悪神は神会を甘く見ていたことを自覚した。
当初の予定では時期を見て宣戦布告でもして逃げるつもりだった。だが、予想外にもアストレアは万全に対策し、その他の神達もそのノリに乗っていた。ウラノスからの書状も効果は薄く、結果・・・オラリオの洗礼、サンドバック(神々のおもちゃ)が完成した。
「はーい!俺知ってます。あの子の眷族、子供達の面倒見てました!」
「あ、俺も見たー!」
「私も見たわよー!夜中、あの子の眷族巡回してみんなを守ってたわーー!」
「えーー!マジでーー!」
「いい奴じゃん!」
「実は良い神!アンリマユ!」
「ヒュー♪」
ぷるぷると体を震わせながら悪の神は耐えていた。だが・・・
「ヘルメス。ウラノスに繋げられるか?」
「ん?呼べば来るんじゃないか?恐らくここの内容もきっちり聞いてるだろうしね。」
「じゃあ、俺を不機嫌にしたこいつらのファミリアに強制任務だしとけ。」
「「「!!」」」
「ん~。まあ、できるだろうけど、そんなので良いのかい?」
「ちゅうか。よく知っとるな自分。」
「俺をなめるな。あの後、情報収集ぐらいしたに決まってんだろ。」
「待って!待って!」
「それはヤバい!」
「俺たち、子供達に嫌われる!!」
「殴られる!」
「お小遣い減らされる!」
「それだけは~!」
「じゃあ、うちの眷族を突撃させてやろうか?」
「「「「強制任務でお願いします!」」」
手のひらをくるくるする神々。やはり神であった。
「と言うわけだ。お前の所のガキどももせいぜい頑張ることだな。」
「まあ、それぐらいなら許容範囲ね。」
「あら、いいの?アストレア?この時期に一斉に強制任務に行ったら、間違い無く治安荒れるわよ。それにダンジョンの方が襲われやすいし。」
強制任務はギルドによって実力を認められたファミリアに与えられるモノである。それは、ロキファミリア、フレイヤファミリアであっても同様である。
「アンリマユがどうにかするわ。きっと。」
「ああん?俺が?」
「あなたが他の闇派閥を放っておく訳ないでしょう?」
「悪いが俺が何をするかは、俺次第だ。だから知らねー。」
それも真理だった。
「それ、うちらもか?」
「当然だろ。」
「まあ、確かにあの子達の本業よね。ダンジョンアタックは。」
治安が悪くなろうとも彼らは冒険者であり、ダンジョンの攻略は三大クエストの達成と共に重要なミッションだった。
「まあ、そこら辺の配分はギルドがどうにかするだろうから、大丈夫だろう。」
「まあでも、今はどっちに居ても危険やし、なんとも言えんなあ。」
「ああ、そういえば言ってたな。ゼウスとヘラが居なくなって治安が悪化したんだったか?」
「そうよ。当時のゼウスとヘラは他のファミリアと一線を画していた。闇派閥が迂闊には動けないほどにね。まあ、正確には居たけど潰されたと言っておくべきね。」
「ゼウスとヘラかあ。」
「良い記憶ねえなあ。」
「と言うかあれ、ほとんど俺達巻き込まれただけだよな。」
他の神々も当時を思い出して苦い顔をしていた。
「ん?とすると奴らは少なくとも・・・」
「ええ第一級冒険者の数も質も段違いだったわ。」
「へえ、俺の眷族とだったらどっち上だ?」
「「「「ゼウスとヘラ」」」」
二つの派閥に最も被害を被った二柱の女神とその他の神々も即答した。
「タイマンやったら分らんけどなあ。」
「それでも、負けたのか?あの黒竜に。」
それでも負けたという現実がある以上それほどあの竜は強かったのかそれとも・・・。
「なら、本当に俺が遅すぎたっていうことだな。」
「そういえばアンリマユ、あなた挑んだって言っていたわね?」
「ああ、俺たちも負けた。」
「「「!!」」」
「待って!そういえばスルーしてたけど精霊の結界はどうしたの!?て言うか何で生きてるの?」
あのゼウスとヘラが撤退すら出来ず全滅したあの黒竜を相手にたった二人の眷族でどうやって生き延びたというのか。
「あれか?こっちの結界で相殺しただけだ。うちの騎士はタンクとして最強だから。まあ、生きてる理由は単に運が良かっただけだな。」
黒竜と一線交えて生き残るという快挙を成し遂げたところにアンリマユファミリアの強さが証明される。だが、それはつまり彼らにはさらに秘密があるということだった。聞くべきか、引くべきかアストレアは迷っていたが・・・。
「あ~成る程。そういうことか?」
「ん?どういうことや?」
「いや、[ナイト・オブ・ナイト]がいた理由だよ。」
「つまり、アンリマユファミリアが黒竜と戦ったおかげで異変が起きて学区から彼が出動したということね。」
「そういうことだ。これで点と点が繋がったな。」
となると、神々はことの流れを整理する。
