【書籍化】封印されし呪われ勇者、美少女配信者に偶然開放されたついでに無双して大バズり   作:恒例行事

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第二話

 気絶した少女、かすみちゃんが目を覚ますのを待っていると周囲にモンスターが寄ってきた。

 

 僕の居住地にも湧くんだし当然か。

 

 せっかく蘇った彼女に死なれても困る。

 ここは一つ、僕が相手をしよう。

 

「スケルトン、剣ちょうだい」

 

 持たせていた七つ武器の一つ、剣を受け取った。

 

 刃渡り七十センチ。

 狭い地の底で振るうのにちょうどいい長さ。

 自然形成された洞窟には全く不向きだが、このモンスター溢れる場所には適切だ。数年戦い続けて欲しかった武器を求めて辿り着いた答えの一つがこれだった。

 

 いやあ、苦労したんだぜ。

 何年もかけて素材を集めて、これまた何年もかけて作った独学の鍛冶場を利用して作ったんだ。素人の浅知恵で作ったからとんでもない数の失敗をしたよ。

 

 僕の暮らしていた空間にはその残骸が無数にある。

 部屋から溢れるほどの出来損ないで一杯。

 ただそのお陰で無限にも感じられる何十年という時を耐えられたとも言えるから、今となってはいい思い出だ。

 

「ま、それは君らには関係ないか」

 

 剣を握る。

 刀というには不細工で、記憶の限り見様見真似で作った一振り。両手でしっかりと握りしめ、宝物庫に顔を覗かせたモンスターに向ける。

 

 大きな黒蟻、獅子の獣、二足で立つ狼、それらを束ねているのか中心に堂々と佇む大柄な巨人。巨人と言っても顔は人間離れしてるし、目なのか模様なのかわからない。

 何にも読み取れない。

 

 ただ一つわかるのは、こいつらは僕と、そしてかすみちゃんを標的にしているってことくらいだ。

 

 一歩巨人が進む。

 剣を握る手に力を込める。

 もう一歩巨人が進んだ。

 それと同時に、隣に控えていた獅子が飛び込んできて──一閃する。

 

 飛びかかった姿勢のまま縦に両断された獅子の背中から、大きく口を開き食い千切ろうと狼も襲ってくる。

 

 返す剣で、もう一閃。

 下から上へ両断。

 血飛沫が飛び散って全身に浴びるけど気にしない。モンスターの血はすぐに蒸発する。左目を血が覆い視界が狭まるけど右目が生きている。血が滲むのも厭わずにジッと見ていたが、動く気配はない。

 

「……来ないんだ」

 

 絶好の機会だったと言うのに残りの蟻とよくわからないモンスターは来なかった。

 その間に血は蒸発し始めて、僕の視界はクリアになっていく。

 

 逃がさない。

 来ないならこちらから仕掛けるまで。

 僅かに警戒するように気味の悪い威嚇をする巨大な黒蟻に歩いて近付く。大体どれくらいの相手かはわかった。閉じ込められてた時も思ったけど、モンスターの強さは別に上がってない。

 

 だからロートルの僕でも十分に殺せる。

 

「いやー、凄く時代が進んで強くなってたらどうしようかと思ってたんだけど。これなら全然役に立てそうだ」

 

 互いに射程圏内に入れて、抜剣。

 頭部を真っ二つにカチ割り絶命した蟻の次は、顔に模様がある巨人。すでにこちらへ接近しており今まさに直撃させんと拳が眼前まで迫っている。

 

 その拳を両断。

 そのまま腕を半ばまで断ち切り、続け様に腹部へ突きを放つ。

 巨人型は基本的に人体構造が似通ってるから大まかな弱点は共通しているものだが──ビンゴだ。

 

「グ、オオオッッ!?」

 

 内臓を破り肉を割り骨を砕く。

 力任せに横薙ぎし贓物を撒き散らしながら息絶えていく巨人を見下ろして、周囲から気配がなくなったのを悟る。落ちた素材は……いくつも持ってる奴か。

 

 そんなに物珍しいものも無い。

 地下がどうなるかわからないけど、貯蔵してる分だけで十分かな。

 また開かずの扉になるのか、それともいつでも開けるようになるのか。

 

 ここを管理してたであろうモンスターは僕が斬り殺したのに権限が移らないのは一体なぜなんだろうか。

 一体僕はなんなんだ?

