ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ 作:スカビオサ
ベースキャンプへ戻る途中、Dクラスの生徒と遭遇した。
「あれ、綾小路君に堀北さん?」
帆波さんが声を掛ける。にしても二人はいつも一緒だな、やっぱり付き合ってるのかな。
「一之瀬さん、もしかしてCクラスからの偵察帰りかしら?」
「うん、あっちは随分と面白い事になってたよ。Dクラスも招待されたんだ」
「あれを招待と言えるのかは疑問だけれどね。それと先日の協力の件、感謝するわ。目的は果たせなかったけど」
ん?とうに勘づいてるかと思ってたんだけど、違うのか?龍園君なら僕の事を匂わせてもおかしくないと思っていたんだけど…あるいは綾小路君が情報を止めてるか。
「大したことじゃないよ、それに綾小路君から全額返済してもらったからね。気にしないで」
「そうだぞ、というか借金分は全部オレが返してるんだが?」
綾小路君が堀北さんに文句を言っている。
「作戦を成功させられなかった無能には必要な罰でしょう?」
うお、きつい一言だな。なるほど、綾小路君の手落ちで上手く嵌められなかった事にしたのか。
「オレ一人には荷が重いことぐらい最初から分かってただろ…」
「貴方には、ほんの少し、1ピコぐらいは期待してたのだけれどね」
「それは期待してるって言わないだろ」
綾小路君も苦労してるみたいだ。でも良いコンビかもな。
「ごめんなさい、脱線してしまって。もし良ければ、貴方達のベースキャンプにお邪魔しても構わないかしら?」
「うん、良いよ。代わりと言っては何だけど、私達もDクラスのベースキャンプに行っても構わないかな?」
「ええ、もちろん。ただ十分な歓迎ができるかは分からないわ」
話し合いの時もDクラスはまとまりを欠いていた。そんな状態に他クラスのメンバーが来るともなると、歓迎とは行かないだろう。
「そんなのは良いよ。どんな感じかなーってだけだから。それに心配なら契約しない?お互いのクラスのリーダー当てはしない。どうかな?」
これは元々クラスで話し合っていた方針だ。Bクラスとは差が小さく、協力し合うことは難しいし、Cクラスはあの龍園君が率いており、相性が悪い。となるとDクラスと協力するのも一つの手であると。
「こちらとしても有難い提案ね」
DクラスはAクラスへの攻撃の権利を失うが、仮にDクラスのまとまりが無い状況が本当だとしたら他クラスのリーダーを暴くためにリソースを割く余裕は無いだろうからな。
「ただ私達にはクラスの方針を勝手に決める権利は無いわ。恐らく平田君達も賛成してくれるとは思うけど、独断で契約を結ぶことはできない。だから少し待ってくれるかしら?この後、Cクラスの偵察をした後、一度クラスで話し合ってみるわ。そして、その結果を貴方達へ伝えに行く。それで良いかしら?」
苦々しい表情をしつつも、堀北さんは答える。
「勿論、OKだよ。じゃあ私たちのベースキャンプで待ってるね。場所は分かる?」
「ごめんなさい、教えて貰ってもいいかしら?」
「そうだなあ、分かりやすいのは折れた大木かな。そこから南西に森に入っていけば分かると思う。大丈夫そう?」
「ええ、分かったわ。昼過ぎにはそちらに向かえると思う」
「うん、じゃあ、またねー」
そうして、ここで2人とは別れた。
午後になり、ベースキャンプへとやって来た2人と契約を結び、そのままDクラスにもお邪魔した。
思ったよりは険悪な雰囲気では無く、互いにポイントの使い方など共有することができた。これはリーダー当ての契約のおかげだろう。他に特筆すべき点があるとしたら、DクラスにもCクラスの生徒が逃げ込んでいたという点だろうな。ふーん、珍しいこともあるんだな。
Bはどうなんだろう。龍園君がBと手を組んでいるなら、スパイは送り込まないか…そもそも手を組んでいないにせよ、葛城君は絶対にスパイをベースキャンプに招くなんてことをしないだろうが。
その後はBクラスの偵察から戻って来た神崎君と情報を共有し、食料を集めるために動いた。結局、敢えて予測については、はぐらかした。まだ情報が足りないからと。
