「負けたね。」
戦争遊戯の簡易テントで目を覚ましたフィンはそう告げた。
「今回の戦犯は間違い無く僕だ。」
ロキファミリアは敗北した。
それも手心を加えられた上で。
「そうではあるまい。儂らも予測出きんかった。」
「・・・ああ、私達全員の失態だ。」
「まあ、予想外になることは分かってたんだけどね。」
「まあ、何というかのう・・・。」
「ああ。」
「「「「「「初見殺しだろ、これ。」」」」」」」
これが今回の戦争遊戯の感想である。
正直ロキファミリアはかなり善戦している。
「そんじゃあ、もらうぜ?そっちの眷族。」
「・・・・っぐ!んんんん!」
「ひどい形相だな。ロキ。」
勝った神は高らかに笑い、負けた神はうつむくしかない。
戦争遊戯の結果は絶対厳守。これは神々が自分達で決めたルールであり破れば送還さえあり得る。故にロキであってもこのルールは破ることができない。
そして、
「恨むでぇ、アストレア!」
「そうね。恨んでくれて良いわ、ロキ。でもねロキ、私の眷族はどちらかが圧倒的に有利や不利になるようなことはやってないわ。」
「せやかて!こっちの秘密兵器漏らすなんてずるやん!裏切りやん!」
「うるせえ、負け犬。そもそも、オレのエヴァが本気だったらこんなゲーム秒で終わってんだよ。それぐらい分かれよ。」
「知っとるわ!せやけど自分らはそれが出来へん。そんな勝ち方すれば自分らの危険性を都市に見せつけることになるって分かっとるからや。」
「へえ、50点。」
「あん?」
「確かにそれもあるがなあ、オレは悪神だぜ。欲しいもののためにそんなもの気にするかよ。」
・・・確かに。なら何故この神は彼女を欲する?恐らくあのスキル。そう言う意味では彼女は一度他の闇派閥から勧誘を受けている。だが、それだけではない?それだけのことで彼が動いた?いや、動いたのは眷族の方か?あのクロと言う少女はスキルの件で怒鳴り込んできた。なら、あり得る。が・・・。この悪の神がわざわざ面倒なことをした理由は一体・・・。
彼が動いた理由。動かざるを得ない理由。方針を変えるだけの案件。彼が無視できない存在・・・。
道化の神は普段細目の目を開いて思考の結果を告げた。
「・・・・・逆か?」
「正解」
「これは・・・悪いのはうちの方かあ。自分本当に悪神か?」
悪の眷族と正義の眷族この二つは決して交わらないと思っていた。違う。違った、この二つの派閥は恐らく・・・。
「まあ、今回はうちの眷族が燃えてたからなあキヒヒヒ!」
「ねえ、話が見えないんだけどお。」
「そこで頭良いアピール止めてくんない!」
「情報プリーズ!」
「良し!今回はこのオレ!ヘルメスがこの戦争遊戯の詳細を説明しよう!」
「いや何でお前が知ってんだよ。」
「実は俺両方の陣営に協力してたんだ!」
「「「「はああああああ!」」」」
「お前放っとくと勝手に飛び回るじゃん。」
「下手するとこっちの情報流されるからな、ある程度流しといたわ。」
「ひどい言われようだ。」
「あれ?お二人とも知ってたの?」
「「誰がそこのコウモリ信用するか」」
「・・・これは本当にひどい」
「まあまあ、そのおかげで今回俺はこの戦争遊戯の詳細を誰よりも知っているんだ。それを含めてお話しよう。両陣営構わないだろう?」
「か~。構わへん。構わへん。終わった話や。」
「良いぜ。こっちも今終わった。」
ドサ・・・。
「え?」
すると黒い塊が上から降ってきた。
「終わったよ~!アンちゃん!」
「「「「「アンちゃん?」」」」
「てか!誰!?そしてそれ何!?」
そこには騎士服を着た橙色の髪をした幼児が居た。
「おう!ちびっ子、ありがとよ。」
「えへへ~。」
「・・・おっとー。これは知らないぞ~。」
「じゃ、私の仕事は終わったから団長の所に戻るね!」
それだけ告げて、たったったと駆けていく幼女。
