【書籍化】封印されし呪われ勇者、美少女配信者に偶然開放されたついでに無双して大バズり   作:恒例行事

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第十二話

「……雨宮の魔力出力が変化している」

 

 修練場の様子を一望できる部屋の中で、多数のモニターに表示された情報を読み取りながら毛利は呟いた。

 

「四級試験時点ではDランクの出力だったのに対し、今はCランクに相当する値だ。鬼月さん、魔力量が上昇したと言う報告例は?」

「無論、無い」

「ありえんな」

 

 毛利、鬼月、有馬。

 それぞれ中国地方・関東地方・九州地方を担当する一級探索者は各々の知識を持ち寄り議論を始める。

 

「魔力総量は鍛えられるようなものではない。魔力が発見されて四十年の間研究は続けられているが、今もなおこの魔力という概念を増幅させる方法は判明していない。それは出力も同様だ」

「後天的に増やすことがほぼ不可能とすら言われている現状、偶然増えましたで片付けるのは無理がある」

「偶然増えたらそれはそれで研究対象になるが……」

「まあ、十中八九偶然じゃないだろうな」

 

 画面の向こう側では不知火を相手に猛攻を仕掛ける霞の姿があった。

 身体能力に関しても具体的に速度・力の強さ等細分化された資料が用意されており、そちらのデータもまた、過去の物と比べて軒並み向上していることが読み取れる。

 

「力の強さ、技の鋭さ、速度……身体能力も軒並み向上している。これが出力増幅効果によるものかは判断出来んが、もうあれは四級とは呼べん」

「最低でも三級、二級の下の方に食い込めるのは間違いないか」

「関東は優秀な奴がポンポン生えてくるなぁ……羨ましいぜ」

「今回は特殊な例でしょ、どう見ても」

 

 はあぁと切実な声を漏らす前田(まえだ)に対し、中部を管理する一級の宝剣(ほうけん)は呆れた声で言った。

 

「これが常に関東で起きてたら今頃一級は百人超えてるわよ」

「御剣とか桜庭とか本田とかが関東にいるのにさぁ、北陸に一級は俺だけだよ? 一級案件かなりの頻度で起きるのに俺だけだよ? 過労死するわ!」

「その分二級は多いだろう。お前が一級案件に集中出来る環境は整っている筈だが」

「期待してくれるのはありがたいっすけど辛いです!」

「そうか、頑張れよ」

「頑張っとるわ!!」

「おい。騒ぐのはいいが見逃すなよ」

 

 理不尽に喚く前田を嗜めながら、毛利は画面を注視する。

 

(──雨宮が想像以上に強くなっているのは確かだが、それよりもサポートが優秀すぎる)

 確かに強くなっている。

 

 データ上もそうだし、観戦している立場である毛利達ですら直感で理解出来る程。今の階級に見合ってない強さを有しているのは確実で、それは不知火も感じ取っているだろう。

 ゆえに最初よりもやる気で戦っているし、手は抜いていても油断はしていない。

 何より、少しだけ表情を面白そうに歪めているのがその証明だ。

 

 しかし。

 

 その努力を容易に上から捻り潰せるのが、一級という枠組みである。

 

(雨宮単独でいくら粘ろうと、不知火にとってはその程度腐るほど相手にしてきたレベルの筈。そんな奴が思いの外楽しめるとわかったからと言って、あのように笑みを浮かべるわけがない)

 

 毛利ら現代に生きる探索者にとって、不知火織という存在は最強に相応しい男だった。

 単身で日本にある全てのダンジョンを踏破し、誰も踏み込むことが出来なかった太平洋の深海ダンジョンへ突入し生還した実績を持つ。まさに前人未到、これまでの人類が成し得なかった偉業を成し遂げた怪物。

 

 そんな人物が、たかが二級下位程度の実力を持つ人間を相手にして喜ぶか?

 

 答えは否。

 

「……上手いな」

「ああ、上手い。よく見えてる」

 

 霞が出力を引き上げ斬りかかった瞬間、不知火はそれよりも早く動き胴を打ち払おうと動く。

 いくら彼女の実力が向上していても、不知火はおろか一級に勝てる道理はない。

 それは素の身体能力であったり、魔力量であったり、魔力出力であったり、技術の差であったり。要因は数えきれないほどあるが、共通しているのは霞に勝ち目がないと言うこと。

 一つ一つのパラメータで負けているのに、総合力で勝る訳がないのだ。

 

 無論、不知火の動きに対応できる訳もなく、ガラ空きの胴を情け容赦なく打ち払われ──ない(・・)

 

 不知火が腕を振り切るより早く、勇人が介入する。

 模造刀を正面から受け止め勢いを殺し、そのまま剣を大きく弾く。しかし手から離れるわけではなく、あくまで隙を作り出すだけ。そうすれば霞はわかりやすく無防備な場所へと意識を集中させ、無意識に最善の一撃を放てる。

 

 その無意識に放たれる最善の一撃こそが欲しいデータだった。

 

「何のための戦いか、それをよく理解している。これが五十年振りに地上に出てきた人間の理解力とは到底思えんな」

「頭も回る上に最悪を常に想定しているから、我々の危惧する点を容赦なく踏み抜いてくるのもやりにくくてしょうがない。それくらい出来ねばダメだった時代だと言うのは、頼光さんを見ればわかるが……」

「フン、勇人さんがその程度出来んわけがないだろう。序の口に過ぎん」

「……だろうな」

 

