艦娘とフツーの高校生   作:にんじん元帥

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春はあけぼの

今年の春。

俺こと海野海晴(うみのかいせい)は、とある港町へと引っ越した。

 

「行ってきま〜す」

 

「行ってらっしゃい!お弁当は持った?」

 

「あぁ、持ったよ母さん」

 

「道中気を付けるんだぞー」

 

「へーい」

 

父親の転勤に伴い生まれ育った故郷を離れ、この町へ。

本来であれば、親友と同じ県立の高校へと進学するつもりであったが、こればかりは仕方がない。親友とは今も連絡を取り合っているし、タイミングさえ合えばいつだって遊べる距離にある。そう焦ることは無い。

そんな感じでホッとしているのも束の間。

 

ここに来て、友人と呼べる存在が居ないことに気付く。

それからというもの、毎日を憂鬱に過ごしている。

 

 

この港町は人口数千人の小さな町だ。主に近海で捕れた魚を市場で売り捌いたり養殖業を盛んとしている。父親はその水産企業に勤めていた。

 

「うっぐ…相変わらず、この急坂キツすぎっ」

 

漁港から少し離れた場所にあるボロボロの自転車屋。そこで、これまた腰の曲がった店主から勧められたママチャリを朝から死ぬ思いで漕ぎながら、学校を目指す。

 

「このママチャリ。絶対あの店主のお下がりかなんかだろ…」

 

塗装で隠してはいるが、所々錆び付いている部品もある。下り坂でブレーキが効かないなんて事もあるはずだ。もう既に、ベルは鳴らない模様。2回しか鳴らしてないのだが、別に必須って訳でもない。違反になるのかは知らないが…。

 

とはいえ、驚きの値段で売ってくれたのだからあまり文句も言えない。

 

「おはようございます!」

 

「おはようございます〜」

 

そんなこんなで学校の正門前まで辿り着く。

朝の挨拶運動をしている教頭先生と挨拶を交わし、そのまま駐輪場へとママチャリを停める。

 

教室へ入ると、既に何人かの集団がたわいも無い話で盛り上がっていた。

 

「昨日のドラマみた?」

 

「見た見た〜!特に最後のキスシーン…あぁ、今思い出しただけで胸がっ!」

 

「「キャー!!」」

 

随分と濃厚な話をしている女子グループ。

昼間ならいざ知らず、朝っぱらからそういう話はやめて欲しい。頭が痛くなる。

 

「おい、今日の放課後どうする?どっか遊びに行こうぜ」

 

「隣街に新しく出来たスポーツ施設とかどう?暇つぶしに丁度いいだろ」

 

(今日の放課後…か)

 

俺は特に予定もない。遊ぶ人もいない。という事は、速攻で家に帰るか暇つぶし程度に散歩でもするかの二択となる。

 

「はーいみんな座れー。出席取るぞー」

 

そんな事を考えていたら、担任の先生が教室へと入ってくる。今日もまた、長い長い退屈な一日が始まった。

 

「えー、第二次世界大戦において日本の真珠湾攻撃…」

 

窓際の席から見える海をぼっーと見つめる。

この学校は山の中腹に位置する場所に建てられているようだ。津波などの災害があった場合に備えて、避難場所としても使われる。

 

(それにしても、海って綺麗だなー)

 

元々海は好きな方だ。幼い頃から、父に連れられて魚釣りなんかも良くしている。だが最近では、父も仕事で忙しくなかなか個人で釣りに行けないらしい。そういう俺も、高校に入学してからというもの、あまり行けていない。

 

別に忙しいとかそういう訳じゃ無いんだが、こう何と言うか…。

 

寂しい。

 

一人で魚を釣るのが好きだと言う人も勿論いると思う。確かに、そっちの方が気楽でやり易いのは間違いない。他人に気を遣わずに、時間に縛られることなく気ままに釣りができるという面はとても良い。

 

ただ、俺は独りが寂しいのだろう。それは自覚している。

独りが寂しい。けど、友人と呼べる人も居ない。

 

話しかければ良いじゃないと思ったそこの貴方。そう、正にその通り。何かしら話題を振ればいいものの、なかなか勇気が出ない。

 

この高校の殆どは小学、中学時代からの知り合い同士が集まっている。そんな所に、別の街からやってきたよそ者が放り込まれると肩身が狭いなんてもんじゃない。

 

これがコミュ力最強の奴だったらこんな苦労はしなくて済むのだが、別に俺は強い訳でもないし、イケメンでもない。THE普通だ。所謂モブと言われる存在。

 

たまに話す人も居るのはいるが、休日に何処かで一緒に遊ぶ関係でも無い。

 

