Q.女の子とイチャイチャする方法   作:goldMg

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Q.強者は恋愛をしてはいけないのか?

 

 そんなわけないよな。

 確かに俺は伝説の騎士様が魔法使いと恋仲にあったって言説について異を唱えたことはあるけど、別に恋愛アンチなわけではない。そもそも彼女欲しいし。

 だけど、人前で彼女欲しいって言ったからって笑われる筋合いはないはずだ。そもそもお前らから聞いてきたんだろ、なんのために来たのかって。

 

「ぶっははははは!」

 

「バカだ! ゼッテー馬鹿だ!」

 

「ひ、ひさしぶりにこういうやつ見た気がするわっはははは!」

 

 爆笑の渦、到来。まあ俺にとっては再来なんだけど……なんか一気に冷めたわ。

 もしかして人間ってどこでも大差ないのか? 

 王都にいる人間なら冒険者でもそれなりのモラルとか待ってるもんだと思ってた。

 

「そんなに俺の言ってることっておかしいか?」

 

「ああおかしいね! 何がおかしいって、わざわざ王都まで来たのにやることがそれだからだよ!」

 

「どゆこと?」

 

「お前、外歩いてきたんだろ?」

 

 当然過ぎる。

 わざわざこんなところで飛んで移動するわけないじゃん。目立ってしょうがないわ。

 

「つーことは、この馬鹿騒ぎも目にしてんだろ?」

 

「ああ」

 

「そしたら普通、一旦冒険者の方は休んでまずは祭りを楽しもうとかなるだろ!」

 

「あー……いや、それは楽しむけど彼女と一緒に楽しんだ方が良くない?」

 

 女の子は割と頷いてくれてるけど、お前らも笑ってたの忘れてねえからな。

 

「そんなこと気にしてる暇あったらさっさと作れよ、カ、ノ、ジョ! はははははは!」

 

「…………」

 

 今すぐ叩きのめしてやりたい衝動に駆られたのをなんとか抑えた。まずは登録だ登録、活動するにせよしないにせよ、登録しといて損はない。

 

「──」

 

 登録の手続き中、受付嬢の顔を見ていたけど普通だった。普通ってあれだぞ、普通にめちゃくちゃ可愛いって意味だぞ。

 王都は平均が高いんだな。

 もちろん平均が高いのはいいことだけど、もっと上を期待していた身としてはちょっとがっかりだった。

 

「人の顔見て溜め息つかないでもらっていいですか?」

 

 ネカフだと俺が彼女欲しいってことは冒険者以外にもすぐ伝わった。そのせいでやる気無くしたけど、王都はこれだけ多くの人間が集まってるから俺の話なんて広がりもしないだろう。

 それよりも、みんな夢中なのは勇者の話だ。

 待っている間も、やれ勇者は今どこにいるだの勇者の奇跡だの幹部を早く殺せだの好き勝手言っているのが耳に入った。

 

「──ふーん……なんかしょっぺえ依頼しかねえな」

 

 暇すぎて掲示板を見たら、イビルマンチュラやウェイストドラゴンなんてSランクモンスターの討伐依頼も確かにあったけど、それ以外は大抵がCかDだった。

 もしかして、また俺は下積みをやらなければならないのだろうか。

 ネカフで下積みは体験してるからはしょりてえ〜。

 

「オメエみたいなのにはこれなんかおすすめだぜ」

 

 チンピラが指し示したのは、ドブ救いの仕事。みな様が日々お出しになっていらっしゃる汚物が詰まらないようにするお仕事だ。

 俺はこういう仕事が大嫌いなんだ。縁の下の力持ちをやるのはもっと替えが効く人材にしてくれ。

 俺は目立ちたいの! 目立つけど王様とか貴族様みたいなのには目をつけられずに可愛い女の子にだけ見つけてもらいたいの! それで俺の強さじゃなくて内面を見て惚れてくれた女の子とイチャイチャしたい! 

 ……こんなささやかな願いぐらい叶えてくれよお! 

 

「ダメですよ? ちゃんとランク低いのからやらないと」

 

 王都はネカフやアラベスクにも増してガチガチなようで、Dランクの俺はDランクの依頼しか受けられないようになっていた。アクスかアーサーの名前を使って照会を出して貰えば、ちょっと時間はかかってもSランクから出来るんだろうけど面倒臭いからいいや。

 もうあの街二つのことは忘れよう……

 

「今日は依頼を受けますか?」

 

「いや、いい」

 

 気分じゃなかった。

 せっかくなので、街中を彷徨く。勇者の像なんぞあったら砕いてやろうかと思っていたのだが、どこを探してもそんな物なかった。

 無いなら無いで逆に気になってくるもので、そこら辺を歩いている14、5くらいのオスガキを捕まえて聞いてみた。身なりと顔が整ってるので頭も良さそうだという俺の勘が働いた。

 

「──勇者様の像? なにそれ」

 

「なにそれじゃなくて、なんで無いのか聞いてるんだけど」

 

「聞いてるくせに何その態度……そもそも、なんで無いのとかって話の前に誰が作るの?」

 

「王様」

 

「え? なんでお……王様が勇者様の像を作るの?」

 

「だって勇者なんだろ? 像ぐらいあってもおかしくなくね?」

 

「何そのステレオタイプな脳みそ。キミお上りさん?」

 

「そうだが」

 

「ふーん?」

 

 ガキは、ジロジロと俺の格好を見て頷いた。改めて見て気付くこととかある? さっきまでも散々目の前にいたじゃん。

 …………ははーん、さてはコイツ賢いふりした馬鹿だな。

 

「キミ、冒険者だね?」

 

「おっ」

 

 剣を持ってないのによくわかったな。

 

「田舎から出てきて、冒険者として一山当ててやろうって魂胆でしょ。僕そういうの詳しいんだから」

 

「おー」

 

「ふふん」

 

 当たってはないけど、楽しそうなので適当に反応したら嬉しそうにドヤ顔をしている。ガキだけど顔は綺麗だから絵になるな。

 

「ってことは!」

 

「お?」

 

「イシュリールのこと、なーんにも知らないんだね!」

 

「知ってるよ、王都だろ。あと勇者様がきてるのも知ってる」

 

 にっくき勇者だ。

 武闘大会でもあったら顔面ボッコボコにしてやりたかつたんだけどな。

 

「浅い浅〜い」

 

 指を何度も振ると、ビシッとどこかを指さした。

 どこや。

 

「僕がこの街を案内してあげましょう!」

 

「おおー」

 

「いきましょっ!」

 

 普通に嬉しい。

 人の善意ってやつに久しぶりに触れた気がする。

 案内してくれるというのなら、案内していただきましょう! 

