ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ   作:スカビオサ

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7話(別府良太の一人称は俺)

朝のホームルームが終わり、次の授業への休み時間となる。当然、次の授業までの時間は長くない。これではクラスメイトにシステムについて説明することは不可能だ。かといって注意喚起をせずに授業を迎え、減点を食らっては何のために急いで一之瀬さんに働きかけたのかという話になる。だが一時しのぎでいいのなら、このBクラスなら問題はない。

 

高育で行われる初めての授業ということで休み時間では、その話題で持ちきりの様子だ。どんな先生なのか、どんな授業なのか、授業初日ということもあり、そんな難しい授業をされることは無いと思うが、こんな特殊な学校だ。その不安も分かる。そんな中、一人の女生徒が教壇の位置から呼びかける。

 

「みんなー、ちょっとだけ話を聞いてもらってもいいかな。」

 

良く通る声だ。この喧騒の中でも、はっきりとクラスメイトに届いたようだ。

 

「今日の放課後、学校のシステムについて話したいことがあるんだ。だから授業が終わったら、教室に残って欲しい。それと理由は放課後に言う事になるんだけど、今日は授業を真面目に受けて欲しいんだ。それと、このことは他のクラスの子には言わないでね。他のクラスがいる場所で喋るのも止めてね。お願い。」

 

言わせておいてなんだが、まあ意味不明だろう。高校生にもなって授業を真面目に受けてーなんて言うのも、おかしければ、それら含めて他クラスには口外するなと言う。自分が言っても、聞き入れてはもらえないだろう。このクラスなら、あるいは…とも思うが、内心、変な奴認定されるのは間違いないはずだ。

 

それでも一之瀬さんが言うのなら別だ。勿論、昨日一日で一之瀬さんがクラスの全員からの信頼を獲得できているわけじゃない。それでも主導して自己紹介を回した点や恵まれた容姿、このクラスの中で最も無視できない存在感を持っているのは彼女で間違いないだろう。望んでそんな人物の不興を買う人物はこのクラスにはいないことは昨日の自己紹介の時点で予測できていた。自己紹介をボイコットするような人間もいなかったからな。

 

「分かったぜー。」「もちろんだよー。」

 

クラスメイトからも声が飛ぶ。

クラスメイトの反応を見る限り、一之瀬さんの提案は多少の困惑を各自に与えつつも、肯定的に受け取られたようだ。まあ授業を真面目に受けるのも、他クラスに口外しないのも難しいことではないからな。

 

「みんな、ありがとう!じゃあ放課後はよろしくね!」

 

さて、高育の授業とはどんな感じなんだろうか。

 

とはいっても、やはり初日の授業らしく、先生の自己紹介だとか、授業の方針説明だとか、そのようなものばかりだった。先生も変わった特徴的な先生はおらず、ほとんどの先生がフレンドリーで、進学校らしき厳しさは垣間見えなかった。午前の授業が終わり、昼休みとなった。さて、いつメンの神崎君に声でも掛けるか。

 

「みんなー、もしよかったらこれからみんなで学食に行かない?」

 

一之瀬さんだ。ありえん社交性を抜群に発揮している。男女問わず、彼女の下に集まっているのが見える。さて、このビッグウェーブ乗り遅れるわけにはいくまい。

 

「神崎君、一之瀬さんがああ言ってるけど、行く?」

 

いつメンの神崎君にも、ちゃんと声を掛ける。

 

「そうだな、クラスメイトとの交流も重要だと考えていた。俺も行こう。」

 

そうして2人して集団に紛れ込んだ。ふぅ、これで一先ずは大丈夫そうだ。一部のクラスメイトは、もう出て行ってしまったのか、参加はしていない様子だったが、ほとんどが参加している。

 

学食に着いて、各々席に着く。みんなで行くとは言え、この大所帯だ。一つの机を囲んで、食事を摂ることなどできない。自然といくつかのグループに分かれていった。流石にこの段階で異性のグループに突撃する猛者はいなかったのか、自然と同姓でグループが組みあがっていた。座席取りに誰かを置いて、代わる代わる食事を持ってくる。

 

僕のグループは男4人、僕と神崎君に柴田君と別府君だ。

柴田君は中学までサッカーをやっていたそうで、高校でもサッカー部に所属したいと自己紹介で話していたっけ。別府君は...ごめん。まるで聞けていなかった。でも眼鏡を掛けた大人しめの子で、勝手に親近感を感じてしまう。類友だね。陰キャは惹かれ合う...!(失礼)

 

「そういえば、昨日も神崎と木之原は一緒に学食行ってたよな。もしかして同中だったりする?」

 

ご飯を食べながら、柴田君がそう問いかけてくる。

 

