ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ   作:スカビオサ

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30話(質問責め)

8月10日 18時前

 

208号室にグル-プのメンバーと連れ立って入ると、そこには茶柱先生がいた。

 

「木之原、浜口、別府、三人とも揃っているな。そこに着席しろ」

 

誘導に従い、席に着く。着席を確認し、茶柱先生が話し出す。

 

「では、これより特別試験の説明を行う」

「今回の特別試験では、1年全員を干支になぞらえた12のグループに分け、そのグループ内での試験を行う。試験の目的はシンキング能力を問うものとなっている」

 

干支ね。普通にグループ1、グループ2としないのは何か理由がありそうだな。シンキング能力、直訳で、考える力が必要となるのか。

 

「まず、ここにいる3人は同じグループとなる。そして今この時間、別の部屋でも同じように『お前たちと同じグループとなる』メンバーに対して同時に説明が行われている」

 

他クラスの18時組のことか。

 

「お前たちの配属されるグループは『卯』。ここにそのメンバーのリストがある。これは退室時に返却してもらうので必要性を感じるのであればこの場で覚えておくように」

 

そう言って一枚の紙をこちらに渡してくる。

メンバーはこうだ。

 

Aクラス 木之原葵  浜口哲也 別府良太  

Bクラス 竹本茂   町田浩二 森重卓郎 

Cクラス 伊吹澪   真鍋志保 藪奈々美 山下沙季  

Dクラス 綾小路清隆 軽井沢恵 外村秀雄 幸村輝彦

 

面識がない人が多いな。元々知っているのはCの伊吹さん、真鍋さん、Dの綾小路君、軽井沢さん、幸村君ぐらいか。用紙を確認し、3人で覚えていく。

 

「クラスが混合する試験になるが、今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視しろ。そうすることが試験をクリアするための近道になる」

 

これがヒントだな。AクラスからDクラスまでの関係性を無視する。どういうことだ?

 

「これから試験の内容についての詳細な説明を行う。特別試験の各グループにおける結果は4通りしか存在しない。例外は存在せず必ず4つのどれかの結果になるよう作られている。分かりやすく理解してもらうために結果を記したプリントもここに用意してある。ただし、このプリントに関しても、持ち出しや撮影などは禁止されている。この場でしっかりと確認しておくように」

 

人数分用意された紙を手渡される。ざっと目を通すが、事前に共有されていた情報通りだな。

書かれているルールは以下の通りだ。

 

『夏季グループ別特別試験説明』

本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を基点とした課題となる。定められた方法で学校に解答することで、4つの結果のうち1つを必ず得ることになる。

 

・試験開始当日午前8時に一斉メールを送る。「優待者」に選ばれた者には同時にその事実を伝える。

・試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。

・1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。

・話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。

・試験の解答は試験終了後、午後9時30分~午後10時までの間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付ける。なお、解答は1人1回までとする。

・解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。

・「優待者」にはメールにて答えを送る権利が無い。

・自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。

・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。

 

これが基本ルールだ。禁止事項についても細かく書かれている。他人の携帯を盗んだり、脅すなどの脅迫行為で優待者に関する情報を確認することや、勝手に他人の携帯を使って答えを送るといった行為は「退学」となるらしい。重い処罰だが、この試験で得られるポイントは大きい、妥当だろう。また怪しい行為が発覚した場合についても、徹底した調査が行われるらしい。脅されたと嘘をつくケースも退学のリスクが付き纏う。このルールを活用して他クラスの人間を退学させるのはリスクがあるか。

 

さらにこの下には特別試験における結果が示されていた。

 

結果1

グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員にプライベートポイントを支給する。(優待者の所属するクラスメイトもそれぞれ同様のポイントを得る)

 

結果2

優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する。

 

この紙面には記載されていないが、結果1でグループ全員が貰えるポイントは50万プライベートポイントだ。さらに優待者には50万プライベートポイントが追加で支給されるらしい。グループが14人だとすれば、750万ものプライベートポイントが動くことになる。全クラス結果1ともなれば億に近い。まあ、それは不可能に近いだろうが、仮にそうなったら学校は大丈夫なんだろうか。

