ようこそ一之瀬がハッピーエンドを迎える教室へ 作:スカビオサ
クラスポイントが発表がされた日の放課後、僕は一之瀬さんと廊下を歩いていた。生徒会について星之宮先生に聞くためだ。
「でも意外、木之原君も生徒会に興味があるんだ?」
それは陰キャのくせにとかそういう話だろうか?一之瀬さんみたいな人に言われると傷つくんだが…
「?いや、違う、違う、何ていうのかな。あんまり目立ちたがらない人だと思ってたから。生徒会に入るとなると、どうしても注目を浴びることになるし。」
僕の表情から察したようで、珍しくあたふたしながら弁明する。
それはそうだ、実際目立ちたくはない。ただこの学校は生徒会の権力が強い。生徒間の諍いなども生徒会が審議の場を設けるらしい。自クラスに有利な判決をするといった職権乱用は許されないだろうが、裏から手を回したり、生徒会の立場でしか手に入れられない情報を手に入れたりもすることも出来るかもしれない。勿論、バレたら相応の処罰は受けるのは間違いないが。仮にそうだとするなら生徒会に所属することがかなりのアドバンテージになるはずだ。生徒会の業務に時間が奪われるのはデメリットだが、4月の段階で各クラスの偵察は、ある程度終えている。問題はないだろう。
自分の限界に挑戦したいからとか高校では頑張りたいとかそれっぽいことを言って誤魔化しておく。一之瀬さんは完全には納得していないようだったが、特に追及する気はないようだった。
そうして喋りながら歩いていると、遠目に星之宮先生が男子生徒にダルがらみしているのが見えた。指で男子生徒の頬をつんつんしてる。何してるんだ、あの人。男子生徒は綾小路君か。確か1年Dクラスの生徒のはずだ。遠くから見ても中々のイケメンだ。流石イケメンランキング5位、羨ましいねえ。とは言え、いくら何でも生徒はあかんだろ。と思っていると、茶柱先生が登場し、星之宮先生の頭をクリップボードでしばいた。こればかりは自業自得だな。
横を見ると流石の一之瀬さんも苦笑いしている。うちのクラスの担任はさあ…ホームルームに遅刻するわ、酒臭いことあるわ、教師としてどうなんだ…
綾小路君モテモテゾーンに近づくと、一之瀬さんが声を掛ける。
「星之宮先生。少しお時間よろしいでしょうか?生徒会の件でお話があります。」
星之宮先生は茶柱先生に促され、こちらに向き直る。あっ、尻叩かれた、良い音。
「じゃあ、職員室にでも行きましょうか、二人とも。」
僕たちは星之宮先生に従い、職員室へと向かった。
職員室にて生徒会への立候補など一通りの説明を受け、生徒会との面談日時を取り付けてくれるとのことだった。これについては素直に助かる。それから少し話をして、この場は解散となった。一之瀬さんと一緒に帰っても良かったが、気になることがあったので、この場に残る。
「いくらイケメンだからって、生徒に手を出しちゃダメですよ。」
冗談交じりにそう言う。この人にはこういう態度で大丈夫だとこの1カ月で学習した。
「木之原君、ひどいな~。生徒に手を出すわけないじゃない。」
「にしては、距離が近すぎたと思いますけどね。彼になにか?」
「いや、何も無いわよ、ちょっとからかってみたかっただけ、ほら、彼、無表情だし。」
本当だろうか?何となく茶柱先生との間になにかありそうだということは感じていたが、ピースが足りない。ぱっと見、ただの親しい関係なのだが…
「そうですか、では僕も帰ります。今日はありがとうございました。」
「良いの。気にしないで、また何かあったら聞いてちょうだい。」
「はい、では失礼します。」
寮への帰り道、思考を巡らせる。やはり情報が足りない。だが綾小路君か。茶柱先生が今日、この日に呼び出した。このことは意味があるはずだ。イケメンランキング以外特別な評判は聞こえてこなかった生徒の筈だが、何かあるのか?飛び切り優秀か、あるいは逆か。完全にノーマークだったが、少し気に掛けておくか。
「落ちちゃったよー。」
一之瀬さんが机に突っ伏している。どうやら生徒会への加入は無理だったらしい。
「一之瀬で断られるとはな。そうとう理想が高いようだ、生徒会長とやらは。」
神崎君も一之瀬さんなら受かると思っていたようで驚きを隠せていない。
「この分だと、僕は絶対落ちるなあ。」
一之瀬さんで受からないのに僕が受かるわけがない。
一之瀬さんが顔を上げて言う。
「そんなことないよ。それに生徒会長は木之原君の方を気にしている様子だったけど。多分、システムについて気づいたのは木之原君だって確信しているんじゃないかな。」