「ええっと、アンリマユファミリアが黒竜に敗北して?」
「それを見つけた私達の推しが助けた!」
「それで、オラリオに親切にデリバリーして!」
「結果、城壁破壊されて!」
「第一級冒険者も軒並みダウンして!」
「滅亡寸前オラリオ完成!」
「ウェーイ!」
「あれ?戦犯[ナイト・オブ・ナイト]?」
「そういえば!!」
何故か悪いことにされる現代の英雄。
「悪いのはアンリマユよ・・・。」
「せやな・・。」
「当たり前だろ。」
「普通自分で言う?」
「そもそも俺に対してこんな和気あいあいと接するお前らが異常だ。おっラッキー。」
そう言って彼は手錠を外した。
「話が終わりなら俺は出ていくぞ。ウラノスから解放されたのに連行されるなんて散々な日だな。」
外した手錠をそのままにアンリマユは席をたった。
「あら、闇派閥の動向知りたくないの?」
「俺に本当の事をお前らが話すわけ無いだろ。」
「そう。」
「あ、俺からも一つだけ言っておく。安心しろ。これはただのアドバイスだ。こと子供達の事をお前らが考えているのなら、俺より先に天界に送った方が良い神がいるぜ。」
そういって彼は一柱の神を見つめていた。
「ご忠告あんがとさん。ほなさっさと帰り。」
◆◆◆
悪の神はすぐに帰って行き、会議もつつがなく終わった。
「で、どう思う?」
「本当の目的は最後まで分らなかったわね。」
美の神フレイヤは確信をもって答えた
「ほーう、その根拠は?」
「あの神、アストレアに捕まった時も全く抵抗していなかったらしいわ。つまり彼にはなにがあってもどうにでもできる確信があった。例え私の魅了が相手だったとしてもね。」
「へえ、じゃあこの会議の流れは全部そっちの仕組んだ通りで、アンリマユはそれも読んでいたのかい?」
「いや、それは無いと思うわ。」
正義の女神は答えた。
「まあ、そのためのこの手錠だったんだけどね。」
「そうだ。どうやって解いたんだそれ。」
「あら、これ最初から鍵なんて掛かってないわよ。」
「「「!!」」」
「へえ。あのアストレアが何故そんなことを?」
「アンリマユのことを知るためよ。」
「危険な橋を渡るなあ、アストレア。」
「仕方ないでしょう。アンリマユの反撃される程度を知る必要があるわ。」
「へえ。それは正義の女神としてかい?」
「そうね。そう・・・言うことなのかしら。」
「あら、珍しい。私怨?」
「この偽善者があ?私怨?あるわけないやろ。」
アストレアとは正義の女神であり、清廉潔白であり。委員長の中の委員長。まさに弱者の味方で悪の敵だ。理想の女神と言える。
「私が彼に会ったのはこの土地で会ったのが初めてよ。でも・・・。」
アストレアは己が彼に対して対抗している自分がいることを自覚していた。そもそもアストレアは誰かに対して剣を抜くということをそう易々と行わない。
「あなたにも分らないと。」
「悪の神と正義の神かあ、けったいな巡り合わせやなあ。」
「それじゃあ、これからのオラリオについて話を・・・。」
そうして神会は進行していった。
勿論、大いに脱線した。
◆◆◆
「と言うのが今回の神会だ。」
「そうか。」
ただ老神は頷いた。
「なあ、ウラノス。あのアンリマユというのは本当に闇派閥の神か?」
ヘルメスは眷族からの報告を受けての感想をもらした。
「うちのアスフィにも探らせたが極めて温厚で子供の世話までしている。特にあの騎士の方は常に全ての子供の安全を確保できるよう位置取りしていたらしい。闇派閥の求める破壊、殺戮、といったものが先日の襲撃以来無い。あれではまるで秩序側の神だ。」
「アンリマユの全てを知る神は存在しない。もし、理解しているとすればアストレアだろう。」
「確かに。あの神が来てから彼女は変わった。信じられるかい?あのアストレアがだ。」
「そうだな。だが、それこそ彼女が正義の女神である所以なのだろう。」
「じゃあ、これは運命とでも言うのかい?」
この下界という舞台で会うはずが無かった二柱の神が出会った。
「『運命』か・・・。そうかもしれんな。」
二柱の神の間に確かに間が生まれた。
「ヘルメス、下界だけでなく天界も変わるかもしれん。」
「そりゃあ大事だ。じゃあ、俺は見届けるとするさ。なにせ俺はヘルメスだからな!」
ヘルメスの顔には喜色の表情が現れていた。
「ああそうだ。アンリマユは自分以上に送還した方が良い奴がいるって言ってたぜ。」
「ほう。」
楽しそうにヘルメスは去って行った。これを求めて降りてきたと言わんばかりに彼の顔には笑みが浮かんでいた。
「ウラノス、私も表に出た方が良いか?」
隠れていたフェルズが陰から現れた。
「いや必要ない。」
そうして老神も祈祷に戻っていった。
なお、アンリマユは帰ってすぐ寝たようだ。