「あ!忘れてた!」
「何だ?」
「ありがとう!アンちゃん!約束守ってくれて!」
「・・・・そうかよ。」
そのまま幼女は光りの粒子となって消えて行った。
じーーーーーー。
「何だよ?」
「自分ひょっとして幼女趣味あるんか?」
「ねえよ!って言うかてめえらウン億歳超えてるんだから眷族共全員俺達から見たら幼児だろうが!」
「異議あり!大人かどうかは関係あると思います!」
「「「「そうだそうだ!」」」」
「黙れ!ジジババ共!」
「てめえもだろうが!」
「そうだそうだ!」
「確かによく考えて見れば私達見た目が若いだけよねえ。」
「あれ?これ結構犯罪?」
「神が年気にしてどうするよ・・・。」
そんなこんなでまた、話が脱線するのが神々である。
すっかり黒い塊、いやどこぞから送りこまれた刺客達を忘れて場は再び賑やかさを取り戻す。
結局、話の脱線が止まらず事の詳細は後の神会で話されることになった。
神なんてそんなもんである。
「負けは負けじゃ・・・。こればかりは悔しくたまらんのう。」
「そうだな。」
「だが、ゼウスやヘラ達よりマシということが分かったのが多少良いことかな。」
思い出すあの傍若無人の暴力の塊達。苦い苦渋を舐めてきた日々。
「言うな・・・。」
「あいつらが異常なんじゃ。あいつらが。」
はあ~。思わずため息が漏れ出す。
「そうさね。あの暴力集団がこの世界の英雄だったなんて異常だったさね。」
「世界の強者が皆あんなだったら、この世界はとっくに終わっていたな。」
ははははは。乾いた笑いしか出てこない。
ゼウスとヘラ、その犠牲者であった者達は思い出して薄ら笑いを浮かべていた。
英雄に類する者全てがああだったなら本当にこの世界は終わっている。
「だが、死人を呼び出すと言う魔法はやはり能力だけで凄まじいと言えるぞ。」
「・・・それは僕も聞いた。正直意外だ。仲間を殺して魂を奪い、再利用する。そんなことあの性格じゃ苦痛でしかないと思うけど・・・。クロっていう子の方は何とも言えないかな・・・。」
「あの魔女か・・・。あれはもう、どんな人生送ってきたか分かりやすいだろう。でなければあんなものは『発現』せん。」
「・・・そうだね。でも戦って分かった。あの魔女はまだこちら側だ。」
「こちら側?」
「ああ、他の闇派閥にいるような奴らの深淵を見るような目じゃなかったね。どちらかっていえばまだ覚悟を決めている冒険者のそれだ。」
「ほう!それは良いことを聞いた!フィンに勝ったというのだ。儂も戦いに行かなくてはな!」
戦いを求めるドワーフそれを聞いて闘志を滾らせていた。
「そして『商人』かい?」
「そうだ!あの商人が一番イカれとるぞ!」
ノアールがその悲惨さを熱弁しだした。
「分かるか!仲間達が狂気に陥っていく地獄絵図を駆け抜けるんじゃぞ!どこの地獄じゃ!しかもくっそ臭いし、汚いし!おかげで見よ!そこら中で呻く団員を!」
「・・・ああ、あの集団の原因はそれか。」
後悔、屈辱、そしてあまりにも耐えがたいトラウマのフルコース。その結果一部のメンバーは未だ立ち直れずにいた。
「加えて、あまりの非道にエルフはリヴェリアよしよしコースだ・・・」
「・・・・・・。彼女達と戦うと肉体より精神が病むのかあ・・・。」
「ある意味フレイヤファミリアの方が相性が良いかもね・・・。」
頭に浮かぶ女神第一主義集団。
「あいつら信仰のためなら何でも捨てるからのう・・・。」
「いやあれただの狂信・・・。」
「・・・この都市ろくなのおらんの。」
「儂らはマシじゃろ。」
「「「「・・・・・・」」」」
果たしてそうだろうか。
まず、ハイエルフを仲間にしてる時点で異常だ。エルフの王族となれば冗談抜きで全エルフがその者のために武器を取る。
そう全エルフが。
全エルフが!!
