悪の化身の英雄賛歌   作:wakawaka

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エヴァ・リンクスのヘビーな一日

 

 エヴァ・リンクスはアンリマユファミリアの団長である。

 

 悪神のファミリア団長なら悪の限りを尽くしているのか?

 

 答えはNOだ。

 

 むしろその逆、その性質は善に近い。

 

 だが、エヴァ・リンクスは悪神の剣であり団長である。

 

 何故か?

 

 それは・・・

 

 

◆◆◆

 

 エヴァ・リンクスの一日の始まりは早い。

 

 ファミリア全員の寝顔を見て、変装をしてからすぐさま出る。

 

 朝食はクロが昨夜のうちに作っておいてくれたものを職場に移動しながら食べる。

 

「行ってきます。」

 

 それが今のエヴァの生活の始まりである。

 

「ん~いってらっしゃい。」

 

 ちなみに時々誰かが見送ってくれる。

 

 

 

「おはようございます!」

 

「おはよう!新人ちゃん!」

 

「早いわね~!」

 

「今日もお願いね!」

 

 勤務先の扉を開ければ先輩達が笑顔で挨拶してくれる。

 

 それほどにエヴァはここでの仕事で信頼を勝ち取っていた。

 

 ちなみにここでは「新人ちゃん」で通っているが名前を聞かれたときは適当に「バゼット」と名乗っている。(適当である)

 

 そんなエヴァの役目は重傷者の世話、応急手当、入院中の患者の排泄物の処理、洗濯等々多岐に渡っているがエヴァ自身長く戦場にいた経験があるためそれらの仕事はドンとこいと思っている。そして、レベル8の能力を遺憾なく発揮していた。

 

 加えて冒険者の対応においてエヴァは最強だった。

 

 

 夜が明けると冒険者はダンジョンに出かける。そして魔石などを換金して生活をしているのだが、ダンジョンは死と隣り合わせだ。結果こう言う事態が起こる。

 

「新人ちゃん!また、冒険者が!」

 

 病院を開けてすぐに患者が運ばれてきた。

 

 ちなみに今のエヴァは黒髪ポニーテールの看護師だ。髪はカツラで出来るだけ素人っぽい足取りをすることで他の看護師に紛れようとしていうが意外と見る人が見ればすぐ分かる程度の変装である。(アストレアファミリア等には既に即ばれした。)

 

「はい!今すぐ!」

 

 その冒険者は片足を失っていた。どうやらダンジョンでモンスターに持って行かれたらしい。だが、生きて地上まで仲間が連れてきたのは運が良いと言えるだろう。

 

「痛ってええええええ!ぐあああああ!」

 

 その冒険者は余りの痛さに手を思いっきり暴れさせていた。レベル3のそれは十分にそこら辺の一般人を吹き飛ばすには十分だ。

 

「この人レベル3で止められない!新人ちゃんお願い!」

 

「はい!」

 

 そしてエヴァは無事である部分を押さえて固定具を取り付ける。

 

 この冒険者用の固定具は第二級冒険者ではびくりともしない特別なものだ。

 

「固定具取り付けました!」

 

「ありがとう!後は任せて!」

 

「新人ちゃん次こっち!」

 

「お任せ下さい!」

 

 冒険者はその探求と引き換えに多くのモノを失う。それは四肢かもしれないし、はたまた友の命か、自分の命か・・・。

 

 それが冒険者だという事なのかも知れない。

 

 この病院はそういった人達が命を失わないようにするための施設だ。

 

 

 

 だが、今日は少し事情が違った。

 

 看護師の先輩の一人がドタドタと扉を開けてやってきたのだ。

 

「新人ちゃん!隠れて!」

 

「どうしました!?」

 

「ダンジョンで、ダンジョンで闇派閥が!」

 

「「「「!!」」」」

 

 ここの看護師を含めてここの関係者はこのバゼットと名乗る者がエヴァ・リンクスであることを知っている。そのため急いでやってきたのだ。

 

