Q.女の子とイチャイチャする方法   作:goldMg

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Q.世界を救うのに恋愛感情はいるのか?

 

「なんて?」

 

「だから、世界を救うのに恋愛感情はいるのかって」

 

「……いらないんじゃないですか?」

 

 そう答えたのは受付嬢のエレナだった。

 金髪を肩までに揃えた容姿端麗な彼女は、冒険者から言い寄られているところをよく見る。恋愛のあれこれもよく知っていることだろうと思って聞いた回答がこれだった。

 

「何でそんな話をいきなり?」

 

「読んだことない? 騎士の──」

 

「もちろん読んだことありますよ。勇者様たちのお話ですよね」

 

 3体いる魔王のうちの1体を倒した伝説の英雄。

 東ヒューリングス王国を救った騎士、魔法使い、戦士。

 いくつもの苦難を乗り越えた旅路の中で、騎士と魔法使いは恋仲に至ったと語られている。

 いくつもに改変された物語は、それでも騎士に主眼を置き、二人の仲が恋仲であるという一点において共通しているのは間違いなかった。

 

「あの話ってさ、大事なのは魔王を倒したってことじゃん」

 

「ええ? ……そうですけど、まさかそれが言いたいんですか?」

 

「そう! 魔王を倒したからこそ平和に暮らしている人がいるのに、まるで2人の仲が大事であるみたいな感じに書いてあるのがちょっとだけ、ん? ってなってさ!」

 

「…………暇なんですか?」

 

「暇だよ! じゃなきゃこんなこと聞かねえよ!」

 

「依頼受けてくださいよ、じゃあ」

 

「すでに一個受けたじゃん! 受けて終わらせたじゃん!」

 

 北の防衛ラインに出現したブリザードウルフをぶっ殺して大感謝されてきたところだ。何でそれでまた働かなきゃならねえんだよ。冬でもねえのにクッソ寒いブリザードの中で頑張ったんだぞ。

 そこで思いついたんだよ。

 俺は1人でこんな大変な思いして壊滅級の魔獣と戦ってんのに、騎士様は何で恋愛なんかしてたんだよってな。

 

「暇なんでしょう? ……しょうがないですね、ほら、ほら、面白い話来てますよ」

 

「なにもう……ん? これって……」

 

「あなたのだーいすきな、恋愛にうつつを抜かしているかもしれない勇者様御一行のことですよ」

 

 

 ──────

 

 

 ノーザンバグズ領 アラベスク

 東ヒューリングス王国の北部に位置し、道楽科として知られるノーザンバグズ伯爵が収める土地でもある。

『更なる北』と呼ばれる領域からやってくるモンスターを食い止める最終防波堤としての役割を担っており、従軍者は日夜問わず迎撃や防壁の修理に駆り出され、探索者もそんな彼らからの要請──依頼があればモンスターと戦う。

 

 俺は、そんな領地に生まれた。

 両親はどちらも軍人で、俺が8の時にかかあが、12の時に親父があの世に行った。

 モンスターと戦うってのはそういうことだからしゃあないけど、俺はあんな生活を縛られたような生き方は嫌だったので冒険者の道を選んだ。

 アクス。

 それが俺の名前だ。

 ちなみに武器は剣です。

 

 幸いなことに戦う才能があった。

 回復能力が異常に高いのがまず第一。

 そして剣を持つと、まるで自分の体の一部のように動く。剣を振ればモンスターの魔法ごと肉体を断ち切れる。生まれつき炎が使えるし、他にも一応できることはある。

 単純に筋力が人に比べて強いのもあるけど、そういうチカラを持って生まれたんだと思う。

 

 だから、冒険者を選んだのは合ってた。

 12で初めて、今は18。

 成人が15なのに未だに結婚できないのは、ここが厳しい領地だからだ。女の子は大抵、成人するまでにこの領地を出てもっと温かいところへ移り住む。

 そこで男を見つけて幸せな生活を送るのだ。

 

 ──控えめに言って地獄に堕ちろ。

 

 俺が頑張って剣を振ってる時にお前らは腰振ってんだろ? ふざけんな、国もまともに守れないくせに一丁前に恋愛なんてしやがって。

 エレナもその内、良い男見つけて寿退職するんだろうよ、ケッ! 

