Q.女の子とイチャイチャする方法   作:goldMg

6 / 8
Q.勇者は世界を変えるのか?

 

「変わってないなあ」

 

 変わらない、何も変わってない。

 雲に覆われただけで、俺自身の生活は大して変わってない。

 あの時は偉そうなオッサンが馬車から降りてきてびっくりしたけど、中身はアークデーモンみたいだった。なんだよ、俺の力で女をくれてやるぞ! って、バカじゃねえの? しかも思い返したらライオニス侯爵ぁっあ。

 俺は彼女が欲しいっつってんのに……金持ちって彼女と娼婦の違いもわかんねえんだな。最初からなんでも持ってるからそういう苦労したことないんだろうな、普通に敵だわ。

 

「でも…………最上の女かあ〜」

 

 興味はあった。

 一晩のラブロマンスでめっちゃ可愛い子を、みたいなのは確かに夢があるけど……それなら彼女にしたいよね。でもそんな女の子はどうせ王子様とか勇者の元に集められて食い散らかされてる。

 俺、童貞は処女で捨てるって決めてるんだ! 

 

「はあーあ」

 

 後ろに腕を回してのんびり歩いているここは王都へ向かう道。歩いて1ヶ月くらいかかるらしい。

 らしい、というのも人に聞いたからだ。

 

「お、おい、そんな堂々と歩いてたらモンスターとか盗賊に見つかって……」

 

「じゃあ1人で行けばいいじゃん」

 

「む、無理に決まってんだろ! 大体お前だって仲間とかいるんだろ!」

 

「俺は1人だし、1人で戦えるからな」

 

 こいつはジェフ。

 王都で商店を開くことを目指しているらしい。

 道中、襲われて破壊された馬車を見つけたらこいつだけ取り残されてた。他には女の子とかがいたらしいけど盗賊に連れて行かれたんだってさ。

 1人だけ隠れてたらしい。

 

「…………なあ、お前その剣……」

 

「あ?」

 

「冒険者なんだろ? やっぱり、アイツらを助けてやってくんねえか」

 

「え? 依頼?」

 

「は? いや、依頼とかじゃなくて、その、助けてあげてほしいだけで……仲間とかいるんだろ?」

 

「じゃあ善意の協力者を見つけろよ。冒険者にタダで集ろうとすんな、殺すぞ」

 

 本当に、あんまり舐めてると置いてくぞ。

 もう王都の方向わかったからお前要らないしな。

 女の子を助けようとする俺カッケー! してろ。

 

「…………わ、わかったよ! 金払うよ!」

 

「あ、そう」

 

「これが前金! 後は……荷台にあったけど盗賊が持ってった」

 

「じゃあダメじゃん」

 

「と、盗賊から取り戻したら払えるから!」

 

「何言ってんだお前、盗賊から取り返したらそもそも全部俺のものに決まってんだろ」

 

 俺が戦わなきゃ取り返せないくせに、なに図々しいこと言ってんだコイツ。

 

「勘違いすんなよ、お前はいま手持ちの金で払わなきゃいけねえんだよ。そこらへんに落ちてたとかならともかく、盗賊のアジトにあるのはお前の持ち物じゃない、盗賊のものだ。盗賊が自分で手に入れたモノだ。お前、自分で取り返せもしねえくせに一丁前にカッコつけてんじゃねえよ」

 

「…………で、でも…………でも……! そうだけどアイツらを助けてやってくれよおおおお!」

 

「うわっ」

 

 涙そうそうでしがみついてきた。

 

「お、俺は王都で絶対商人になって、めっちゃ金稼いで、そしたら絶対に払う! だから、だからあの子達を…………アイツを! 助けてやってくれ! お願いだ! お願いします! お願いします! 命に代えても、絶対に払います! だから──」

 

「──ああ、じゃあいいよ」

 

「あえ」

 

「覚悟してんなら別にいい」

 

 ちゃんと自分で支払う覚悟を持ってるってんなら言う事はない。盗賊の討伐額なんて大した事ないし、ギルドの報酬と適当に照らし合わせて必要分もらえるならなんでもいいや。無理なら2度と商売ができないように荒らしまくる。

