悪の化身の英雄賛歌   作:wakawaka

19 / 25
悪神と復讐の少女

 ロキファミリアではアイズ・ヴァレンシュタインの今後をどうするかを話していた。

 

「アイズ、お前はこれからアンリマユファミリアに行くことになる。」

 

 全員が口を噤む中リヴェリアはそう彼女に告げた。

 

「・・・リヴェリア。」

 

 心配そうにアイズはリヴェリアを見つめることしか出来なかった。

 

「だが、お前が嫌だというのなら私がお前をここから逃がそう。私の持てる全てを使ってな。」

 

 その瞬間ロキファミリアの中のエルフ達は全員リヴェリアを前に跪いた。

 

 いや彼女達だけでは無い。ホームの外にも気配が多く存在した。

 

 まるで女王の号令を待っているかのように。

 

「まあ、そう言うことだ。アイズ、負けたことは僕達に責任がある。そして君の移籍は神々のルール上絶対だ。だから君がアンリマユファミリアに入ることは変えられない。」

 

 戦争遊戯とはそれほど強制力がある。

 

「だが、その後のことには僕達は介入できる。」

 

「!」

 

「まあ、だから小娘。嫌ならそう言ってくれ。儂らがお前をこの都市から逃がそう。」

 

 それがロキファミリアにできる精一杯の誠意。そして責任である。

 

「選ぶのは君だ。冒険者アイズ・ヴァレンシュタイン。どの選択をしようと僕達はずっとファミリアであり君と仲違いするようなことはないよ。」

 

 フィンは告げる。できる限り優しく親愛を持って。

 

 そして、ここからは自分で決めなくてはならないと。

 

「・・・・・・。」

 

 アイズは沈黙した。当然だ。この選択次第でロキファミリアもそしてこの都市もただでは済まないかもしれないということがなんとなく分かる。

 

 アイズ自身一人の女性騎士に何一つできず負けた。

 

 家族を失うかもしれない。守ることが出来ないかもしれない。

 

 それだけは、それだけは、アイズには許せなかった。

 

 だけど闇派閥になるという事が今のアイズには少し恐ろしいことのように思えた。

 

 アイズは以前闇派閥に勧誘されたことがある。

 

 断ることができたが、惹かれる部分が全く無かったかと言うとそれは何とも言えなかった。でも、ああいう存在にはなりたくないと言うのが彼女の決断だった。

 

 なにせ、多くの戦いを見てきたし、その卑劣さを悪意を見せられてきたからだ。

 

 だから、考える。考えて、考えて、考えて、

 

「・・・ねえ、リヴェリア。」

 

「何だ?アイズ。」

 

 リヴェリアは優しく聞く。

 

「リヴェリアは困らない?」

 

「ああ。」

 

 リヴェリアはただただ毅然として答えた。

 

「安心しろ。私達は強い。」

 

「・・・ねえ、リヴェリアはあの人達のことをどう思った?」

 

「あの人達?ああ、アンリマユファミリアのことか・・・。そうだな・・・まあ、悪人ではないだろう。」

 

「どうして?あの人達は闇派閥って名乗っていたよ?」

 

「あれは悪人にはなれん。そういう質の人間だ。少なくとも私達がやりあったエヴァという女はそうだろう。」

 

「悪人になれない?」

 

「・・・そうだな。悪事を働く時、大抵、人には理由がある。それは時にどうでもいい理由。悪意を持っての理由。善意からの理由、そして信念のため。まあ、多くの要素が存在する。まあ、要するにたくさんの理由があるのだ。悪事にはな。だが、それらに対して過剰に嫌悪感をもつ人間が一定数いるのだ。」

 

「そうなの?」

 

「ああ。そして、あの騎士はきっと悪意を持って人を害することが出来ない。そう言う人間だ。」

 

「じゃあ、いい人?」

 

「いや、そうではないであろう。」

 

 ノアールが口を挟んだ。

 

「儂も色々と聞いた。その騎士についてはな。だが、如何せん優しすぎる。あれほどの強さを持ちながらな。」

 