あれは僕が警戒しすぎていただけのラッキーパンチみたいなものなんだけどな。それで過剰に見積もられても困る。
「だとしても、一之瀬を落とす必要は無くないか?木之原を入れたいなら、2人とも入れればいいだろ。」
横から柴田君が入ってきた。
「確かに。となると他に要因があるのかもね。一之瀬さん、実は昔、不良だったりしない?ブイブイ言わせてた?」
一カ月も共に過ごしたこともあって、こんな冗談も言えてしまう。中学とは大違いだ。
「にゃはは。そんなわけないよー。」
どこか歯切れが悪い。えっ、実は?いや、まさか。まさかな。
「一之瀬はもう一度、挑戦するつもりか?」
神崎君が問いかける。
「…うん?ああ、そうだね、もう一度頑張ってみようかなー」
不自然な間を空けて、返答する。心ここにあらずと言う感じだ。やはり面接で落ちたのはショックだったということだろうか。
すぐ持ち直していたが、その後も一之瀬さんの様子はどこか変だった。
2日後、僕は生徒会室に来ていた。ノックを3回。
「1-A 木之原葵です。」
扉に向かって、声を掛ける。
「入れ。」
男の声だ。声からして生徒会長か。
「失礼します。」
中に入ると、そこには堀北会長しかいなかった。南雲副会長はいないか。
会議室風の空間だ。よくイメージする生徒会室とは違うな。周囲を観察していると声を掛けられた。
「立ち話も何だ。座れ。」
流石、生徒会長、圧が違うね。コミュ障の僕には荷が重い相手だ。
「では、失礼します。」
一言断りを入れて着席する。
「それで要件は生徒会への配属の希望で良かったか?」
「勿論、それもあります。ただ、メインはこっちじゃありません。」
「ほう?では何の用件でここに来た?」
半ば不意打ちのような真似をしているというのに一切動揺を見せない。
「一之瀬帆波を生徒会に入れていただきたい。」
「何かと思えば。その件については先日、結論が出ている。今はまだ時期ではないとな。」
「むしろ逆でしょう。南雲副会長のことを思えば、一之瀬さんはいずれ生徒会に入ることになる。彼女もまだ諦める気は無かったようですからね。南雲副会長が強く推薦すれば、貴方も断固として拒否することはできない。」
「それであれば今、生徒会に入れる必要は無いということではないか?」
「誰の影響下に入るかという話です。貴方は南雲副会長に一之瀬さんが対抗できないと生徒会入りを拒んだのかもしれませんが、このままだと南雲副会長の影響を受ける可能性が高い。」
調べた噂からすると、南雲副会長は一之瀬さんを気に入るだろう。元Bクラスのリーダー、すぐクラスをAクラスに引き上げた点、共通点は多いし、何より一之瀬さんは優れた容姿を持っている。あんなヤリ〇ン野郎に僕たちのクラスのリーダーは渡せないな。
「俺は南雲を副会長として認めている。誰の影響下に入ろうが関係のないことだ。」
ここで間違えればドボンだろうが、何のための1カ月だと言う話だ。同学年についても調べていたが、あまりにも動きが少なかったからな。半分以上はこの学校の権力者について調べていた。教師だけでなく、当然、生徒会もだ。
「それは実力をという話でしょう。貴方が南雲副会長の革新的な考えを肯定しているとは思えない。貴方は桐山さんに期待しているのかもしれませんが、どうでしょうね。当然ながら南雲副会長が最も影響力を持つのは同学年である2年生です。対抗できるとは思いません。であれば、あなたの影響下にある将来有望な生徒を育てるのは悪くないと思いませんか?」
「庇護下に入れて、守れと?」
「最初の内はですね。そもそも一之瀬さんと南雲副会長の相性は良くないですから。南雲副会長は退学者など構わない、いやむしろどんどん選別していくべきという思想でしょうが、一之瀬さんは例え他クラスであっても退学はしてほしくないってタイプですからね。Bクラススタートだとか共通点があるので一之瀬さん側もシンパシーを感じるかもしれませんが、そんなのは最初だけです。」
「なるほど、ではおまえ自身はどうだ?南雲に対抗する意思があるのか?」
「僕個人の意思としても、クラスメイトから退学者は出したくないですからね。退学者が多くなる方針に賛成はできません。」
これは本音だ。
「そうか、ならお前と一之瀬、まとめて生徒会に入れてやる。ここまで言ったんだ。期待させてもらうぞ。」
こうして話はまとまった。
生徒会役員の空きについては、原作4.5巻、橘書記の台詞から
少なくとも副会長以外に、この段階で生徒会の席が2枠空いていることが判明しているので、その枠に2人をつっこみました。