 

「──な、なんだこれ!?」

 

「光の翼」

 

「……お前……何者だ!?」

 

 足跡とか痕跡とか追うの面倒くさいし時間がかかるから、ジェフを抱えて光の翼で上から見下ろした。

 そしたら砦を作っていたらしくて、ちょうど木製の扉が閉じられていく。女が3人、肩に担がれていた。

 

「あ、あれだ!」

 

「ふーん」

 

 とりあえず邪魔なので近くにおろして突っ込んだ。

 

『なんだてめ──』

 

『て、てきしゅ──』

 

『う、うわあ──』

 

 10人ぐらい斬り殺してからもう一度空中に飛び出ると、大将らしき奴が偉そうに出てきた。女を引きずっている。

 

「おう! この女達助けにきたんだろ!」

 

「うあ……た、たすけ……」

 

「だあってろ!」

 

 なんか、3人ともこれから犯しますって感じに服破かれてるし殴られてるんだけど……すげえ絶妙なタイミングすぎて気まずい。もう少し早くても良かったかもしれん、アイツが渋るのが全部悪い。

 

「交換条件といこうじゃねえか! おま──」

 

 なんか勘違いしてるようだったから頭を消し飛ばした。交換とかそういうのはやらないんで。

 

「えーっと! これからお前らをぶっ殺しまーす!」

 

 声が届くように一生懸命大声出した、褒めろ。

 

『ちょ、ちょっと待てよ! お前誰だよ!』

 

「燃え尽きろ」

 

 

 ──────

 

 

『…………あ、ああ……なんだよ、あれ……』

 

 空中にゆらゆらと浮かんだ炎。その文字だけを読むとかわいらしい鬼火が浮かんでいるのではと感じ取れるが、実際のところはそんな生やさしいものではなかった。

 

『逃げろ! 逃げるぞ!』

 

 盗賊のアジト、その上空に浮かんでいるのは人間の数倍の大きさを持つ巨大な火球──まるで太陽が突然に現れたようだった。それが今から自分達に向けて放たれると知った盗賊達は阿鼻叫喚でアジトから飛び出した。

 

『ふざけんな! 誰だよあの女達に手出したの!』

 

「ライトニング」

 

『あがっ……!』

 

 男の左手から弾ける雷は、逃げる速度など誤差だと言わんばかりに盗賊の心臓を貫いていく。喰らったらその場に倒れ伏し、背中から前まで黒い焦げ穴が貫通しているのが見て取れた。

 

「プロミネンスは要らなかったか……」

 

 煌々とあたりに光を放っていたそれが、まるで霞のように消え去る。

 振り向いて安心した盗賊達を今度は腹側から背中に向けて雷が貫いた。

 そしてアクスは、眼下で行われていることに目を向けた。

 

 

 ──────

 

 

「──ニア! 大丈夫か!」

 

「…………」

 

 ジェフは、服を剥がれていた少女に駆け寄った。

 商売をしようと田舎から出てきて同じ店で最後の商品を買おうとしただけの縁だったが、そこからなんだかんだで縁が切れずに喧嘩続き。始まりは異変が起こる前だったが、異変が起こった後はせっかくなら王都で商売の競争をして雌雄を決そうということになった。

 2人で貯めた金から出し合って、乗り合い馬車で向かっている最中に──というわけだ。

 

「……悪かった、隠れたりして」

 

「別に……期待してなかったし」

 

「それでも、ごめん。本当に……怖い思いさせてごめんな」

 

「っ…………なら、最初っから隠れてんじゃねえよ……」

 

「本当にすまなかった……俺にできることなら、なんでもする」

 

「…………」

 

「っ!」

 

 ジェフは今更に、目の前の少女が裸であることを思い出した。顔を殴られた痛々しい傷もある──必死の抵抗の跡か。

 

「ごめんな」

 

 自分の服を脱いで、そっと彼女の肩から掛けた。

 

「……温かい」

 

「…………」

 

「あ──」

 