 

「ところで名前は?」

 

「ジャック」

 

「ジャックね! わた、ぼくは──シャル!」

 

「シャルか、よろしく」

 

「じゃあまずは、僕が行きつけの酒場に行こう!」

 

「おー!」

 

 楽しくなってきたな! 

 

 

 ──────

 

 

「こんにちはー!」

 

「おっ! シャル! きょ、う……も…………」

 

「?」

 

「…………シャ、シャルが知らんやつを連れてきたぞおおおおお!」

 

 あ、どうも知らんやつです。

 まあどう見ても地元民ではないからね。

 どうにもシャルは酒場のアイドル的存在だったようで、店主はシャルと話す時は嬉しそうにしていたけど俺のことを親の仇のように睨みつけていた。

 このオヤジの親が盗賊とか魔族じゃない限りは大丈夫のはず。一般人は基本的に切らないよ。

 

「てめえ、どこのもんだ? 見かけねえやつだな……」

 

「この人はジャックって言うんだよ!」

 

「そうなんだな──おいジャックとやら、シャルに手出したら許さねえからな……」

 

 オスガキ(自称)に手を出す……ちょっと理解できないけど、そういうのもあるのか? 

 王都は進んだ街ですね。

 

「この人はノーランド! このお店の店主だよ!」

 

「よろしくする気はねえぞ」

 

 挨拶の初っ端から飛ばしていくぅ! シャルに連れてこられた時点で敵として既に見做されているからここから何をしてもヘイトが溜まっていくとしか思えない! だけど俺は今、猛烈に感動しているのでそんなこと気にしませーん! 

 

「そうか! でもよろしく! 俺はジャック! シャルが一番いい酒場を案内してくれるっていうから着いてきたんだ!」

 

「…………シャル、そうなのか?」

 

「うん!」

 

「とりあえず、ノーランドさんのおすすめをくれ!」

 

 ギルドはどこも終わってる連中の集まりだってことが分かったけど、街にいる奴らはそうでもない。もしかしたら、ネカフも話してみれば意外と話せる奴が多かったのかもしれないな。今更だから気にしないけど、イシュリールではもうすこし積極的にいこう。

 ──ギルドとか関わるからダメなんじゃね!? ジェフとかいう女に優しい以外取り柄のないゴミも別に冒険者じゃなかったのにモテてたし! 天才だろこれ! そうしてみよう! 

 

「──うまい! もう一杯!」

 

「お、おまえ酒強いな……?」

 

 出会い頭に人を案内しようとかいう善性の塊みたいなガキが案内してくれただけあって酒が美味い。スイスイ進むね。シャルにも駄賃としてジュースを奢ってやった。

 

「さて、次へ行くか!」

 

「へ?」

 

「あるんだろ? 次がさ!」

 

「も、もうちょっとだけ待って?」

 

 まだコップのジュースが残っていた。

 チビチビ飲んでねえで一気にいけよ。ジュースなんてこれからいくらだって飲めんだから。

 

「しょうがないなあ…………んぐっ、んぐっ、んぐっ……ぶはぁ! ノーランドさん、ありがとう!」

 

「また来いよー」

 

「うん!」

 

 おれもくりゅっ! 

 

「お前は来んな」

 

 次に連れて行ってくれたのは壁外のわちゃわちゃと混雑した屋台群。

 

「あははっ! こんなに人が集まることは一年中でもほとんどないよ! 堪能してってよね!」

 

 お前が用意した屋台じゃないだろがいて。

 

「……うわあ……! こ、これとか虫? …………ひゃあああ〜」

 

 案内した割にはあまり見たことないのか、蠍の串焼きを指さしてキャッキャしていた。

 

「じい……お、おじいちゃんがいつもはダメって言うから……」

 

「買ってやるよ、食べてみたいんだろ?」

 

 サソリはしっかり焼くとパリパリした外とジューシーな中で二つの食感を楽しめる。味にクセがあるのは、慣れればそんなに気にならない。クセのある食材なんていくらでもあるからな。マジックルームを食べた時なんか、あらゆる食材にクセを感じるようになるし、これくらい誤差誤差。

 

「ひ、ひええ〜……食べるの?」

 

「あむっ」

 

「あわわわわわ、む、虫なんて食べたらお腹壊しちゃうんじゃ……」

 

「おっふぉ、中身が……」

 

 トローって垂れてきた。

 

「う、うええ」

 

「ふぅ……美味かった」

 

「…………」

 

「なんでもチャレンジだぜ」

 

「え、えーい! …………っ!」

 

「どうだ?」

 

「にゃ、にゃんかグニグニして……んんんんん!」

 

 ジタバタと足を動かしながらも噛み続け、飲み込んだ。

 

「あ、味は悪くないけれども変な感触がするじゃんかあ!」

 

「虫が嫌いだと思って食べるからそんなふうに思うんだろ? 肉だって、それと分かってなきゃグニグニするぞ」

 

「…………そ、それもそうだよね……んむぅぅううう!?」

 

 二口目を食べてもまた足踏みを繰り返す。リアクションが面白いのか、屋台の店主は笑っていた。

 

「あっはっは! もう一本やろうか?」

 

「い、いらない!」

 

 屋台は食べ物だけじゃない。騎士様のお面なんかを売っていたりする屋台もあった。

 

「見てくぅ?」

 

 おっちゃんが頑張って木彫りで作ったみたいでなかなか売れていない。でもクオリティはすごいぞ。いい感じにデフォルメされてて、人の顔なんだけど可愛らしさも内包してるというか……騎士様の顔なんて誰も見たことないから想像で作ったんだろうな。それでも騎士様とわかるのがすごい。値は張るけど、これ何かに使えるじゃん! 