 

結果2はあまり美味しい結果とは言えないな。単に優待者に50万プライベートポイント支給されるだけだ。プライベートポイントは戦略の要だ。他クラスに渡したくないというのは分かるが、この結果だけでは結果2を選ぶメリットは薄いな。

そう、結果は4つあるのだ。残り2つが重要だ。

 

「ここまでは理解したな?」

 

一応確認してくるので、みな頷く。

 

「続いて第3、第4の結果だ。プリントの裏を見ろ。そこに結果3、結果4について書かれている」

 

以下の2つの結果に関してのみ、試験中24時間いつでも解答を受け付けるものとする。また試験終了後30分間も同じく解答を受け付けるが、どちらの時間帯でも間違えばペナルティが発生する。

 

結果3

優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解した場合。答えた生徒の所属するクラスはクラスポイントを50ポイント得ると同時に、正解者にプライベートポイントを50万ポイント支給する。また優待者を見抜かれたクラスは逆にマイナス50クラスポイントのペナルティを受ける。及びこの時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが正解した場合、答えを無効とし試験は続行となる。

 

結果4

優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合。答えを間違えた生徒が所属するクラスはクラスポイントを50ポイント失うペナルティを受け、優待者はプライベートポイントを50万ポイント得ると同時に優待者の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得る。答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが不正解した場合、答えを無効とし受け付けない。

 

結果3、4は裏切りの結果だ。結果1と2は、8月14日の試験最終日、試験終了後の21時30分から22時までの時間に解答した場合の結果だが、結果3と4に導く解答は、いつでも行う事が出来る。結果3はその解答が正解、見事優待者を的中させた場合の結果だ。結果4はその逆、不正解だった場合の結果になる。

 

つまり、各4種の結果が12グループごとにあるということになる。結果によっては動くプライベートポイントもクラスポイントも大きなものになるだろう。

 

結果1はプライベートポイントの面では他の結果よりも遥かに大きいが、他クラスと足並みをそろえるのは容易ではない。馬鹿正直に自分が優待者なので協力してくださいと言っても、裏切られて結果3になるのがオチだ。そのため、基本的には優待者を如何にして暴き、結果3を狙うのかという話になる。

 

「今回学校側は匿名性についても考慮している。試験終了時には各グループの結果とクラス単位でのポイント増減のみが発表されることになっている。つまり、優待者や解答者の名前は公表しない。また、望むならポイントを振り込んだ仮IDを一時的に発行することや分割して受け取ることも可能だ。本人さえ黙っていれば試験後に発覚する恐れはない」

 

つまりクラスの統率が重要になるという事だ。クラスメイトに自分だけ得をしたいからと優待者であることを隠すような者が居れば、そのクラスは不利になるだろう。だが僕たちのクラスはそのような心配は無いだろう。

 

「お前たちは明日から、午後1時、午後8時に指示された部屋に向かえ。当日は部屋の前にそれぞれグループ名の書かれたプレートがかけられている。初顔合わせの際には室内で必ず自己紹介を行うように。室内に入ってから試験時間内の退室は基本的に認められていない。トイレなどは事前に済ませておけ。もしも我慢できなかったり体調不良の場合は、すぐ担任に連絡し申し出るように」

 

「それからグループ内の優待者は学校側が公平性を期し、厳正に調整している。優待者に選ばれた、もしくは選ばれなかったに関わらず、変更の要望などは一切受け付けない。また、学校から送られてくるメールのコピー、削除、転送、改変などの行為は一切禁ずる。禁止事項にも書かれていた通りだ。その点を認識しておくように」

 

気になるポイントは必ず自己紹介を行う事、優待者は公平に厳正に調整されているという点だ。自己紹介を行う必要性はピンと来ないが、理由はあるはずだ。ただ人としてのマナーだとは言うまい。

優待者は公平にというのは12グループに均等、つまり各クラスに3人優待者がいるということでいいだろう。優待者がどこかに偏れば、その分、有利になってしまうからな。厳正に調整というのはランダムじゃないですよということだ。くじ引きなどで適当に決めたのではなく、優待者には法則性があるということになる。つまり今回の肝は優待者の法則をいち早く見つけることだ。

