ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ   作:スカビオサ

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33話(しっぺ返し)

僕たちが9グループを、恐らく高円寺君が1グループの優待者を解答し、残り2グループとなった船上試験は2日目のグループディスカッションを待たずして終了した。どこが解答したかは不明だが、全てのグループに裏切者が出るという結果で試験は幕を閉じた。

 

グループディスカッションにおいて、綾小路君を観察した結果だが、何も分からないということが分かった。

 

1度目のディスカッションでは場を打開するために何かしてくるかと思ったが、特に何もせず、2度目のディスカッションではどこのクラスが出し抜いたのかと疑心暗鬼になって議論がまともに進まなかった。

 

どうせ法則性を見つけるゲームなのだし、ディスカッション中にすることは無いからと、次はトランプでも持っていこうかなと思っていたら、試験が終了してしまった。帆波直伝のアイデアだったのに…まあ、収穫はあったけどね。

 

結果については心配な点はありつつ、試験自体は終了したという事で、僕はルームメイトと、ともに船内でのサービスを堪能した。正直、これだけでも無人島での辛い暑い生活を許せる、それほどのものだった。試験を考えなくて良いというのは、多くの人にとって、歓迎するものだったようで、試験中よりも船内の空気は良さそうに見えた。恐らく、全貌を把握している生徒は僅かだからな、そうもなるだろう。

 

楽しい日々はあっという間に過ぎ去り、船上試験最終日午後11時を迎える。そろそろ結果発表だ。

僕は一人、デッキで空を見上げる。今日も夜空に瞬く星は綺麗だ。後ろから足音がする。

 

「ここに居たんだ」

 

彼女も星を見に来たのだろうか、あの日と同じように一緒に星を見る。

 

「この夜景も見納めだと思うと、どこか寂しくてね。それに良い結果は良い記憶と共に迎えたいものだから」

「ロマンチストな一面もあるんだね。客室にはいなかったから探したよ。さっきまでは一緒にいたのに」

「まあ…怖かったのもある。今回の試験、法則だって見抜けたし、どこのクラスよりも早く動けた。けれどどこかで間違っていた場合、クラスは大きな損失を被ることになる。みんなと一緒に見るのは少し怖かったんだ」

 

急ぎ過ぎた面もある。もう少し安全策を取った方が良かったのではという気持ちもあった。ただ他クラスがどれだけ早く法則を把握するかは分からなかった。だから結果論に過ぎないのだけれどね。

 

「心配いらないよ。それにたとえ失敗しても私たちならまた這い上がれる」

 

メールの着信音が鳴る。

 

「確認しようか」

 

少しだけ躊躇いつつも、端末を操作し、メールを開いていく。

 

子(鼠)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

丑(牛)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

寅(虎)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

卯(兎)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

辰(竜)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

巳(蛇)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

午(馬)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

未(羊)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

申(猿)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

酉(鳥)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

戌(犬)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

亥(猪)──裏切り者の正解により結果3とする。

 

以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下とする。

 

Aクラス・・・プラス 300cl プラス450万pr

Bクラス・・・マイナス 150cl

Cクラス・・・マイナス 50cl プラス100万pr

Dクラス・・・マイナス 100cl プラス50万pr

 

クラスポイント

A 1650ポイント

B 1242ポイント

C 440ポイント

D 132ポイント 

 

Bが一番低いが、Aの一人勝ちという図式になるだろう。良かった。安心したら眠くなってきたな。だが今日はまだやることがある。ちゃんと起きていないとな。

 

「僕はもう戻るよ、一緒に戻る?」

「うん、にしても良かったね!」

「一安心ってところだね。早く寝たい」

「みんな寝かせてくれるかなあ?柴田君とか騒ぎそうじゃないかな」

「ああ、確かにね。この試験における最良の結果ではあるし。仕方ないか、今日は夜更かしも覚悟しないと」

「私の方も大盛り上がりだろからなあ。でも徹夜はしないようにね?」

「分かってるよ、じゃあおやすみ」

「おやすみー」

 

そう言って僕たちは階段で別れた。

 

「おっ、そんなところにいたのか。今日の主役様の登場だ!」

 

柴田君が騒ぎ立てる。腕を引っ張られ、強引に客室に連れ込まれる。

 

「よっしゃ、今日は夜通し、パーティーと行こうぜ!」

 

客室にはルームメイトだけでなく、Aクラスの男子の殆どが勢ぞろいしていた。ぎゅうぎゅう詰めだな。4人想定の部屋に10数人近くもいるんだが。全く…今夜は長い夜になりそうだ。

 

 

 

 

 

豪華客船 ラウンジ

 