 人類なんか滅んじまえ! 

 

 んで、そう……人類をガチで滅ぼそうとしてる奴もいる。

 それが魔王。

 素性が全く知れないので魔の王と呼ばれていて、数百年前に騎士様が倒した魔王は植物とドラゴンを足して2で割ったようなやつだと物語では描かれている。

 3体のうちの1体は倒されたっつったけど、じゃあ残りの2体は何してんのって言ったら、現役で人類を滅ぼそうとしてる。

 

 ──お前何してんの? 

 

 そう突っ込みたくなる。

 人類なんか滅ぼしたところで何も変わらないし、ただお互いに苦しいだけだと思うんだ。それでも数百年かけてジワジワと人類は領地を侵略されていて、昔は村があったところが今は毒沼です(^-^)vみたいなこともある。

 魔王自体は表に出てこないが、この状態がさらに続けばそのうち人類はちゃんと滅びると俺は思っていた。

 

 つい最近になるまでは。

 

 現れたらしいのだ、2人目の勇者が。

 南にあるシーランド王国、温かく住みやすいそこに生を受けたソイツが仲間を引き連れて各地を旅し始めたんだとさ。行く先々で魔王の幹部(を名乗る奴ら)が起こしていた問題を解決するから、そうなんじゃないかって。

 

 そして、その勇者様が今度は我らが東ヒューリングス王国にやってくるんだとよ。

 

「アホらし」

 

「なんでですか?」

 

「だってこんなんもうモテモテでヤリまくりの稼ぎまくりでパラダイスじゃん。腹立つわ、俺が代わりに人類滅ぼしてやろうかな……」

 

「はあ……もしかしたらアクスさんのことを好きな人だっているかもしれませんよ?」

 

「そんなのがいたらとっくに付き合ってるわ」

 

「ふーん…………ホントですか?」

 

 ……なんだよ。

 何だその目は! 

 反抗的だな! 

 貴様も前線に行って夜間警備を手伝ってもらおうか! 

 ナイトクロウの群れを一晩中叩き落とす役目だ! 

 

「はぁ……」

 

 首振ってんじゃねえ! 

 こちとらガチのマジやぞ! 

 マジでイラついとるんや! 

 …………腹減った! 

 

「どこ行くんですか?」

 

「飯!」

 

「はぁ…………」

 

 

 ──────

 

 

『溶け散れええええ!』

 

 剣を鞘のように覆う青白い炎。

 近付くだけで熱気が肌を焦がすそれを、何ともない顔で振り回す。

 一振りすると軌跡上にいたモンスターの肉体が焼き切られ、地面に突き刺すと周囲の地面から火柱が立ち上る。

 

 夕方、兵士が守る防壁を破ろうとやってきたモンスターの群れに一人で突っ込んで大立ち回りを決めている冒険者がいた。

 

「いやー、いつ見ても気持ちいい大火力だな」

 

 防壁に備え付けられた覗き穴から見える彼の戦い。

 

『おらああああっ!』

 

 荒々しくも凄まじい勢いでモンスターを薙ぎ倒していく。そんな様子を見ていた男のところへ別の兵士が。

 つい今朝方、内地からここへ派遣されてきたばかりの年若い少年だ。

 

「あ、あのあのっ! あれって!」

 

 ご飯を貪りながら様子を見ていた男に尋ねる。

 とても興奮している様子の少年に対して、男はしたり顔で返す。

 

「新人、見るのは初めてか?」

 

「は、はい!」

 

「ははは! そうかそうか! じゃあしっかり見とけ」

 

「…………ああっ!」

 

 モンスターたちに追いつかれそうになっていた。剣にまとわりつく炎も弱まり、このままでは死んでしまう。まさか自分が来たこのタイミングで、とショックを隠せずにいつつも目を離せない少年の目の前でそれは起きた。

 

『こっちだ!』

 

 冒険者は高く剣を掲げ、誘蛾灯のように剣を振り、さらに引きつける。

 

「そ、そんな事しても……!」

 

 まさか自分を犠牲に、と不安で早鐘を打つ心臓。

 彼がこれからどんな凄惨な最期を迎えるのか、と見つめていた彼の前で冒険者が剣を振り下ろした。

 

『──終わりだ!』

 