 

「え、買うの?」

 

「ああ! 一つくれ!」

 

「ま、まいどあり!」

 

「俺は好きだけど、流石に高いんじゃねえかな」

 

「でも、これ捌かないと家に帰ってくるなって嫁が……」

 

「リア充かよ、じゃあな」

 

「ええ……」

 

 なんで惚気を聞かされなきゃいけねえんだよ。

 

「ジャック、リア充って何?」

 

「現実が充実してるやつのこと」

 

「…………現実じゃないのって何?」

 

「知らねえよ」

 

「ジャックは充実してないの? ……もしかして楽しくなかった?」

 

「……楽しいよ。でも充実ってのは、ただ楽しいかどうかじゃねえからな」

 

「じゃあどういうこと?」

 

「ここから先は大人になってから自分で学びな」

 

「教えてくれたっていいじゃん! ケチッ!」

 

 少し不貞腐れた様子ながら、最後に案内してくれたのは武器屋さん。なんか高そうな武器がたくさん売ってるけど、俺が使いたいと思うようなものはなかった。

 店主は目利きができるとかで俺の武器を見てくれた。

 

「初心者用の剣だなこりゃ。それに刃にも溢れがない。お前さん、まだこれで何かを切ったことがないんじゃろう」

 

「いやいや、結構俺もやるよ?」

 

「はっはっは、そんなにイキらなくてもいい。武器を見ればわかることじゃ……それに柄の革は擦り減ってるからな、ちゃんと練習してることはわかるぞ」

 

 俺ぐらいになると属性を纏わせることで武器の損耗無しで使えるから手入れ知らずなのさ! でも、柄の部分は自分で握ってた方が手の形に変わっていって使いやすいし…………いちいち説明するの面倒くさいからいいや! 

 

「やっぱり初心者なんじゃん! あはは、ばーか!」

 

「んだとコラァ!」

 

 

 ──────

 

 

 初日は適当に別れて、次の日以降は門のところで待ち合わせすることにした。

 

「おーい」

 

「!」

 

 ピョコピョコと近づいてくるガキを見かけたら、それがシャルだ。

 昨日と服装が違う。

 普通そんな毎日服変えられんやん……やっぱ金持ちだな。

 

「よう」

 

「よっ!」

 

 元気が有り余ってるのか、急げ急げと急かされた先は八百屋。新鮮な野菜が揃ってるのが自慢で、王家にも卸してるんだとよ。なんか行く店行く店それ行ってる気がするするんだけど、気のせい? 

 

「何買ってくんだいシャルちゃん」

 

「今日はトマト!」

 

「…………あんたは誰だい」

 

「コレはジャック!」

 

 コレ呼ばわり。

 親の顔が見てみたい。

 

「トマトなんて買って何するんだよ」

 

「美味しいよ!」

 

「会話しよっか」

 

「これ、一つあげる!」

 

「お、おう」

 

 トマトはなかなかジューシーでうまかった。北の方だとこんなトマトは無い。ヒンシュカイリョーとかいうので作り出したんだってさ。金かけてんな。

 

「あ、やばい! 隠れなきゃ!」

 

 何かと思えば、騎士様達が通り過ぎていった。

 

「ふぅ〜……あ、いや……」

 

「?」

 

「そ、そう! 知り合いがいるから、顔合わせるの気まずいんだよね!」

 

「あっそ」

 

「ふぅ……」

 

 街を取り囲む城壁よりも外はともかく、内部に関して詳しいというのは本当のようで、設置されている噴水や街の区割りなんかについても知っていた。

 噴水は人との待ち合わせに使えそうだ。

 

「ここのライオンの像はライオニス卿がライオンが好きだから設置したんだよ!」

 

「ライオニスって……ああ、あの髭のおっさんか」

 

 ライオがゲシュタルト崩壊しそう。

 

「ヒ、ヒゲのおっさんって……見たことあるの?」

 

「ああ、金で何でも解決できると思ってるタイプだよな」

 

「い、いや……そんな成金みたいな人じゃないと思うけど」

 

「世の中は金じゃなくて暴力だよ」

 

「そっち!? い、いや……暴力もあんまりよくないと思うなあ……」

 

「でもモンスターを倒すのは金じゃなくて暴力だろ」

 

「極端すぎない?」

 

 そこは価値観の違いということで。

 そもそもシャルと価値観を揃えたいわけではない。

 

「──ジャックってどこからきたの?」

 

「俺がどこからきたか……それは長い長い物語だ」

 

「要約して」

 

「北から」

 

「もう少し詳しく!」

 

「ライオニス領の方から」

 

「ふーん……ライオニス領のどの街に住んでたの?」

 

「田舎すぎて誰も知らなかったから言っても意味ないかな。地図にもないし」

 

「あ、そうなんだ」

 

 お得意の嘘が炸裂していくぅ! 

 

「ジャックはどれくらいこの街にいる予定なの?」

 

「そりゃあモテモテウハウハになるまでよ」

 

「あはは! なにそれ!」

 

「んだよ」

 

「もー……でも、なれるといいね! モテモテ? ってやつ!」

 

「!」

 

「──え、ちょっと、どうしたの?」

 

 俺、泣いてます。

 夢を初めて応援してもらって、猛烈に感動してます。

 

「死んだ母さんたちのことを思い出してさ……」

 

「そ、そう……よしよし……」

 

「お前良い子だなあ……」

 

「……なにそれ、ふふっ」

 

 

 ──────

 

 

『おはよう!』

 

『明日は晴れだよっ!』

 

『今日はお花を見に行きます!』

 

『疲れてるからおんぶして〜』

 

『ドラゴンって強いのかな』

 

『こっちこっちー!』

 

『一緒に逃げて!』

 

『あはは! たのしーね!』

 

 2ヶ月連続くらいで毎日会っていると、いい加減遠慮も無くなってくる。今日は野原に連れて行かれることになった。野原て。

 待ち合わせた噴水には、いつも通り綺麗な格好をしたシャルがいた。

 

「あのね、今日はね」

 

「んだよ」

 

「ん〜……着いてからのお楽しみっ!」

 

「んだそりゃ」

 

「えへへっ!」

 

 後ろに何かを隠していることはわかっていたけど、仮に暗殺剣でも俺は返り討ちにできるから問題ない。敢えて突っ込むようなことはしなかった。

 門をくぐると、いつもすぐ近くで屋台をやっている婆さんが今日もいた。

 

「おんやあ、今日もおでかけかい?」

 

「うん! あっ、そうだ! 焼きリンゴ買っても良い?」

 

「はーいよ」

 

 しょうがないねえ。

 はい、お金。

 

「毎度」

 

「別に良いのに……ボクの方がお金持ってるだろうし」

 

「あのね、そういうのはカッコつけさせてあげるんだよ」

 

「……カッコつけだー!」

 

 カッコつけることすらできない男ってちんこついてる意味あるんですか……? 