「どうして?それって良いことじゃないの?」

 

「そうだね。僕達ともゼウスやヘラ達とも違う。あれは恐らく自分の中に大きな何かがあるんだろうね。その在り方を決定づけた理由が。まあ、ちょっと予測は出来るけど。」

 

「・・・分からない。」

 

 しょぼんとするアイズ。

 

「要するにだ。アイズ、私達から見ればあれは善人だ。だが同時危険でもある。」

 

「危険?」

 

「ああ、過ぎた優しさは時に毒になるということだ。」

 

「優しさが毒?」

 

 分からない。分からないことだらけだ。

 

 幼いアイズ・ヴァレンシュタインには判断が出来ない。

 

 だが『自分で決めろ』とフィンは言った。なら、考えなくちゃいけない。

 

「だがまあ、あそこのファミリアはあれでまとまっているのだろう。」

 

「そうかのう?呪いを振りまく魔女、そして史上最悪な武器を使う商人結構やばい奴らだろう。それに悪の主神だ。かなりヤバいかもしれんぞ。」

 

「そうだね。だけど、ある情報だけでやる必要がある。アイズ、君次第だ。」

 

 そうして、彼女はエヴァ・リンクスとの会話を思い出した。

 

 確か、彼女は風の大精霊を知っていた。それに縁があると。

 

 一体何を知っているんだろう?

 

 ・・・それに彼女達は戦ったと言っていた。あの黒竜と。

 

 ・・・知らなくてはならない。アイズは単純にそう思った。

 

 それは復讐からか。それとも尽きない疑問故か。それとも・・・。

 

 そして確かに彼女は自分の中で泣き続ける自分を見た。

 

 なら、どうするか。

 

 決まっている。

 

 アイズはロキファミリアを見た。

 

 そして、自分の意思を固めた。

 

「ねえ、リヴェリア。」

 

「どうした。アイズ?」

 

「私行ってくる。アンリマユファミリアに。」

 

「理由は・・・あるのか?」

 

 リヴェリアは聞いた。

 

「私、知りたいから。黒竜の事、風の大精霊のこと。」

 

「・・・そうか。」

 

「それに、あの人は精霊について知ってた。」

 

「何と!・・・ああそうか。あやつらは挑んでおったのあの竜に。」

 

「そこで何かを感じたのかもね。アイズとの関わりを。」

 

「・・・。」

 

「あれ、でもあの商人が精霊の武器持ってたね。」

 

「ああ、確かノワールって言ってた・・・。何かノワールとノアールって笑えるね。フフ。」

 

「笑う所ではあるまい!フィン!」

 

「・・・それに、あの人は強かったから。」

 

「・・・そうだな。恐らく今の世界最強は彼女だろう。」

 

「だから、行く。私は強くなりたいから。それに知りたいから。」

 

 それは彼女の消えることのない激情。

 

 そして、

 

「・・・みんなを守れるようになりたいから。」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

 育まれたファミリアの絆が彼女の道を決めた。

 

「・・・そうか。」

 

 リヴェリアは黙って目をつぶった。

 

「なら行くか。アイズ。」

 

 そうしてロキファミリアは一人の仲間を送り出すことになった。

 

 この選択が幸福に繋がるのかあるいは混沌に繋がるのかは神にでさえ分からない。けれど彼らは笑って送り出す。

 

 それが冒険者というものでありファミリアだから。

 

 

 

 

「・・・えーと言うことで、ここでファミリアの移籍を行ってもらいます。良いですね。」

 

「ええけど。何で自分がこれ取り仕切っとる?ヘルメス。」

 

 この場にはロキファミリア全員とアンリマユファミリア全員そしてヘルメス、そしてその眷族たるアスフィが居た。

 

「仕方ないだろ。俺以上にこう言う契約にめざとい神がいるか?」

 

「「・・・・・・胡散くさ。」」

 

「相変わらずひどいな!あっハッハッハ!」

 

「だが、ルールは守らなくては行けないね!」

 

 そう言ってヘルメスは移籍を始めさせた。

 

「はあああああ。嫌やわー。ほんま嫌やわー。アイズたーん!」

 

