申し訳ございませんでした。
そこは正しく地獄の風景だった。
家は軒並み壊され、かつてあったであろう美しい風景は見る影も無かった。
化け物の死体とその体液そして消されることのない火がより一層風景を地獄としている。
そんな中、立派な建物が一つ、かつてこの国の中枢にして絶対領域、王の城のみがその威厳を保っていた。
理由は単純、そこには壊されてはならないモノあり、その主が守っていたからだ。
その頂上、王の間にて青年と少女が向かい合っていた。
「どうして貴様はここに来た!」
「あなたのため。」
「は!ならば何故俺に剣を向ける!俺はただ民を守ろうとしているだけだ!」
「分かっています。ですが、ですが!」
少女には、譲れぬ想いがあった。
「それでは誰も救えません!だから、私はあなたのために!私の願いのために!あなたを止めます!」
「俺のためだと?ならば俺のために最後までじっとしているのがお前のあるべき姿であろう!」
「いいえ!あなたはこんな結末を望んでいません!あなたが泣き続けることになる結末なら私はあなたを止めて世界を救います!」
そう、これは少女のエゴ。少女のわがまま。
「フハハハハ!世界を救うか!正義の味方にでもなるつもりか!エヴァ!」
「・・・いいえ!私はあなたの騎士です!」
それが少女の歩み続ける理由。そして今の少女の全て。
「は!騎士として己の主の凶行を止めるか・・・。いや、俺のためか。何ともお前らしい。」
青年は凄惨な笑みと共に騎士の前に立った。
「・・・は!さすが英雄様!その力で何でも成せるんだろうな!」
止まれる段階はもう越えていた。
「だがなあ!他の奴らは、民は違うんだよ!もう、こいつらは末期状態だ。もうこいつらを癒やす術も方法もこれしかこの国にはないんだよ!」
男は自らの後ろにある多くの生命ポッドの前に立ちはだかった。
そこには、この国の民の生き残りを全て集めていた。これこそが、男がここに残り最後まで戦っている理由。この国の王として、この国の一人の国民として己の全てを賭して男は守っていた。
「だったら俺は!この国の王としてこの国の国民を守ってみせる!」
そこに、王はいた。国を背負い、民を背負い、想いを背負った偉大な王が。
「例え!それでこの国以外が滅亡に進もうとも!」
王は全てを理解していた。
この後にあるであろう地獄を、そして世界を滅ぼす大罪人になることを。
だが、史上最高の王と言われた彼であってもこれ以外の方法を思いつくことは出来なかった。
故に彼はこの道を選んだ。世界よりもこの国を守りたいから。
だから、少女は想う。
この国が大好きな王を。
国民に最も愛され、それに応える王を。
だから、ごめんなさい。
「その未来をあなたに歩ませない!」
これは英雄譚ではない。
「あなたの悪は私が持って行きます!」
これは、一人の王のために国を滅ぼした悪の物語。
その日、世界は救われ、代わりに一つの国が滅びた。
その国は一柱の女神に敗北したことで滅びの運命を辿った。
英雄は愛する男の心を守り抜くため悪となり、自ら全てを破壊した。
悪神は女神を葬り、そんな一人の少女を見届けた。
これはそんな、ひどいひどい眷族物語。
その一端である。
◆◆◆
戦争遊戯は続く。
苛烈化するリヴェリアとガレスの猛攻。
だが、エヴァ・リンクスはそれを待っていた。
リヴェリアとガレスがこの話を聞けばどうなるかは事前に得た情報で推測出来ていた。
そして、その他の団員達の行動も。
すかさず呼び出したかつての友達にエヴァはただ一言号令を飛ばした。
「蹂躙しろ。」
そこからは、一方的蹂躙が起こった。
「ぐはあああ!」
「前衛もたせ・・きゃあああああああ!」
「つ、強すぎる!」
「数は少ない!囲め!」
「まさか!この強さ!恐らく第一級冒険者並です!」
「「「「な!」」」」
第一級冒険者
それはこの現在のオラリオにおいてほんの一握りしかたどり着いていない最高峰の高みである。
そのレベルは「5」以上の者を指しその段階に足を踏み入れた者は英雄候補と言ってもいい存在である。
それが10人ともなれば起こるのは何か。
そう
ただの虐殺である。
そして、
「崩れたな。」
レベル8。現在のオラリオ。そして恐らく世界の頂点である少女はその一撃を解放する。
「
その光の奔流は岩を軒並み貫き一本の道を作り出した。
ここに彼女を止められる存在はいない。
「「行かせるか!」」
リヴェリアとガレスがその剛力と魔法をもって止めようとするが
「待って下さいな!エルフの姫君!」
その魔法はハープを持つ吟遊詩人の格好をした者に相殺され。
「行かせないの~」
剛力は同等以上の力を持った巨躯の少女によって押し込まれた。
「「く!」」
「では、後ほど。」
そう言って騎士は疾走する。
己の役割を果たすためそして、敬愛する主のために。
『来た来たキターーー!』
『これは・・・決まったかも知れないわね。』
『ナインヘルとエルガルムが引き離されたああああ!砦の戦力はどうか!?』
『勇者はいない。ロキファミリアが止めるのは恐らく・・・。』
『やっぱこうなるかあ』
『頼んだで!』
『おっと?エヴァ・リンクス止まった?一体何が・・・?』
そして砦まで100mまで来たときその前に一人の少女が立ち塞がった。
「ここから先は・・・行かせない!」
その少女はまだ短いレイピアを構えてその切っ先を己の敵に向けた。
彼女こそこの戦争遊戯の中心「アイズ・ヴァレンシュタイン」
「・・・成る程。これは・・・。」
「
「少し厄介ですね。」
風が纏う少女が宙を舞う。
◆◆◆
10人の戦乙女その全員が第一級冒険者並の戦闘力を持っている。
加えてロキ側の包囲網は完璧に崩された。
策は残っているが、この10人がいてはその策もたやすく潰される。
(どうにか突破しなくては敗北が決定する!)