 それだけでは気持ちが足らず、静かに抱きしめる。女の温もりがとか柔らかいとかそういうのじゃなくて、ただ、心配で心配で仕方がなかった。

 

「…………うくっ……ひぐっ」

 

 いつのまにか彼女の顔は濡れ、抱きしめてくる男の背中に腕を返していた。

 

 

 ──────

 

 

「……あの人は?」

 

 少女は抱きしめられたまま、宙に浮かぶ男を指差した。

 幾重にも枝分かれを繰り返す、刺々しい雷の両翼。わずかに全身が青く光っているのは漏れ出た静電気の影響か。

 すでに盗賊は全滅し、今はなぜ浮いているのかが分からない。

 

「わかんねえけど、たまたま通りがかったんだよ」

 

「…………勇者様?」

 

 絶対的な存在感を見て、そう感じるのも無理はなかった

 しかしジェフは首を傾げる。

 

「勇者様…………いや、絶対違うだろ」

 

 確かに強いが、強いだけだ。

 新聞で書かれているような、清廉潔白で誰に対しても優しく、全ての人々に幸あれと願うような聖人とは程遠かった。

 金を払うという約束をしなければ、絶対に助けてくれなかっただろう。

 

「なにしてるんだアレ」

 

「……あっ」

 

 男は下に突っ込んだ。

 まるで狩りをする時の鷹のような俊敏さ。

 何をしているかといえば残されていたアジトの建物を次々と解体していく。中に隠れていた盗賊も1人残らず見つけ出して都度都度潰す、さながら害虫駆除だ。

 そのまま中に囚われていた人を解放していき、最終的に囚われている人間がいないことを念入りに確認した後に降り立った。

 

「…………」

 

 虚な瞳をしたままのものも多いが、突然解放されたことへの驚きを見せるものもいた。とはいえアジトは好き勝手している奴らの集まりだ。そこまで多くの人間を置いておけるわけじゃないので7名しか見つからなかったが。これが奴隷商人と通じていたりすると大量に抱えていることもある。

 

「さて、俺はお前達を解放したわけだが……しっかりと払うものは払ってもらうぞ」

 

「も、もちろんだ」

 

「とりあえず個人のものは回収しろ」

 

「……俺のも?」

 

 先ほどとは話が違うような。

 

「俺は商売のことは知らねえけど、一文無しで王都で商人できんのか?」

 

 ブンブンと首を横に振って否定する。

 

「じゃあ、稼いで俺に返すのが筋ってもんだろ」

 

「…………」

 

「早くしろ」

 

 

 ──────

 

 

 この世はクソだ。

 どれくらいクソかといえば……盗賊のアジトからヒロイックに助けた女に既に男がいるぐらいクソだ。こいつら全員助けた見返りとしてジェフからは搾り取ろう。

 どうせ王都に留まるのだ。

 その間にコイツが逃げないか見張りつつ、金を定期的に受け取れば良い。

 ──人助けじゃないかって? 

 俺がその調子でやってたら、永遠に人助けする羽目になっちまうよ。アラベスクで活動してた時だって、積極的に慈善事業なんてしたことない。

 襲ってきた盗賊は身の程を知らずをわからせるために滅ぼしてきたぐらいなものか。

 

 それにしても──

 

「……ひでえな」

 

 盗賊のところから助け出した女達は酷い目にあっていたのがありありとわかる見た目で、誰もが暗い顔、辛い顔をしてばっかり。そういうのを見過ごせないのがジェフという男のようだった。

 盗賊から接収した2台の馬車。俺は白馬を一頭回収して使ってるけど、他の奴らはその2台にまとまっていた。ジェフは彼女たちを介抱していた。盗賊達と同じ男だから恐怖の目で見られて拒絶されてたけど、それでも構わずに飯を届け、時には声をかけて励ましていた。

 

「絶対に良くなる、だから諦めるな!」

 

 前向きなやつだ。

 そうでなくちゃ商人なんて務まらないのかもしれねえがな。

 一方の俺はといえば──

 

『グルルル……』

 

「う、うわあああああ! ヘクター!」

 

「えー、これで貸し3つ目です」

 