「早くして。ロキ。」

 

「うわー!アイズたんに嫌われたあ!もう終わりやー!」

 

 道化の神はそう言って改宗の手続きを行った。

 

「キヒヒヒ!これで今日からてめえはオレの眷族だ!」

 

 悪の神は悪い顔をしていた。

 

「では、あなたの眷族預からせていただきます。最も返す気はありませんが。」

 

 クロは悪の神をどかして即座にアイズの手を取った。

 

「・・・あなたは誰?」

 

 アイズはそうクロに聞く。

 

「そう言えば、面識ありあせんね。今日からあなたの面倒を見るクロです。よろしく、復讐の子。」

 

「違う。私はアイズ・ヴァレンシュタイン。」

 

 そしてアイズはそう返した。

 

「!」

 

 目を開いて驚くロキファミリア。

 

 こんなにもはっきりと初めてあった他人に意見を言うアイズを彼女達はあまり見たことがない。

 

「そうですね。じゃあ、アイズって呼んでもいいですか?」

 

 一気に態度を軟化させるクロ。

 

「・・・・分かった。」

 

「じゃあ、今日から私のことは新しい先生と思ってください。でも良かった。あなたはまだ飲み込まれてない。」

 

「?・・・どういうこと?」

 

「まあ、そうなりますよね・・・。でも安心してお姉ちゃんがあなたを守ってあげます。」

 

「守る?」

 

「ええ。先生は子どもを守るものです。」

 

 どう言う意味なのかアイズには分からなかった。

 

「・・・いらない。」

 

「・・・・。」

 

「そんなのいらない!だから教えて!私を強くして!あの黒竜を倒せるくらいに!」

 

 それが彼女の望み。そしてどうしようもない激情。親を奪われた少女の尽きること無き恩讐。

 

 スキルや魔法の発現とはその者の思いが大きく作用される。例えば「英雄になりたい」という願いがあればそれが「英雄の一撃」をもたらすスキルが発現することがある。

 

 だからこそ冒険者の中にはそのスキル、魔法を使いたがらない者がいる。理由は簡単だ。それは呪いでもあるからだ。どんなに強力なスキルであってもそれは悲しき過去を彼らに自覚させる。そしてそれを知るということはその者の過去を知ることに他ならない。

 

 だから、クロは彼女に味方する。

 

 クロにとって恨みを抱え、死に走る子どもをそのままにする事など出来ないのだ。

 

 それだけは、決して・・・

 

「・・・そう、ね。なら、力をあげる。アイズ。」

 

「・・・本当?」

 

「待て!クロとやら!」

 

「・・・何でしょう?リヴェリア様。」

 

「・・・様は余計だ。私はここで王族のように接される事を望んでいない。」

 

「・・・失礼しました。では一体何を?」

 

「・・・後で話がある。」

 

「・・・そうですね。あなたにはその資格がある。後でこちらから伺います。」

 

 剣呑な雰囲気あそこにあった。

 

 だが、それでも・・・両者には譲れぬ何かがあった。

 

「あ~。両者そこまででいいかな?そろそろ離れてもらわないとここで抗争が始まりそうなんだ。そうなると冗談抜きで都市が吹き飛びかねない。」

 

「そうですね。すみません。」

 

「そうだな。すまなかった。」

 

 そうして無事改宗は終わった。

 

「ええか!アンリマユ!その子泣かせたら絶対許さへんからな!」

 

 そんあ捨て台詞を道化の神は吐いて行った。

 

 

 

 

 

「・・・それにしてもエヴァは何も言わなくて良かったの?」

 

「それは先輩もでしょう。」

 

「だって私子守とかしたことないし。商人だし。」

 

「私は孤児院をクビになっているんです。要領が悪くて・・・。」

 

「・・・だから何もしないってことかー。」

 

「う!」

 

「どうした?お前ら。仲間が増えたんだ今日はパアッとやるぞ!」

 

「え!どこ!どこでやるんです!アンリマユ!」

 

「様をつけろ様を。俺はてめえの主神だろうが。」

 

