ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ 作:スカビオサ
照りつける日差しを手で遮る。嫌になる程、体育祭日和だな。
「暑いねー」
「熱中症には気をつけないとね、単純に危険でもあるし、競技に出れなかったりしたら、その分の損失も大きい」
「飲料水とスポーツドリンクも結構用意してあるから、こまめに水分を摂るように呼びかけたり、異常がありそうなら、声をかけた方がいいね」
帆波もうっすらと汗をかいているように見える。
時間になると帆波と離れ、整列し、僕たちは練習通り行進をして、入場を行なった。
開会式では藤巻先輩が開会宣言を行う。周囲にはモールのスタッフだろうか、教員では無い人も、ちらほら見受けられる。
そこそこのサイズのコテージがあり、熱中症で倒れたりしたら、そこで治療行為を行うのだと思われる。
僕たちが滞在するテントは赤と白でグラウンドを挟んで、設置されており、相手の組とは競技中以外は接触できないようになっているようだ。
100メートル走のゴール地点には結果判定用のカメラもあり、後で問題が起きないようにしっかりと順位を判定できるようになっている。
最初は100メートル走だ。順番は1年生から始まり、最後に3年生で終わる。1年男子から3年女子、1年女子から3年男子という2パターンを交互に競技は進行する。
「葵君は2組目だっけ、頑張ってね!」
「うん、1位取ってくるよ」
Dの有力者は出てこない。クラスでも3番目に速い事もあり、ここで1位を取っておきたい。
僕たち1年男子は、早速グラウンドへと入場する。
1組目は須藤君だが、彼の組には匹敵するような人間は居なさそうだ。ただの偶然か、それとも。
僕は2組目なので、待機列の1番前で待つ。
横を見るが、そこそこの面子だな。平均的な身体能力の持ち主が多いだろうか。これなら十分可能性はある。
須藤君は案の定、ぶっちぎって1位を獲得した。彼相手に対抗するとなると柴田君ぐらいしかいないからな。
次は僕の番だ。僕と同じ組のクラスメイトは森山君だ。
「頑張ろうね」
「ああ、何とか中位には潜り込みたいな。不甲斐ない俺が言うのも何だが、木之原、頼んだぞ」
「任せてよ」
僕たちはレーンへと並んでいく。僕は第2レーンだ。
さて、やりますか。
「おめでとう!」
テントに戻ると、みんなから声を掛けられる。
「ありがとう」
労いもそこそこに、次のレースに注目する。第3レースは高円寺君が出るからな。彼がやる気を出すか、どうか。この体育祭の結果を左右する大きな一コマだ。
「高円寺君は居なさそうだね」
「うん。正直助かったよ。団体種目では力になってくれたら、心強いけど、個人種目だと彼とは敵だからね」
このレースではCクラスの生徒が1位を取っていた。2位は葛城君だ。高円寺君を警戒し、走力にあまり自信がないメンバーを入れたが、この場合だと中上位の生徒を入れたかったな。結果論だが。
この後は神崎君、柴田君が1位を取り、クラスは順調にポイントを重ねていった。元坂柳派の鬼頭君や橋本君も本気を出しており、鬼頭君は1位、橋本君には柴田君が土をつけたものの、僕が当たってたら、負けていた可能性が高いと思うほど、彼は速かった。
女子では帆波が1位を取り、津辺さんも1位を取ったが、今度は安藤さんが神室さんに負け、2位に終わった。坂柳さんの元側近ってみんな運動できるな…
因みに堀北さんは1位で伊吹さんは僅差の2位に終わった。伊吹さんはかなり堀北さんを意識している様子だったし、やっぱり…
「お疲れ様」
テントに戻ってきた帆波を労う。スポーツドリンクを渡す。
「ありがとう。やっぱり全力疾走は疲れるねー」
「だねー。1位、おめでとう」
「ありがとう!それと…Dについてだけど…」
「Cに漏れてるね、龍園君も隠す気は無いみたい。かなり的確に配置してるし」
「危ないところだね、一応、私たちの情報は漏れてないみたい」
「平田君や堀北さんがクラスを裏切ってるようなら、もうどうにもならないよ」
「確かにね。それともしかしてBも?」
「こっちは露骨じゃないけどね。運が良いだけと言われれば納得するレベルだけど…今後の種目を見れば、判明するだろうね」
「龍園君と坂柳さんが接触してたという情報もあったけど…」