 直後、巨大な火柱が。

 圧倒的な熱量、距離が離れているのに熱いと錯覚するような強大なチカラが解放されていた。

 

「う、うわああああ!?」

 

 少年は転がり、恐怖から目を見開いた。

 

「荒れてんなあ……」

 

 最初に見ていた男が漏らしたのはその程度の言葉だった。

 

「あうう……」

 

 少年は別のものを漏らしたが、男はそれを笑わない。

 あれを見て人間が感じるのは恐怖以外にありはしない。それだけ桁違いの力だった。

 ただ、それをあれだけ荒々しく振るっている理由を知れば、そのくだらなさに漏らしたものも引っ込むだろうと考えていた。

 

 

 ──────

 

 

「帰るっ!」

 

「おう! ありがとうな!」

 

 防壁に帰ってきた冒険者は機嫌悪そうに、ドタドタと足音を鳴らしながら帰っていく。その冒険者の背後から、急いで駆け寄る別の足音があることに周囲の人間は気付いた。

 当然冒険者も。

 全く血や脂の付着していない剣を鞘に納め、先ほどまで戦っていたとは思えない綺麗な背中がぴたりと止まる。

 

「──あのっ!」

 

「…………」

 

「ぼ、僕、イスカって言います!」

 

「…………」

 

「あのっ、さっきの見てました!」

 

「そうか」

 

「そ、それでその……あの……」

 

「…………」

 

 興奮冷めやらぬままに出てきてしまっただけで、何を言いたいか全く纏まっていなかった。

 

「す、すごかったです!」

 

「──ありがとう」

 

 くるりと踵を返した冒険者は、ニコリと微笑んだ。先ほどはダミ声でブチ切れ寸前といった様子だったのにこんな穏やかな顔でとは、話しかけたイスカも少しだけ驚いてしまった。

 

「見ない顔だけど、最近来たばかりか?」

 

「今日来ました!」

 

「今日か……そしたら、こっちは寒いだろ」

 

「はい! あ、でも毛皮を着てるので大丈夫です!」

 

「そっかそっか……お腹減ったからもう行っても良いかな?」

 

「あ、ごめんなさい……」

 

「いやいや、本当に君は何も悪く無い。こんな時間にやってくるあのクソモンスターどもが全部悪いから」

 

「クソ……え……?」

 

「あーもう、思い出しただけでも腹立ってきた──つーか、マジでこんな時間帯にやってくんなよ! 俺のこと嫌いなのか!? 嫌いだよな! そりゃそうだ、だって魔物だもん!」

 

 豹変。

 一毫前まで紳士的だった態度は鳴りを顰め、青筋を立ててモンスターへの不満を喚き散らし始めた。

 

「あの……?」

 

「ああもう! バカ! モンスターのバカ! 腹減ってんだよ! 腹減りすぎて一周回って腹減ってねえよ! マジで絶滅させてやろうか! クソが!」

 

「ひえっ」

 

 メラメラと熱量が明らかに増し始めたアクスの周囲。イスカはヤバい奴に話しかけてしまったことを理解した。

 

「じゃあな! 飯食うから!」

 

「あ、はい……って速っ!?」

 

 バビュンと街の方へ消えた男。

 呆気に取られているイスカの目を覚まさせるように肩を叩いたのは、先ほど防壁内で粗相を見られた中年兵士だった。

 

「夕飯前に出動をお願いしちまったからな、そりゃあキレるわ」

 

「はへえ」

 

「でも良い奴だろ?」

 

「良い……奴……?」

 

 先ほどの言動を思い出す。

 

『絶滅させてやろうか!』

 

『クソが!』

 

『クソモンスターどもが!』

 

「まあ待て。確かに言葉遣いは荒いが、俺たちへの文句ひとつ言わずにやる事だけやってくれるんだ。それが良い奴じゃなくてなんだ?」

 

「ああ…………そうですね」

 

 言われてみればそうだった。

 

「さて、俺たちは後始末をしますかね」

 

「後始末?」

 

 連れて行かれたのは、先ほどまで戦場と化していた平原──ではなく、防壁のすぐそば。

 見上げると、モンスター達の攻撃で荒らされた箇所が多く存在した。

 

「これを放っておくと崩れて大変なことになるからな」

 

「……全部見るんですか?」

 