「…の…うみの」

 

と、勝手に沈んだ気持ちになっていると先生から当てられた。

 

「海野はこの町に住む以前、内陸の方に居たらしいな」

 

「あーはい。内陸なんで父とたまに魚釣りに行くくらいでしか海は見ませんね」

 

「んじゃ、そんな海野に聞くが…見ての通り、この港町は現在盛んに船が行き来していると思う。漁業も安定して行えているし、養殖業もこの町の立派な特産品だ」

 

先生は窓から見える海を指さしながら、この町の説明をする。まぁ、見れば確かに小さな漁船から大きな漁船まで、幅広い船が行き来している。

 

「では、それ以前の町の様子を少し見てみよう」

 

そう言って先生は、前の黒板にスクリーンを映し出す。

そこには、今とは少し違った写真が見て取れた。

 

「この写真は今から20年前の港町を空撮したものだ」

 

(20年前…俺はまだ産まれてない時代か)

 

そこには黒く焼け焦げた跡や、元は家であっただろう残骸らしき様子も分かる。今年で戦後80年だし、戦争の跡ではないだろう。であれば、火事か何か。もしくは災害でも起きた後の写真か?とも思ったが、どうやらそうでは無いらしい。

 

「この写真を見てどう思う?」

 

(どう思う…?)

 

「まぁ、何かの災害かなんかの傷痕ですか…ね?酷い有様だと思います」

 

俺の発言に先生は少し頷くと、次の写真に切り替える。

 

「じゃあ、これを見てどう思う?」

 

次の写真には、漁港の岸壁らしき場所に無数の穴が広がっていた。

それを見た俺は、ふとある事に気が付く。

 

(あの穴の形…。もしかして砲弾が撃ち込まれた跡なのか?)

 

「砲弾か何かが撃ち込まれた跡ですかね?でも、それって…」

 

「うん。海野の言う通り、これは砲弾の跡だ。…今から20年前、突如として現れた謎の生物によって引き起こされたものなんだ」

 

ここまで来て、やっと思い出す。

テレビや雑誌で度々特集を組まれていたのだが、興味もあまりないし特段詳しい訳でもない。

 

が、しかし流石の俺でも存在自体は知っていた。

 

「…深海棲艦ですか」

 

「その通り」

 

そのまま軽く深海棲艦の事についても触れた。

 

——深海棲艦。

突然として海の中から姿を現した謎の存在。発見された当初は、幻か何かだと思われていたが、ある日のこと。

漁をしていた一隻の船が忽然と消えたらしい。何時まで経っても戻ってこないと友人が海上保安庁へと通報を入れ、GPSを頼りに巡視船が捜索を開始すると海底から唸るような声が聞こえた。

何事かと船内は混乱していたが、乗組員の一人が複数の黒い物体が移動しているのを発見。双眼鏡で様子を伺うと、こちらに物凄い速さで向かって来る存在を確認した。

 

そしてその後、乗組員諸共消息を絶ったという。

 

「これが、深海棲艦の始まりとも言える話だ」

 

話自体は初めて聞くが、なんと恐ろしい奴らなんだろう。

 

「それから数年間に渡り、人類と深海棲艦との戦争が勃発したんだが…そうだな海野にもう一回聞いてみようか」

 

(俺が内陸育ちをいい事に、この先生めっちゃ聞いてくるじゃん…)

 

まぁ、俺が知らないだけでこのクラス…いや、この町の人々は昔からここで育ってきたんだ。当たり前のように深海棲艦の恐ろしさなんてものは知ってるんだろう。

 

「そんな危機的状況の中、人類を救ってくれた存在の事を知ってるか?」

 

「あー何だっけ…。艦、艦…むす?でしたっけ?」

 

「うん。正解だ」

 

艦娘も同じく、テレビなんかでたまーに話題に出てる。だが、姿を見せることはあまりない。あるとしても、モザイクで規制されているくらいだし…国家機密かなんかで秘匿されているのだ。

 

「艦娘と深海棲艦。それらは、共通して海から現れた。これがどう繋がるのかは一般人の私達では分かりようもない話。だが、深海棲艦の襲撃からこの港町を守ってくれたのは間違いなく艦娘なんだ」

 

「それも含めて、少しでも歴史について深く学んで欲しい。…と言った所で、今日の授業は終わりだ!あぁ、後言い忘れていたが…海岸付近で遊ぶ際はくれぐれも注意して欲しい。最近になってまた、深海棲艦の目撃情報が増加しているみたいだ」

 

先生の締めの言葉で、クラスの皆は今日の放課後の事や明日の事について盛り上がる。

 

