ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ 作:スカビオサ
入学式はこれといって特筆するべきことも無く終了した。こういう特殊な学園の入学式ってもっとこうなんかあるんじゃないんですかね…?
クマのぬいぐるみが学園長とか、まあ、無いか。
入学式の後はクラスで軽い校内施設の説明を受けて解散となった。大半は寮に向かうようだが、既に仲良くなった人たちはグループで昼食にでも出かけるらしい、青春だね、羨ましいことだ。
僕が昼食を一緒に出来る可能性があるとすれば神崎君、ただ一人だ。今のうちに声を掛けて、昼食一緒に食べるメンツにならなくては。
「神崎君、この後、一緒にご飯でもいかないかい?」
まるで当然のように、特別なことなんて何もないように、声を掛ける。
「ああ、俺も誘おうと思っていた。先生の発言に気になることもあったからな。」
「よし、なら折角だし学食にでも行こうか、この学校にはコンビニもあるし、よく見るチェーン店もあるけど、初日にそれはつまらないからね、問題ない?」
「大丈夫だ、それに学食というものに興味もあるからな。」
中学だと給食だったりするもんね、学食ってのは僕も初めてだ。
「じゃあ、行こうか。」
連れ立って歩き出す。道中、重要な話はできないので他愛もない会話で間を埋めた。それでも僅かながら友情が芽生えた気がした。
「割と広いんだね。」
流石、多くの施設が揃っている高校なだけあって、学食もかなりの広さだ。そろそろお昼時ということもあり、人は若干多めに感じた。この広さのおかげで座る場所には困らなさそうなのは救いか。
初めてという事もあり勝手が分からないが、人の列が並んでいるのが見える。恐らく、そこに並び、注文をするのだろう。どうやら券売機で食券を買い、これをカウンターに持っていき、食事を受け取る形式らしい。券売機で定食を選ぼうとすると目を引くものがあった。
「それでその定食にしたのか。」
「うん。これだけ明らかに異質でさ、興味を持ってしまってね。」
何を隠そう、僕が選んだのは山菜定食、なんと値段は0ポイント!
「やはり毎月10万ポイント貰える、なんてことはなさそうだな。」
学食は騒がしく、そこまで気にすることもなさそうだが、神崎君は声量を落としてそう言った。
「まあ、毎月10万ポイント渡しておいて、無料の定食まで用意してるとは考えづらいよね、それよりも月に少しのポイントしか受け取れなくて、食事にも困る人向けのメニューだと考える方が自然だし。」
食べながら答える。山菜は特に美味しいとも思わないが、これでご飯と味噌汁がついて無料なら毎食これでもいいぐらいだ。あまりにも質素だとは思うが。
「事実、星之宮先生の発言にも思わせぶりなところはあったからな。」
「そうだね、毎月1日にポイントは振り込まれるとは言ったけど、何ポイントかは断言しなかったし、他にも10万ポイントは現時点での僕たちの評価だってところとかね。」
「つまり、個々人の成績によって支給されるポイントが変わるというのがSシステムの根幹という事か。」
「う~ん、あるいはクラスとかね、3年間クラスが変わらないことの理由になる。」
個人ならクラスを固定にする理由もないが、クラス対抗ならクラスが変わっては意味がない。
「やはり情報が不足しているな。」
折角、朝早く来て学校を見て回ったのだ、ここで多少情報を共有しておこう。彼が味方となるかは分からないが、僕だけじゃ気づけないこともあるかもしれない。それに仲間ではなくても、協力関係を築くことは出来るはずだ。その布石になる。
「ポイントが何を基準に決められるか、というのはまだ分からないけど、朝、学校施設を見回って気づいたのは監視カメラの多さだね。これで恐らく素行とかを観察してるんじゃないかな。」
「そういえば、教室にも監視カメラがあったな。それを基にポイントを決めると…確かにありえそうだ。他には何かあるか?」
どうやら彼もこの学校の奇妙さと面白さに気づいてきたらしい。
「そうだね、コンビニだと、この山菜定食みたいに、無料の商品が売られてたよ。置いてあったのは生活用品って感じだけど。まあ、これはさっきの説を補強する要素って感じかな。」
「そうか…」
神崎君は数秒考えこんだ後にこう言った。
「やはりこの学校にはおかしな点が多すぎる、かといって今の手持ちの情報だけでは分析しようにも限度がある、そこで手分けしてこの学校について調べないか?何か分かったら連絡してほしい、勿論俺からも何かあれば連絡する。」
その提案は僕にとっても都合が良いものだった。自分だけの視点では気づけないものもあるだろうからね。
連絡先を交換し、そのまま別れた。
取り敢えずは寮に向かうとしよう。持ってきた荷物とかも置いておきたいし。