蹂躙が続く中ガレスとリヴェリアは目の前の同格との戦闘を続けながら打開策を模索していた。
だが、その戦いはあっけなく終わった。
「ここまでですね。」
片手剣でロキファミリアを蹂躙していた騎士というには軽装備の少女が終わりを宣言した。
「そうね。」
「姉さん。終わり?」
「そうよ。アン。」
「あれ、トリアンは?」
「別件よ。」
「へ~」
「じゃあ、消えましょう。死者は生者に干渉しすぎるのは悪いことです。」
「さすが副団長!やってることと言ってることが真逆だぜ!」
「失礼ですね。彼らが弱すぎるのです。」
「それでは生者の皆様また会いましょう。」
10人の戦乙女は光の粒となってあっさりと消えた。
「イカれてやがる・・・。」
「でも!好機です!これであの騎士を追えます!」
「無茶だ!」
「いくらリヴェリア様やガレスさんでもレベル8の疾走に追いつくことは不可能だ!」
「でも追いつかなきゃ!あっちにいるのはほぼ非戦闘員と新米とあの子だけなんですよ!?」
ロキファミリアの防衛組は最終防衛ラインが設けられているがそちらに戦力となるのは数人しかいないような状況だった。
「何を慌てておる?」
「ガレスさん!リヴェリアさん!」
「無事ですか!?」
「状況はどうなっている?」
「・・・補給班はそこまで被害はありません。しかし、戦闘組は我々数名を除いて戦闘不能です。」
「それに・・・この光景を見てしまって・・・。」
「・・・そうか。」
そこには天然の要塞だった崖が光にのまれ貫かれていた。
もし、今回生殺与奪を禁止していなければどうなっていたかという惨状を見せつけられていた。
分かっていたことだが圧倒的だった。
だが、
「・・・方法はある。」
「と言うよりもフィンはこの展開も予測していた。」
「「「そうなんですか!?」」」
「ああ。」
「なら!」
「今すぐにでも!」
「だが、お前達は棄権しろ。」
「「「「!」」」」
「正直言ってこれ以上の戦いでの戦力低下はオラリオにとって不利益だ。」
「そうだな。悔しいかもしれんが、これ以上負傷者を出せば闇派閥共が活性化しかねん。」
「・・・確かに。」
ロキファミリアはここだけが戦場では無かった。
彼らの弱体化は闇派閥がより活性化する要因になりかねない。
「ですが!この戦争遊戯に負ければ!」
「負ける気は無い。」
「!」
「安心しろ。あれは化け物だが、ましな類いだ。おかげで策も使える。」
「ああ。あの者の剣に邪気は無かった。いけるだろう。」
「そんな不確かなものでは!もし、あの者の言っていることが本当ならばあの女は自らの同胞の魂を弄んだのですよ!?」
「そうだな。だが、あの呼ばれた者達も誇りを持っていた。」
「・・・誇りですか?」
「ああ、恐らく騎士だったのだろう。私の相手をした魔術師も、ガレスの相手をしたフルプレートの大戦士も配慮していたのが分かる。」
「配慮・・・。あ。」
そう、あの者達も、あのエヴァという騎士も大技をほぼ使っていない。
強いて言えば道をこじ開けた時だが、あのときも十分な時間を掛けていたおかげで全員避難出来ていた。
「詳しいことは知らんが、落ち着いて考えて見れば奴らは手加減しとるな。それもおおいに。」
遊ばれている。
それがリヴェリア達の出した結論だった。
「舐めてくれているならそれを利用するまで。」
彼女達には闘志は燃えていた。
あれほどの一撃を見てなお、燃えていた。
「分かりました。ご武運を!」
「任せてくれ。それと最後の仕事を頼む。」
「はい。なんなりと!」
そして、リヴェリアは懐から翡翠色の小刀を取り出した。
「これは・・・。魔剣ですか?それもかなりの業物ですね。」
「ああ、キュクロプスに作ってもらった現在用意できる最上の魔剣だ。」
「これを使って援護しろということでしょうか?」
「違う。」
「まあ、簡単に言うと飛ばしてくれということだ。」
「・・・一応聞きますけど何を?」
「儂とリヴェリアだが?」
「・・・・・・はい?」
◆◆◆
アイズとエヴァの激突は一方的だった。
いや、片方があまりにも防御に徹していた。
「どうして攻撃しないの?」
「・・・・・」
アイズの攻撃は一切が封じられているがアイズに対しての攻撃は一切なかった。
それどころか片手で防ぐのみである。