 まあ、子供だからな。

 特別サービスですよ。

 

「それで、今日はどこいくんだよ」

 

「子供じゃないんだからさー……着くまで待っててよー」

 

 大きなストライドでゆったりと振り返ったシャルは、ホットパンツに七分袖のシャツと、ずいぶん動きやすそうだ。えっちだな。

 

「それ、似合ってるな」

 

「えっ」

 

「?」

 

「そ、そう、だよね?」

 

「おう」

 

「ジャックって……そういう事言えるんだね」

 

「バカにしてんのか」

 

「だって〜、コレまで一度も服装褒めてくれた事なくない?」

 

「つまりそういうことなのでは?」

 

「はあー!?」

 

「うそうそ、ちゃんと似合ってたぞ」

 

「……っ!」

 

 いつも通り会話で暇を潰しながら、だいぶ後ろの方を歩いている兵士達を意識外に外さないようにしつつ、シャルと道のりを進んだ。モンスターが化けているか、汚職兵士ならば即座に燃やして消せるように

 ──だけど、シャルに手を引かれてたどり着いたのはそんなことを一瞬忘れるような光景だった。

 

「おあっ……」

 

「ふふっ、おどろいた?」

 

「…………すごいな、流石王都だ」

 

 俺が旅をしてきた意味ってのは、もちろん女の子が一番だけど……素晴らしい景色だった。

 ガキとはいえシャルは綺麗だ。そんな子と2人きりで、星空みたいな模様の花が咲き誇った場所にやってきた。

 コレは感動モノですよ。親父、母さん、やっぱり王都はすげえや。着いてすぐにこんな体験をすることができた。このままステップアップしていって美人の姉ちゃんを引っ掛けられれば……っ! 

 

「いでででで……なにふんふぁよ」

 

 なぜかほっぺを引っ張られていた。

 

「今、絶対失礼なこと考えてたでしょ!」

 

「花畑を踏み潰さないようにしようって考えてました」

 

 花畑(儚い人間)踏み潰さない(最強の俺がプチッと殺さない)ように。

 

「い、意外と花を楽しむ心を持ってたりするモノなのね……」

 

「嘘だよばーか! 走り回ってやる!」

 

「やめなさーい!」

 

 いま俺、最高に人生を楽しんでます……! 

 女の子と花畑で走り回るって、最高だな! 

 何でコレまでやらなかったんだろう…………女が俺の魅力に気付いてくれなかったからだクソがあ! 

 

 ──というか、こいつはいつまで男のふりをしてるんだろう。

 

「えーい! つかまえたー!」

 

「つかまったか……」

 

 オデ、チカラオサエルノ、タノシイ! 

 オンナニ、ツカマル、ウレシイ! 

 

「あははっ!」

 

「…………ははっ」

 

「じゃあ、ご飯にしよっか!」

 

「ご飯? 今からモンスター倒して肉取ってくるか?」

 

「違うよ! そもそもキミじゃ倒せないでしょ!」

 

「た、たおせるわい!」

 

「しょうがないなあ……はい、これ!」

 

「…………!?」

 

 そこにあったのは弁当だった。

 弁当……弁当!? 

 

「シャ、シャ、シャルが作ったのか!?」

 

 暗黒に包まれた世界で、弁当を持って外に出かけようって人間がいたのか!? しかも仲のいい男の子(女の子)が飯を俺に!? 

 

「ふふっ! まだ驚くのは早いっ!」

 

「た、たしかに……」

 

 開けて開けてと目で催促してくるので、ご希望に沿うように開けた。

 するとそこにはちょっと崩れた卵焼き、焼きすぎた野菜、良い感じのお肉が入っていた。

 

「まだちょっと慣れなくて……」

 

 恥ずかしそうにしているシャルを見て、俺は猛烈に感動していた。人生でいちばんの衝撃かもしれない。

 

 ──お弁当作りに失敗した女の子は可愛い! 

 

 完璧じゃなくて良いんだと、とても大事なことを学んだ気がしました。

 

「た、たべて?」

 

「は、はいっ」

 

 お互いに声が裏返ってしまった。

 まさか、モンスター100体に囲まれても震えひとつない俺が、たかが食い物を摘むだけで手が震えるなんて……! 

 

「じゃあ、いただきます」

 

「ごくり……」

 

 シャルが、俺の横顔をすんごいじっと見つめているのがわかる。そんなに見られると食べ辛いけど、気持ちもわかるといえばわかる……

 

「そんなに見られると食べづらいぞ」

 

 しかし言います。

 俺は言う男だ。

 

「だ、だって作ったものを人に食べてもらうなんて初めてなんだもん!」

 

「……っ!?」

 

 心臓が爆発した。

 俺の心臓を爆発させるのは魔王ぐらいじゃないかと思っていたが、シャルは伝説の破壊魔法を使えるのか!? 