 鈍臭どもが死なないように護衛として働いています。

 当然、ジェフには金がないからツケで。

 

『グギャルアアアアアアア!』

 

 ハウリングウルフ。

 音を攻撃に使うという珍しいモンスターだ。俺は衝撃波ならともかく音で攻撃はできないので羨ましい。

 木を薙ぎ倒しながら現れたせいでジェフがクソビビってたけど、それ以上に女達は怯えていて声すら出せないくらいだ。

 

「ぬぅん!」

 

 一太刀にて候。

 王都に近づくにつれてモンスターが弱くなっている気がするんだが、もしかして気のせいじゃない? 

 

「そりゃあ、中央なんだから冒険者だって多いし……でも別に弱くは……」

 

 こんな雑魚モンスターばっか倒したところで何が楽しいねん。もっとかっこよくて強くて死にそうになるようなモンスターを頼む。

 幹部を名乗るならアークデーモンはもう少し頑張って欲しかったけど……偽物だったんだからしゃあねえか。

 

「ヘクター、聞きたい事がある」

 

「馴れ馴れしくすんな」

 

 俺はコイツの友達でもなんでもない。なんなら、女どもとイチャついてる姿を見てからは敵だと思ってる。

 王都では金を受け取る以外で関わる気はない。

 例え商売繁盛してもな。

 

「真面目な話なんだ」

 

 なんで俺がコイツと真面目な話をしなきゃならないんだ。真面目にこっちは彼女が欲しいのに、なんで男の話を聞いてやらなきゃならないんだ。

 

「勇者は……いずれ魔王と戦うのか?」

 

「はあ? 意味わかんねえ、何言ってんだお前」

 

 知るかよ勇者が何するかなんて。

 

「なんか知ってそうだなって」

 

「知らねえよ」

 

「じゃあ、なんでそんなに嫌いなんだ?」

 

「はあ? なんの話してんの? バカか?」

 

「知りもしないやつのことを嫌いになんてならないだろ、普通」

 

 知りもしない奴のことを嫌いにならないってなんだよ、いきなりなんの話し出したんだコイツは本当に。

 俺は王都に早く着きたくてウズウズしてるってのに、勇者なんぞの話をしやがって。

 

「あのなあ、どうでも良い話すんなら黙ってろ。あっちの女どものところでイチャイチャしてろよ」

 

「なあ……お前は、なんで王都に行くんだ?」

 

 

 ──────

 

 

 無名の英雄。

 まさにそうとしか言いようのない存在だった。

 冒険者として活躍してる話なんて聞いたこと、いちどもない。これだけ強いのにも関わらずだ。

 道中、ヘクターが苦戦したことは一度たりともなかった。

 赤雲の中から現れた、不吉な声を鳴らす巨大な怪鳥ですら……

 

『キィィィィィィィイイイイ!』

 

『少しは骨があるか!』

 

 光の翼を纏って同じフィールド──空中に飛び立ち、怪鳥の爪から放たれる飛ぶ斬撃と巨大な炎剣で何度か切り結んだ。

 

『────!』

 

 嘴を大きく開けた怪鳥は、黒くて赤い壊滅的な光を収束させていく。

 正直、死んだと思った。離れた空で戦っているのに、あの光が放たれたら俺たちはまとめて塵になると理解できてしまった。

 

『あいつらがいるせいで全力出せねえしなあ……まあ、たまにはこっちで良いか』

 

 空に剣を掲げた次の瞬間、黒い空間を貫くようにして青白い稲妻がヘクターに集まっていった。

 

『!』

 

「っはあああ!」

 

 怪鳥が空間を歪ませるような黒光を解放し、それとほぼ同時にヘクターが振り抜いた剣の軌跡に沿うように雷光が迸った。

 

『!!!』

 

「おらああああ!」

 

 正面から衝突した絶技。

 しかし拮抗したのは束の間。ヘクターが雄叫びを上げると輝きが極大に達し、黒光を切り裂いて進んだ雷光は怪鳥を貫いて遥か彼方へ消えた。

 

「はい一丁!」

 

