深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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香る風に誘われて

 

 

「演出はこんな感じで、やりたいんだけどどうな?」

「……ん。なら、赤とマンダリン色が舞うのも、いいかも?」

「マンダリン色ってどんな色なの?」

「マンダリン色は、赤身の強いオレンジ色のことだね。でも、一般で手に入れにくい色でもある。それを演出の一部で使うなら自分たちで作らないといけない。その辺はどうしようか?」

「……花火は、一瞬の輝きと儚さ。芸術に惜しみはない。…………美しいのは、その時だけでも、いい」

「なるほど。その瞬間の彩のためなら苦労は惜しまないと。フフ、やっぱり君は僕と同じタイプの人間だ」

「まあ、類と似た気配はあるけど。多分、表面だけなんじゃないかな? 類も玲音も、同系統の天才だけど、根っこにあるもの? その、なんて言うのかな」

「才能のジャンルが違うと言うとかかな?」

「いや、そうじゃなくて……。目指している、作っている理由が違うんだよ。でも、類も玲音も同じ天才だけど、その先に求めているもの違う。……そう! 方向性が違うんだよ」

 

 人間そんなものじゃないのか? 私は、私の追い求める芸術を追求しているだけだ。姉さんとは少し違うけど、『誰かの痛みを慰める作品』。それが私の追い求めるものだ。

 

「……方向性は関係ない。……今は、同じ景色を見ること」

「そうだね。宵崎さんの言う通り。確かに、僕たちには共通点があっても、決定的な違いはある。僕はショーを。宵崎さんは詩や絵を。でも、今は目指すものが同じであればそれで良い」

「類は玲音の言いたいことがわかるんだね。ボクは、まだわからないこともあるのに」

「フフ、同じく、僕も芸術を求める人間。瑞希もいずれ分かる様になるさ。宵崎さんは、作品を愛しているから」

 

 ……何やら神代類が私を見て微笑んでいる。

 

「……背後の紙吹雪。どうやる?」

「それは、クラッカー用のドローンを使ってやろうかと考えている」

「特定の色だけのやつをピンポイントで探すのって難しくない?」

「そうだね。……じゃあ、クラッカーは辞めよう。探す手間もあるけど火薬の匂いや音もあるし、煙でせっかくのショーが見えにくくなるかもしれない。此処は、ドローンで紙吹雪を舞わせても良いかもしれないね」

 

 ドローン。私は扱えない。というか、機械関係は全般的に苦手だ。説明書を熟読しなければうまく扱えないし、今使っているスマホだって機能を持て余している。個人的にはガラケーでもいいが、姉さんとお揃いのカラーリングで同じ機種だ。今更変えようとは思わない。

 

「それに、詳しくはみんなと相談しないといけない。後日になるけど、その日程はどうしようか?」

「そうだなー。今週はバイトで少し忙しいし……。来週あたりなら、都合がつきそうかな」

「………………いつでも」

「そうか。じゃあ、瑞希は来週なら予定を合わせやすいから、その辺も考慮してみんなと予定を合わせてみるよ」

 

 ……みんな、ね。一緒に作品を作れる人を神代類は見つけたんだろう。

 ……私は、──。………………いや。考えるのは辞めておこう。今は、暁山瑞希にモデルを協力してもらっている。それだけで、それだけでいいじゃないか。

 

 

 夕焼け、手を伸ばしても届かない陰。首に────

『──―さよなら。玲音』

 

 ……やっぱり、薬は増やしてもらおう。最近、本当にフラッシュバックの頻度が上がっている。明日は朝から病院に行って薬の量を相談しよう。あんまり効かないなら、もういっその事薬を変えてもいいかもしれない。

 

「……」

「……どうしたの? 顔色悪いよ?」

「気分が悪いのなら、保健室へ行った方がいいと思うよ。もし、その場で動けない言うなら肩を貸してもいい」

「…………………………大丈夫、だよ」

「それにしてはけっこう汗も出ているし、少し呼吸も荒そうだ。……立てるかい?」

「……大丈夫……ただ、……思い出しただけ」

 

 そう。過去の景色を思い出しただけだ。脳裏に焼きついたあの景色を。

 

「……深くは踏み込まないけど、辛くなったら言ってもいいんだよ? 友達だろう?」

「解決は難しいかもしれないけど、僕や瑞希が力になれることがあれば相談してほしい。一緒にショーを作る仲間じゃないか」

「…………何か、あれば。ね」

「約束だよ」

「…………ん」コクコク

 