「それで、ここの看護師長もここに来るって!」

 

「あれ、今外に居るんじゃ?」

 

 先輩達は驚いていた。

 

「看護師長ですか?」

 

「ええ。あ、そう言えば新人ちゃんは会ったことが無かったわね。私は実は臨時の看護師長で正規の人は都市外に出てたのよ。」

 

「それは、また・・・」

 

 エヴァはまだ入って日が浅いためそう言うことを知らなかったのだ。

 

「で、その人なんだけど・・・闇派閥絶対許さない系なの。」

 

「・・・成る程。分かりました。念入りな変装しておきます。」

 

「ちゃんと聞いてた?ダンジョンで闇派閥が暴れたってことはきっと・・・」

 

「分かっています。ですがここは人の傷を癒す場所で、私はその従業員です。手伝います。」

 

 そのまっすぐな目を前に先輩看護師は何も言えなかった。

 

「・・・本当になんであなた何で闇派閥なんてやってるのよ。」

 

「巡り合わせでしょうか・・・。」

 

「絶対にばれないでね!」

 

「はい!」

 

 

 そこから先この施設は重傷者で溢れかえって居た。

 

 何でも「殺帝」と呼ばれる闇派閥の幹部が大暴れをしたらしく巻き込まれた者が多く亡くなったらしい。重傷者も大勢出ていた。

 

「・・・クッそ、油断した!」

 

「ニック!返事をしろニック!」

 

「モニカー!モニカー!」

 

 辺り一面、緊急措置が必要な者で溢れかえっていた。

 

 正に阿鼻叫喚である。

 

 エヴァはその中を駆け巡っていた。

 

「容態は!」

 

「片腕を持ってかれた。止血は最低限したがそれだけだ。」

 

「分かりました。すぐに処置します!」

 

 エヴァは戦場で得た経験を発揮し、すぐにその地獄の中で必死に患者の命を繋ぐために奔走した。そのスピードはベテランの看護師から見ても目を見張るスピードだった。

 

 だが、エヴァに出来る事はそこまでだ。医者ではないエヴァには応急手当以上の手当てをする知識も技術も不足している。もはや神々に祈るほかないのである。

 

「終わりました!安静にしていてください!」

 

 そう言ってエヴァは次の患者へと向かう。

 

 その時、

 

「おい、なんでてめえがここにいる闇派閥。」

 

 ・・・いずれはあり得るだろうと思っていたことが遂に起こった。

 

 

 

 

「分からねえとでも思ったか!残念だったな!俺は目が良いんだよ!」

 

 そう言って、その冒険者は剣を抜いた。

 

 明らかに正常ではない。瞳孔は限界まで開き、息づかいも興奮状態を示していた。

 

「全員気付け!こいつはアンリマユファミリアだ!遂にボロを出しやがった!」

 

 その瞬間、全員の視線がエヴァに向かった。

 

 そして、それよりも早くエヴァの手刀はサッと男を気絶させた。

 

「・・・申し訳ございません。ですが今は人命が第一です!」

 

 そしてエヴァは男を寝かせ次の患者へと向かった。

 

「容態は!」

 

「えっと、あ、あの」

 

「急いで!」

 

「は、はい!友人が背中を切られました。回復魔法を掛けてもらったんですが変色した部分が広がっていて・・・。」

 

「見せて下さい!」

 

「はい!」

 

「・・・これは毒ですね。しかもこれ恐らくオリジナル。先輩!」

 

「あ、うん!優先席に運んで!」

 

「はい!動けますか?」

 

「あ、俺が背負います。」

 

「広がり方が変化したら教えて下さい!」

 

「はい!」

 

「次!」

 

 

 

 その日エヴァ・リンクスは奔走した。一人でも多くの患者の命を救うために。

 

 その行動に一切の妥協は存在しなかった。

 

 だが、

 