「マシ、なのか?」
「まあ、世界が動くな。良くも悪くも。」
「懐かしいね。フレイヤファミリアがリヴェリアに手を出して全エルフを敵に回した事件。」
「・・・あれは笑えん。収拾を付けるのがどれだけ大変だったか。」
「本当にハイエルフとは難義じゃのう。」
「本当にだ。」
「それで奴らはどうだ?」
「・・・アンリマユファミリアか。自ら悪を名乗りこの都市をたった3人で闊歩できている時点でイカれてるのは分かっているだろう。良くも悪くも。」
まあ、大概器を何度も昇格させられる冒険者はイカれているのだが・・・。
「どう思う、フィン。アイズを預けられるか?」
「なんだい?リヴェリア。まさか、もし預けられなければハイエルフの特権でも使う気かい?」
「・・・選択肢としては存在している。」
「「「「!」」」」
「はははは。すっかり母親だね。リヴェリア。」
「くどい。」
「・・・結論から言って僕達だけで決めることじゃないと思うよ。」
あっけからんと勇者は言う。
「何せここにその当事者がいないからね。」
結局、負けは覆らない。そして彼女達が示した誠意も無駄にはできない。だからこそ、
「なに、彼女も子どもと言っても冒険者だ。選ぶなら自分の意思で、だ。」
「・・・そうだな。もし、本気アイズが嫌がったならその時は私が全責任を持とう。」
「あははは。君がそう言うと世界中のエルフが動きかねないね。」
ガサガサ。
「「「「「・・・・・・・・」」」」
「・・・もしかして聞かれたかい?」
「・・・・本当に動くぞ。あいつら。」
「・・・冗談じゃろ。」
世界の行く末がまさかの一人の幼女に託されたことをこの場にいる全員が気づき頭を抱えた。
「いや何。以前、神アストレアが妙なことを言っていたなと思ってね。」
「以前?ああ、闇派閥対策の奴ですか?」
そこには苦労人のアスフィ。そしてその主神ヘルメスがどんちゃん騒ぎの傍らで今後の方針を話していた。
ロキ、アストレア、フレイヤはこの都市において闇派閥との闘争という点で強く協力することを求められている。そのためこの3柱が話し合うのはよくあることだ。
「それで、神アストレアはなんと?」
「神アストレアはあのアンリマユという神に対して『悪の聖者』と言っていた。」
「『悪』なのに『聖者』?何とも妙なことですね。」
「ああ。」
「何はともあれ一度行かなくていけないだろう・・・。」
「どっちにですか?」
「両方さ。何せ今のこの時期にロキファミリアが闇派閥に負けたとあっては本当にここの治安が崩壊しかねない。それが悪の手にかかっているっていうんだからな。」
フィン・ディムナを出し抜く。それだけで凄まじい偉業といえるだろう。それを成し遂げた少女達の存在は余りに大きい。
「彼の直感と策略を欺くというのは神である俺達でも骨が折れる。それを成し遂げるには絶対的に同じ直感の持ち主か同等以上の知性の化身が必要だ。」
「・・・明らかにあのクロという少女は勇者の戦い方を知っていました。アリーゼ達が教えたのでしょうか?なら直感はアリーゼの直感で防いだということに?やはり凄いですねアストレアファミリア。」
「それが妥当だろう。だが、それだけじゃここまでの彼女達の情報戦の優位は築けないだろう。」
確かにいくらアリーゼ達が手を貸したと言っても、それだけであのロキファミリアは欺けないし、情報漏洩も気づけた可能性が高い。そしてあの爆弾の量。あれは一体どこで・・・。
「あの勇者と勝負ができる知性の持ち主・・・。そんな人は・・・。」
・・・いる。一人。
だが、「彼」が動く?しかもあの悪のファミリアのために?それこそあの女神が嫌がることで・・でも女神の意思でもなければ絶対に動くわけが・・・。
例えば自分が行けば間違い無く即座に雷が落ちるのは目に見えている。
でも、彼以外に勇者を欺ける可能性なんて・・・。
「そう。そのまさかだ。」
「あり得ない!あのフレイヤファミリアの参謀!ヘディン・セルランド『
「・・・フレイヤ様が動いたんだよ。アスフィ。」
「な!どうしてフレイヤ様が!」
そこにひらりとヘルメスは新聞紙を取り出した。
そこには、
『号外!フレイヤファミリア私怨で孤児院襲撃!子供達に怪我か!?』
「これは!?っていうか恐い物知らずですか!この記事書いた人!?」
フレイヤファミリアの悪い評判を書くなど命が何個あっても足りない。
「・・・それが。その場に記者が丁度居合わせてたらしくてね。それがめっぽう子ども好きの記者だったらしく、滅茶苦茶頑張っちゃったらしい・・・。」
「・・・滅茶苦茶頑張っちゃったんですか。」