俺はこの港町について何も知らない。20年前にこの町が深海棲艦に襲撃された事実も今日初めて知った。艦娘が日々この海を守ってくれている事も、ここに来るまで考えたことも無かった。

 

(艦娘…ねぇ)

 

そんな思いにふけながら、ゆっくりとした足取りで駐輪場まで移動する。

 

 

実際のところ、俺がこれから先の人生で深海棲艦に会うなんて経験は一度も訪れないだろう。決めつけは良くないが、多分そう。それに、艦娘ともきっと出会わない。それが、俺の人生ってもんだと勝手だがそう思う。

 

気分を切り替えて、ママチャリに跨りそそくさと正門を出た。

その帰り道、下り坂で風を感じながらガードレール先の海を一望する。

 

(高校生活も三年間…。きっと、あっという間に過ぎるんだろうな〜)

 

卒業すれば、俺は内陸の方に戻る予定だ。

進路はまだ全然決まっていないが、それなりにいい所でそれなりの生活が出来たらそれでいい。

 

「そうだ…今日は父さんも母さんも仕事で夜まで居ないみたいだし。暇つぶしに海岸まで行くか〜」

 

両親が帰ってくるのは恐らく夜の7時頃。それまでは一人。これも慣れたものだ。如何に暇を潰すかという訳の分からない事をこれまでに何回も考えた。地元では親友なんかもいたし、たまに親戚も来るから暇を潰せていたが、ここでは一人だ。

 

ママチャリを漕いで数分、誰も居ない海岸へと到着した。

 

(マージで誰も居ないんだなぁ…。この付近はあまり人が近づかない場所なのか?)

 

周囲を見渡してみても、人っ子一人居ない。ただひたすらに、波の音が聞こえるだけである。

 

「少し歩くか…」

 

時間帯は夕方。

夕焼けが海を照らし、例えようのないほどの煌めきを見せていた。

そんな中、じっと下を向きながら歩き進めると、ふと草木の奥に洞窟らしき場所を発見した。

 

「おーなんか秘密基地っぽい!」

 

そう言いながら草木を掻き分けて進んでいくと、洞窟はそのまま海へと繋がっていた。

 

(海面ギリギリまで行ってみようかな…)

 

今年高校生になったばかりで、中学時代は結構ヤンチャしていた。

そんな海晴の好奇心を止めるものは、この場に一人も居らず。躊躇いもなく、洞窟の中へと入っていく。

 

「もしかして、ここって俺しか知らない穴場だったりしてなぁ〜」

 

そんな訳ないか…と思いながらも、どんどんと奥へ突き進む。

と、あることに気が付く。

 

「あ、あれ……この穴、どっかで見覚えが」

 

洞窟の壁面に焦げ付いた跡や何かが貫いた跡を発見する。

穴の直径はおよそ15cm。自然に開いたものではなく、確実に何者かが人為的に遺したものだろう。

 

(誰かが掘ったあとか?それとも、砲弾…)

 

と、考えを巡らせていると視界の隅に黒い物体が左右に蠢いているを確認した。

 

「なんだあれ…」

 

本能的に逃げた方がいいと判断し、思わず後退りしようとしたが既に手遅れであった。

 

黒い物体は足音にすぐさま反応し、此方へ転回しようと試みる。

重い身体を無理やり動かしたのか、壁と擦れてズササといったような鈍い音と共にその正体が顕になる。

 

「おい…マジかよ」

 

ふと先生の言葉を思い出す。

 

(海岸付近で遊ぶ際はくれぐれも注意して欲しい。最近になってまた、深海棲艦の目撃情報が増加しているみたいだ)

 

ここでようやく自分の過ちに後悔する。

 

生まれてこの方、内陸部で悠々自適にのんびり平和に暮らしていたのだ。

深海棲艦の恐ろしさなんてものはテレビ以外では観られなかった。全ては画面の中での出来事であったが故に、今実際に遭遇して初めて感じた。

 

(し、深海棲艦…怖ぇ)

 

余りの不気味さとその大きさに怯えて萎縮していると、深海棲艦は口をゆっくりと開けて真正面に移動する。

 

「な、なんだ…お前」

 

よくよく口の中を確認してみれば、二つの砲塔が此方へ向いているのが分かった。

 

(ヤバい…!死ぬっ!!!)