 止まらないドキドキを抑えつつ、そこまで言うならと見つめられたまま口に放り込んだ。

 

「ど、どう?」

 

「…………うまい」

 

「────ヤッタ!」

 

 振り向いて小さくガッツポーズをしている、バレバレの小娘の頭を後ろから撫でた。

 

「ありがとな」

 

「……うん」

 

「一緒に食べようぜ」

 

「……た、食べさせて」

 

「え?」

 

「作ったのボクなんだから、それくらいしてよ!」

 

「…………あーん」

 

 俺にこんなことをさせられるなんて、名誉に思えよ? 勇者とか知らん男にやらされるくらいなら地形ごと破壊して証拠を隠滅する方を選ぶぞ俺は。

 

「んー……なんか、あんまり美味しくない気が……するんだけど……」

 

 聞き捨てならなかった。

 

「女の子が作ってくれたんだから美味いに決まってんだろ!」

 

「!?」

 

「練習すりゃ何だって上手くなるんだよ! とにかく、お前が作ったものは美味い! 以上!」

 

「…………もうっ」

 

 あの兵士どもは何だったんだ、結局。

 

「──っていうか、なんでボクが女だって……!?」

 

「いや、骨格見ればわかるから」

 

「ええー!」

 

 

 ──────

 

 

 今日は闘技場。

 入り口でチケットを買わないと入れないらしい。

 

「ジャック〜!」

 

「ほーい」

 

 もはや慣れたものだ。

 挨拶も『はい』『へい』『ふいー』『ほい』『ういっす』などなど各種。

 チケット売り場のおっさんに話しかけると、知り合いなのかメガネを外してまじまじとシャルを見つめた後に首を振って見なかったことにした。

 

「2人分くれ」

 

「はいよ」

 

「え、ぼ、ぼく払うよ? だって流石に……」

 

「いや、金はまだあるから」

 

「……本当にあるんだね」

 

 王都は物価高いけど、俺は強い冒険者なのでお金だって他の街で一杯稼いでからここにやってきたのだ。

 

「意外とお金持ちだったの?」

 

「頑張って稼いでからここにきた」

 

「そ、そんなお金をボクに使うなんて……」

 

「シャル以外の誰に使えば良いんだよ」

 

 他に使う相手って何ですか? 風俗デビューしろってことですか? ……世の中には白金貨一枚でようやく相手してもらえる嬢なるものがいるらしい。恐ろしい世界だ……! 

 

「…………」

 

「……あれっ、どこだシャル──って、何で後ろ下がってんだよ」

 

「──ううん! なんでもない!」

 

「そうか」

 

 闘技場は文字通り戦うところで、俺より弱い雑魚達が頑張って一対一とかパーティー間で戦ってお金を稼ぐためのシステムらしい。

 朝から昼を通して午後まで。空もお先も真っ暗の世界なのに、みんなは楽しい闘技場に夢中だった。

 

「最近は白薔薇って騎士様が人気あるんだよ。今日のトーナメントでも勝ち上がってきてるの」

 

「イケメンか?」

 

「え? ……確かに顔はカッコいいかも?」

 

「じゃあ殺してきても良い?」

 

「何でいきなりそんなオークみたいなこと言うの!?」

 

「いや、ほら……イケメンは全員殺さないといけないから」

 

「ジャックだって全然顔は悪くないじゃんか!」

 

 中の上だって。

 昔言われたから分かってるんだ。

 

「それに、人間は顔じゃなくて中身でしょ!」

 

「いや、顔でしょ。シャルだって可愛いからそんな余裕あること言えるだけだぞ」

 

「…………そう? ボク、可愛い?」

 

「今更何言ってんだお前」

 

 人生で何回可愛いって言われたか数えてみろ。

 数え切れないだろ。

 

「……可愛いって言われたこと、あんまりないかも」

 

「そいつらは目が腐ってるか脳みそが腐ってるからあんまり関わらない方がいいな」

 

「…………ねえジャック」

 

「おっ、白薔薇が負けるんじゃねえか!? ……ん?」

 

「行きたいところがあるの」

 

 闘技場で一日中過ごしていたので、流石に日も傾いてくるというものだ。秋も深まってきたから、早いうちに宿に帰らないと真っ暗になっちゃうねえ! ただでさえ雲のせいで暗いままなんだし。

 しかし、シャルの行きたいところというのは──城下町を囲う壁を守る衛兵達とは顔見知りのようで,顔パスで通してもらうと壁のヘリに腰掛けた。

 面白くなさそうな顔で地平線を見つめている。

 なんか、話題を振ろう。

 

「シャルは冒険者とか興味ねえのか?」

 

「え? 冒険者にボクが? …………モンスターとか怖いからいいかな」

 

「モンスターなんて切れば死ぬし、怖いと思うから怖いだけで実際やってみると楽しいぞ? もちろん大変なこともあるけど、強敵を倒した時はすごく気分がいい」

 

「そうなの?」

 

「1人が嫌だったら仲間を見つければいい! なんだってやってみなくちゃわかんねえぞ!」

 

「ジャックは怖くなかったの?」

 

「怖かねえさ! 俺は男だぜ!」

 

「ふふ、なにそれ…………でもボクは無理、やらなきゃいけないことがあるから」

 

「やらなきゃいけないこと? 親御さんの願いを叶えるとか?」

 

「! ……そう、だね……うん、そうだよ」

 

「別に好きにやりゃいいんだけどな」

 

 俺はどうしても、死んだ家族の願いが踏み躙られるのが許せなかったから頑張ってたけど……まだ生きてるんだったら自分たちでやらせりゃいい。親が子供を縛るなんて、あっちゃいけねえんだ。

 

「…………もし、さ」

 

「あん?」

 

「もしも冒険者になりたいって言ったら……ジャックはボクのことを…………私のことを連れて行ってくれる?」

 

「いや親御さんに挨拶からでしょ。なんで人のことを誘拐犯に仕立て上げようとしてんの?」

 

「えー……」

 

「まあ、本当にやりたいってんなら手伝ってやるよ。挨拶してダメなら逃げてやってもいい。今度行くとしたらシーランド王国だから、連れてってやるよ」

 

 本気でやりたいなら、シャルの言うことは手伝ってやろう。それくらいには気に入っていた。

 

「あはは! ありがとっ! でも多分、こわーい人たちがやってくるよ? ……冒険者とか勇者様も来るかも」

 

「んだそりゃ! まあ、全員俺より弱いからなんの問題もないな! まとめて返り討ちだ!」

 

 勇者に関しては未知数だけど、むしろ戦ってみたいと思っていたのでウェルカムだ! ボッコボコにして顔面腫らしてやる! 