 そう、何かあればね。

 現状、暁山瑞希と神代類にできることなどないだろう。いや、どうにかできる人物はいない。姉さんであろうと、父さんであろうと。私のこの記憶を取り払うことなどできない。今、私のこれをどうこうできるとするなら主治医である先生ぐらいだろう。薬の相談をする程度の関係だが、その薬がなければ姉さんに余計な心配をさせてしまうことになる。

 ……辛いのは、私だけでいい。この記憶()は、私の背負うべきものなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 その日はそれから数事話して屋上で各々過ごした。

 

 私は屋上からの景色を見ながら絵を描き、神代類と暁山瑞希は何やら話をしていた。

 

 それにしても、屋上。……自殺。落下していく景色を絵に隠してもいいかもしれない。落下する風景を撮る用のカメラを買っておこう。バンジーができる場所に行ってバンジージャンプをしてもいいかもしれない。カメラだけではわからない空気感も自分が体験できれば……。とは思うのだが、まだ私が死ぬわけにはいかない。

 

 ダメだな。いけない方へ思考が引っ張られてしまう。こういう時は……。確かカバンの中に……うん。あった。

 

「? 玲音、何やってるの?」

「宵崎さん?」

「……」パクッ

「今何食べたの? すごい顔してるよ」

「………………豆……苦い」

 

 この前喫茶店に行った時、お試しでもらった珈琲豆を口に放り込んだ。深煎りのロブスタ豆だ。家で挽いて飲もうと思っていたが、無理にでも気分を変えるには豆をボリボリ食べるのがいい。

 にしても苦い。それはもう苦い。まあでも、これで変な気は起きないだろう。一度に食べ過ぎるとカフェイン中毒になってしまうから、少しずつ。明日のつなぎとして使わせてもらおう。

 

 ……となると、家で飲む分がなくなってしまうな。帰りに寄ってから帰るか。

 

「玲音。お水飲む?」

「…………………………飲む」

「なんでまた急に豆なんか……」

「……」

 

 我慢しようと思ったが無理だ。ロブスタを食べるんじゃなかった。苦い。口の中が苦い。ものすごく苦い。でも、これはこれで美味しい。

 ありがとう暁山瑞希。やっぱりいい人だ。後で水代は返そう。

 

「……水代、後で。返す」

「いいよ。気にしないで。恩を返すって言うなら、また服を見に行こうよ。それでチャラ」

「…………わかった」

 

 百数十円と服選び……割りに合っているのだろうか? 別にいいけども。

 

「ふふ〜ん。何を着せようかな〜。この前買ったのはカワイイ系だから、ゴシックでもいいかも。玲音は何系がいいとかある?」

「…………動きやすい。なら、なんでも」

「もう、そればっかじゃないか。ほら、おしゃれしたらお姉さんも褒めてくれるかもよ?」

「……」

 

 ……確かに。この前、服が似合っていると褒められた。なら、次も暁山瑞希に服選びを任せれば──。よし、完璧だ。姉さんに似合ってると言ってもらえる。

 

「……瑞希のセンスに任せる」

「OK〜。じゃあ、決まりだ」

「フフ、瑞希、仲が良いんだね」

「うん。知り合ってあまり時間は経っていないんだけどね」

「……」コクコク

 

 仲が良いのか? お互いに好きなようにし合っているだけの様な気はするが……。

 

「…………仲、良い?」

「ええ、宵崎さんと瑞希は僕から見れば仲が良い様に見える」

「え? ボクら仲良くないの?」

「……仲、いい」

 

 そうか。私と暁山瑞希は仲が良いのか。……そうか。鹿野ちゃんとミク(⬛︎⬛︎)︎以外の、私の友達? 

 

「…………瑞希」

「なに? 玲音」

「ともだち?」

「うん。ボクと玲音は友達だよ」

「………………神代類は?」

「フフ、今の僕達の関係性は友達と言うより、同じ景色を目指す仲間かな。宵崎さんの友達の基準は高そうだから」

「……そう」

 

 そうか。私と暁山瑞希は友達で、神代類は合作相手か。

 

「ん? なんでボクに指を向けるの?」

「…………瑞希、三人目。の、友達」

「なんか重くない? 気のせい?」

「……」

「無言じゃなくて答えてくれないかなあ」

 

 気のせいだ。重くはない。決して重くはない。…………と思う。

 

「…………神代類」

「なにかな」

「…………いつか、友達」

「フフ、そうだね。いつか、僕と宵崎さんは友達になろうか」

「今なれば良いのに」

「タイミングがあるんだよ」

「…………ん」コクコク

「あれ? ボクだけなんか違うの?」

 

 ……楽しいな。この屋上は。

 午前中だけで帰ろうかと思ったけど、もうちょっといても良いかもしれない。

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