それはもうどれだけ大変だっただろうか。過去とは言え二大派閥の片割れ、一新聞会社が立ち向かうことなんて不可能だ。もし、そんな事をすれば一族郎党血祭りになっても可笑しくない。なので、もちろんそんなのどこも取り扱わない。
だが、そこには確かに記事として取り上げられていた。
「・・・まさか?これが原因?」
「・・・ああ。フレイヤ様の醜聞はその眷族の暴走もあって悪化していた。だからこそそれを取り除く必要があった。そこで取引があったのさ。」
「まさが、アンリマユファミリアとフレイヤファミリアも手を組んでいた?ですがそんな動きどこにも・・・。」
「ああ、動いたのはヘディン・セルランドとフレイヤ様だけだ。」
「一体どうやって・・・。それこそ彼が動けば勇者が気づけそうですけど。」
「気づけないさ。だってアンリマユファミリアもアストレアファミリアも誰一人彼に会っていないんだから。」
「・・・・そんな!?一体どうやって?」
「ほら、新聞みてみて。」
ヘルメスは新聞のある所を指さしながらそう言った。
何の変哲もない新聞、だが、指さされた所を見てみると。
「・・・日付が、合ってない?」
それだけじゃない。新聞を読んでみるとあった出来事は間違っていないが所々にある数字が間違っていた。
「これ、よく読まないと気付きませんね・・・。って言うかこの時期にこんなのをじっくり読む人なんて限られて・・・。」
「ああ。だからヒルドスレイブだけが気づいた。これは暗号文だと。」
「まさか!」
「ああ。この新聞社のバックにいたのはアンリマユファミリアの親派だ。」
「!」
「そしてこれに気づけるフレイヤファミリアの眷族はヘディンだけだ。ここまで聞けば分かるだろう。ファミリアの評判を良くしたいフレイヤ様、ヘディン・セルランドの知を借りたいアンリマユファミリア、二つの利害が一致したのさ。」
「なあ!?」
戦争遊戯の裏側で恐ろしい事が起こっていた。これではまるで小規模ながらの派閥大戦じゃないか!?
「って言うか何でヘルメス様が知っているんですか!?」
「俺も情報統制に関わっていたからな。って言うかこれはあれだな。秘密教えるから黙ってろよ漏らしたら殺すっていうメッセージだな。今思えば・・・。」
「何やってるんですか!バカ神!」
「そう言うなよアスフィ。きっちり生きてるだろ。今。」
「全く笑いごとじゃありません!」
「まあ、あの娘達、俺の事よく知ってるから上手く利用された感じだなあ。」
「はあ。」
苦労人の形相に戻る。アスフィ。
でも彼女は知っている。この神がこれで何をしようと懲りることがない。と言うか楽しんでいると言った方が正しい。なにせ彼はそんな暇つぶしが大好きだからだ。
「ああ。下界に降りてきて良かった!!」
スリルを精一杯楽しんだ己の主神に頭を抱えながらアスフィはうなだれる。
「もう、やだあ~。」
「あ、因みにファミリアの金も使ったからそこの所も頼むよ。」
「は?」
その瞬間アスフィは体の中で何かがブチっと切れたのを感じた。
「何しれっと重要なことやってるんですか!クソ神がー!?」
放たれるはレベル3最速の右ストレート。
正義の鉄拳は正しくヘルメスの急所を打ち抜いた。
「グハアアアア!」
「はあ、はあ、悪は滅ぼしました。」
アスフィは向かう、次の戦場へと。
例え、その先に
「ふー終わったわね!」
「ああ。そして私達はこれから謝罪巡りだ。」
「「「「「・・・・・・」」」」」」
「分かっていたけど結構くるわね。心に・・・。」
「なんて言うか、恩を仇で返してしまった感が・・・・。」
「・・・そうね。」
申し訳なさそうにアリーゼは言った。
「分かっていただろう。私達は信用を大幅に失ったんだ。もっと大変なのはこれからだ団長殿?」
「そうね。それにクロ達は私達以上に頑張ったんだからやるわよ!謝罪巡り!」
「じゃあ行くかあ。」
「あの、その、許しくれるでしょうか・・・。」
「許してくれるまで謝るわ!」
「さすが団長!覚悟きまってんなあ!」
悪い事をしたら謝る。
アストレアファミリアはアストレアファミリアだった。
「と言うわけで手始めに輝夜!私達に土下座のやり方を教えなさい!」
「「「「「「へ?」」」」」」
この後、土下座してただ働きをさせられる少女達が居たとか居なかったとか。
「クロ!無事か!?」
「後輩!大丈夫!?」
「・・・まあ、生きてはいます。」
「早く飲め!」
渡したものは『人魚の生き血』と呼ばれる全快アイテムだ。
だが、流した血の量が戻る訳ではないため応急処置だ。
ごくごく。
「心配しなくても、死にやしませんよ・・・・。」
「心配するわよ!」
