうかな?金田君はどうしてもリタイアしたくないようだし、かと言って私たちも食料を持っていない金田君を放っておくことは出来ない。きちんと契約をしておけば、問題ないよね?」

 

周囲のクラスメイトもその案であればと納得し始める。神崎君はやはり不満そうだ。彼は分かっているだろうからね、この契約の穴を。

クラスメイトを観察する、姫野さん、浜口君辺りも気付いてそうだな。うちのクラスは帆波さんの発言力が強いゆえに、彼女が言うなら大丈夫なんだろうと考える生徒も一定数存在する。万引きの件があり、妄信する傾向は早めに潰れたように思っていたが、信頼を取り戻し、頼れるリーダーとしての姿を見せていくと、そうもなるか。この辺りは良し悪しだな、僕や神崎君が付いていれば、フォローできる範囲ではあるし、素直に言う事を聞いてくれるなら戦略を立てやすい。

 

「確かにな、それならスパイかどうかなんて関係ないもんな」

「それで良いんじゃない」

 

帆波さんは周囲の様子を確認した後、金田君に確認する。

 

「勿論、食料を探したり、協力はしてもらうけど…どうかな?」

 

金田君の答えは決まっているようなものだった。

 

 

 

 

 

「一之瀬、どういうつもりだ?」

 

クラスのベースキャンプから離れた場所で僕は帆波さんと神崎君の3人だけで集まっていた。

 

「金田君のことだよね?それについては契約で…」

「言いたいことは分かる。だがこの環境ではあんな契約など有って無いものだ。監視カメラがあるわけでもない。実際にスパイ行為をしている場面を目撃し、それを証拠として残す必要がある。怪しい場面を目撃しようが白を切られて、終わりだ」

 

契約内容は金田君がスパイ行為をしないこと。それを条件に金田君に食料と寝床の提供を行う。仮にスパイ行為が発覚した場合、食料の略奪行為と見なし、Cクラスを失格とし、金田君のプライベートポイントを全て没収する。というものだ。

敵じゃないと信用して、食料を渡してるのに、本当はスパイなら、嘘を付き、僕たちから食料を略奪した。そうとも取れるよね?ってことで、この契約を星之宮先生の下、締結した。

 

僕が帆波さんの代わりに返答する。

 

「そうだね、だから誘発すればいい」

「誘発だと?木之原、どういうことだ?」

「スパイ行為と言っても、色々あるよね。例えば、リーダーのカードキーを確認しようとしているとか、情報を無線機で伝えようとしている…とか。それをするタイミングさえ読めれば、あとはデジカメでその姿を撮影するだけでいい。理想は信頼できる第三者、つまり教員にも目撃してもらうことだね」

「だが、それが難しいという話だろう。もしかして敢えてリーダーを漏らすつもりか?」

「それはしないよ、結局タイミングは読めないからね。知ってすぐに動いてくれるとは限らないし。最終日付近に漏らせば可能だろうけど、そこまで引っ張ると僕たちが予期せぬタイミングで普通にバレる可能性もあるし」

「だとしたら…!」

「まあ、僕の予測が正しいなら、その時はすぐに訪れると思うよ。信頼できない?」

「そんなことは無いが…分かった。お前を信じる。だがその予測について教えてくれないか?」

「良いけれど、明日、他クラスの偵察をしてからにしようか。今はまだ予測に過ぎない。ここで教えて神崎君の視野が狭まっても問題だし、僕もまだ確証は得られてないからね」

「そうか、じゃあ俺はもう戻るとする」

 

そう言って、彼はベースキャンプへと戻っていく。

 

「神崎君には最初から伝えても良かったんじゃないかな?」

 

先ほどの茶番の事か。

 

「伝えない方が真実味が出るからね、その方が敵を騙せる」

「にしても流石だね、葵君は」

「龍園君の打ってくる手は比較的読みやすいんだよ。僕と思考傾向が似てる。最初からズルしようとするあたりとか」

 

スパイを送り込んできたのは、各クラスの雰囲気を掴み、人間関係を観察し、今後の戦略に役立てるって感じだろう。この無人島試験では、その過ごし方に本人の性格が色濃く出るだろうからね。それを思うと、点数を気にしないなら、やるだけ得な戦略だ。上手くいけばリーダーを当てることも出来る。リーダー交代を考慮に入れれば、リーダー情報も確実とは言えないんだけどね。

まあ、予想してたとは言っても、龍園君が仕掛けてきそうな戦略の1つという程度だったけど。彼がやりそうなのは暴力を用いた戦略だろう、監視カメラの無い森の中だ、タイミングを計って、暴力で生徒をリタイアさせることぐらいやってきそうだ。ペナルティが重いからこそ、学校側も明確な証拠無しに犯人を決められないだろうし。

 

「思いついたとしても、それを選ばないから立派なんだよ、私は龍園君のやり方は支持できない」

「騙すためとは言え、殴るのはどうかと思うよね。そういう訳で龍園君には少し痛い目を見てもらおうかな」

 

暴君には明確な弱点がある。それは部下が自分の失態を隠蔽しようとすることだ。まあ、バレるんなら隠しても無駄だが、バレないなら十中八九、誤魔化す。これが帆波さんなら恐らくクラスメイトは迷いなく頼るだろう。

 

「一先ず、信頼できる生徒と共に金田君のいた場所、その周辺を探ってみるよ。恐らく無線機が見つかると思う」

 

メンバーは柴田君と浜口君で良いかな。

 

「となると、後はタイミングだね」

「うん、僕の予測通りなら明日か明後日か、Cクラスは一部を除いて、殆どの生徒がリタイアするはずだよ」

 

 

その後はベースキャンプへと戻り、焚き火用の薪を集めたり、購入した食料をみんなで食べたりした。先ほどあんなことがあったため、少しピリついてるところはあるが、それはそこまで問題じゃない。

色々と考えなければならないことも多いが、自然に囲まれた生活というのも存外悪くないな。日が完全に沈み、眠くなってくる。時刻は21時、こんな時間に眠るなんて、いつもだとあり得ない話だ。だが、それが良い。

 

「おやすみなさい」

 

みんなにそう声をかけ、テントで眠る。意識はすぐに闇の中に沈んでいった。

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