帆波は少し考え込んだ後に結論を出す。
「坂柳さんがこんな分かりやすいことをするかという気持ちもある。龍園君はBの誰かと繋がっているのは間違いないけど、坂柳さんとでは無い。むしろ、これは坂柳さんを追い落とす動きに見えるね」
「そう考える方が自然だね」
繋がっているのは誰か?恐らくは橋本君だろう。彼と龍園君がパイプを持っていることは間違いない。坂柳さんを追い詰める動きは橋本君にとっても好都合だろうし、仮に学年別の成績でBとCの成績が逆転しようとも、あまり影響は大きくないからな。-50、大きくても-100だ。龍園君も橋本君も白組が勝つことは諦めているというのも面白い。やっぱり組み合わせゲーだな、これは。
話を終えると、彼女はクラスメイトの元へと歩いて行く。
さて、南雲先輩の勇姿でも見るか。僕は観戦を続けた。
100メートル走を終えると、赤組と白組の点数が発表される。赤組と白組の結果は拮抗しており、僅かに赤組が勝っているという程度だ。
2種目目はハードル走。こちらについては、橋本君と同じ組になり、2位に終わった。柴田君、神崎君は1位を継続。練習を積んでいた事もあり、上位層は安定した成績を残した。組み合わせを見るに、Bの情報はCに漏れていそうだな…
3種目目は棒倒し。男子限定の種目であり、同じ組同士で協力する団体戦だ。しかし、練習する事も難しいため、攻守を分けて、臨むこととなった。あと、棒倒しは接触が激しい競技なのに、当たり前に頭部の保護を無しで、競技を行おうとしていたため、生徒会にてヘッドギアの装着を義務付けるように働きかけた。頭打ったら死人が出るぞ…死人が出たら、この学校はどう処理するんだろうね?不謹慎なことを考えながら、配置に付く。
初めは僕たちAクラスが守備、Dクラスが攻撃だ。ただAからは柴田君を筆頭に攻撃向けの人材を派遣する。体が大きいことを優先に、出来るだけ足が速いメンバーを数人選抜した。逆に足が遅いDの生徒は守備に配置する。結局、勢い付けて、集団でぶつかるのが一番強いからな。
また棒の守備は少なめにして、各人を捕らえることに力を入れた。正直、棒倒しをするなら、2クラス合計40人は少なすぎる。棒の守備は攻撃に割く人数も考えれば、2層が限界で、相手から勢い良く突撃されれば、まず耐えきれない。特に相手にはアルベルト君のような超重量級もいることだし。棒の守備はDの足が遅い生徒を中心に、突撃した生徒を捕らえて、押さえつけるのは、そのために訓練を積んだ僕たちのクラスがメインで行う。棒倒しの練習は基本出来ないが、相手を捕らえ、抑え続ける練習なら出来るからな。
「よっしゃ、みんなやるぞ!」
柴田君が士気を高めている。須藤君と横に並び、敵陣を見据えている。防御がBクラス、攻撃がCクラスのようだ。
試合開始の合図がなる。それに合わせ、須藤君が突貫して行く。
「みんな、須藤に続け!」
柴田君も、それに合わせ一斉に走り出す。
相手の攻撃陣も勢い良くやってくる。Cクラスに合わせ、鬼頭君がいる。彼自身の身体能力は高いが、図体がでかいわけでは無い。アルベルト君のサポートか。
「俺が行く」
そう言って神崎君が鬼頭君を抑えに回る。
勢い良く、二人はぶつかり合う。
「神崎か…悪いが、俺もこの舞台で力を示さなければならない、本気で行かせてもらうぞ」
「それは俺も同じことだ。木之原や一之瀬が持っていないものを補う、そのためにこれまで鍛錬を積んできた」
鬼頭君は何とか凌げそうか、さて、あとは…
「アルベルト君は5人で抑えて!スタミナは無い!全力で耐えて!」
突っ込んでくるアルベルト君に人数を割き、抑えさせる。
偵察で各人の運動神経は理解してる。適切な生徒を当てれば良いだけだ。この辺りは事前に決めてある。
「よお、元気か?木之原」
龍園君は従える生徒を特攻させながら、ゆっくりと歩いてくる。彼と向き合う。
「こんな幼稚な催しじゃ、気持ちは沸き立ちやしねえが、お前を測るには良い機会だ。存分に楽しませてもらうぜ」
棒を目指すのではなく、僕の方へと突進してくる。棒を目指して、横に逸れるなら、横合いから飛びついて引き倒し、上に載って、押さえつけるだけで良いんだがな…