豪華客船の1階、生徒たちが立ち入ることが推奨されない区画にラウンジはあった。

そこでは未成年の学生には飲めない酒が提供される。そのため、このバカンスに帯同した教師や職員の溜まり場になっていた。

バーのカウンターに向かって、3人の教師が肩を並べ、酒を飲んでいる。

 

「全く、今回は波乱の展開だったな。グループの殆どが初日に終了、試験全体も2日目に終了とはな」

「流石、うちのクラスよねえ。担任として誇らしいわ」

 

教師の内の一人、星之宮知恵は機嫌が良いのか、どんどんお酒を飲み干していく。自分が飲むだけじゃなく、横の茶柱にもどんどん飲ませる。最悪の酔っ払いだ。

 

「木之原葵か。あいつはおそらく説明を受けた段階で法則はいくつかに絞り込んでいただろうな」

「あー、滅茶苦茶質問攻めされたってね。とは言えだんまりも難しい物ね。何とか濁したにしても、いくつか情報を抜き取られるのは避けらないわ」

 

自分のクラスの人間が茶柱をやり込めたことが嬉しいのか、饒舌に語る。

 

「金田の契約もあった。あれで他クラスの優待者を迅速に把握できたのも大きかっただろう」

「底が知れない生徒だ。本当にな」

「Dクラスとしては厳しい結果よね。残りは132ポイント、最初が0だったことを思えば悪くは無いけど、厳しい数字だもの」

「そうだな、だが私には関係ないことだ」

「えー、佐枝ちゃん冷たいなあ。ふふ、今回は期待してたんだろうけど、残念だったね?」

 

明るい声音のはずなのにどこかどろりとした響きがある。

 

「期待などしていない。Dクラスは不良品クラスだ。それはいつだって変わらない」

「全くお前たちはいつもそうだな。だが俺たちはあくまで教師だ、クラスに肩入れしすぎることは許されない。同期の失態を上に報告したくはないからな。自重しろ」

「分かってるわよ。それに私が肩入れしなくたって、私のクラスは勝手に上に行くもの。そう思わない?」

「そうだろうな。だが木之原を卯グループに配属したのは肩入れではないのか?」

「べっつにー、彼は彼でまだ足りないものがある、そう判断しただけ、何もおかしくないでしょ?」

 

どこまで追求してものらりくらりと言い逃れをするだけだろう。茶柱は星之宮の方を一瞥すると席を立つ。

 

「私はもう帰る」

「えー、早くない?ここ、良い酒もいっぱい置いてあるのに。飲めるうちに飲んどかないと勿体ないわよ、うちらは薄給なんだから」

「明日も仕事だろう、また二日酔いで、自クラスの生徒に迷惑をかけるつもりか」

「茶柱の言う事も尤もだな、星之宮、今日はもうやめておけ」

「つまんなーい、はあ、一之瀬さんのところに行っちゃおうかな…今ならみんな起きてるでしょ」

「だから生徒に迷惑を掛けるなと…星之宮は何とかしておく。お前は帰ると良い」

 

 

 

 

 

 

真嶋のアシストもあり、茶柱は何とかその場を脱出する。そのまま自分たちの客室に行くのではなく、プールの方へと向かう。

そこには先客が居た。

 

「来ましたか、先生」

「こんな時間に呼び出して、何の用だ、弁明でもしに来たか?」

「弁明?流石にこの結果では先生も満足できませんか」

「当然だな、お前には期待していたが、この程度か?ならお前を庇う理由も存在しないな」

 

綾小路は機械的な目で茶柱を見つめる。時刻は深夜、周囲の暗さもあってか、瞳は、その闇をさらに濃くしていた。

 

「そうですか、では退学させますか?」

「それも良いが、チャンスをやる。次の特別試験はまだ先だが、体育祭がある。そこでお前の真の実力を見せてみろ」

「体育祭ですか、例え個人がどれだけ優れていても、勝ち目は無さそうですけどね」

「私も、お前だけの力で勝利に導けとは言わない、ただ私が守るに足る、その実力の一端を見せて欲しい、そう言っているだけだ」

「これが全力だとしたら?」

「ならお前はここで切っても問題ない生徒だという事だ」

 

「佐枝ちゃん、自分がAに上がりたいからって生徒を脅すなんて最低ね」

 

その声は特別大きかったわけではないが、茶柱の耳にしっかりと届いた。ここにいるはずの無い人物の声。

 

「チエ?」

「あはっ、どうしてここにいるのかって顔ね」

 

茶柱は酔いが回って、正常とは言い難い頭で現状を把握する。

 