 既に揃った一級の中で、勇人を疑っている人物は居ない。

 時折繰り出される不知火の一撃も、少しずつ速度が上がっている。

 最初は霞でも対応出来ていたのが今は反応すら出来ない程だ。

 一級であれば対処出来るだろうが、それはつまり、国防の要と呼べる人材に並ぶ力が必要であると言うこと。

 

 勇人は見事に防いでみせた。

 ニヤリと笑う不知火に対し、口を柔らかく歪めて微笑む余裕すらある。

 だが決して自分が目立とうと動くことはなく、あくまで霞のフルスペックを引き出すための動きしかしない。

 

「不知火を相手に笑える奴が何人いるか……」

「あれくらいならまだ笑えるけど、最低でも私程度には強くなくちゃダメねぇ」

「ハードル高。あんた一級でも真ん中はあるでしょ」

「武器有りならそれくらいか?」

「武器無しの私程度の強さは欲しいところね」

「じゃあ一級最低レベルは欲しいな。つまり、現代基準で評価しても一級は既に見込めるって事だ」

 

 今もなお攻防を続ける三人をモニター越しに見ながら、一同は黙する。

 魔力の研究も何もされてない五十年前に戦っていた人物が、技術研究も進み脅威に適合し社会の形を保てるようになった現代でも最高峰の実力を持っている。これまでの研究や考察で当時と比べて自分達のレベルが上がったのだと思われてきた事実が、崩れていく。

 

「『勇気ある者』──勇者か……」

 

 まだ何もない時代。

 ただ混乱と絶望に包まれて人々が死んでいく中で自ら地底に飛び込み戦った者達。やがて社会を取り戻す礎として魔力という概念を提供し、侵略を目論んでいた上位種を軒並み打ち倒した救世の者。

 

「常に感謝ばかりされた訳でもあるまい。心無い言葉を言われたことも、時には石を投げつけられたことさえありうる」

「俺達でさえそう言われることがあるんだ、間違いない」

「それに関しちゃ、頼光さんが一番知ってるだろ」

 

 視線が一斉に動く。

 腕を組み苦虫を噛み潰したような表情のまま、有馬は続けた。

 

「……事実、なぜもっと早く来なかったんだと無責任に言われている姿を見た。九州での戦いで、勇人さんは仲間を一人失っている。犠牲を伴い勝利を収めたのに、そんなことを言われたのだ。それでも彼らは憤らなかった。頭を下げて、ただ一言──すまなかったと」

「…………報われないわね」

「……なぜそんな重要人物の正体を隠した? 彼らは讃えられるべきで、報われるべきだった。この社会の礎を築いた英雄達を、なぜ?」

「それが彼らの望みだった。自分達は死ぬだろうから、人々に絶望を与えたくないんだと」

 

 沈黙が続く。

 ただモニター越しに繰り広げられる剣戟の音が響くのみで、誰もが悲痛な表情をしていた。

 

「…………せめて、(現代)では報われて欲しいが」

「──それを成すのが、我々の責務。違いますか、有馬頼光公」

「ふはっ、そう言われたのなど随分久しいな。三十七代目毛利家当主、毛利秀人よ」

「今はただの一級探索者としてではなく、こちらの立場で発言するべきだと愚考致しました」

「言うじゃないか、若造め」

 

 集った一級探索者達には、すでに疑惑の目はない。

 

「喋るモンスター、ダンジョンの秘密、まだまだ俺たちが知らないことが腐るほどありそうだが……」

「それを解決するのは我々現代を生きる者達だ。これ以上、情けない姿は見せられん」

「ふむ、儂は現役だが」

「頼光さんは別枠でしょ。あたし達だって一級なんだし、任せときなさいって」

「ガキどもが勢い付きおって」

 

 悪態を口にしつつ、有馬は笑っていた。

 五十年間地底に囚われていた勇人と対照的に、彼は地上で戦い続けた。

 モンスターの駆逐、社会復興の手伝い、後進育成──その激動の日々によって累積されたダメージは常に身体を蝕んでいるのに、それでもなお現役を退くことはしなかった。

 

 それは、かつて見た勇者たちの生き様に憧れたからだ。

 

 自分達がどうなってでも、死ぬと分かっていても、それでも戦う。

 社会のため。

 信念のため。

 復讐のため。

 友人のため。

 それぞれ異なる思惑を持ちながら、同じ覚悟をした四人組に若き有馬は憧れた。

 

(…………どうですか、勇人さん。あなた達が救った世界は、未来は、これほど逞しくなりました)

 

 今はまだ言えない。

 でも、彼が現代を知った後、かつての地獄を共有する一人の人間として言ってやりたいと思った。

 

「……雨宮も疲弊している。そろそろ良いだろう」

「そうね。データは十分取れたみたいだし」

「副大臣に報告しておく。切り替え次第二人の戦いに移行しよう」

 

 終了の合図と共に霞が崩れ落ち、それを勇人が支える。

 見た目だけ見れば仲のいい男女だが、実年齢七十を超える不老の男とそれに命令権を握られている十九歳の少女である。

 

 他の者からすれば特に違和感はないだろうが、有馬だけは違った。

 若い頃の姿を知っているが故に、自分と同じ年頃の男が十九歳の少女と近い距離で触れ合っている事実が、ちょっとだけなんとも言えない感情を沸き立たせた。

 

「…………この絵面だけはどうにかならんものかなぁ」

「んあ? 何か言ったか、爺さん」

「何も言っとらんわ」

「そうかい」

 

 報われて欲しいと思う。

 ただそれはそれとして、自分の孫娘と会ったら果たしてどうなってしまうのかと想像してため息を吐きたくなるのだった。

 

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