 わからない事はいつまでもわからないままで嫌になるね、どうも。

 

「ん……んぅ……」

 

 おっと。

 なんて絶妙なタイミングで目を覚ますんだ。

 急いでスケルトンに武器を返却し彼女の近くまで寄る。流石に剣持ったまま「お目覚めかい?」なんて聞いたら間違いなくビビられるし話が拗れる。

 

 一応ただ倒れてるだけなのはかわいそうなので場所もずらした。

 その時横抱きしたけど、まあ、変な場所は触ってないし許してくれるかな。

 許して欲しいな。

 昔の仲間にやったら「お前はもっとムードというものを大切に〜」と10分くらいネチネチ説教をされたのでややトラウマ気味なんだ。

 

 女性と接するのなんて数十年振りだし、ある程度は許して欲しいね。

 

「ん……っ、あれ……?」

 

 目を覚ましたかすみちゃん(仮)。

 

 身を起こして周囲を観察し、ゆっくり瞼を擦りながらスケルトンを見つけて、固まった。

 

「……えっ、え、えぇ!? な、なになに!? 誰!? 敵!?」

 

 そしてあわあわ慌てながら立ち上がり腰元から武器──包丁よりは長めの剣──を両手にそれぞれ持った。

 

「す、スケルトン……!? 真っ黒なスケルトンなんて見た事な──え? 何、後ろ?」

 

 どうしてか彼女は正面のスケルトンから目を離して、悠々と金銀財宝に腰掛ける僕に振り返った。

 

「やあ」

「ひゃあああああ!?」

 

 おっと、こうならないために出来るだけ配慮したのに全て台無しだ。

 こういう時は怯えさせないためにニコニコ笑顔で対応するべきだ、そう仲間が言っていた。

 

「だ、だだだ誰……っ、あ、えっと、待って……!」

 

 金色(・・)の目を輝かせて慌てている。

 

 待つも何も僕は何もしていない。

 ただ少女は剣を構えたまま、何やら右目に取り付けたモノクルに意識を集中させていた。そのくらいは瞳の動きで理解出来るんだけど、モノクル自体に意識を集中させてるって、一体どんな意味が……? 

 

 そのまま大体二十秒ほどモノクルと睨めっこした後、構え続けたまま会話を切り出す。

 

「まずは、助けてくれてありがとうございます」

「うん。一応言っておくけど、危害を加えるつもりはないよ。どう見たって丸腰だろう?」

「……でも、その、スケルトンに武器を渡してもらってたんですよね」

 

 おっと、見られてたか。

 これは誤魔化しようがないので、肩を竦めて参ったとアピールした。

 

「ごめんなさい。助けてもらったのに、礼儀を欠いているのはわかってます。でもその前に一つだけ確認したいんです」

「出来る限りは協力するよ」

「その……探索許可証を見せて欲しくて」

 

 探索許可証ね、はいはい。

 そんなもの持ってないんだけど。

 僕も敵対したくはないから言う事は聞くつもりだが、持ち合わせていない物を見せる事は出来ない。

 

「もし許可証が無いと言ったら?」

「……ダンジョンの中に不法侵入するのは犯罪です。最低でも禁錮1年、罰金300万円から1000万の罰則があります」

「そりゃ困ったな。その法律が出来るより前からいるんだけど、ダメ?」

「…………それは、どういう……」

「君が辿り着いたこの宝物庫、ここから先はまだ続いてるんだ」

 

 後ろ手に通路──つまり、僕が出てきた場所を指しながら説明を続ける。

 

「僕はそこで、この地底に逃げ込んだモンスターを討伐した。その際に呪いを受けて半分リッチ半分人間の微妙な存在になってしまった挙句、閉じ込められちゃってねぇ」

 

 三百六十五日を五回超えた辺りで数えるのをやめた。

 

 気が狂うかと思ったからだ。

 助けが来るわけないし、期待する意味がない。

 ならせめて退屈で発狂するまでは何かで時間を潰そうと思って、色々手をつけたんだ。

 

 スケルトンに持たせた武器なんかはその筆頭なわけだけど……

 

「今って何年?」

「…………二千八十年です」

「二千八十年……」

 

 二千八十年か。

 僕が閉じ込められたのが確か、二千三十年くらいだった筈。つまりあれから五十年経過してるのか。

 

 ……五十年。

 五十年もか。

 

「……人類は、負けなかったんだな」

 

 良かった。

 本当に良かった。

 僕たちの戦いは無駄じゃなかった。

 無限にも思える犠牲の上に、守り通せた社会があった。ただそれだけで、大声で歓喜を叫びたくなるくらいだ。それくらい五十年前は地獄みたいな状況で、希望を持ち続けるのにすら疲れ果てて、世界の終わりかと思うくらいに絶望があった。

 

「そっか……」

 

 ありがとう、諦めなかったみんな。

 地下に閉じ込められた不甲斐ない僕の代わりに戦ってくれて。五十年間戦い続けた英雄達に賞賛を、そして、五十年前に犠牲になった英霊達に感謝を。

 

「えっと……すみません、お兄さん」

 