「嵌めたのか…!」

「酷い言い草。私は自クラスの担任に脅されてる生徒を助けようとしただけよ、ねえ木之原君?」

「ですね、茶柱先生が綾小路君にこだわっているのは分かっていましたが、ここまでとは…」

「ね?真嶋君も?」

「はあ、無理やり連れて来て何だと思ったが、そういうことか…、星之宮、お前のやり方もどうかと思うが、茶柱、これは明確に問題行為だぞ」

 

茶柱は動揺を抑え、弁解を、言葉を紡ごうとするが…

 

「一応、録音はしてあります、端末で通話状態にも」

 

そう言い、綾小路は自身の端末を掲げる。木之原葵と通話中であると表示されている。

 

「と、言う訳だけど、真嶋君、佐枝ちゃんのことは黙ってもらってもいいかな?」

「む?どういうことだ?」

「察し悪いなー、綾小路君だって目立つのは嫌だろうし、佐枝ちゃんも教師を辞めたいわけじゃないだろうし?ここだけの話にしない?ってこと。佐枝ちゃんが今後一切、綾小路君を脅すことを禁止する代わりに、ここの事はこの5人の秘密にするってこと」

「それは…」

 

真嶋は悩む様子を見せたが、木之原が無理やり被せる。

 

「悪くないと思います。今回の被害者は綾小路君ですし、彼が問題ないのなら、それで。仮にそれを無視して綾小路君を退学に追い込むことがあれば、今回の事もありますし、星之宮先生と真嶋先生のお力で抵抗することも出来るでしょう」

「綾小路、お前はそれでいいのか?」

 

真嶋先生が確認を取る。

 

「はい、問題ありません。俺としても平和に日々を送りたいだけなので」

「そうか、分かった。…では解散だ」

 

そう言って、彼は去っていく。一刻も早く、こんな場所から逃げたかったんだろうか?

 

「じゃあ、僕たちは帰ります。綾小路君、帰ろうか」

「ああ」

 

この場に似つかわしくない生徒2人も足早に退散し、残ったのは2人のみだった。

 

「全くざまあないわね、秘密兵器も御しきれず、逆らってきて、あげく首輪を付けられるんだから」

 

返答は無い。茶柱はまだ現状を呑み込めていない。

 

「つまんないわね、まあ、いいわ、綾小路君が使えなくても、堀北さん、平田君、櫛田さん、高円寺君と粒ぞろいなんだから、可能性はあるわよ、せいぜい頑張ってみたら?うちの木之原君と一之瀬さんを超えられるものならね」

 

吐き捨てて、星之宮はその場を去る。残された茶柱はただ茫然としながら、自らの愚かな行為への後悔を強く感じていた。

 

そもそも生徒を脅迫する教師などありえない話だ、自嘲しながらも、まだ過去の事が忘れられないでいる自分に気付く。

 

星之宮に敢えて残されたかすかな希望、それに縋りつきたくなる。

 

「私は最悪な人間だな…」

 

答える人間はおらず、彼女を救ってくれる人はもういない。

 

 

 

 

 

<木之原視点>

 

「今回の件、助かった」

「いや、気にしないで。それに感謝するのは僕の方でもある。君が敵として大きく動かない、それだけでかなりの価値がある」

 

今回の作戦を遂行するにあたり、僕たちは契約、というほどではないが、約束を結んでいる。

 

綾小路君がクラスを引き上げるために大きく動かない場合に限り、綾小路君が平穏な学生生活を送るためにある程度協力すること。すごく漠然としているが、そういう約束だ。

 

クラスで立場がある以上、クラスに何も貢献しないのは不可能だし、それは仕方が無いからね。ある程度の協力、というのは彼を退学させるようには動かないというのがメインになる。互いに破れば、その時は互いが望まないことをするだけになるだろう。それは避けたいものだ。

 

「それは過大評価だな」

「そうでもないよ、星之宮先生の意図、そして僕の狙い、それを読み切ったうえで、誰もが得をする提案をしてみせた。はっきり言って、底が知れないよ。けど…良いか。そんな凄さも、上手くいけば、ここで見納めとなるわけだからね」

「オレとしてもそれに期待したいところだな。オレはこの3年間、ただ学生らしく生活できればそれで良いんだ」

「嘘じゃないみたいだね…まあ、目にはそんな自信ないけど。それなら、もし良かったら友達にならない?僕、他クラスに友達殆どいなくてさ、綾小路君とは話しやすいし、嫌じゃなければ」

「それはオレとしても歓迎だ、これからよろしく頼む」

 

右手でしっかりと握手をする。願わくばこの友誼がずっと続きますように。

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