 夕方、すでに日はほぼ沈んでいる状況。

 これから先は闇の中。

 そんな時間に防壁の外部を虱潰しに調べるとなると、どれだけ体力を使うか。

 

「いつもよりは全然楽だぞ、アクスが来てくれたからな」

 

「…………」

 

「なあに、俺らがやるのは破損箇所の報告だ。それさえ済めばあとは魔法部隊の出番」

 

 土魔法だろうとイスカは当たりをつけた。

 実際その通りで、4時間かけて兵士たちが見つけた破損箇所を魔法部隊が修復させていく。終わる頃にはヘトヘトだったが、全員にホカホカのシチューが配られた。

 

「あーうんめえ〜……!」

 

「あったかい……」

 

「初日からこんなんで大変だっただろ、今日はもう帰りな」

 

「はい」

 

 寮に帰ってきたイスカは、風呂を終えると部屋着に着替えた。ベッドに腰掛けると、ふっと息が漏れる。

 

「緊張したあ……」

 

 兵士としての訓練を受け終えていきなりの派遣先がここ、アラベスクだった。知り合いも数人派遣されているけど、部隊が違うので初日は顔を合わせることができなかった。

 不安で胸がいっぱいで、どんなことを言われるのかと緊張してやまなかった内心とは裏腹に防壁の兵士達は意外と優しかった。

 新人が来たと喜んでくれたし、最初からモンスターとの戦闘をするということは避けられた。彼がいなかったら初日から戦っていたという寒々しい事実はあぅたものの、それも仮定の話でしかない。

 

「それにしても……」

 

 寝転がり、窓から見える月を見上げるとあの光景を思い出した。

 

「凄かったなあ……!」

 

 

 ──────

 

 

「さっけさっけさっけさっけさけっさけ〜」

 

 思いっきり戦ったあとは、思いっきり食べる。

 それが俺のポリシー。

 ただでさえ腹が減ってたところにあんな大群と戦わされたから、すきっ腹もいいところだ。最後に話しかけてきたやつは新人とか言ってたし、先月死んだ奴らの補充って感じだろう。

 

「やってらんねえよ」

 

 防壁の兵士は損耗が激しい。かかあ達がそうだったように、一般兵士はポンポンと死ぬし、ちょっと出来るやつもちょっと出来るモンスターにやられて死ぬ。

 どれだけ謙虚に、クールに、周りを見ているかが生死の境を分けてやがる。

 俺だって首筋を噛みつかれりゃあそれでお陀仏だからな、他人事じゃない。

 目の前で死なれたことだってある。

 

「あー……はぁ、勇者様がさっさと世界を救ってくんねえかなあ」

 

「なーにしょぼくれてんだよ!」

 

「ああ? ……ミーニャか」

 

 烈風の斧槍使い、ミーニャが隣に座っていた。

 一応知り合いだ。

 

「ああ? じゃねえよ、私たちがいるの全然気付いてねえじゃん」

 

「お前らのことなんか知るか」

 

「うわっ! お高く止まってるよ!」

 

「男の子はナイーブなんだよ、放っといてくれ」

 

 おセンチな気分の時に相手するにはミーニャは明る過ぎる。もう少し落ち着いた相手がいい。

 

「なんかあったのか?」

 

「あん? いいからどっか行けよ」

 

「……なんだよ」

 

 しょぼくれやがって、めんどくせえな。

 

「勇者が早く腹上死しねえかなって思ってるだけだよ」

 

「はあ?」

 

「人様が必死に戦ってる最中も各地で宴に招かれてウハウハだろうよお……はあーあ、羨ましいぜ」

 

「…………」

 

「んだよ」

 

「お前本当バカだな」

 

「バカでもなんでもかまいませーん」

 

「勇者様をそこまでコケにするのは、世界中探しても魔王とお前くらいなもんだろうな」

 

「彼女欲しい……」

 

「気持ち悪っ、なんだこいつ」

 

「いいなあ勇者……俺も彼女欲しいよお……」

 

「…………作ればいいじゃん」

 

「どうやって?」

 

「それは……ほら、近くにいるやつとか」

 

「いねーよ! 誰も!」

 

 なんだよ近くにいるやつって。

 ……幼馴染? とっくにこの街から出て南の方に移住したわ! なんだアイツ! 