 

「あはははは!」

 

 肩を揺らして笑う姿が、とても可愛い。2ヶ月を通して年の割には大人びた印象の強かったシャルが、子供らしいと最も感じられた瞬間だった。

 

「なにそれー! 勇者様より強いとか!」

 

「いや、真面目に」

 

「あっはははは!」

 

「はぁ……これだから世間知らずは……」

 

「もー、涙出てきた〜」

 

 ひとしきり笑うと、満面の笑みのまま勢いよく立ち上がった。

 

「スッキリした!」

 

「?」

 

 モヤモヤしてたのかよ。

 全然気付かなかったわ。

 

「さっきのは冗談!」

 

「ああ、だろうな」

 

「うわ、最低! そういうのは嘘でも驚いたフリするんですー! …………でも、今日一日──ほんとうに楽しかったよ、ジャック!」

 

「そうか。だったら明日の昼飯何食べればいいと思う? オススメとか教えろよ」

 

「──」

 

「お前街のこと詳しいんだろ? イシュリールめっちゃ広いしマジで助かるわ〜」

 

「…………」

 

「聞いてる?」

 

 無反応。

 太陽が沈んだからかもしれない。

 太陽が上っている間だけ活動するモンスターはいるけど、シャルもそういう生態の可能性が……? 

 

「おい」

 

「ん」

 

 背後からこっそり近づいてる足音には気付いてた。

 さっきの衛兵のうちの1人だ。

 

「そろそろ終わりだ」

 

「ああん? ……まあいいか──って、シャルは帰らんのか?」

 

「私が連れて行く」

 

「うん? …………怪しいなあ」

 

「貴様の方がよほど怪しい。良いのか? 貴様をこの場で逮捕することもできるんだぞ」

 

「…………ぷっ」

 

 やばい、思わず吹き出しそうになってしまった。

 

「今、笑ったか?」

 

「いえいえ! とんでもございません!」

 

「…………ならば早く失せろ」

 

「へへ〜」

 

「──さ、こちらへ」

 

 なんか恭しくて草なんよ。

 

「流石に気付いたか?」

 

 下に降りたら、別の衛兵が神妙な顔つきで話しかけてきた。気付くってなんの話や。

 

「…………あっ! そういうことか! あれだろ? 良いとこの子なんだろ?」

 

「…………信じられない鈍さだな」

 

「はあ〜? 全然気付いてるだろうがよ」

 

「ふん、本来ならば貴様のような下賎のものが話しかけることすら烏滸がましいのだぞ」

 

「え?」

 

 良いとこの子っつっても大商人の子供とかかなって思ってたんだけど……もしかして公爵級の貴族関係者? 

 

「えーマジかー…………しくったな、関わらない方が良かったか?」

 

 お互いに、近づき過ぎると辛いこともあるからな。

 

「! ……き、きさまぁああ!」

 

「あ? ──おっと」

 

 いきなり殴りかかってきたので避けた。

 

「抑えろバカ! いきなり何してんだ!」

 

 別の衛兵がすぐに羽交締めにしてくれた。

 こっえ〜、腐敗してんなこの街……なんもしてない市民に殴りかかるとか。

 

「離せ! こいつは今、関わらなければよかったって……そう言ったんだぞ! いつも、あんなに楽しそうにしてたのに! あんなに……!」

 

「うん、でもお前が言ったんじゃん。貴族なんでしょ?」

 

「っ!」

 

 ノーザンバグズの伯爵も上から目線かつ堅苦しくて好きじゃないし、ライオニス領で馬車から降りてきたやつも多分貴族関係っぽいやつで偉そうだった。貴族っぽいやつは対応ミスると面倒臭そうだから一応は謙ってやるけど…………弱いくせにイキってるから嫌いなんだよね。シャルはそうじゃないけど……まあ、貴族と俺が相性最悪なのは事実だ。

 

「俺は自由でいたいの。それで貴族と関わるってことはしがらみが多くなるってこと。わかる? この相容れなさ」

 

「こ、この、クズが……!」

 

「そんなに楽しませてやりたいなら自分でやれよ」

 

 人に善意を強要するだけのやつもゴミだ。ジェフは金を払うって話だから許してやっているけど、てめえらは俺に会話してもらえるだけありがたいと思えよ。

 

「失せろ! お前のような奴は二度と関わるな!」

 

「安心しろよ、関わんねえから。そもそも出会ったのも偶然だしな」

 

「っ!!!」

 

 キレすぎて顔真っ赤じゃん。なんなの? 人が言う通りにするって言ってんのに……今度から衛兵の前を通る時はコソコソしよう。毎度こんなやりとりとしてたらストレスが溜まりすぎて爆発しちゃう。

 俺が爆発したらすっごいど〜。

 王国滅びちゃうかも! 

 

 ──あーあ、つまんねえな。

 

 

 ──────

 

 

「──なんで」

 

 部屋で嘆く声。

 端的な一言ながら、失望がありありと滲み出ていた。

 

「ユウリ……もう諦めなって、そんな人いなかったんだよ最初から」

 

「ああ、縋れるものがあるならば縋りたいという気持ちはわかるが……」

 

「違う、あの人は本当にいる」

 

「はぁ……」

 

 どうしようもないと、セナは肩をすくめた。

 その人とやらが来るというから、まずは待つことにした。しかし一向に姿を表さず、ギルドぇも勇者が探すほどの冒険者はいないという。

 

「いるもん……」

 

 ここまで来るといっそ清々しいくらいに盲目的な信仰だった。修道女として修行していたトリスがかつてそうであったように、何かを信じるということは時に目を曇らしてしまうのだ。

 

 ──ならば、目を覚まさせてやるのが真の仲間というものだ。かつて目を覚させてもらったトリスは、険しい言葉をかけなければならないかもしれないその役目を背負うことに決めた。

 

「ユウリ様」

 

「…………」

 

「あなたがどれほど重いものに耐えているか。旅に同行する仲間として、私はほんの少しだけわかっているつもりです。何かに縋りたいという気持ちも…………かつて何も見えていなかったものとして理解しています。ですが、我々はあくまで民代を救うための旅路の途中。自らの夢や願望に流されて、都合のいいものばかりを見ていてはいけないのです」

 

「違う……」

 

「では、彼の名前を教えてください」

 

「…………」

 

「分からないのならば、それこそがあなたの作った幻影である証です。存在しない人間に名前は無い。そして存在しない人間ならばどこにいるかは妄想した人間が勝手に決められる。だから、近付いて来てくれてると想像すればココロが守られた」

 

「違う! 違う! あの人は本当に──」

 

「最近は姿すらはっきり見えなくなってしまったのでしょう?」

 