 

その光景を見て、急いで逃げようと洞窟の出口へ走ったが、その道中で地面に張ったつるが足に絡まりストンッと膝から崩れ落ちる。

 

「っに、逃げなきゃ…!」

 

膝から血が流れていたが、それ以上に死ぬかもしれないという恐怖心で痛みすら忘れていた。

力を振り絞って身体を動かそうとするが、SAN値を削られたせいか立ち上がることすらままならず、その場で深海棲艦を見つめる他なかった。

 

(お、終わった…)

 

深海棲艦の砲塔部をもう一度確認すると、余程の高温なのか赤色からオレンジへ。そして、徐々に水色へと変化していく。

 

「…くそっ、俺の人生…こんな所で」

 

絶望の中、死を覚悟し終わるその時を待っていると…次の瞬間。

 

「ギャァァァァッッ!!」

 

鼓膜が破れそうなほどの轟音と共に、深海棲艦の叫び声が洞窟内に響く。

耳を抑えて蹲っていると、遠くの方から少女の声が聞こえてきた。

 

「漣ー!!洞窟にロ級が居たわ!…恐らく、さっきの戦闘で負傷してたやつよ」

 

「なんですとー!!」

 

「だからさっき追いかけた方がいいんじゃないかって言ったのに」

 

「ま、まぁ…結果的に被害も出ずに撃破できたから…ね?」

 

「うんうん、潮ちゃんの言う通りー!」

 

「そうだよー曙ちゃん。あまり責め過ぎると今度は何をするか…。っとそうだ、提督に作戦終了の報告しないと」

 

「はぁ…なんで旗艦が朧じゃなくて漣なのよ〜。あのクソ提督、帰ったら文句言ってやる!」

 

「ん〜ぼのたん、相変わらずツンデレですなー」

 

「あっ?今なんか言ったかしら」

 

「い、いえ…なんでもありませーん」

 

(声からして四人か…?って、いてて…今頃になって膝の痛みが酷くなってきた)

 

痛みを何とか我慢しながら立ち上がると、洞窟から海を見渡してみる。

あの一瞬で深海棲艦は海の底へと沈んだみたいだ。今では、開放的な空間になっている。

 

「海…綺麗だな」

 

見蕩れてしまう位の絶景に呆然と立ち尽くしたまま海を眺めていると、あちら側から慌てたような様子で向かってきた。

 

「ち、ちょっと!!あなた大丈夫ですかーー!!!」

 

「ほら、やっぱりあそこで仕留めるべきだったのよ!!まさか人が居るなんて、どうするのよ漣!」

 

「あーいや…すみません。つい洞窟の中に入ってしまって、それで。深海棲艦、が」

 

今思い出しただけでも足が震えてしまう。

こちらに向かって砲弾を放とうとする深海棲艦の姿。もしあの時、この娘達が助けてくれなければ、俺はもうこの世には居ないのだ。感謝してもしきれない。

 

「ど、どうしましょう…。あの人、膝の方を怪我してますよ?」

 

「とりあえず洞窟の方に向かわない?彼、もしかすると手当が必要かもしれない」

 

それから数分後、色々あって四人のうちの一人に膝の手当をして貰っている。

擦り傷程度で出血は少ないが、打撲によるアザが数箇所出来ていた。

 

「助けて頂いてありがとうございます」

 

「いえ…、これは何と言うか。私達の責任でも…ありますから」

 

「えぇそうね。あの時私達がしっかり仕留めておけば、アンタが怪我する事もなかったわね」

 

「ホントっーに、申し訳ないでござる!!」

 

桃色のツインテールをした少女が、綺麗なお辞儀をして頭を下げた。

 

「謝らないで下さい!元はと言えば、こんな危険な洞窟に足を踏み入れた俺のせいなんで…」

 

こちらも礼儀として頭を下げたが、四人は相変わらず申し訳なさそうにしていた。このままでは埒が明かないと思い、話題ずらしに気になることをひとつ伺う。

 

「あのーそういえば、貴女達って…もしかして」

 

「…アッー」

 

「もうバレてそうだし良いんじゃない?」

 

「…本来は出来る限り正体を隠すようにと命令されてますけど」

 

「朧は別に良いけどね」

 

何処か諦めたかのような仕草をする四人。

先程までの光景を鮮明に覚えているから間違いないだろう。

 

「艦娘…という方達でよろしいですか、ね」

 

「…えぇ、アンタの言う通り。私達は艦娘よ」

 

これから先の人生で深海棲艦なんて…艦娘なんてきっと出会わないだろうと決めつけていた。

 

「私は曙よ。アンタも災難ね」

 

「アタシは朧。よろしくね」

 

「お次はワイですなー。漣と申す。あっ、因みにこう書いてさざなみと読みます」

 

「あの…潮と言います。…お怪我はもう大丈夫でしょうか?」

 

目の前の光景に対して、俺はこう思う。

 

人生って、本当に何が起きるか分かりません。

 

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