 

「最後に質問はあるか?無ければ説明は終了とするが」

 

今までの説明はクラスの皆から事前に聞いていたものと相違なかった。その中で気になることはいくつもあった。取りあえず全部聞いていくか。

 

「では1つ目いいですか?優待者の変更の要望は一切受け付けないと言っていますが、現段階で優待者に選ばれる権利をプライベートポイントで買うことはできますか?今ならまだ選ばれてないですよね?」

「今だとしても同じことだ。優待者はすでに厳正に調整されている。変更することはできない」

「1グループで最大得られるプライベートポイントはどれだけ多くとも750万ですよね?では800万プライベートポイント払います。それで変更はできませんか?」

 

まあ、払う気なんてあるわけないが。そもそも無い。

 

「額の多寡では無い、今回の試験では優待者を変更することはできない」

 

どうしても変えられない、となると法則があるのは確定だな。

 

「では2つ目を。自己紹介を必ずしなければならないと言っていますが、それはどういうことでしょうか?名前、性別、生年月日、血液型、出身地、身長、体重どこまで教えれば良いんでしょうか?」

「あくまで一般的な常識における自己紹介で構わない」

「いや、必ずしなければならないということは破ったらペナルティがあるんでしょう?自己紹介をどう定義するのか、教えていただけませんか?ほら自分が自己紹介だと思うものを言っても、学校の定義する自己紹介を満たしていなかったらペナルティだなんて納得できませんからね。誕生日とか性別とか言わなくていいですか?嘘をつくのは?偽名はありですか?ニックネームとかは?下の名前だけでも?」

 

ここは重要だ。恐らくだが法則性に関わる。

 

「嘘も偽名もニックネームも無しだ。名字も言ってくれ。あくまで社会通念上、問題の無い自己紹介をすれば良い。それでペナルティが課されることは無い」

「それの最低条件を教えてくださいという話なんですけどね」

「それを考えるのもシンキング能力の一つだ。自分が情報を出し渋るというのなら、それでも良い。その行動の責任は自分が取らなければならないというだけだ」

 

明確には答えてくれないか、まあ自己紹介の最低限と言えば、名前だろうな。

 

「そもそも、こうやって名簿があるわけですよね?自己紹介なんて要ります?名前が必要だとして、普通に分かりますよね?」

「必要だ」

 

ただそれだけ伝えてくる。先生もめんどくせえって思ってそうだな。あと少しだけお付き合いいただこうか。

 

「試験開始はいつを定義するんでしょうか?優待者の解答と言うのは今からでも出来ますか?」

「試験開始は明日の午後1時、第一回目のディスカッションが開始したタイミングだ。それが終了してからであれば優待者の回答を行うことが出来る」

「では最後に、僕たちのクラスは前回の無人島試験にてCクラスの金田君と、とある契約を結んでいます。それはご存知ですよね?」

「ああ、知っている」

「あれは学校の教師立会いの下、結ばれた公正な契約です。ですのでその契約に基づいて情報を得ることは禁じられていませんよね?」

「ああ、その件については問題ないとの回答が出ている」

「了解しました。長々と答えていただきありがとうございました」

「他に質問は…無いようだな。これで特別試験の説明を終了する」

 

そう言われ、僕たちは席を立ち、部屋を出た。

 

僕は浜口君に話しかける。

 

「さて、一旦客室に戻ろうか、帆波にも僕たちの所に来るように言ってあるから、みんなで話し合おう」

「分かった。じゃあ別府君、またね」

「別府君もまたね」

 

僕も追従して別府君に声を掛ける。

 

「うん、じゃあね」

 

 

別れの挨拶を交わして、僕たちは階段で別れ、客室へと戻る。僕たちの客室の前には帆波と網倉さんが待っていた。

 

「あれ、網倉さんも?」

「ごめん、駄目だった?」

「いや、そんなことは無いよ。取り敢えず入ろうか、今後の方針を話し合おう」

 