「ううう……」

 

「時には休んでもいい。逃げてもいい。ですが……夢の中へ逃げ込んだまま帰ってこられなくなってしまわれたなら、どうか目を覚ましてください」

 

 その説教を、ライザとセナは辛い気持ちで見ていた。

 自分たちを救ってくれた勇者が、実はプレッシャーに押しつぶされそうになっていたなど。そして自分たちはそんなことにも気付かず、期待ばかりかけてきた。

 仲間としてあるまじきことだった。

 

 わかっていた。

 心優しいからこそ傷つきやすいことなんてわかっていたはずなのに。

 

「真に目が曇っていたのは我々だったのか……」

 

「ユウリ………………っ!?」

 

 全員が同時に、身の毛もよだつような気配を感じた。

 

「これはいったい……」

 

 ライザは,嫌な予感に従ってカーテンを開けた。

 

「──ば、ばかな!?」

 

 

 ──────

 

 

「ま、まずい……」

 

 シャルと合わなくなって以降、ひたすらダラダラ過ごしていた。衛兵に目つけられて嫌だなーって気持ちから、全然ギルドに行く気が起きなかった。お酒飲んでお肉食べて、毎日自堕落な生活だった。

 そしたら何故か知らないけどお金がどんどん減っていっちまったよ! 

 

「おいジャック、金無くなったら容赦なく叩き出すからな」

 

「う、う、う」

 

 こ、こんなのありえない……俺は王都でウハウハハーレム生活を送るんじゃなかったのか!? なんでこうなってるんだ!? 

 …………これも全部、勇者の野郎のせいだ。アイツらがいなきゃ、もっと上手くいってたはずなのに。くそおっ! 

 

「いいから金稼いでこいよ。冒険者だろうが」

 

「…………あ」

 

 思い出した。

 ジェフとかいうやつをここに来る前に助けたんだった。商業ギルドでアイツらがどこにいるか探そう。そして報酬を受け取るんだ! 

 

「──あ」

 

「ヘクター! やっと来てくれたのか!」

 

 いた。

 けっこう繁盛しているようで、客がひっきりなしに出入りしている。

 なんか普通に成功してんな……最悪のケースとして身売りしてるかなぁとか考えてたんだけど。

 

「あれから全然会いにこないから、忘れられたのかと思ったぞ!」

 

 その通り、普通に忘れてただけだっつーの。

 なんなんだこいつのこの馴れ馴れしさは。

 

「ほら、お金!」

 

「あ?」

 

「頑張って稼いだんだ! 受け取ってくれ!」

 

「ああ、そう」

 

 よかったー、これで当面ダラダラできるわー。

 

「ちょ、早いって! ニナも挨拶したがって──」

 

 本当にめんどくさいから退散した。

 金額も見ずに出てきてしまったのは失敗かと思ったけど、中を見るとちゃんとした金額が入ってたので良しとした。

 

「はやっ、お前それができるんならもっと頑張れよ……」

 

「俺の勝手だろ」

 

 でも、黄金の屋根に戻ってきて改めて考えると……この街も俺の街じゃない気がしてきた。疎外感があるというか、ひとりぼっちなんだもん。

 シーランド王国は暖かいというし、もしかしたら人間も暖かいかも? 

 …………ん? 

 

 なんだか、違和感を感じた。

 ざわつく感覚というか、あんまり穏やかじゃないというか。なんとなしに空を見上げた。

 

「あー……なんだありゃ」

 

「え? なんか見えんのか? …………は?」

 

 そこにいたのは──

 

「……ド、ド、ド、ドラゴンの群れ……」

 

 ビビり散らかしたオッサンはともかく、普通じゃ無いのは間違いなかった。

 

『──聞け』

 

「なんか頭に声が……」

 

『我が名は暗黒騎士ガイナ、魔王オルブラ様に仕えし三騎士が(いち)

 

「…………」

 

『王都イシュリール、そこに勇者一行を匿っていることはわかっている。3ヶ月前の戦いに負け、這々の体で逃げ出した軟弱な勇者だ』

 

「マジ?」

 

『見ればわかる通り、ドラゴンの大群がイシュリールを囲んでいる。結界で守られているつもりだろうが、我が力にかかればこの通り──』

 

 バキンと、王都を囲うように張られていた結界にヒビが入る音がした。

 

『今は割らない。だが……そうだな、2日待ってやろう。2日後の夜までに勇者を──殺せなどとは言わん、差し出せ。そうすればこの街は助けてやる。差し出さなければ……ドラゴンとゴブリン、オークの群れがこの街を襲うだろう』

 

 は? 

 

 

 ──────

 

 

「即刻、勇者を差し出すべきです」

 

 そう進言したのは、筆頭政務官だった。

 

「私もそう考えます」

 

 同意するのは、軍事長。

 文と武、基本的には仲が悪い両者が一致した稀な機会だった。

 

「そんなことをすれば、誰が魔王を倒すというのですか! それに勇者はまだ子供です!」

 

 反発するのは王女。

 人命のためとはいえ、シーランド王国からはるばるやってきて戦ってくれている恩人を差し出すなど道理に悖ると憤慨していた。

 

「殿下……冷静に考えていただきたい。勇者はドラゴンの群れとあの暗黒騎士を倒せるのでしょうか? 口ぶりからして、勇者は暗黒騎士との戦いに負けてイシュリールにやってきたということが考えられます。それが真実ならば、仮に差し出さなくても戦いの中で勇者は死にます。ならばせめて、民だけでも……そう考えるのは何かおかしいことでしょうか?」

 

「敵の言葉を信用するなど!」

 

「仮定の話です。ですが……勝てない相手に対してあのような啖呵を切るとは思えませぬ。この雲に覆われてからは遠鳴りの魔法も使えず、援軍も見込めない。他に道があるというのですか?」

 

「っ…………」

 

 冷静で、残酷な話だった。

 

「──静まれ」

 

 王が口を開いた。

 

「まだ2日ある。まずは冒険者ギルドに、集められるだけの人員を集めた場合の戦力を見積もらせろ。軍事長、兵の総力に関しても同様だ。全ての兵器も勘案して計上しろ。それと……戦う力の無い民は避難させろ。できるならば、な」

 