その時に、柴田君にはポイントで購入したデジカメを渡し、あるタイミングで動いてもらうようにお願いした。そうしているとあっという間に日は沈んだ。
時刻としては21時ごろ、20時の点呼を終えた僕は1人ライトを持って森へと入っていった。
3日目 午前8時半
「葵君、おかえりー」
帆波さんが笑顔で迎えてくれる。すごい眠いが、心なしか目が覚めたような気がする。
「で、どうだった?」
「読み通りではあったね。Cクラスは殆どがリタイアしたよ。点呼の時間に合わせるタイミングでのリタイアだったから、人数も確認出来てる。ただ全員がリタイアした訳じゃ無くて一部は残っていたからね。誰か偵察には置いておきたいかな」
夜間でのリタイアだと人数が把握できない恐れがあった。その点は運が良かった。
「了解、じゃあ2人ぐらいに偵察を頼もうか。点呼の時間まで確認する必要はあるかな?」
「そこまでは良いかな、こっちが点数を何度もロスしてまで拾いに行く点数じゃない。上手くいけば儲けものぐらいかな」
状況は動いた。僕もそれに合わせないと。
「帆波さん、この後の流れは大丈夫だよね?」
「うん、みんなへの指示は任せて」
確認を取れた僕は、ある人物に向けて歩き出す。
「金田君、ちょっと良いかな?」
「木之原氏、何かありましたか?」
何度聞いても違和感しかないな、現実に氏付ける人いないでしょ。
「うん、浜辺の方に来てもらえるかな?見て欲しいものがあるんだ」
「浜辺ですか、了解しました。今からで良いですか?」
「うん、それと、手が空いてる人は何人か一緒に来てもらえる?出来れば男子が良いんだけど」
そう呼びかける。少し待つと10人ほど集まった。
「よし、じゃあ、行こうか」
「ところで、浜辺に何か?」
歩きながら金田君が尋ねてくる。金田君も分かってはいるのだろう。暑さか、あるいは別の要因か、汗が止まらない様子だ。何せ明らかに金田君を囲んでる布陣だものな。事情を知らなければ、これからリンチでも始まるのかという構図だ。
「見れば分かるよ」
具体的には答えず、歩き続ける。
Cクラスのベースキャンプがあった場所に着くと、そこにはもう何も残っていなかった。一部、海辺で遊んでいる生徒もいるが、それだけだ。
「これは…」
金田君は驚いているように見える。
「と、いう訳だからさ、今、リタイアしてもらっても良いかな?教員がいるテントにも近いからね」
脅すように強く言う。
「これだけリタイアすれば、Cクラスは0点で確定、金田君がリタイアしようとも誰も君を責める事は無いよ」
「それはそうかもしれません、しかし私はクラスに逆らった身、そう易々と戻る事はできません。勿論、Aクラスの方にご迷惑をおかけしていたのは事実、これからは1人で何とかしますので」
「何で1人になろうとするんだい?龍園君に連絡でも取るのかい?リーダーは分かりませんでしたって?」
「…私がスパイとして疑われている事は分かっています。ですが、だからと言って他クラスのあなた方がリタイアを強制する事は出来ませんよね?」
金田君はにやけ面をしながら言う。性格の悪さ、顔に出てんぞ。だが、それはその通りだ。
「だね、でもそれはつまり内偵行為をしたことの証言と見て良いのかな?ただリタイアすれば良いだけの状況で変に粘るね」
「それは木之原氏の妄想に過ぎません。契約のことを言いたいのでしょうが、学校側も状況証拠だけで判断する事はできないはずです」
「そうか…圧をかければリタイアしてくれると思ってたけど、どうやら舐めてたみたいだ、流石、龍園君が送り込んでくるだけのことはある。何処へなりとも行くと良いよ、僕に君の選択を縛ることはできない」
「龍園は関係無いですが、私としてもやってもいない行為で、疑われるのは仕方ないこととはいえ不快ですからね、潔く去らせていただきます」
そう言って、彼は森の方へと去っていく。
「あれで良かったのか?」
神崎君が聞いてくる。どことなく不安げだ。確かにこれだとただ言いくるめられて逃げられたようにしか見えないだろう。
「予定通りではあるよ。一先ず、金田君にバレないよう充分に距離をとりつつ、移動しようか」
そういって僕たちは目的の場所へと移動することにした。