 あまりにも美しい光景で……あいつが勇者じゃないだなんて確信を持って言う事ができなくなってしまった。

 ミシェル達が祈りを捧げてしまうほどに、あいつは救いを背負っていた。

 振り返った時のヘクターの神々しさときたら……

 

「ふっ……」

 

 こうして思い返すだけで笑ってしまうほどだった。

 

 それからもやってくるモンスターや魔族を残らず消し炭にして、残った部位も売れば高値がつくだろうに馬が可哀想だからと砕いて捨てる。あくまで自分が手に入れたものの処遇は自分が決めるというのがヘクターのスタンスだった。

 

「ヘクター、聞きたい事がある」

 

 俺は我慢できなかった。

 本当に勇者じゃないのかブラフをかけてみることにした。だけど、いつも通りのチンピラ口調しか返ってこなくて言葉の真偽を理解することは叶わなかった。

 一つだけわかったのは、ヘクターが王都に行くのを本当に楽しみにしているということだった。

 

 王都イシュリール。

 俺たちの目的地までの道程は最初こそ躓いたが、結果的には予想の何倍も安全に進む事ができた。モンスターの危険度や遭遇率なんかで言えば以前の比にならないくらいだっただろうに。

 

「王都だ! すげええええ!」

 

『──!』

 

『!』

 

『────!』

 

 近付いていくと、王都が熱気に包まれている事がわかった。ライオニス領や他の領でも城下町は活気に満ちていたが、ここは段違いだ。街からはみ出して屋台や幟が掲げられ、そこかしこで軽食や土産物、銀細工を売っている。

 

「うおおお……! これが王都イシュリール!」

 

「あ、ちょ、どこ行くんだよ」

 

「はあ? ここでおさらばに決まってんだろ! お前が逃げたらお前ら全員地の果てまで追いかけるけどな!」

 

 道中、圧倒的な力を見せつけてきた男の言う地の果てとは、本当に地の果てなのだろう。しかし、ヘクターは本当にさっさと解放されたかったようだった。

 一度も振り返ることなく人ごみに紛れ、どこかに行ってしまったのだから。

 

「……」

 

 名残惜しい気がした。

 話しかけると邪険にされるし助けた女にも全く関わろうとしないが、それでも彼がいたからこそ王都に辿り着けたのには間違いなかったのだから。

 

「寂しいのか?」

 

「……そうかもな」

 

 なんだかんだで1ヶ月も一緒にいたのだから、あの気質にも慣れようものだった。少女ニアだって、彼がいる事で安心していたどころか油断していたぐらいには強すぎた。

 それだけ圧倒的だったのだ。

 だが、いつまでも彼のことを惜しんでいるわけにもいかない。繋いでいた手を一旦解いて、2人の少年少女は向かい合った。

 

「…………ジェフ」

 

「ん」

 

「王都に来たぞ、私たち」

 

「ああ」

 

「ちょっとトラブルはあったけど……来れたんだ!」

 

「そうだな……そうしたらやることは一つだな?」

 

「「──競争だ!!」」

 

 

 ──────

 

 

「──あの人が、来た」

 

 絢爛な一室に用意された調度品の数々。

 もてなすにしても華美が過ぎるほどのそれらの中で、ソファーにちょこんと座った人物が呟いた言葉に周囲の人物は反応した。

 

「やっと? ……って、まだ治ってないんだから起きちゃダメだよ」

 

「……長かったなあ」

 

「いや、本当に長いね? まさかこんなところにまで来なきゃ会えないなんて……旅を始めたときは国を越えるなんて思ってなかったもん」

 

「ごめんね、みんな」

 

 3人ともが、ユウリの謝罪を聞いて呆れたような顔を浮かべた。

 その中で、騎士鎧を装着したライザが反論を唱える。

 

「謝ることなんてないだろう。私たちが頑張れたのはお前がいたからなのだし……それとも、私たちのことは信じられないというのか?」

 

「ううんライザ。今はみんなのこと、ちゃんと信じてる」

 

「分かってる──はあ……本当、良い子すぎて放っておけないんだよお前はむぎゅっ」

 

