ミーティングから一週間ぐらい過ぎた頃。放課後に、私と暁山瑞希はとある場所に来ていた。
「……」
「大きい場所だね」
「僕らの舞台はこっちだよ。着いてきてくれ」
私と暁山瑞希は、神代類に連れられてフィニックスワンダーランドに来ている。なんでも、神代類はここにある舞台で演出家をしているそうで、その舞台に彼の言うみんな。仲間がいるそうだ。
「奥の方に舞台があるから、飲み物を持っていないならそこの自動販売機で水を買っておくといいよ。歩きっぱなしは疲れるし、水分の補給は体温の調整にも必要だ」
「ボクは歩き慣れてるから大丈夫。玲音は?」
「…………運動、最低限。してる」
「体力は大切だからね」
少し話ながら進むと、緑に囲まれた野外舞台があった。
「おう! 類、そいつらが例の」
「そうだよ。僕が考えたショーの演出手伝いの宵崎玲音と、見学の暁山瑞希だ」
「今日は見学よろしくお願いします」
「……」ペコリ
「それで、こっちにいる三人が、僕と一緒に今回ショーをするメンバーだよ」
「オレは未来のスター! 座長の天馬司だ!! よろしくな!」
「こんにちは! 鳳えむだよ。よろしくね!」
「……草薙寧々です」
うるさいのが天馬司。声が大きいのが鳳えむ、静かなのが草薙寧々……。草薙寧々は、ここの人間に個性を食われてしまわないんだろうか? それとも、初対面だから隠しているだけで、中々に強烈なものを持っているんだろうか。
「自己紹介がてら、軽くショーをしよう。そうすれば、宵崎さんも背景を描きやすいだろう?」
「……?」
何それ聞いてない。私が背景描くの?
「自分で言ったんじゃないか。合作だと。詩だけでは、ほとんど僕たちの芸術になってしまう。それはただの二次創作で、合作と言うには物足りない。それに、詩だけと言うものもったいないだろう?」
「……」
それもそうか。ただ、これだけは言わせてほしい。
「…………全力で……食べに行っても、いい?」
「フフ、望むところだよ。素晴らしいショーにしようじゃないか」
「……ふふ」
「……フフ」
「二人とも自分の世界に入ってるよ……」
さあ、まずはお手並み拝見と行こう。暁山瑞希の手を引いて観客席に座り、水を飲む。さて、どんな芸術を見せてくれるのかな。喜劇か? 悲劇か? それとも、混沌とした曲芸の連続か? 嗚呼、楽しみだ。
『〜♪』
「始まるみたいだね」
「……」
「やっほー! わんだほーい!」
音楽が流れ出し鳳えむが飛び出してくる。その周りをドローンが飛び、見事な隊列を組んで動き、鳳えむの掛け声と共に動物の形をもしたドローンがふわふわと飛び回る。
横目に暁山瑞希を見ると楽しそうに見ている。……楽しいときはそうすれば良いのか。口角の上げる角度、目の開き具合、表情の調整はこんな感じか? あとは、……まあ、前髪とマスクで表情は見えないだろうし、今はいいか。
ショーは進んでいき、草薙寧々の歌や天馬司との演技。それを支える演出の神代類。
ショーのクライマックスは、小さな花火があげられて、煌びやかだ……火薬の匂いがきついな。クラッカーはダメだっのに花火はいいのか……。いや、派手さの問題だろうか?
「おおー、すごい。楽しかったね、玲音」
「……ん。楽しい」
初めて見るが良い物だ。良いものを見れた。この作品を作れる人達との合作か。とても、とても楽しそうだ。
「どうだ! 楽しかっただろう!! これがオレ達のショーだ!」
「すごい楽しかったよ」
「……」コクコク
実力はある。開催すれば観にくる人もいる。全体的なバランスは取れているが、そこに私の背景を含む世界観が少し加わる……。世界観壊れないか? 大丈夫なのか? 私の作品は明るい世界の暗がり、美しさに潜む闇だ。終始明るいこのショーに混ぜてもいい世界観なんだろうか?