客室に入ると、そこにはルームメイトの神崎君と柴田君が居た。

 

「お、戻って来たか。じゃあ会議始めるか」

「うん、始めよっか。じゃあ、まず葵君が質問してきたこと教えてくれる?」

「了解、僕が聞いて来たのは――」

 

そうして得た情報を話し始める。

 

「こんなところかな」

「これって、つまり優待者には法則があって、それが名前に関係しているってこと?」

「うん、さらに言えば、読みかな。例えば漢字の画数とかなら口頭での自己紹介は必要ないからね。あくまで口頭での自己紹介をさせることで漢字の読み間違いを防ぐことが狙いだと思うよ」

「大手柄だよ!となると名前の読みと十二支が関係してるってことか。流石に特定には至らないね」

 

だが、殆ど絞れてはいる。もし、考え得る法則が示す答えが優待者と一致しなければ、厄介なことにはなるが。シンキング能力を問うものだからな、どこかにブラフが仕込まれている可能性もある。素直に取るなら、そういう法則の可能性が一番高いというだけだ。

 

「明日、優待者の情報が得られれば、すぐにでも絞り込むことはできそうだな」

「うん、優待者になったら連絡するように皆には頼んであるから、8時になったら動けると思うよ」

 

理想は最短で決着をつけることだ。

 

「だけど、自クラスの情報だけじゃ不安じゃない?もしも間違ってたら最悪だよ?」

 

網倉さんが懸念点を示す。

 

「うん、だから金田君から優待者の情報を聞き出そうと思う。彼はCクラスの参謀役だし、龍園君から情報を与えられる可能性は高い。こういう頭脳労働は一人で考えるよりも複数人で考える方が効率が良いからね」

 

自分一人だと気づけないことは出てくる。

 

「うわ、そこであの契約が生きてくるのか…」

 

柴田君が感嘆するように言う。

 

「だが、ここで使って良いのか?使えるのは1度きりだ。タイミングは考えるべきだと思うが」

「勿論、他のタイミングで使うことも考えた。けど僕としてもあの契約は早く精算したいんだよね、あっちもそうだろうし。得られるポイントの莫大さを考えても、ここで使うのが正解だと思う」

 

龍園君に気付かれる前に使いたい。時間をかければ、彼も気付くだろう。

 

「そうか、それなら俺にも文句は無い」

「よし、じゃあ、明日の8時前にまたここに集合でOKかな?」

 

賛同の声が上がる。

 

「よし、じゃあ解散!」

 

そう言って女子組は部屋を出ていく。

その後は4人で夕食を取り、神崎君が20時40分の説明から帰ってくるのを客室で待っていた。

 

 

 

 

 

「こりゃ、大変なグル-プだな」

 

柴田君が神崎君に同情するように言う。

 

Aクラス 一之瀬帆波 神崎隆二 津辺仁美  

Bクラス 葛城康平  西川亮子 的場信二 矢野小春  

Cクラス 小田拓海  鈴木英俊 園田正志 龍園翔  

Dクラス 櫛田桔梗  平田洋介 堀北鈴音

 

これは神崎君が所属するグループ、辰グループのメンバーだ。一之瀬さんに始まり、葛城君、龍園君、平田君などと各クラスのリーダー格が揃い踏みだ。

 

「にしても、こんなグループなら木之原も入ってそうなもんだけどな」

 

自分で言うのも何だが、その意見には同意だ。他に基準があるのか、それとも教師がこの組み合わせに関与できるなら、星之宮先生が何かした可能性はある。綾小路君と同じグループになったことだしな。

 

「苦労しそうなグループだが、もし作戦通りに行けば、関係は無いからな。勿論、自クラスの誰かが優待者の場合はその限りでは無いが」

「仮に竜グループで自クラスから優待者が出ると、誤魔化すのは至難の業だろうね」

「ともかく、今日は早く寝ようか。神崎君を待っている間に想定できるパターンは全て書き出してある。8時になり、優待者をすぐに把握するためにも、寝坊だけは避けたいからね」

 

そう言って、僕たちは早めに就寝することにした。ここまでは順調。明日が楽しみだ。

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