 

「だ、誰もって……いるだろうが!」

 

「なにキレてんだよ……俺だよキレたいのは……」

 

 キレるどころか泣きそう。

 なんで俺はこんな歳になるまで童貞を守らなきゃいけないのん? 本当は12、3くらいで捨てたかったのに、結局寄り付く女なんていなかった。

 あかん、酒が入ってるからか世界の全てが憎く思えてきた。

 

「はぁ〜ん! 世界が俺のことをバカにするんだぁぁ!」

 

「……あ、アクス」

 

「んだよお! どっか行けよお!」

 

「わ……わ、わた──」

 

「もう帰ゆ!」

 

「あっ」

 

「これ代金!」

 

『あーい』

 

 マジで終わってるわこの世界。

 俺が童貞を卒業できないこの世界は終わるべき。

 終わってるのか終わるべきなのかハッキリさせろ! 

 

「あーあ、なんで女ってクソなんだろう……」

 

 帰り道、トボトボ一人で──一人で! 俺はなんと、お仕事を終えても一人で帰ってます! あんなに頑張ったのに! 街の女はだーれも見向きもしません! 通りがかった女全員にオシッコ引っ掛けてやろっかなあ! 

 

『──』

 

「あ?」

 

 遥か遠くから、何かを感じた。

 強大な力──おそらくは俺に匹敵するほどの何かが解き放たれている。

 酔いが覚めるほどに強力で、咄嗟に身構えるほどに空恐ろしい。

 

「こいつは……勇者なのか?」

 

 わからない。

 何が起きているのか分からない。

 ただ、間違いなく何かが始まろうとしている予感はあった。

 

 

 ──────

 

 

「幹部が倒された、ねえ……」

 

 しばらく経って届いた報せは、魔王配下の一、幹部ネレイドクイーンが勇者によって討伐されたというものだった。

 シーランド王国の港町サーフラグーンからの海路を塞ぐ強力なモンスター。

 人類が物資輸送に船を使えなくなった理由の一つだ。

 もちろんそれだけが理由じゃないけど、主要な原因が死んだってのはでけえ。

 

「凄いですね!」

 

「うん……凄いわ」

 

「あれ、なんかあんまり嬉しくなさそう──あ! もしかしてまだあのチヤホヤされてるとかそういうの考えてるんですか!?」

 

「別に」

 

「ノリ悪ーい! 他のみんなはすっごく喜んでたのに!」

 

 あの夜、確かに俺は感じた。

 冷えた夜の空気よりもよっぽど背筋を凍らせるチカラ。

 どうしようもなく覚えがあって、無視することのできない圧力の迸りを。

 それがコレなのか。

 

「ちょ、ちょっと? 新聞に皺できちゃうんですけど……みんながまだ見るんですけど…………どんだけ嫌ってるの……?」

 

「コイツ、今はどこにいるんだ」

 

「え? …………この新聞が大体2ヶ月遅れだから、全然わかんないです。今も各地周ってるんじゃないですか?」

 

 2ヶ月。

 サーフラグーンからここに来るまでは最速の通信用馬車を使って休みなしでちょうどそれぐらいかかるだろう。この勇者とやらは村々を救い、そこで歓待を受けてから移動をするはずだ。そうなると当然、2ヶ月よりも遥かに時間がかかる。

 あの力の正体を確かめる──勇者に直接問い詰める機会はまだ先になるだろう。ついでにぶん殴ってやりたいので、それまでに拳を良く研いでおかないとな。

 

「依頼がありまーす」

 

「…………」

 

 ネレイドクイーンは、体長が人間の10倍ほどもある巨大な海の女王だ。悪霊ネレイドを大量に従えて深海に住まう、海の覇者。

 それを倒すということは、やつを有利な場所で戦わせないための策が必要になる。俺のチカラでも大量の水を蒸発させ続けることは一時的にしかできない。しかも体力を使うので、現実的とは言えない。

 おそらく地上に引き摺り出して戦ったのだろう。

 

「あのー、依頼でーす」

 

 勇者がネレイドクイーンを討伐したというのが本当なら、凄まじい実力者だ。だが、どうにも違和感が残る。

 なぜかは分からない。

 何百年も倒されなかった幹部のうちの一体が今になって倒されたからだろうか。

 