「・・・すみません。でも、勝ちましたよ。エヴァそして先輩。」
「・・・お疲れ様です。クロ。」
そのまま抱きしめ合う二人。
ティンゼルはその様子を眺めているだけだ。
「ほら先輩も。」
「・・・はいはい。」
不器用な抱擁が終わった。
「取りあえず、クロを運ぶわ。構わないわね、エヴァ。」
「ええ、先輩。」
「・・・あなたが団長なんだから先輩は止めなさいよ。」
「いえ、先輩は先輩です。」
「・・・謎の年功序列制度ここでもあるの?」
「違いますよ。エヴァは先輩という存在が欲しいんです。」
小声で理由を話すクロ。
「はい?」
「はあ、取りあえずさっさと帰りましょう。私達の家に。」
「そ、そうね。か、帰りましょうか。」
「どんだけトラウマになってるんですか。」
「だって~。ロキファミリアですよ?ロキファミリア!世界の頂点の一角が相手だったんですよ!?たった3人で勝つなんて奇跡ですよ~。」
「私達が負ける訳ないでしょう。エヴァが居ますし。」
「その自信どこから来るの?」
「・・・エヴァ、二人運べます?」
「無視しないで!?」
「勿論。余裕ですから気にせず休んでください。クロ。先輩。」
「グス。こっちの後輩は良い子だよおお。」
現オラリオ最強はただただそんな仲間達のことを幼子を包むように抱え運び出した。
全ては、敬愛すべき主のために。そして、誇りある仲間のために。
・・・失態だ。
「・・・・フレイヤ様。以上が報告です。」
「知っているのは?」
「ヘルン、私、フレイヤ様のみです。ご安心ください。」
こんな事態事前に回避しなくてはならなかった。
「そう。ありがとう。ヘディン。」
「いいえ。この度のことは我らが弱かったことに起因しています。フレイヤ様には大変苦労を掛けてしまうとは、眷族失格です。」
「別に構わないわよ。」
フレイヤの手元にあるのは件の新聞その一部。
「それにしても『力を貸さなきゃてめえから潰す。黙って協力しろ。』なんて。素敵なラブレターね。本当に。」
「ぐ・・・。」
ヘディンはこめかみにしわを寄せながら事の始まりを思い出した。
全てはあの馬鹿共のせいだ。あいつらのせいでこちらは弱みを掴まれることになった。
新聞からこの脅迫に気づいたとき、ヘディンは馬鹿共からの妨害を防ぐために内密に主に知らせた。
本来なら即座に報復に移る所だが、アンリマユファミリアという現最強ファミリアに今の状態で挑むことのデメリットが余りに大きく、そしてヘディンの知を持ってしてもルール無用の場で勝算を見いだせないことから、このことは極々限られたメンバーのみで行動していた。
「そこまで落ち込むことはないわ。ヘディン。見返りも十分だったし、何よりこのことはアストレアが動くカードになり得る。今回は協力して正解だったわ。ついでにロキの悔し顔も見られたしね♪」
「女神アストレアが?」
「・・・そう言えば教えていなかったかしら。私達には役割があるのは知っているわよね。」
「はい。御身は愛、美、豊穣を司っていると。」
「私は愛と美が本分の神よ。他はついで。そして今、私は力のほとんどを抑えているわ。それが神々が自ら決めたルールだもの。今できることは精々世界を魅了することぐらいね。」
「存じております。」
「でもね。私が決して魅了できない存在がいるの。それが処女神。」
「処女神ですか?」
「ええある意味穢れていない彼女達を魅了することは私にさえ難しい。こと3大処女神に至っては不可能に近いわ。」
「御身にとっては処女神の存在はカウンターになり得ると?」
「ええ。」
「・・・それがあの悪神にとっては女神アストレア。」
「そう。何人もあの天秤の前には裁かれるしかない。もしあの悪神がその気になっても大丈夫って私達が言っているのはそう言うこと。そもそも本気なら女神アストレアはあの悪神に負ける道理が無いもの。」
「あの神は絶対にアストレアに敗れると?」
「・・・そこは分からないけど勝負はアストレアが優勢でしょうね。なにせ、アストレアはどこまでいっても正義でアンリマユはどこまでいっても悪なんですもの。一種の呪いよねこれ。」
「一体どう言う・・・。」
「詰まる所。大丈夫ということよ。だから心配しないでヘディン。」
「御身がそう仰るのでしたら、私が何かすることは御座いません。」
そうして忠臣は退出していった。
「さて、アンリマユ。あの娘で何をするのかしら?」
これから起こる事を愛の女神はまだ何も知らない。
だが、きっと面白いものが見れるという予感だけは確かにあった。
「それにしても・・・。解説、楽しいわね。」
なお、女神フレイヤに新たな趣味が芽生えた模様。