ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ   作:スカビオサ

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32話(動く)

コン、ガチャ、バン!

扉が勢いよく開く。その音を聞き、部屋の中にいる人物、龍園翔は扉の方向を睨む。

 

「人の部屋に入るときはノックぐらいしろと教わらなかったか?」

「したわよ!コンって鳴ってたでしょ、というかこれ、どういうこと?」

 

突然の来訪者、伊吹澪はずかずかと龍園に接近しながら自身の端末を掲げる。そこには多くのグループにおいて裏切者が出た、そのことを示すメールが並んでいた。

 

部屋の中にいたアルベルトは文句を言わずに扉を閉め、扉を背に2人の様子を見守った。

 

「あんたがやった訳?」

「いいや、違う、木之原だろうな」

「はあ?何、無人島試験に引き続き、またいいようにやられたって訳?」

「橋本が裏切ったのは予想外だったが、無人島試験では最低限の利益は得てる。そっちは問題ない」

 

橋本正義、Bクラスの蝙蝠は有力な人物に裏で顔を繋ぎ、どこがAになっても引き立ててもらえるように立ち回っていた。それ故に、最初の取引で裏切る、つまり信頼を損なう真似をするのは有り得ない。仮にそれをするというのなら、真の主を見定めた、そう考えても良いのかもしれない。龍園は思考を深める。

 

「そっちは?じゃあ、今回のは問題あるってことじゃない。まだグル-プディスカッションは始まったばかり、なのに何でこうなるのよ」

「それも分からずに、俺の所に乗り込んできたのか、やっぱりお前は体だけだな」

 

いや、正確には身体能力だけ、だな。龍園は益体も無いことを考える。

 

「はあ?何意味わからないこと言ってんの?蹴るわよ」

「馬鹿に丁寧に聞かせてやるほど、俺は暇じゃねえ、簡潔に教えてやる。この馬鹿がAに情報を流し、Aが優待者の法則を特定し、解答した。これだけの事だ」

 

龍園が足に力を籠めると、下から呻き声がした。伊吹が覗くと、そこにはクラスメイトである金田悟がいた。ボコボコにされ、床に横たわった姿で、そこに存在している。

 

「金田が裏切った?どうして?こいつ、そんなタマじゃないでしょ」

「さてな、こんだけ痛めつけても吐きやしねえ、言えないと一点張りだ。恐らく何か契約を結んでるな。無人島試験、Aクラスが金田を受け入れたことに違和感を覚えちゃいたが、そこで嵌められたな」

「で、どうすんのよ?」

「どうもしねえよ、こいつは使えねえからな、ひよりを使う」

「椎名?確か木之原と親しくしてるから、情報は渡せないって言ってなかった?」

「その木之原がもう答えにたどり着いてる以上、意味はねえのさ。拾える点は拾っておく。次こそは大切な一之瀬ともども潰してやる」

 

蛇は気付かない、大地がそのまま存在することを疑いもしない、いや、分かっていてもなお、止まるつもりは無い。

ただ本能のままに…そのはずだった。

 

「ばっかじゃないの!」

「あ?うるせえな、耳元で騒ぐんじゃねえ」

「木之原に良いようにやられて、それでも立ち向かっていくのは悪いとは言わないわよ、ただ勝算も無く何度もぶつかるのが正しいと思ってる訳?金田も使えない、ひよりだってあんたの言い方じゃ、使うのは今回だけなんでしょ、そんな状態でAクラスに勝てると思う?」

「駒は所詮、駒に過ぎない、駒がいくら欠けようが、俺は勝つ」

「1人でクラス相手に勝てるって?笑わせないで、あんただって状況が見えてない訳じゃないんでしょ、無人島試験でうちだけ0点、そして船上試験でも敗北、それで次、木之原に挑んで負けたら、あんた、もうリーダーやれないわよ?」

 

部下どもの不満が溜まってきているのは龍園も自覚していた。それでも抑える自信はあった、だが次は?そのまた次は?

 

「チッ、じゃあ、何だ、俺に葛城みてえな雑魚が率いるBと不良品揃いのDを潰せと?」

「そうは言ってない、ただ最後に勝つために最善を尽くせって言ってんの。曲がりなりにも無人島試験ではあんたに協力した、それもあんたが他よりマシだと感じたから。アルベルトも石崎もそうでしょ。それを裏切らないで。何度も負けても、最後に勝ってれば良い、そうでしょ?」

 

「ハ、お前にそれを言われるとはな…だが、うるせえな、アルベルト、つまみ出せ」

 

アルベルトが指示通りに接近してくる。

 

「分かったわよ、帰るわよ!」

 

そうして伊吹はズカズカと音を立てながら、帰って行った。

 

「メインディッシュは坂柳とばかり思っていたが、木之原、お前になりそうだな。鈴音、葛城を潰した後に、クラスの総力でお前に敗北を刻み込んでやる」

 

龍園は予想する木之原の意図を。そしてたどり着く。最後、自分と戦うことになるのは坂柳ではなく、木之原なのだと。

 

 

 

 

 

<綾小路視点>

 

「見た?」

 

カフェ「ブルーオーシャン」の中でも日陰に当たるテーブル席。そこに座る生徒、堀北鈴音は単刀直入に本題を切り出してきた。

誰もが、この問題に頭を悩ませている故に、その短い言葉だけで意図は伝わる。

 

「見たぞ、どうやら大変なことになってるみたいだな」

「あなたはいつも能天気ね、状況が分かっていない訳では無いんでしょう?」

 

堀北は分かりやすくため息をつく。その表情からは悲愴感は漂ってこない。と言っても、諦めの境地に似たものか。

 

「結果はどうあれ、グループの殆どは終わった。終わったグループについてはどうにもならないからな」

「それは同意見よ、でもこれで優待者には法則性があることが明らかになった。残りは2グループ、せめてこのグループだけでも取らないと」

「自クラスの優待者は把握してるのか?」

「牛グループの池くんに、竜グループの櫛田さん、馬グループの南くんね」

 

堀北は周囲に人がいないことを確認しつつ、小さな声でそう言った。

 

「なるほどな、それで法則らしきものは見つかったのか?」

「いえ、まだね、せめてどのクラスが動いたのかが分かれば良いのだけど」

 

A、B、C、どれも可能性があるからな。攻撃的な手に出そうなのは龍園率いるCクラスではあるが、仮に龍園ならもっと派手に動きを見せるはずだ。解答だけしてだんまりと言うのは考えづらい。

 

「そうだ。お前も一応女子だし少し聞きたいことがあるんだが」

「その嫌な前置きは何かしら。一応も何も私は女だけど」

 

どうやら嫌味だと勘違いさせたらしい。言い訳をせず、本題に入る。

 

「いや、そうじゃないそうじゃない、オレが聞きたいのは女子っていう部分だ。軽井沢に関する情報が欲しい」

 

この試験において、Dクラスが勝利する道は絶たれた。ならば今後を見据えてオレはやるべきことをやるだけだ。

自分の身を守るために、この生活を維持するために。

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