「聞いてる? 聞いてますよね? グランドタートルの討伐ですよー。近くの凍結湖を破って表れたらしいんで、村からの救援要請ですー…………聞いてんのか! このバカ! 朴念仁!」

 

「聞こえてるよ」

 

「あっ……い、依頼でーす……」

 

「だから聞こえてたって。考えごとくらいゆっくりさせてくれよ」

 

「じゃあ最初に話しかけた時にそう言ってください」

 

 エレナから羊皮紙を受け取ると、そこには先ほど聞き流していた依頼内容が記載されていた。

 グランドタートル。

 家ほどもある身体を持ち、土を操るドラゴンだ。

 過去に一度だけ見かけたことがある。その時は別の冒険者達が喰われているところだった。

 嫌になっちゃうね本当に。

 

 大食漢で、村に現れたら人から家畜から何から何まで食い尽くされるだろう。そうなる前に倒さないと、また一つ地図から村が消えることになる。

 記載内容によると、既に現れてから1ヶ月は経っているらしい。金をまとめるのに時間がかかったのだろう。

 

「いくか」

 

「お願いします」

 

「…………馬車、空いてたっけ」

 

「えーと、今日はもう……」

 

 仕方ない。

 何せ昼過ぎだ。

 依頼が来るまでこうしてグダっているのが俺のルーティーンなので、馬車はあったらラッキーぐらいの気持ちでいた方いい。

 

「レアル村ね」

 

「はい! 西へ3日ですね」

 

「ふぅ……よしっ」

 

 アラベスクを出て西へ。

 頂点に近い位置にある日が傾いていくのを背負いながらの出発だった。

 

 

 ──────

 

 

「おお! 依頼を受けてきてくれたのか!」

 

「どーも」

 

 レアル村へは一本の道で繋がっていた。

 道中に出た盗賊は存在を一片たりともこの世のに残さないように燃やし尽くしてきたので、帰りはもう少し気分穏やかに行くことができるはずだ。

 アジトに囚われていた少女達はほぼ全員アラベスクに帰らせた。置いてあった肉を燻製にしてから持たせたので、この時期ならば歩いても問題なく帰れるはずだ。憎い盗賊の服を纏っていくなんて嫌だろうが、裸よかなんぼほどマシだ。

 

 散々っぱら使われてたけど、妊娠はしてなかった。最後の一人に聞いてみたら、元神官が一人いてソイツに浄化させてたそうだ。

 

「え…………シ、シィラ?」

 

 出迎えてくれた青年は、俺の後ろにいた少女を見て驚いていた。ここが故郷って言ってたから、妥当な反応か。

 

「盗賊のアジトに捕まってた」

 

「な、なぜここに……?」

 

「全員殺したから」

 

「はぁっ!? い、いや、それは……盗賊の頭目は強力なスキルを持ってるはずです!」

 

「強力な……なんかあったっけ」

 

「身体強化のスキルです!」

 

「わかんねえ、全員同じだった気がする」

 

 正直どれがボスだったかも覚えてない。まとめて燃やし殺したからかな。

 最初に奇襲をかけてきた奴らも、生き残らせてアジトまで連れてかせた奴も、アジトから出てきた奴らも、中に残ってて人質を取ろうとした奴も、全員真っ黒になった。

 

「…………ありがとう、ございます! 本当に、本当に……!」

 

 手を握られた。

 男に握られてもなんも嬉しくないけど、二人が感動の再会をしようとしている時に水を差す気もない。

 おずおずと抱きしめ合う二人を放って村長のところへ行った。

 昼間から煙を炊いているのは、モンスター除けのお香と炊事の両方だろう。

 集会所の入り口幕をくぐると、老人が椅子に腰掛けていた。

 

「まさか、盗賊を懲らしめてくれるとは……感謝しても仕切れ──」

 

「グランドタートルは?」

 

「……南にあるカイナ山の麓じゃよ」

 

「凍結湖っつってたな、何か他に気をつけることは?」

 

 凍結湖は、基本的にモンスターが要因で凍っていることがほとんどだ。グランドタートルはそういった魔法は操らないので、モンスターが他にいる可能性を考慮しないといけなかった。

 