「良いじゃ無いですか!」

 

「酒場はだめですよ。」

 

「「・・・・はーい。」」

 

「酒場行く気だったんですか・・・。」

 

「・・・・・。」

 

 軽い雰囲気がアイズには分かった。

 

 でも何もしゃべれなかった

 

「「「「・・・・」」」」

 

 そしてそんなアイズを察してしまった。一行。

 

「えーっとまずは自己紹介?」

 

「そうだな。えーごほんオレがここの主神だ。よろしく復讐っ子!」

 

「私がここの最初の眷族よ。ティンゼル・アーチャー。冒険者じゃなくて商人だけどよろしく!」

 

 包帯で目を覆う茶髪の少女が笑顔で言った。

 

「私はクロです。姓はありません。」

 

 クロは少し素っ気なく。

 

「ここの団長のエヴァ・リンクスです。昔は騎士やってました。これからよろしくお願いします。アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

 エヴァはできるだけ丁寧に言った。

 

 そしてアイズも少しあたふたしながら、

 

「・・・お願いしまう。」

 

「・・・噛んだな。」

 

「噛みましたね。」

 

「噛んじゃったかー。」

 

「・・・・。」

 

 徐々に顔を顰めるアイズ。

 

「そんな顔するな!噛むぐらいよくあることだぜ!」

 

「噛んでません・・・。」

 

「おお!ムキになったな!上等上等!」

 

「安心してください。アイズ・ヴァレンシュタイン。」

 

「私達は仲間を決して不幸にはしません。」

 

 エヴァはそんなことを言ってのける

 

「・・・噛んでないもん。」

 

「か、かわいい!」

 

「それでこそオレの眷族!」

 

 あっはっはっは!

 

 ファミリアは笑っていた。

 

 ただただ純粋に笑っていた。

 

「・・・どうして?」

 

 悪を名乗るファミリアなのにただただ笑っていた。

 

 そこには紛れもなくファミリアが居た。

 

「ねえ、何であなた達は悪のファミリアなの?」

 

 それは単純な疑問だった。

 

 子どものアイズから見ても彼らは闇派閥には見えなかった。

 

 あの嘲笑う怪物達とは・・・。

 

「「「・・・・・・」」」

 

 そして、それはこのファミリアにとって地雷であった。

 

「てめえにはそう見えるんだな復讐っ子。」

 

 その主神はただただそう言った。

 

「でもなー。それはどうしようもねえんだよ。」

 

「・・・そうですね。」

 

「まあ、仕方ないよねー。」

 

「ええ、どうしようもないことです。」

 

「?」

 

「まあ、オレっちから言えることは一つだぜ!」

 

「オレっち?」

 

「・・・まあ、何だ。後悔だけはするなよ。何せ過去は変えられねえんだからよ!」

 

 どれはどこか少年のような、そして親のようなそんな返答だった。

 

「そうですね!」

 

「そうだそうだ!」

 

「さすが主様です。」

 

「・・・分からない。」

 

「まあ、まあ!好きにしていいよ。アイズちゃん!」

 

「そうね!」

 

「だって、」

 

「私が」

 

「私達が」

 

「俺達が」

 

「「「「悪だから。」」」」

 

 風が吹き抜ける。

 

 それは暖かいような冷たいような、そんな風。

 

「・・・私は、悪じゃない。」

 

 アイズはそう言い切った。

 

「ああ。そうだな。」

 

「うんうん。」

 

「子どもが悪とか正義とかなことはありませんよ。」

 

「悪党はいいぞ!」

 

「主様。そう言うことはこの子の前では言わないで下さい。教育上良くありません。」

 

「・・・ですよねー。」

 

「子どもガチ勢ね。クロは!」

 

 悪のファミリアは新しいファミリアを獲得した。

 

 そしてアイズ・ヴァレンシュタインの新しい日々の始まりとなった。

 

 

 

 そして、ロキファミリアは今・・・

 

「「「「「「申し訳ございませんでしたあああああ!!!」」」」」

 

 アストレアファミリアの土下座にあっていた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。