 騎士を押し除けたのは、回復士として最早絶大な知名度を誇るセナ。シーフという役割である事は半ば忘れ去られていた。

 

「それよりも! いっつもあの人あの人で、肝心の特徴は全然教えてくれないけど、今度こそ教えてもらうよ? どんな人なの? 男? 女? 男だったらめっちゃイケメン?」

 

「男の人」

 

「本当に!? 顔は!?」

 

「かっこいいよ」

 

「…………ほえー……」

 

 そこで、窓際で本を読んでいた修道女が顔を上げた。

 

「顔などどうでも良いですが……人格が気になります。果たしてその方は、我らが旅路にふさわしい人物なのかどうか」

 

「…………」

 

「ユウリ様?」

 

「あんまり、そういう枠で捉えない方がいいかも」

 

「人格はあまりということですか」

 

「そうじゃなくて……うーん……」

 

 しかし、そこでセナが肩を叩いた。

 

「まあさ! やっと空いたかった人に会えるんだから、喜べばいいんだよ! ライザもトリスも、変に難しく考え過ぎ! ねっ、ユウリ!」

 

「……ありがとうセナ」

 

「いーのいーの! 私も前から会ってみたかったしね! その人に!」

 

「うん」

 

「ところで、その人はどこにいるの?」

 

「…………さあ」

 

「え?」

 

「王都に来たんだろうなってのはわかるけど、実際どこにいるかは分からないよ」

 

「なんだそりゃ!」

 

「でも……大丈夫」

 

「なんで?」

 

「すぐ有名になるから」

 

「うわー! 信頼されてるー! 私たちへのよりも重いんじゃない!? これ!」

 

 その時、扉をノックする音が。

 

『勇者御一行様、謁見の間へ来るようにと陛下からのお達しです』

 

 

 ──────

 

 

「うっひょー! すっげー! ヒトヒトヒトじゃん!」

 

「あっはっは! お上りさんだな!」

 

 人と熱気に満ちた王都に感動していたら、知らんおっさんが話しかけてきた。こういうのってもしかしてテンプレなのか? ネカフでもこんなんあったよな。

 

 おっさん曰く、勇者が王都にやっとこさ到着したので活気が頂点に到達していたらしい。ふーん、どこで殴れるんです? 

 

「おっ? もしかして勇者に挑みたいのか?」

 

「挑むっつーか向こうが挑む側っつーか」

 

「…………はっはっは! そりゃあ豪気だな! 確かにそれぐらいじゃないとこんなところまで田舎から来れないのかね!」

 

「?」

 

 冗談だと思われてしまったっぽい。

 実際に戦える場所はあるのかどうか。

 

「ええ……無いだろそんなの。だって勇者様は王城でもてなされてるんだぜ?」

 

 なんだと……? 

 

「うおっ雷っ!? 場内は結界で守られてるはずなのに……お前なんか熱くないか!?」

 

 なんでこんなタイミングで王都に来てしまったんだ。胸糞悪い……勇者が王城で女を喰らい尽くしている最中だと? ふざけやがって! 俺だって女の子とイチャイチャしたいのに! 

 

「こりゃあなんか起こりそうだな、一旦家帰るか……おいお前、名前は?」

 

「ジャック」

 

「ジャック、俺は宿をやってる。ここで会ったのもなんかの縁だ、泊まっていかないか?」

 

 こんなお祭り騒ぎなのに泊まるための部屋が空いてる? 妙だな……もしかして曰く付きなんじゃないか? それかとんでもないボロ宿とか。

 正直なところ怪しさ満点だったけど、逆にワクワクしてきた。もしかしたら何も無いかもしれないし、やばかったら逃げれば良いんだ。

 

「ここが俺の宿『黄金の屋根』だ」

 

「普通……だ……」

 

「失礼だろオイ!」

 

「なんで部屋空いてんの?」

 

「最近は外にテントを張って格安で泊まるところを提供してるところが多くてよ、逆に宿が空いてるんだ」

 

「へー! おもしろー!」

 

「面白くねえけどな……まあ、泊まってくんだろ?」

 