「わからぬ。あの山は頂上から凍える風が吹いているからその影響かと……じゃが、少しだけでもゆっくりしていかれては? 少女達を救ってくださったのに、礼も何もできずなど……」

 

「煙を炊いてる割には吊るしてある食材が少ねえな。それで俺をもてなすって、何するんだ?」

 

「…………グランドタートルは、近くの森を食い尽くさん勢いじゃ。狩人によれば、獲物が全くいなくなってしまったとか」

 

「そうか、じゃあいくわ」

 

 もう用はなかった。

 受注して、話を聞いて、倒す。

 それが最も大事なスタイルだ。

 クソかっこいいわマジで。

 俺が女なら惚れちゃう。なんで俺のことを好きって女が現れないのか本当に理解できない。

 考えてると鬱になるから早くぶっ殺そう……

 

『──グルオアアアアア!』

 

 頑張って探さずとも見つかった。

 村長の言った通り、噴煙を上げてるカイナ山に向かってしばらく進んでいたら木の倒れる音が微かに聞こえた。音に導かれてまた少し、グランドタートルを見つけることができた。

 行く道を通りやすいように土魔法で成形しながら進むので、通った後には巨大な足跡と長めの尻尾を引きずった跡のみが残る。

 移動速度も、見た目によらず結構早い。大きさ故の一歩のストロークの長さが関係しているな。

 

「恨みはねえんだけどさ、お前がいると困る人がたくさんいるんだ」

 

『!』

 

「何人分の食料になるかな?」

 

 地響き。

 脅威を感じ取ったグランドタートルの周囲に岩塊がいくつも浮かび、回転しながら飛んできた。

 

「よっ、ほっ……おっ?」

 

 それを切り崩したら次は地震だ。

 やっぱり並のモンスターじゃない。これほどの規模の魔法を行使できるのは並々ならぬ魔力を持っているからだろう。

 そしてそれは、長年地中で蓄えた分と起きてから今までに食ってきた生き物達のマナで賄われている。

 

「まあ揺れてるだけじゃ…………おー……」

 

 土で分身を作り出した。その上、分身の色が茶色から黒に変わっていく。

 あれは物体変化に類する魔法だ、すごい。

 俺もやりたいけどあそこまで細かい魔力操作はできない。

 分身は勢いよく俺めがけて走り出した。

 

「──うおっと!」

 

 早い、重い、硬い。

 確かにこれは兵士とか弱小冒険者じゃ相手できないな。あの時はただの亀じゃんとか思ってごめん、お前はれっきとしたドラゴンだ。

 でも、地面を這うモンスターの括りで言えばもっと強いモンスターなんかたくさんいる。

 チャチャっと終わらせて、チャチャっと帰ろう。

 

 

 ──────

 

 

「は、早い……!」

 

「用事終わったんで、帰るわ」

 

 グランドタートルの死骸の場所は教えた。モンスター除けのお香を炊いといたから獣も寄ってこないし、早いうちにいけば食料が確保できるだろう。

 

「ま、待ちなされ!」

 

「え?」

 

「しょ、正直早すぎてまだ飲め込めてないが……その瞳は間違いなくグランドタートルのもの、倒したというのは信じよう」

 

 俺の頭くらいある瞳を討伐証明として切り出した。ゴミみたいな練度だけど、一応フリーズの魔法は使えるので凍らせて持ち帰ることに決めた。

 

「信じてくれるなら帰るわ」

 

 ここで、倒してねえだろ! とか因縁つけられたらぶちのめして無視だけど、普通に対応してくれるなら普通に帰る、それだけだ。

 

「せ、せめてもてなしをな?」

 

「俺はもてなしが嫌いなんだ」

 

「えっ、い、いや、しかし冒険者は普通もてなしを求めて……」

 

「他の冒険者はそうだろうけど俺は嫌い」

 

 そもそも、このタイミングでもてなし受けてたら勇者をぶん殴る口実が消えちゃうだろ。大したもてなしもできないくせに見栄だけ張るの本当やめてほしいわ。

 しかも仮にもてなし受けたら受けたで、俺が帰った後に『村の貴重な食料が……』とか言うんだろ。

 

「じゃあ、サヨナラ」

 

「あ…………」

 

 考えただけでムカちいてきた。

 早く帰ろう。

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