「いや、初対面だよ。席が前後だから、それきっかけってだけ。」

「ああ、それに学生は全国から来てるんだ。中学校が同じって可能性は低いんじゃないか。」

「確かにな、俺も知ってる奴はいなかったし。」

 

話しているとアナウンスが流れて来た。

 

「本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください。繰り返します、本日──」

 

「部活動か、そういえば柴田はサッカー部に入るつもりなんだよな?」

「おう、そういう神崎は何かやるのか?」

「いや、今のところはそういう予定は無いな。」

「じゃあ、木之原は?別府も何やるとか決めてるか?」

「特には無いけど、説明会には興味があるかな。」

 

こういうイベントにはとりあえず参加しろの法則があるからな、一人だけ行ってないと、後で周りがその話で盛り上がってるときに気まずい思いをするんだ。

 

「俺も説明会には行ってみようかな。」

 

別府君も迷ってる様子を見せつつ、そう言う。別に行きたくはないけど、最初が肝心だもんね、分かる!というかその見た目で一人称俺なんだ、絶対僕だと思ってた。

ちなみに今日も僕は山菜定食です。僕は節約の鬼になる。

 

そうして放課後になった。

 

「5時から部活動の説明会があるから、手早く済ませるね。」

 

そういって一之瀬さんはクラスメイトを教室の中央に集めた。その動きに反するように外側に行き、ドアを少し開け、外に誰もいないかを確認する。万一、情報が洩れては意味がないからね。ゆっくりとドアを閉める。

 

「じゃあ、朝言っていたことについて説明するね。木之原君と神崎君もお願い。」

 

昨日、脳内シミュレートは何度もした、いける、いけるぞ、僕!

 

こうして僕たちはSシステムについての推測と、その推測に至った経緯を説明した。

クラスメイトは驚いていたようだったが、それぞれ10万円の支給など疑問に思う点もあったようで、それを解決するこの推測は概ね正しいものとして受け入れられた。会議の時間はせいぜい10分ほどだが、怪しまれてもいけないのでカバーストーリーとして、クラスでの連絡網の構築をしていたということにした。万一、探られることはないだろうが、念のため。それにこういう嘘は、他クラスへの対抗という意識を強めてくれるだろう。

 

 

 

 

 

そうして1カ月が経ち、5月1日…

朝のホームルーム前、僕と神崎君は人気者になっていた。

 

「本当だったんだね!ありがとう!」

「お前らの言う事聞いてて良かったぜ!」

 

ああ、感謝されるってなんて気持ち良いんだろう!神崎君も嬉しいやら恥ずかしいやら、満足気な表情をしている。

 

「勿論、委員長もな!ありがとう!一之瀬委員長!」

 

当然のように一之瀬さんの周りにも人だかりが出来ていた。白波さんなんて抱き着いている。あれ?離れないな。

 

「みんなー、これからホームルームを始めるから座ってー」

 

先生が入ってきた。いつもは始業のチャイムがなった後に入ってくるイメージだが、今日は早いな。

先生の呼びかけに従い、全員がそれぞれの席に座る。

それを確認し、先生は手にした筒の中から厚手の紙を広げ、黒板に固定した。

 

Bクラス 940

Aクラス 980

Cクラス 490

Dクラス  0

 

逆転だ。クラスは歓喜の渦に包まれている。煽ったのは僕だが、何とも上手くいきすぎてしまったな。授業初日に警告をするのは早すぎたか。坂柳さんが自らの派閥にしかシステムのことを明かしておらず、Aクラスの減点が思いのほか大きかったのもある。Aクラスになったのは仕方ない。どうせポイントを大きく残していたらAクラスだろうがBクラスだろうが変わらないからな。BクラスがAクラスになったことで葛城派と坂柳派が団結するようなことがあれば面倒だが、まあ、何もかも上手くいくわけじゃ無いしな。こういうこともある。

 

Cはともかく…Dは予想外だ。クラス間の優劣がある以上、Dクラスが多量のポイントを吐き出すことは目に見えていたが、ここまでとは。実際、授業の偵察をした際も酷い様子だったが、いずれシステムに気付くものかと考えていた。

全く…こうなるとうちのクラスは嫌でも目立ってくるな。初日は観察も不十分でここが紛れもない進学校だと信じており、ライバルと差を付けるためにも可能な限り、迅速に動いたが失敗だったようにも思える。僕が主席の時点で気付くべきと言われたら、そうなんだが、星之宮先生の発言から、あの段階でシステムに勘付いてる生徒がいると分かってしまったからな。どうしようもない。

 

早々にクラスに警告をしなければ方針転換もできたかもしれないが、警告してから素行を悪くすることなんてできるわけがないからな。こうなると戦い方を考える必要がある。幸いBクラスとの差は大きくない。1対3で狙われる危険性は薄いだろう。だが追われる立場となってしまった以上、その自覚は持つ必要がある。

 

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