 即座に対応は進められた。

 ギルド、兵、近衛隊など全ての戦力に関してまとめられ、わずか1日で戦力の数値化が為された。

 

「ドラゴン20体……」

 

 どう考えても、どう甘く見積もっても、敵わない。空を飛ぶドラゴンの数は優に100を超えている。

 しかし勇者一行を抜いての数だ。軍事長やギルドをして判定は行えない戦力。だが……ドラゴン80匹分の戦力などと換算することは、常識的に不可能だった。それがいくら女神の加護を受けた勇者たちだとしても。

 ならば、避難だ。

 生き延びられるならば、逃げていいのならば──そう考えた彼らを阻むように、地上はすでにゴブリンやオークによって閉鎖されていた。

 

『勇者を差し出せー!』

 

『勇者なんか招いたから悪いんだ!』

 

『陛下は何してんだ! さっさと勇者の首を差し出せばいいだろ!』

 

『差し出せ!』

 

『差し出せ!』

 

『暗黒騎士が来るんだぞ!』

 

 暴動一歩手前だった。2日目の昼からすでに、逃げられないことを悟った住人が王城前に詰めかけていたのだ。

 

「──もう、それしか無いのかな」

 

 ユウリは、悲しげに微笑んでいた。

 しかし仲間3人はそうでも無い。荷物を片付け、支度を始めていく。

 

「な、なにしてるのみんな」

 

「逃げるよ」

 

 セナが口早に告げる。

 

「え……?」

 

「いいから準備して」

 

「…………私は残る」

 

「いいから」

 

「みんな……もういいの」

 

「だめ!」

 

「みんなとの旅、すっごく楽しかった…………でも、こんなに多くの人が命を危険にさらされていて、それで逃げたら……なんのために戦ってるか分からなくなっちゃう」

 

「ユウリ!!」

 

 もはや叫びだった。

 

「お願い……お願いだから、言うことを聞いて……!」

 

「ごめんね、セナ」

 

「やだよ……ユウリ……」

 

 しがみつき、泣きながら懇願するもユウリの表情は変わらない。悲しそうで、それでも決意の固い顔。セナの腕からはだんだんと力が抜けていった。

 

「王様は、委ねてくれてるんだよ」

 

 ユウリ達のことを,逃げ出さないようにと拘束することもできた。だが、東ヒューリングス王国 第20代国王 レオナルド5世は、それをしなかった。

 

「私達がどういう選択をしたって受け入れてくれるって、そう言ってるの……だから、私もそれに答えたい」

 

「そ、そんなんじゃ! …………意味……ないのに……」

 

 泣き腫らしながら、それでもしがみつくセナの手を少しずつ剥がして。ユウリは残りの仲間2人を振り返った。

 

「2人とも」

 

「ユウリ…………私は…………私は……!!」

 

「ユウリ様……こ、こんな事、私は望んでなど……」

 

「──大丈夫、みんなきっと大丈夫だから」

 

 震える声の2人を抱きしめて、ユウリは部屋から出ていった。

 

『──!』

 

 取り残された部屋の中から聞こえる嗚咽だけが、王城の廊下に虚しく響いていた。

 

 

 ──────

 

 

「──ニナ!」

 

「ジェフ! いたか!?」

 

「いねえ!」

 

 商人であるニナとジェフは、イシュリール内を走り回っていた。走り回ったと言っても城下町、その広さは人間が全力疾走したとて1日2日で周り切れるものではない。それでも2人は、走りすぎて酸欠を起こしながら、聞き込みを続けていた。

 それにもかかわらず──

 

「なんで……なんでどこにもいないんだ!」

 

 ジェフが叫ぶ。

 様子を伺っていた周囲の人間は、彼らの子供がいなくなったのかと心配して話しかけるがそうではなかった。彼らが探しているのは、1人の冒険者だった。

 

「ヘクター? そんなやつ聞いた事もないな。でもそんなことより勇者だよ! 早く勇者を差し出させないといけないんだから!」

 

 誰に聞いても、ギルドで聞いても、商人としての伝手を使っても、そんな冒険者の名前は引っ掛からなかった。光の翼を使う冒険者なんてのもいないと。

 

「なんで…………いや、まさか……! ──でも、なんで……?」

 

 偽名。

 2人の頭に同時に浮かんできた言葉。

 理解できなかった。

 あれほどの強さがあるにも関わらず、それを活用しない。なんのために王都に来たのか。

 

「わかんねえ……わっかんねえけど! ……くそっ、どうすりゃいいんだよ! ……うあっ」

 

「ニア!」

 

 ふらついた少女の体をジェフが支える。2人ともいい加減体力の限界だった。

 

「なんで、何もしてくれないんだ……ヘクター! お前なら!」

 

 

 ──────

 

 

『ふむ……』

 

 暗黒騎士ガイナの目から見て、状況は概ね予想通りだった。そして、こうなるところまでも。

 

『遁走したとは思えない潔さだな』

 

 王都の北門前で堂々と待っていたガイナのところへ、小さな体躯の人間がやってきた。

 

『……やはり…………なんとも清らかなる精神だ。貴様が魔王様に忠誠を誓っていれば、私には及ばずともさぞかし素晴らしい騎士になれただろう』

 

 かつて容赦なく叩きのめした勇者の健気な姿を見て、戦意など生じようはずもない。

 

『戦うか?』

 

「…………私は平和のためにここに来ました。だから……大人しく死ぬから、軍を引いて」

 

『──暗黒騎士ガイナ、そして我が主オルブラ様の名にかけて。貴様の首を我が剣で刎ねた後、軍を引くことをここに誓う』

 

「そっか……なら安心して死ねる、かな」

 

 しかし、少女の腕に止まらぬ震えが走っているのを騎士は見逃さなかった。

 

『…………安心しろ、痛みはない。一瞬で楽にしてやる』

 

 抜かれた魔剣は禍々しいオーラに包まれていた。

 

 ユウリはゆっくりと目を閉じた。

 頭の中を過ぎ去っていくのは楽しかった記憶、頑張った記憶。

 そして、いつも夢に見ていたあの人と出会うという願い。

 

「──みんな、さようなら」

 

『さらばだ、勇者よ』

 

 空を切り裂く音が、月すら見えぬ暗黒の中に細く走った。

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