 そんな圧をかけなくても泊まるに決まってるんだよなあ……こちとら長旅で野宿なんて当たり前すぎてわざわざ街でまでそんなことしたくないし、荷物を安心して置けないじゃん。

 

「どんくらい持ってきてんだ?」

 

「教えるわけねえだろ」

 

「それもそうか」

 

 教えはしないけど、多分一年くらい泊まれる。

 だけど持ってるのほとんど白金貨と金貨だけだから、どっかで両替しないとな……

 

「夜はどうするんだ?」

 

「王都にやってきてわざわざ宿で飯食うわけねえだろ!」

 

 宿が決まったら俺は自由だ。好き勝手歩き回らせてもらうぜ! まずは飯だ! モンスターの肉やモンスターの葉っぱ、野草ばっか食ってたから、人の作った美味い飯が食いてえ! 

 

「これうまっ…………これもうまっ!」

 

 まずは高そうな店。

 後になるとあの馬車のおっさんみたいなめんどいのが出てくる可能性もあるから、先に堪能しなきゃ! (使命感)

 最初は入店拒否みたいな顔してたけど、白金貨ありますよ……? ってやったらヘコヘコ、もといペコペコしながら案内してくれた。これもう金の犬だろ。

 

「如何でしょう、我が店の味は。王家にも卸している最高ランクのドラゴンミートの刺身です」

 

 なんかお店の偉そうな人が出てきた。

 可愛い女の子じゃないのがマイナスポイントだ。

 ちなみに刺身はソースが美味しいけど、グニグニしてて食べ辛いなって思いました。

 

「ははは、お上手ですね」

 

 なにが……? 

 

 よく分からないけど、満足したのか裏に引っ込んだ。飯だけ運んでもらっていいですか? 

 

 その後もグリフォンの羽の付け根にしか存在しない貴重な部位を丸ごと使ったミートパイとか、エメラルドスライムの核を削り出したふりかけを塗したサラダとか、よく分からないけどとにかく美味しい料理を食べた。

 そろそろ終わりかな……? ぐらいのタイミングで偉そうな人がまた話しかけてきた。

 

「ところで……本日はどちらからいらっしゃったのか伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「北から」

 

「北と言いますと…………ああいえ! 詮索する気など微塵もございません! ただ、ええ、くだらない事が気になる性分でして、何卒ご容赦いただきたく…………よろしく、お伝えください」

 

「ああ、はい」

 

 誰によろしく伝えるのかなんてわかりきっていた。まあ、あとでな。

 

「それでは、最後までごゆるりとお楽しみください」

 

 スロウリーな剣舞や、かわいい女の子にお酒を注いでもらってというなかなか楽しい時間を過ごしたけど、虚しくなって途中で帰ることにした。

 可愛い女の子にお酒を注いでもらうのは良かったんだけど、ふと『俺、こんなことしてもらってるけど彼女いないよな……彼女がいたら大好きな女の子からこれやってもらえるってことだよな……』って悲しくなっただけだ。

 死にたいですね、ええ。

 店主は大慌てで女の子たちに何か粗相があったかとか聞いてきたし、女の子たちもガチで怯えてる顔してた。単純に用事を思い出しちゃっただけだから、彼女たちは悪くないよって伝えておいた。

 流石にあれでクビになるの可哀想過ぎる。

 俺ぐらい可哀想。

 

「それにしても……やっぱ王都はすげえなあ!」

 

 どこまで行っても人の活気に溢れていて、違う通りに入ったら違う店が並んで違う趣を体験することができる。

 金持ち一家みたいなやつから、風呂敷背負ったお上りさんみたいなやつ、そして武器を佩いた冒険者まで様々な人間がいた。

 

「可愛い子めっちゃいる……すごい……」

 

 そうなのだ。

 すごいのだ。

 街行く女の子の顔がみな洗練されている気がする。

 受付嬢ぐらい可愛い。

 …………これが一般市民なら、ギルドの受付とかどうなっちまうんだ! 

 ということで急遽冒険者ギルドに向かうことになった。どこだ女あ! 顔のいい女あ! 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。