……まあ、飲まれない様に彼らが努力すればいいか。……それはそうと、
「……天馬司」
「おう! なんだ?」
「……こっち、来て」
天馬司を呼んで近くまで来てもらい、スケッチブックを取り出す。
そして、何を勘違いしているのか何処からともなくマジックペンを取り出した。
「未来のスターであるオレからサインがほしいんだな? いずれプレミアが付くだろう。大事にしてくれ」
「…………違う」
「そうなのか? じゃあ、なんでスケッチブックを」
「…………天馬司、脱げ」
「な、なにぃ!! なぜ、なぜ脱がなければならない! まさかお前そんな気が」
「まずいよ玲音! 流石に公衆の面前で脱がせるのは──」
「…………デッサンする。脱げ」
「だとしても不味いだろ! 類、宵崎を止めてくれ! って、力強よ!!」
「そうだよ、流石にここじゃダメだって。ちゃんと室内でお願いしよ。ね?」
なぜ、なぜそんなにも拒む。私はただ、参考までに天馬司の
……まさか、まさかあれか? 一人だけ脱ぐのは恥ずかしいから脱ぎたくないのか? なら、
「ちょっ、なんで玲音が脱ぎ始めるのさ」
「わお! 玲音ちゃんってば、ほっそーい。ちゃんと食べてる? ご飯食べてる?」
「なんでお前が脱ぐんだよ」
「? ……天馬司は、脱ぐのが恥ずかしい」
「そうだ。流石に、外で脱ぐのは寒いし、流石に恥ずかしい」
「…………きっと、一人。だから、恥ずかしい」
「だから、自分も脱げば司くんはきっと恥ずかしくなくなって脱いでくれるかもしれない。そう考えたわけだ」
「…………ん。神代類。わかってる」
「おかしいだろ! 恥ずかしいとかないのか!?」
「……? なんで、恥ずかしい?」
「オレがおかしいのか? なあ! オレがおかしいのか!?」
何故恥ずかしいんだ。私にはわからない。別に恥じる様な身体はしていないはず……。まさか、
「…………ごめん、配慮。欠けた」
「おう。わかったなら──「天馬司。女、の子。……だったんだ。ね」って、ちがぁぁああう!!」
違うなら、何故恥ずかしいんだ。別に恥じる様な体つきはしていないだろうし、スターを名乗るのだから、体づくりはしっかりしているはずだ。なのになぜ……
「……変なのしかいないの? ここは」
「あはは……」
草薙寧々は呆れ顔。暁山瑞希が渇いた笑みを浮かべていた。
……デッサンがダメなら仕方がない。
「………………わかった。……デッサン、はやめる」
「不服そうだな……」
「服の上、から。少し、触らせて」
「まあ、デッサンよりはいいか」
やったぜ。
それから少しの間天馬司の首、腰、脚、腕、胴体を撫でるように触ったり、少し押すように触って確認させてもらった。
くすぐったいとかなんとか言われたが、本来なら直接肌を触りたかったし、じっくり見たかった。触っている間は、草薙寧々から変なものを見る目で見られた。
「宵崎さん。今考えてある演出のセッティングが終わったよ。だから、今回は司くんを解放して上げてくれ」
「……わかった。ありがとう。天馬司」
「……やっと終わったか」
何故天馬司はぐったりしているんだ。本番はこれからだろうに。
「フフ、今回の演出はこれだよ!」
やけにテンションの高い神代類がドローンを飛ばしながらウッキウキで天馬司の肩を掴む。
「まずは、主人公である旅人の苦難その1! 風の試練!」
大型の業務用扇風機が設置されており、そこそこ強い風が吹きそうだ。
「フフ、見た目は大型の業務用扇風機だけど、改造して風速15m/sまで出せるようにした」
風速15m/sって確か、台風の強風域ぐらいの風の強さじゃ……
「そして、第2の試練! 立ちはだかる岩壁! 岩壁を登り! そしてさらなる旅を続けるのさ!」
目測およそ5mの壁が目の前まで迫ってくる圧迫感。そしてそれを登っていかなければ脚本が次へ進行出来ない。なので、越えられなければまだ時間の問題でショーは強制終了を使えることだろう。
「そして! 雷鳴が鳴り響く大地! 雷発生装置を使っているから、音もスパークも演出可能! リアリティも追求できるし、勇敢な旅人の姿も演出できる。そして、派手であること間違いなし!」
雷ということは、……
「…………神代類。電圧は?」
「もちろん一億ボルト。と、言いたいところだけど、家電の5、6倍にまで出力を落としてあるよ。大体AEDぐらいさ」
一般家電は約200V。その5、6倍ということは、約1200V。運が悪ければ死ぬレベルの威力だ。
「そして、最後は丸太を飛び越え、新たな旅人に繋いでいく! どうだい。いいだろう」
最後に丸太とはこれ如何に……。1番安全なのが最後にあるのはどうなんだ? 映えに欠けるのではないか?
「ラストは花火とドローンの演出で、華やかな終わりに! これが、今回僕の考えた演出だよ」
「…………出来る、の?」
「そこは安心してもいい。実際、司くんに全て通してやってもらったが特に問題なく出来ていた。そして、安全には配慮してあるから、あとは、宵崎さんが手直ししたいところ。付け加えたいところを加えてみたりするだけかな」
風速15m/sの強風と1200Vの雷鳴……安全に配慮とはいったい……まあ、いいか。クッションなり、絶縁体なりを何かしらに仕込んでるんだろう。多分。
とりあえず、後で天馬司に通してもらおう。その後に私は体感させてもらおうじゃないか。
軽くストレッチでもしておこう。姉さんに心配はかけたくない。怪我はしない様にしなくては……
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