姿勢を低くして、受け止める。少し押し込まれるが、耐える。暴力という観点では勝ち目は無いだろうが、これはれっきとした競技だ。体感、身体能力は五分五分。抑え込めないほどではない。
足を使われては面倒なので、彼の体をそのまま浮かす。思ったより軽いな。そのまま地面に打ち付ける。ヘッドギアがあるから、安心だ。そのまま抑えに入ろうとしたところ、蹴りが飛んでくる。とっさに避ける。
その隙に龍園君は態勢を立て直す。
「ただのガリ勉野郎じゃなかったか。こっちも行けそうな口だな」
「スポーツなら多少はね。暴力はNGだよ」
龍園君は再度突破を狙ってくるが、そこで試合終了の合図が鳴る。どうやら柴田君や須藤君は上手くやってくれたらしい。
2試合目も似たような展開になったが、今度は防御が苦しかった。各人の能力に合わせて、捕まえるべき相手を決めていたが、それを上手く利用された形だ。相手も自分が狙われると分かっているため、仲間と協力して、スイッチしたり、敢えて逃げてみるなど1回目とは違い、すんなり抑え込むことが出来なかった。突進されて、そのまま突破されそうになる子もいた。
今回は鬼頭君が防御に回ったため、龍園君は神崎君に抑えてもらった。僕は戦況を見ながら、1回目と違い、指示をすることが出来る状況にあったが、日ごろ、声を張り上げるタイプで無いこと、そもそも周りがうるさくて、声が通りにくいということもあり、指示が通らなかった。早々に諦めて、足りないところにリカバリーに行くようにはしたが。そのため、自己判断で上手く対処できる生徒は問題ないものの、そうでない人は上手く役割を果たせなかった。良かったのはアルベルト君が早々にスタミナ切れになっていたことだろう。棒倒しに途中休憩は無いし、かなり体力を削られる。前は5人だったが、今回は最初から4人。最後には3人で抑え込めていた。
鬼頭君が防御に回り、柴田君が抑えられたこともあり、攻撃陣の進攻も遅れることになった。須藤君を止めようとする生徒を引き剝がし、須藤君に存分に暴れさせることで、攻撃を通し、須藤君に完全に注意が向いたところで、みんな根性で突破し、棒にしがみついた。攻撃速度は1回目と比べ、遅かったが、何とか勝利をもぎとれた。
僕たちは次の競技である、綱引きの準備へと入る。その間にも女子の玉入れは行われている。際どい勝負だったが、何とか赤組の勝利だ。2年生、3年生の玉入れが行われている間に綱引きの説明を受け、グラウンドの真ん中に4つのクラスが集められ、2手に分かれる。
「やるぞ!お前ら!」
ノリに乗った須藤君が声を上げる。柴田君も追従して声を上げる。
そうして、僕たちは配置に付く。特別なことは何もなく、身長順に並ぶだけだ。
相手のクラスも元から話し合っていたのか、よどみなく、身長順に並ぶ。なるほど、龍園君と葛城君の決裂は分かりやすいブラフか。
いや、あの場では決裂したのかもしれないが、その後、裏では連絡を取っていたという事だろう。合同で何かをしているところは見なかったから、戦略の共有程度だろうが、龍園君も勝つために本気という事だ。
しかし、そうなると不味いな。綱引きは純粋なパワーが求められる。棒倒しの時は連続だったため、アルベルト君のスタミナもかなり消耗していただろうが、これまでに休憩するだけの時間はあったからな。彼のパワーは間違いなく脅威だし、鬼頭君も警戒しないといけない。運動神経だけなら柴田君も相当のものだが、恐らく、その2人と須藤君と比べ、パワーと言う観点では2段ほど落ちる。恐らく力だけなら神崎君の方があるはずだ。握力を測った時も、そうだったし。
試合開始の合図とともに、互いに綱を引き合う。
「オーエス!オーエス!」
掛け声に息を合わせながら、全力で綱を引いていくが、数秒経つと、じりじりと引き込まれる。そして数秒後、審判が白組の勝利を告げる。
「まじかー。みんなドンマイ!気にするな!立ち位置の確認と綱の引き方、もう一度意識してくれ!」
柴田君がみんなを鼓舞するとともに、敵陣営からも声が上がる。
「よくやった。お前らの強みはパワーだ。軟弱なAとDなんざ、全員で捻りつぶすぞ」
龍園君もリーダーとして士気を上げる。やっぱり…彼、変わりつつあるのか?
2度目の綱引きは、結果は振るわず、敗北。純粋なパワーの強さでは僕たちは劣るという事を認識させられる結果となった。