 黙祷していると、かすみちゃんに声をかけられた。

 お兄さんとは良い呼び名だ。

 年齢を考えればもう爺さんも良いところだけど、そうか、見た目もあんまり変わってないのか。これでは余計信じてもらえないかもしれない。

 

「ユウト」

「……え?」

「僕の名前だ。勇気の勇に人、事情があって姓はない。好きに呼んでいいよ」

「……んんっ、勇人さん。身分証明書とか持っていたりは?」

「あるにはあるけど……」

 

 懐に手を入れて取り出したそれはかなり風化していて、まともに機能するとは思えなかった。

 

「わかる?」

「えー……なんでしょうか、これ」

「運転免許証。普通自動車、それもオートマ限定のね」

 

 マニュアルは取らなかった。

 男がマニュアル運転出来なくても良い時代だった。地底が露出し混沌に包まれた世界でようやく世の中に認められる人間になった僕にとって、唯一己を証明する手立てと言える。土埃に塗れて五十年経過しているから決して良い状態じゃないんだけど……名前くらいは見える筈だ。

 

「……肝心の顔が見えないですけど、あ、でも名前はうっすらと……本当だ、勇人さん」

「僕の名前が嘘ではないと証明出来たかな?」

 

 いかんせん、これ以上己を証明出来る物がないんだ。

 この身一つで全国回ってたからね。

 細かい事は仲間に任せてたし、一人になってからは周りを気にせず地底に突撃してばかりだった。

 

「これでも信用出来ないなら、うーん、そうだなぁ……」

「──いえ、大丈夫です。お返ししますね」

 

 おっ。

 どうやら信じてくれるらしい。

 こう言っちゃなんだけど、僕ってかなり滅茶苦茶なことを言っているからね。信じてもらえないと思ってたし、最悪拘束されることも考えてた。

 

 五十年前に活動してた勇人と名乗る男なんて信用のしようがないだろ。

 

 風化した免許証を受け取って、再度懐にしまった。

 

 さて、どうしようか。

 現状ポジティブな情報ばかり受け取れているが、実際にこの目で見るまでは信じられない。あの絶望的状況から都合よく世界が生き残れると思っていないから。

 

 目標は地上に戻ること。

 そして人類に貢献すること。

 僕は戦うことしか出来ないんだから、そうしなければ。

 

 そうなれば欲しいのは協力者。

 この状況を打破する、もしくは切り抜けるために現代に精通している人が欲しい。五十年前の知り合いを頼るのは無理だろうから、現代の若者・中年くらいの場所か。

 

「……ど、どうしようみんな。どうすれば良いかな」

 

 隣でぶつぶつ一人で呟いてる少女を横目に見る。

 この娘にやってもらうしかないか。

 リッチ、要するにモンスター混じりの僕と行動するにはリスクがある。それを飲み込んでもらうために提供できる対価としては────武力。

 

「かすみちゃん、だっけか」

「え、なんで私の名前……」

「自分で教えてくれたじゃないか。そんなことより提案があるんだ」

 

 やや逡巡しながらも、頷いた。

 

「僕は地上に出たい。明確な目的としては、人類に貢献するために、その……探索許可証を貰いたいんだ」

「人類に貢献、ですか?」

「そうだ。僕は戦うことでしか自分を活かせない、人の役に立てないロクデナシだからね」

 

 かつての仲間にそう言ったら渋い顔をされたけど、この認識は改めるつもりはない。

 

 僕は戦う以外で役立たずだ。

 だからあの混沌の時代で台頭した。

 何も嬉しくない活躍だったけど、少しでも人の役に立てればと戦い続けた。

 そして今度は、半永久的に戦える肉体になった。

 そうなればやる事なんて一つしかないだろう? 

 

「協力してくれないか、かすみちゃん。もちろんタダでとは言わない」

 

 難しい顔で話を聞いてくれている少女の視線を誘導するように、宝物庫の外──つまり、正規ルートから地底に向かう道を指差しながら告げた。

 

「手始めにこの地底を踏破しよう。大丈夫、これでもそれなりに強いからさ」

「…………わ、わかりました……」

 

 明らかに少女は警戒した様子で頷いた。

 まあ、半ば脅してるようなもんだ。信用はすぐに手に入らない。ここは誠実に、それでいて正直に話して少しずつ信用を勝ち取っていくべきだ。

 

 なので恐怖を与えないよう微笑みながら、僕は彼女に語りかける。

 

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。人の事は好きだから」

 

 そう告げると、彼女は余計顔を強張らせた。

 

 ……言葉選びを間違えたかな?

 

 もう一度微笑むと、にへらと下手くそな笑みで返して来た。

 

 うん、間違ったねこれ。

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