「・・・仕方、ないですが」
「やっぱり・・・フィンの言った通りだった。」
「・・・・」
「あなた達は多分私を傷つけられない。それが多分命令だって。」
「・・・・本当に良い性格です。勇者。ですが、あなたを無傷で制圧することはたやすいですよ?」
「でも、あなたはこの風を貫けない。ううん。きっとあなたはこの風をなんとなく避けてる?」
「・・・そこまで分かりますか。」
「うん。」
「・・・風の精霊は私にとっても縁がありますからね。」
「!」
「・・・知ってるの?」
「いいえ。ですがそう言うことですか。・・・ならより一層丁寧にあなた寝かさなくてはいけませんね。」
「なら。・・・やってみて!」
少女の斬撃は苛烈の一途を辿った。
◆◆◆
アンリマユファミリア陣地そこは阿鼻叫喚の嵐が始まっていた。発狂者多数。加えて砦の旗を取ろうとする者を容赦なく打ち落とす者がいた。
「うふふふふふふふふ!力って最っ高!」
「くそ!まさか、あんなものを用意してるとは・・・!」
「ここまでのイカれようとは!何が商人だい!」
「景気よく爆撃しおって!しかもこの中身・・・」
「強臭袋の中身ではないかあああああああ!」
強臭袋とはモンスター避けのために使われる正に最強最悪の匂い袋だ。中身はまあ、お察しであるそれをこの商人はひたすらに投げていた。それも顔に。
「ぐわああああああ!糞が目にいいい!目にいいいい!」
「鼻がああああ!」
「目がああああ!目があああああ!」
「きゃあああああああ!もういやああああああ!」
「これぞ正しく糞塵爆弾!」
ここに史上最悪の爆弾が誕生していた。
この爆弾には勿論、殺傷能力は存在しない。だが、破裂したと同時にその中身が吹き出る仕組みになっておりとある小人とティンゼルが共同開発した。(なお、費用は全てアンリマユもちだった。)
「やっぱりお金が全てを解決するわ!」
「貴様あああああ!」
勿論、臭いを掻い潜り下から駆け上がってきたロキファミリア達もいる。
だが、ここは悪のファミリアの居城である。そして、その仕掛けに協力した者達は全員性根がイカれている連中である。詰まる所
「ノアールさん!突入組壊滅です!全員気を失っています!」
「原因は!」
「それが・・・強臭袋をまともに食らった者が5名、睡眠ガスを食らった者が4名、落とし穴に落ちて糞まみれになった者が数名です!その他は迷子になってしまい行方不明です!」
「砦を何に改造しおった!?子どもの悪戯か!」
「・・・しかし、こちらの士気の下げ方としては利にかなっとるな。」
「関心してる場合じゃないよ!フィンが来る前に終わらせるよ。内側がダメなら外だよ!」
そう言ってバーらは小隊を組んで跳躍した。全員がレベル4の第二級冒険者でベテラン揃いの精鋭だ。
だが、
「ふっふっふ!行きますか隠し武器第一弾!踊れ!ノワール!」
ティンゼルは一振りの長剣を取り出した。
そして、その長剣は形を変えた。
「な!避けな!」
長剣は広がり棘状の茨が旗のすぐ横で防衛するティンゼルを中心に広がった。
「安心しなよ。私の武器はあなた達を傷つけない。で~も~!」
「・・・・生きててごめんなさい」
「すみませんすみませんすみません」
「どうせ私はメンタルクソ雑魚エルフ・・・・・」
「精神には超効くよ!」
「本っ当にやりづらいね!」
「砦の外はこの糞爆弾と精神攻撃、中は糞迷路だと・・・!クッ!フィンはまだか!」
「まだ来てません!」
「こっちで無理矢理頂上に行くしかないか・・・。」
「く!ここを預かっておきながら情けない!」
「何ともやりづらい相手だ!」
だが、商人、ティンゼル・アーチャーもギリギリだった。
「はあ、はあ、もう!無理!何よあいつら!弓は飛ぶわ、魔法はとぶわ!殺す気にしか見えないじゃない!?」
「私!商人よ!しかもノワールもう使わされたし!そもそもロキファミリア相手に一人で防衛する時点でもう詰みじゃない!」
「あああああああ!もおおおおおお!絶対に勝ちなさいよおおおお!」
そして
「アンリマユファミリア、副団長、クロ。潰してあげます。似非勇者。」
「ロキファミリア、団長、勇者、フィン・ディムナだ。やってみなよ。お嬢さん。」
この戦争遊戯の勝敗を分ける戦いは静かに幕を開けていた。