「あなた、闇派閥だそうですね?」

 

 だからと言って何も無かったことになどならないのだ。

 

 

 

 

「久しぶりに帰って来てみれば、皆さんどう言うことですか?」

 

「「「「「「・・・・・・・」」」」」」

 

「闇派閥の。それも団長が看護師。どういうことですか、アマネ。」

 

 ちなみにアマネとは臨時で看護師長をしていた先輩である。

 

「・・・はい。」

 

「答えなさい。ここは医療現場です。万が一にでも危険人物は居てはなりません。」

 

「ですが!新人ちゃんは人を助けています!」

 

「黙りなさい!」

 

「ひぐ!」

 

「良いですか!?闇派閥の卑劣さ狡猾さは散々教えたはずです!それにも関わらず、ましてや団長クラスを・・・。」

 

「看護師長。ですが現在のオラリオの安寧は彼女達によって成り立っています。」

 

「それに新人ちゃんの相棒はあのアストレア孤児院の責任者です!」

 

「それなのに信用できないってなれば我々は誰を信用すれば良いんですか!?」

 

「言い訳は無用!即刻解雇をそして出禁を命じます!二度とこの神聖な医療現場を穢すな!闇派閥!ガネーシャファミリアはもう呼んであります!

 

「・・・・・・・」

 

 エヴァは何も言い返さなかった。

 

 そしてエヴァは一礼して荷物をまとめ出ていった。

 

 

 

 

 

 

「あれ、エヴァどうしたんです?」

 

「クビにされました。」

 

「・・・本当ですか?」

 

「はい。」

 

「今のこの情勢でエヴァをクビにするなんて・・・。バカすぎる。」

 

「クロ、こっちは終わ・・・ってエヴァじゃない!今日は早いわね!」

 

 子供達の世話をしていたアリーゼが扉を開けてやってきた。

 

 ただでさえ重労働に重労働を重ねているアストレアファミリアだが、それでも孤児院の手伝いは常に誰かがしていたのだ。

 

「聞いて下さい。アリーゼ。エヴァがクビにされました。」

 

「え!?嘘!?評判良かったじゃない!」

 

 ちょっと興奮状態のアリーゼ。

 

「・・・その、帰って来た看護師長が大の闇派閥アンチでして。」

 

「・・・バレたんですか?」

 

「先輩方には気付かれていたんですけど・・・。その殺帝が暴れたらしくて、その煽りで今日は患者が大量でそのうちの一人にばれました。」

 

「そりゃあ、まあ、あの雑な変装じゃあバレるでしょう。何で隠れないんです?」

 

「・・・私に出来る事はしたかったんです。」

 

 シュンとする、エヴァ。

 

「・・・後で殴りに行きましょう。ヴァレッタを。」

 

「よく分からないけど悪い奴を殴るなら手を貸すわよ!」

 

「いりません。それよりあなた達は寝て下さい。」

 

 アストレアファミリアはアリーゼを含めて全員疲労困憊だである。よってヴァレッタとアンリマユファミリアが知り合いと言うようなことを言っているが思考能力が悪い奴を殴りに行くで終わっていた。

 

 終わってしまっていた。

 

「大丈夫なんですか?アストレアファミリア。」

 

「この間、不眠薬をアスフィに頼んでいました。」

 

「・・・私達以上にヤバいですね。」

 

「まあ、だからこその正義の味方なんでしょうけど。」

 

「そして私達は悪。」

 

「ええ、そうですよ。今更なんですか?エヴァ。」

 

「・・・少し、ほんの少しだけ」

 

 それ以上、エヴァは喋らなかった。

 

 そして、その先の言葉をクロも求めなかった。

 

 だって、それは悪の道を行くと決めたその時に誓ったことだから。

 

「とりあえず、お帰りなさい、エヴァ。」

 

「はい。ただいま、クロ。」

 

 

 

 そんなこんなでエヴァ・リンクスは再び無職になった。

 

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