正午を少し過ぎた頃、僕は寮へと到着し、寮の管理人からカードキーと寮生活のルールが記載されたマニュアルを受け取った。マニュアルを軽く読むと、寮は男女共用であり、部屋の場所は、男子は低層階、女子は高層階と別れているらしい。僕には縁遠いことだが、午後8時以降は異性の階層への出入りが制限されているらしい。一応、覚えておこう。カードキーから見るに僕の部屋は4階にあるらしい。
エレベーターを一瞥すると、周囲にはそこそこ人がいるようだった。入学式が終わって、寮に直行する人間が多かったように見えたが、この時間であれば、まだ人だかりが出来ていてもおかしくはないか。4階ごときで階段移動を面倒くさがる人間でもない、ここは階段で移動するとしよう。
部屋番号を確認して、歩きつつ、自室の前に立つ。カードキーで扉を開け、部屋に入る。八畳のワンルーム、大きさは大きいとは言えないだろうが、自分一人の部屋というだけでどうにもワクワクしてしまう。寮には生活に必要そうな家具はあらかじめ取り付けてあり、料理器具なども揃っているようだった。特別、凝ったりしない人間からしたら十分なほどだ。この感じだとわざわざ家具や家電を買わずとも生活を問題なく送ることができるだろう。
本当に至れり尽くせりだ。マニュアルを見ると、水道代や電気代もポイントから払う必要はないということだし、その気になれば1カ月0ポイント生活もできるだろう。ポイントの実情が明らかになるまでは節約もしておきたい。考慮しておこう。
ベッドに座り、寮のマニュアルを改めて読んでいく。寮は学年ごとに分かれており、この寮は1年生のみが使用すること(寮は3年周期で交代、つまりこの寮は僕たちが入学する直前に卒業した先輩が使っていたらしい)、男女別の階層、夜間の制限…その他は特別なことはなさそうだ。電気と水道の使い過ぎに注意とか騒音は駄目だとか、当然のことが書かれているだけのようだ。そうして読み込んでいくと合鍵に関する記述があった。文章を読み解いていくと、合鍵は家主の許可なく作れてしまう仕様らしい。
は?
流石に嘘だろと思うが、この記述だとそうとしか読み取れない。まあ寮にも当然のように監視カメラはあるだろうから、部屋を漁ったりしたら分かるのかもしれないが、男女共用の寮でこの管理はどうかしているだろ…あるいはこれも学校側があえて作った抜け穴のようなものなのだろうか?特別棟の一部では監視カメラが付けられていないことと言い、正々堂々と成績で競うのではなく、闇討ち上等と言った感じなんだろうか。そんな点も興味深いとは思うが、知らない間に部屋を荒らされたりしては敵わない、合鍵を作るには寮の管理人を通す必要があるから、自分以外が作ることはないように言い含めておかなければ。
管理人に今後、自分以外が自分の部屋の鍵を作ることが無いこと、また去年の段階で以前の鍵が全て返却されていることを確認し、寮の部屋に戻ってきた。無性に疲れた。まさかこんな落とし穴が存在するとは。
こんなことで損をしては堪らないと再度、学校から配布された資料や端末を確認していく。資料自体にはおかしなところは無く、見落としも無いと安心していたのだが、問題は端末だ。どうやら連絡先に登録している人の位置が確認できるらしい。
神崎君も既に寮にいるようだ。こんなことなら一緒に寮まで行けばよかったか。いや、そうじゃない。怖っ。
「怖っ。」
思ったことがそのまま口から出てくる。
連絡先交換しただけで位置が筒抜けとか怖すぎるでしょ、いやそういう機能があるってだけなら良いんだけど、せめて初期設定はオフにしておいてよ!気づかないって、これ!
合鍵も自由に作れて、位置も筒抜け、高育は高度なヤンデレでも育成してんのか…???
ヤンデレビギナーにも優しいねって?
速攻で機能をオフにして、唯一の連絡先である神崎君にも端末の機能のことと合鍵のことを伝えておく。
彼も今後の情報如何では敵となる可能性もあるし、何も全ての情報を教える義務も無いのだが、最初に声を掛けてくれた恩義を返す意味でも、流石にこれは伝えておかないとな。人として。
さて、そろそろ動いて、調べるか。まずは誰が敵で味方なのかを把握したいな。そうでないと頼りたいときに頼れなくなってしまう。一人の力にはどうしても限度があるし、神崎君が敵になるなら、これから出す情報も制限するべきだ。現在、正しいと思われる推測は、成績あるいは何かしらの要素により、支給されるポイントの変動が起こること、そしてそれが数百ポイントというレベルではなく、場合によっては無料のものを利用しなければならないほど、大きな変化だという事のみだ。学食の際も山菜定食を食べている人はちらほら居た。だからこれについては間違いない。
次に考えるべきはポイントの基準だ。成績か、あるいは別のものなのか、個人単位かクラスなのか、先生に質問するのが分かりやすいだろうが、この学校の仕組み上、聞けば素直に教えてくれるってこともないだろう、まずは先輩にあたってみるか。時刻は14時前だが、今日は入学式で2年や3年の先輩も授業はないはず。であれば学食にまだいる可能性もある。そうして僕は学食へと戻った。